
家族信託(民事信託)とは
家族信託(民事信託)は信託法に基づき、家族間で財産管理を委ねる契約。成年後見との違い、契約の流れ、費用相場30万〜100万円、メリット・デメリットを解説。
この記事のポイント
家族信託(民事信託)は、信託法に基づき自分の財産を信頼できる家族に託し、管理・運用・処分を任せる契約です。委託者・受託者・受益者の3者で構成され、認知症発症前に契約しておくことで、判断能力が低下しても財産凍結を防ぎ、不動産売却や預金引き出しを柔軟に続けられます。成年後見より自由度が高く、初期費用は30万〜100万円程度が相場です。
目次
家族信託(民事信託)の定義と仕組み
家族信託とは、2007年施行の改正信託法に基づき、自分(委託者)が所有する不動産・預貯金・有価証券などの財産を、信頼できる家族(受託者)に託して管理・運用・処分を任せる契約のことです。法律上は「民事信託」の一形態で、信託銀行のような商事信託(信託業の免許を持つ事業者が報酬を得て行う信託)と区別されます。受託者が家族で営利目的でないため「家族信託」と通称されますが、両者は法的に同じ制度です。
家族信託の核心は、財産の名義を受託者に移しつつ、利益(家賃収入・売却代金など)は受益者が受け取る仕組みにあります。たとえば父(委託者兼受益者)が長男(受託者)に自宅を信託すると、登記上の名義は長男に移りますが、家賃や売却益は父のものです。父が認知症になっても、長男は信託契約の範囲で自宅を売却したり修繕したりでき、「資産凍結」を回避できます。
登場する3者の役割
- 委託者(いたくしゃ):財産を託す人。多くは高齢の親。
- 受託者(じゅたくしゃ):託された財産を管理・運用する人。家族(多くは子)。財産の形式上の所有者となる。
- 受益者(じゅえきしゃ):信託財産から生じる利益を受け取る人。実質的な財産所有者。委託者と同じ人にすることが多い(自益信託)。
信託の対象財産(信託財産)は不動産・預貯金・株式などに限定でき、生命保険や年金は信託できません。受託者には善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)と分別管理義務(自分の財産と信託財産を分けて管理する義務)が信託法上課されます。
成年後見・任意後見との違い
高齢の親の財産管理を考える際、家族信託・法定後見・任意後見の3つが選択肢になります。それぞれ目的と性質が異なるため、違いを正確に理解しておく必要があります。
| 項目 | 家族信託 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|---|
| 開始時期 | 契約締結後すぐ | 判断能力低下後 | 判断能力低下後 |
| 管理者 | 家族(受託者) | 家庭裁判所が選任 | 事前に本人が指定 |
| 監督 | 原則なし(信託監督人を任意設置可) | 家庭裁判所 | 任意後見監督人(必須) |
| 身上監護 | 不可 | 可能 | 可能 |
| 不動産売却 | 契約範囲で柔軟 | 居住用は家裁許可必要 | 後見監督人の同意必要 |
| 初期費用 | 30万〜100万円 | 約2万円+鑑定料 | 10万〜20万円 |
| ランニング | 原則なし | 月2万〜6万円(専門職後見人) | 月1万〜3万円(監督人報酬) |
| 相続対策 | 二次相続まで指定可 | 不可 | 不可 |
最大の違いは「いつから財産管理を始められるか」と「自由度」です。家族信託は元気なうちに契約しておけば即座に管理を開始できる一方、後見制度は判断能力が「著しく低下」してから家庭裁判所が認定して初めて使えます。また後見制度は「本人の財産保全」が目的なので、収益不動産の積極運用や生前贈与・相続税対策が原則できません。家族信託は契約で定めた範囲内なら柔軟に運用・処分できます。
一方で家族信託では身上監護(医療同意・介護施設入所契約など本人の身の回り)に関する権限を持てないため、介護・医療判断の代理が必要な場合は任意後見との併用が有効です。財産管理は家族信託、身上監護は任意後見と役割分担できます。
家族信託の契約締結までの流れ
家族信託は契約の自由度が高い反面、設計を誤ると将来トラブルになるため、司法書士や弁護士など民事信託に詳しい専門家と進めるのが一般的です。標準的な手順は次の通りです。
- 家族会議で目的を共有:誰の・どの財産を・誰に・何のために託すのかを家族全員で合意。後の紛争を防ぐため推定相続人全員の理解を得る。
- 専門家への相談・信託設計:司法書士・弁護士・税理士に相談し、信託の目的・対象財産・受託者の権限範囲・終了事由・残余財産の帰属先などを設計。
- 信託契約書の作成:設計内容を契約書に落とし込む。トラブル防止のため公正証書化するのが推奨。
- 公証役場で公正証書化:公証人手数料は信託財産額に応じて3.3万〜11万円程度。
- 信託登記(不動産がある場合):法務局で所有権移転と信託の登記を行う。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(土地は0.3%)。
- 信託口口座の開設:受託者名義で信託専用の銀行口座を開設し、信託金銭を移す。対応金融機関は限られるため事前確認が必要。
- 運用開始・帳簿管理:受託者は分別管理義務に基づき、信託財産の収支を毎年帳簿化し、受益者に報告する。
費用相場の内訳
一般的な家庭(自宅+預金1,000万〜3,000万円程度)の場合、初期費用は30万〜100万円が相場です。内訳の目安は以下の通り。
- コンサルティング・契約書作成報酬:信託財産の0.5%〜1%(最低30万円程度)
- 公正証書作成手数料:3.3万〜11万円
- 登録免許税(不動産):固定資産税評価額の0.3〜0.4%
- 司法書士の登記報酬:8万〜15万円
家族信託を活用するときの実務ポイント
家族信託は柔軟な制度ですが、設計や運用を誤ると逆にトラブルの原因になります。利用を検討する家族と、それを支える介護・医療現場の関係者が押さえておきたい実務ポイントをまとめます。
- 親が元気なうちに契約する:家族信託は委託者の判断能力があることが契約成立の前提。認知症が進行してからでは契約できず、その時点で選択肢は法定後見のみになる。「もしもの前」が鉄則。
- 受託者の選定は慎重に:受託者は財産の形式上の所有者となり、強い権限を持つ。長期にわたり信頼を維持できる家族(多くは長男・長女)を選び、推定相続人全員の合意を得る。
- 信託監督人を任意設置する:受託者の暴走防止のため、第三者(司法書士・税理士など)を信託監督人として置くと、家族間トラブルの予防になる。
- 身上監護が必要なら任意後見と併用:介護施設入所契約・医療同意などは家族信託では代理できない。並行して任意後見契約も結んでおくと万全。
- 金融機関の対応を事前確認:信託口口座を開設できる銀行は限られる(メガバンクや一部地銀・信託銀行)。地方の信用金庫などでは対応していないことが多い。
- 毎年の帳簿・税務申告を忘れない:受託者は信託の計算書(信託財産が3万円超の場合)を税務署に提出する義務がある。3年に1度の信託に関する受益者別調書も必要。
- 介護職・ケアマネは家族信託の存在を確認:利用者の家族から「家族信託で財産管理している」と聞いたら、契約内容(受託者・権限範囲)をケアプランに記録しておく。施設入所時の費用支払いや住宅改修費の捻出がスムーズになる。
家族信託に関するよくある質問
Q1. 認知症になってからでも家族信託は使えますか?
原則として使えません。家族信託は契約行為のため、委託者本人に契約締結時点で判断能力があることが必須です。軽度認知障害(MCI)程度であれば医師の診断書を添えて契約できるケースもありますが、認知症が中等度以上に進行すると不可能です。判断能力が失われてからは法定後見制度を利用するしかありません。
Q2. 家族信託と遺言書はどちらが優先されますか?
信託契約が優先されます。信託財産にした財産は受益者連続信託で承継先を契約に定められ、遺言書よりも信託契約のほうが効力が強く働きます。ただし信託していない財産は遺言書の対象になるため、両方を組み合わせるのが一般的です。
Q3. 受託者になった子に税金はかかりますか?
受託者は財産を「預かる」立場で実質的な所有者ではないため、原則として贈与税はかかりません。ただし受益者を別人に設定すると(他益信託)、その受益者に贈与税が課税されます。委託者=受益者の自益信託にすれば贈与税の課税は発生しません。
Q4. 信託財産から介護費用を支払うことはできますか?
できます。信託契約に「受益者の生活費・医療費・介護費用の支払いに充てる」旨を定めておけば、受託者は信託口口座から施設費・介護サービス費を直接支払えます。親の口座が凍結されて支払いが滞る事態を防げます。
Q5. 家族信託はどこに相談すればよいですか?
司法書士、弁護士、税理士のうち民事信託の取扱実績がある専門家に相談してください。一般社団法人家族信託普及協会の認定資格を持つ専門家を検索する方法もあります。金融機関や信託銀行では商品としての家族信託を提案されますが、コストや柔軟性に違いがあるため複数比較が望ましいです。
参考資料
- [1]成年後見制度・成年後見登記制度- 法務省
- [2]信託法(平成十八年法律第百八号)- e-Gov法令検索
- [3]No.4307 信託に関する課税- 国税庁
- [4]成年後見制度利用促進- 厚生労働省
- [5]家族信託普及協会- 一般社団法人家族信託普及協会
まとめ
家族信託(民事信託)は、認知症発症前に親の財産管理を家族に託しておく契約で、判断能力低下後も柔軟な財産運用を可能にします。成年後見と比較して自由度・コスト効率に優れる一方、身上監護はカバーできないため、必要に応じて任意後見との併用が有効です。契約には委託者の判断能力が前提となるため、親が元気なうちの早期準備が最大のポイントです。設計を誤ると後年トラブルになるため、民事信託の実績がある司法書士・弁護士に相談しながら進めることを推奨します。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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