変形性股関節症とは

変形性股関節症とは

変形性股関節症は股関節の軟骨がすり減り痛みや歩行障害を起こす病気。高齢女性に多く、臼蓋形成不全など二次性が日本では多数。症状・原因・保存療法と人工股関節置換術、介護現場の配慮を解説。

ポイント

変形性股関節症の定義(要約)

変形性股関節症とは、股関節(脚の付け根の関節)の軟骨が長い年月をかけてすり減り、痛みや歩行のしづらさ、関節の動かしにくさ(可動域制限)を引き起こす病気です。日本では中高年の女性に多く、生まれつき股関節の受け皿が浅い「臼蓋(寛骨臼)形成不全」をきっかけに発症する二次性が大半を占めます。進行すると人工股関節置換術が検討されますが、初期は運動療法や生活の工夫といった保存療法で痛みをやわらげながら付き合っていきます。

目次

変形性股関節症の概要と特徴

変形性股関節症とは何か

股関節は、骨盤側の受け皿(寛骨臼=臼蓋)と、太ももの骨の先端の丸い部分(大腿骨頭)が組み合わさった、体重を支える大きな関節です。骨の表面は弾力のある軟骨におおわれ、滑らかに動くクッションの役割を果たしています。変形性股関節症は、この軟骨が加齢や負担の積み重ねで少しずつすり減り、やがて軟骨の下の骨が硬くなったり、関節のふちに骨のとげ(骨棘)ができたりして、関節そのものが変形していく病気です。

日本整形外科学会によると、患者さんの多くは女性で、子どものころの股関節の発育の問題(発育性股関節形成不全や股関節形成不全)の後遺症が原因となるものが股関節症全体の約8割を占めるとされています。高齢化にともない、こうした明らかな原因がなくても加齢とともに発症する例も増えています。大規模な疫学研究(ROAD study)では、変形性股関節症の有病率は15.7%と報告されています。

進行は一般にゆっくりで、「前期」「初期」「進行期」「末期」と段階を追って変化します。初期にはレントゲンで関節のすき間が狭くなったり、軟骨の下の骨が硬くなったりする変化が現れ、進行すると関節のすき間が消失し、強い痛みと歩行障害につながります。一方で、軟骨のすり減りの程度と痛みの強さは必ずしも一致せず、画像上の変化があっても症状が出ない人もいます。

変形性股関節症の主な症状

主な症状(股関節痛・歩行障害・可動域制限)

変形性股関節症の中心的な症状は、痛みと股関節の動かしにくさです。進行度によって現れ方が変わります。

  • 股関節の痛み:股関節は鼠径部(脚の付け根)にあるため、最初は立ち上がりや歩き始めに付け根の痛みを感じます。痛みは太ももや膝のあたりに広がって感じられる(放散する)こともあり、膝の痛みと間違われることもあります。
  • 歩行障害・跛行:痛みや脚の長さの差から、体を左右に揺らしながら歩く跛行(はこう)が出ることがあります。長く立つ・歩くことがつらくなり、階段やバス・車の乗り降りに手すりが必要になります。
  • 可動域制限:関節が硬くなり、脚を十分に開いたり曲げたりしにくくなります。爪切りや靴下の着脱がしづらい、正座や和式トイレが困難、車に乗り込むときに痛むなど、股関節を深く曲げる・大きく回す動作で支障が出ます。
  • 持続痛・夜間痛:進行すると、安静にしていても痛む持続痛や、夜寝ているときに痛む夜間痛に悩まされることがあります。

変形性股関節症の原因(一次性と二次性)

原因(一次性・二次性と臼蓋形成不全)

変形性股関節症は、原因によって大きく二つに分けられます。

  • 一次性(特発性):はっきりした原因がなく、加齢にともなう軟骨の摩耗で発症するものです。欧米では一次性が多いとされます。
  • 二次性:もとになる病気や形の異常があって、それに続いて発症するものです。日本では二次性が大半を占めます。代表的な原因が臼蓋(寛骨臼)形成不全で、生まれつき股関節の受け皿が浅く、大腿骨頭を十分におおえないために一部に負担が集中し、軟骨がすり減りやすくなります。日本人女性の変形性股関節症ではこの臼蓋形成不全に由来するものが最も多く、患者の多くがこの素因を持つとされています。

二次性のその他の原因には、子どものころの発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の後遺症、外傷(骨盤や大腿骨頸部の骨折)、大腿骨頭壊死、関節リウマチなどがあります。なお、女性に多い背景には、もともと臼蓋形成不全の頻度が女性で高いこと(成人女性の数%にみられるとの報告があります)が関係しています。

変形性股関節症と変形性膝関節症の違い

変形性膝関節症との違い

同じ「変形性関節症」でも、股関節(脚の付け根)に起こるか膝に起こるかで、原因や症状の出方に違いがあります。混同しやすいので整理しておきます。

項目変形性股関節症変形性膝関節症
痛む場所鼠径部(脚の付け根)。太ももや膝に放散することも膝そのもの。立ち上がりや階段で痛む
日本で多い原因二次性が大半。臼蓋形成不全が中心一次性(加齢・肥満・O脚)がほとんど
困りやすい動作靴下の着脱、爪切り、正座、車の乗り降り正座、しゃがむ、階段の上り下り
有病率(ROAD study)15.7%こちらの方が高頻度(とくに女性)
進行時の手術骨切り術・人工股関節置換術骨切り術・人工膝関節置換術

どちらも下肢の関節症で、両方を併発することもあります。股関節の痛みが膝に放散して「膝が悪い」と思い込んでいるケースもあるため、痛みの正確な場所を医師に伝えることが大切です。

変形性股関節症の治療(保存療法と人工股関節置換術)

治療(保存療法と人工股関節置換術)

治療は、まず手術をしない保存療法から始め、痛みや機能障害が強く生活に支障が出る場合に手術を検討する、という流れが基本です。

保存療法

  • 生活指導・関節の保護:股関節に負担をかける動作(重い荷物、長時間の立ち仕事、深いしゃがみ込みなど)を見直します。和式から洋式の生活への切り替えも有効です。
  • 減量:体重は股関節への負担に直結するため、過体重があればダイエットが推奨されます。
  • 運動療法:股関節まわりの筋力を保つことが大切です。痛みを誘発しにくい水中歩行や水泳(平泳ぎは除く)が勧められます。運動は慎重に始め、徐々に強度を上げます。
  • 杖の使用:痛い側と反対の手に杖を持つと、股関節にかかる負担を減らせます。
  • 薬物療法:痛み止め(消炎鎮痛薬)を、調子の悪いときや負担をかけざるをえないときに限定して使うのが基本です。

手術療法

  • 骨切り術:関節の変形が比較的軽い段階で、自分の骨を生かして関節にかかる力のバランスを整える手術です。比較的若い患者に選ばれます。
  • 人工股関節置換術(人工股関節全置換術):変形が進んだ末期に、傷んだ関節を金属やセラミックなどの人工関節に置き換える手術です。成功率が非常に高く、痛みが劇的に軽くなり、多くの人が3か月以内に日常の動作を再開できます。ただし人工関節は永久に使えるものではなく、すり減れば入れ替え(再置換)が必要になるため、若い患者では手術の時期を遅らせることもあります。術後は脱臼を防ぐため、脚を深く組む・内側にひねるなど一部の姿勢を避ける指導があります。

変形性股関節症の介護・日常生活の注意と受診目安

介護・日常生活での配慮と受診の目安

日常生活・介護での配慮

  • 環境を整える:洋式トイレ・ベッド・椅子の生活にして、深くしゃがむ動作を減らします。便座や椅子は高めにすると立ち座りがらくになります。手すりの設置も有効です。
  • 動作の工夫を手伝う:靴下の着脱や爪切りが股関節の痛みでしづらくなります。ソックスエイドや長柄の爪切りなどの自助具、必要に応じた介助が役立ちます。
  • 転倒予防:痛みや跛行でふらつきやすくなります。床の段差や滑りやすいマットを片づけ、杖や歩行器を活用します。
  • 動かなさすぎない:痛いからと動かないでいると筋力が落ち、かえって関節が不安定になります。痛みの範囲で体を動かし続けることが大切です。
  • 人工股関節術後の注意:脱臼予防のため、脚を深く組む・内股にひねる・極端に低い椅子に座るなどの姿勢を避けます。介助の際もこの点に配慮します。

受診の目安

次のようなときは整形外科の受診を検討してください。診断や治療方針の決定は医師が行うため、自己判断で放置せず相談することが大切です。

  • 脚の付け根の痛みが数週間以上続く、または歩き始め・立ち上がりに繰り返し痛む
  • 跛行(左右に揺れる歩き方)や脚を引きずる様子が出てきた
  • 靴下が履きにくい、爪が切りにくいなど、股関節を動かす動作がしづらくなった
  • 夜間や安静時にも痛む、痛みで歩ける距離が短くなってきた

変形性股関節症のよくある質問

よくある質問

Q. 変形性股関節症はどんな人に多いですか。
A. 中高年の女性に多い病気です。日本では、生まれつき股関節の受け皿が浅い臼蓋形成不全を背景とする二次性が大半を占め、これが股関節症全体の約8割とされます。発育性股関節形成不全の既往がある方は特に注意が必要です。
Q. 痛むのは股関節なのに、膝が痛いと感じるのはなぜですか。
A. 股関節の痛みは太ももや膝に放散して感じられることがあるためです。「膝が悪い」と思っていたら実は股関節が原因だった、というケースもあります。痛む場所を正確に医師へ伝えると診断の助けになります。
Q. 手術をしないと治りませんか。
A. すり減った軟骨そのものは元には戻りませんが、初期から進行期では運動療法・減量・杖・薬などの保存療法で痛みをやわらげながら生活を続けられる方が多くいます。保存療法で痛みが取れず生活に支障が大きい場合に、骨切り術や人工股関節置換術が検討されます。
Q. 人工股関節はどのくらいもちますか。
A. 人工関節は永久に使えるものではなく、長年の使用ですり減ると入れ替え(再置換)が必要になることがあります。このため若い患者では手術の時期を遅らせることもあります。具体的な耐用年数は機種や使い方で異なるため、主治医に確認してください。
Q. 運動はしてもよいですか。
A. 痛いからと動かないでいると筋力が落ち、関節がかえって不安定になります。股関節に負担の少ない水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)が勧められます。痛みを誘発しない範囲で慎重に行い、内容は医師や理学療法士に相談しましょう。

変形性股関節症の参考資料

  • [1]
    変形性股関節症- 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる

    症状・原因(股関節形成不全が約8割)・予防と治療の患者向け解説

  • [2]
    変形性関節症(骨関節症)- MSDマニュアル家庭版

    一次性・二次性の分類、症状、人工股関節全置換術を含む治療の総説

  • [3]
    変形性関節症(OA)- MSDマニュアル プロフェッショナル版

    変形性股関節症の可動域制限・鼠径部痛・大腿/膝への関連痛など病態の専門解説

  • [4]
    変形性膝関節症診療ガイドライン- 日本整形外科学会

    ROAD studyによる変形性股関節症の有病率15.7%等の疫学データを収載

変形性股関節症のまとめ

まとめ

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って痛みや歩行障害、可動域制限を起こす病気で、日本では中高年の女性に多く、臼蓋(寛骨臼)形成不全を背景とする二次性が大半を占めます。鼠径部の痛みや靴下・爪切りのしづらさは早期のサインです。初期は運動療法・減量・杖などの保存療法で痛みをやわらげ、進行して生活に支障が大きくなれば人工股関節置換術が選択肢になります。介護の場面では、洋式の生活環境づくり、自助具の活用、転倒予防、そして動かしすぎず動かさなさすぎずのバランスが大切です。気になる症状があれば早めに整形外科に相談しましょう。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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