高齢者の喘息とは

高齢者の喘息とは

高齢者の喘息(気管支喘息)を解説。高齢発症の特徴、COPDとの違いと合併(ACO)、夜間・早朝の咳や喘鳴などの症状、吸入薬治療と吸入手技の課題、発作時の対応と受診・救急の目安、介護・生活の注意点までまとめます。

ポイント

高齢者の喘息の定義(直接回答)

高齢者の喘息(気管支喘息)とは、気道の慢性的な炎症によって気道が狭くなり、咳・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)・呼吸困難などの症状が、とくに夜間や早朝に変動しながら繰り返す病気です。喘息は子どもの病気と思われがちですが、高齢になってから発症する例も少なくなく、COPDなど他の肺の病気との合併(ACO)も多いのが特徴です。治療は吸入ステロイド薬を中心とした毎日の吸入が基本になります。

目次

高齢者の喘息の概要と高齢発症の特徴

高齢者の喘息とは何か

喘息(気管支喘息)は、気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道の狭まり(喘鳴や呼吸困難)や咳で特徴づけられる病気です。日本アレルギー学会・日本呼吸器学会の考え方では、(1)好酸球などが関わる気道の慢性炎症、(2)わずかな刺激でも気道が縮みやすくなる気道過敏性の亢進、(3)気管支拡張薬で改善しうる可逆性のある気流制限、の3つが中心的な特徴とされています。

喘息は小児に多い印象がありますが、大人になってから、あるいは高齢になってから初めて発症する「高齢発症喘息」も珍しくありません。日本呼吸器学会も、喘息は高齢になってから発症する人も少なくないと説明しています。

高齢者の喘息で気をつけたい点

高齢者の喘息には、若い世代とは異なるいくつかの注意点があります。

  • 他の肺の病気との見分けが難しい:高齢者は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全、誤嚥性肺炎など、咳や息切れを起こす別の病気を併せ持っていることが多く、症状だけでは喘息かどうか判断しづらくなります。
  • 症状を「年のせい」と見過ごしやすい:階段や坂道での息切れ、夜間の咳などを加齢や運動不足のせいと考えてしまい、受診や治療が遅れることがあります。
  • 気道のリモデリングが進みやすい:炎症が長く続くと気道の構造が変化(リモデリング)し、気管支拡張薬が効きにくい固定した気流制限が残ることがあります。

診断では、症状の問診に加えて、呼吸機能検査(スパイロメトリー)、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)測定、血液中の好酸球などの検査を組み合わせ、心不全やCOPDなど他の病気を除外したうえで総合的に判断されます。なお、喘息には「何項目中何項目で確定」という明確な診断基準はなく、医師が総合的に評価する点も理解しておきたいところです。

高齢者の喘息の主な症状(夜間・早朝)

高齢者の喘息に多い症状

喘息の症状は変動するのが特徴で、とくに夜間や早朝に悪化しやすい傾向があります。次のような症状が、よくなったり悪くなったりを繰り返す場合は喘息が疑われます。

  • 喘鳴(ぜんめい):息を吐くときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と笛のような音がする。
  • 夜間・早朝の咳:横になると咳き込む、明け方に咳で目が覚める。喘息の炎症は夜間や早朝に悪化しやすいためです。
  • 呼吸困難・息切れ:動いたときだけでなく、安静時にも息苦しさを感じることがある。
  • 胸の苦しさ・絞めつけられる感じ:胸部の圧迫感を訴えることがあります。
  • 咳だけが続く(咳喘息):ゼーゼーや息苦しさがなく、乾いた咳だけが長引くタイプもあります。咳喘息は一定割合が喘息へ移行するとされ、定期的な治療が必要です。

これらの症状は、かぜ、運動、アレルゲン(ダニ・ハウスダスト・ペット・カビなど)への曝露、冷たい空気、天候の変化、たばこの煙、ストレスなどで誘発されやすいことも、喘息を疑う手がかりになります。

高齢者の喘息とCOPDの違い・ACO(合併)

喘息とCOPDの違い、そして合併(ACO)

高齢者では、喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の見分けがしばしば問題になります。両者は原因も仕組みも異なりますが、症状が似ているうえ、両方の特徴を併せ持つ状態(ACO)も多いためです。

項目喘息COPD
主な原因アレルギーなどによる気道の慢性炎症たばこ煙など有害物質の長期吸入
気流制限気管支拡張薬で改善しやすい(可逆性あり)改善しにくい(固定した気流閉塞)
症状の出方変動が大きく夜間・早朝に悪化しやすい労作時の息切れが徐々に進行
炎症の主役好酸球が関与することが多い好中球などが関与
治療の中心吸入ステロイド薬(ICS)長時間作用性の気管支拡張薬(LAMA/LABA)

ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)とは

慢性の気流閉塞があり、喘息の特徴とCOPDの特徴を併せ持つ状態を、喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO、エーコ)と呼びます。日本呼吸器学会の手引きで診断基準が示されており、高齢化を背景に近年注目されています。

ACOは年齢とともに割合が増える傾向があり、症状が喘息やCOPD単独より強く出やすく、予後も不良になりやすいとされています。治療上とくに重要なのは、ACOでは吸入ステロイド薬(ICS)を第一選択として使い、気管支拡張薬だけで治療しないようにする点です。喘息の要素を見落として気管支拡張薬のみで治療すると、炎症が抑えられず増悪につながる恐れがあるためです。

高齢者の喘息の吸入薬治療と吸入手技の課題

治療の基本は毎日の吸入薬

喘息治療の主役は吸入薬です。発作を予防するための長期管理薬と、発作が起きたときに使う発作治療薬(レスキュー薬)を区別して理解することが大切です。

  • 吸入ステロイド薬(ICS):気道の炎症を抑える長期管理薬で、治療の中心です。具合がよいときも毎日続けることで発作を起こりにくくします。吸入後は口の中に残った薬を洗い流すため、うがいをします。
  • 長時間作用性β2刺激薬(LABA):気管支を広げる長期管理薬。単独では炎症が悪化しうるため、ICSと一緒の配合剤(ICS/LABA)として使われます。
  • 短時間作用性β2刺激薬(SABA):発作時に気管支をすばやく広げる発作治療薬(レスキュー薬)。使う回数が増えるのはコントロール不良のサインです。
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬などの内服薬を併用することもあります。

高齢者で起こりやすい吸入手技の課題

吸入薬は正しく吸入して初めて効果が出ます。高齢者では、握力や吸う力の低下、手順の理解のしにくさなどから、うまく吸入できずに効果が不十分になることがあります。デバイス選びと手技のチェックが重要です。

  • ドライパウダー製剤(DPI):噴霧と吸うタイミングを合わせる必要はありませんが、薬が肺に届くにはある程度の吸う力(吸気流速)が必要です。
  • 加圧噴霧式製剤(pMDI):噴霧と吸入の同期が難しい一方、吸う力が弱くても薬が肺に届きやすい利点があります。タイミングが合わない場合は吸入補助具(スペーサー)を使うと吸入しやすくなります。
  • 吸入懸濁液(ネブライザー):吸う力が弱い高齢者でも電動ネブライザーで吸入できます。

吸入手技は一度できても崩れることがあるため、医師・看護師・薬剤師に定期的に確認してもらうことが推奨されます。最初は手技を何度も見せる、毎日決まった時間に吸入を習慣づける、家族が見守る、といった工夫も効果的です。治療内容は必ず医師の指示に従ってください。

高齢者の喘息発作時の対応と受診・救急の目安

発作(急性増悪)が起きたときの対応

喘息の発作は軽いものから命に関わるものまでさまざまです。重い発作はためらわず救急対応が必要です。以下は一般的な目安であり、実際の対応はあらかじめ主治医と相談した自己管理プランに従ってください。

軽い発作のとき

あらかじめ処方された発作治療薬(短時間作用性β2刺激薬の吸入)を使い、たばこの煙などの刺激から離れて、座って安静にします。吸入は必要に応じて20分間隔で繰り返せる場合がありますが、回数や上限は医師の指示に従います。多くは数分から数十分で軽快します。

すぐに受診・救急要請を考える「強い発作のサイン」

  • 苦しくて横になれない、座っているほうが楽(起坐呼吸)
  • 苦しくて動けない、会話が途切れる・話せない
  • 唇や爪、顔色が青紫色になる(チアノーゼ)
  • 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、過度に興奮している
  • 発作治療薬を使っても改善しない、または手元に薬がない

強い呼吸困難や意識レベルの低下があるときは、迷わず救急要請(119番)をします。気管支拡張薬を使っても効果が不十分、苦しくて眠れない、薬が手元にないといった場合も受診が必要です。十分な治療が遅れると重い発作で命に関わることがあるため、判断に迷うときは早めに医療機関へ相談してください。

高齢者の喘息における介護・生活の注意点

介護・生活で気をつけたいこと

高齢者の喘息は、毎日の環境づくりと服薬管理の支援で発作を減らせます。介護現場や家庭で意識したいポイントを整理します。

  • 吸入の確実な継続支援:症状がないときも長期管理薬を続けることが大切です。声かけや見守り、服薬カレンダーの活用で飲み忘れ・吸入忘れを防ぎます。吸入後のうがいも忘れずに。
  • 吸入手技の定期チェック:手技が崩れていないか、デバイスが本人に合っているかを医療職に確認してもらいます。うまく吸えていない様子に気づいたら相談しましょう。
  • 誘因(増悪因子)を減らす環境整備:ダニ・ハウスダスト・カビ・ペットの毛・たばこの煙・冷たい空気などを避けます。こまめな掃除や換気、寝具の手入れが有効です。
  • 感染症の予防:かぜやインフルエンザは発作の引き金になります。手洗い・うがいに加え、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種が増悪予防に役立つとされます(接種は医師に相談)。
  • 症状の変化を記録・共有:夜間の咳や息切れの頻度、発作治療薬を使った回数を記録し、受診時に共有すると治療の調整に役立ちます。発作治療薬の使用が増えていれば早めに受診を。
  • 併存疾患への目配り:高齢者は心不全・COPD・逆流性食道炎・誤嚥性肺炎なども併せ持ちやすく、これらが咳や息苦しさに影響します。気になる変化は自己判断せず医療職に相談してください。

高齢者の喘息のよくある質問

よくある質問

Q. 喘息は高齢になってから発症することがありますか?
A. あります。喘息は子どもの病気と思われがちですが、大人になってから、高齢になってから初めて発症する人も少なくないと日本呼吸器学会も説明しています。夜間・早朝の咳や喘鳴が続く場合は受診をおすすめします。
Q. 高齢者の喘息とCOPDはどう違いますか?
A. 喘息はアレルギーなどによる気道の慢性炎症が中心で気管支拡張薬で改善しやすいのに対し、COPDはたばこ煙などによる固定した気流閉塞が特徴です。両方の特徴を併せ持つACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)も多く、見分けには呼吸機能検査などが必要です。
Q. 吸入薬は症状がなくてもやめてはいけませんか?
A. 吸入ステロイド薬などの長期管理薬は、症状がないときも炎症を抑えるために続けることが基本です。自己判断で中止すると発作が再発しやすくなります。中止や変更は必ず医師に相談してください。
Q. 高齢で吸入がうまくできません。どうすればよいですか?
A. 吸う力が弱い場合はスペーサー付きの加圧噴霧式やネブライザーなど、本人に合うデバイスへの変更を医師・薬剤師に相談できます。手技は定期的にチェックしてもらいましょう。
Q. どんなときに救急車を呼ぶべきですか?
A. 苦しくて横になれない・話せない、唇や爪が青紫色、意識がもうろうとする、発作治療薬を使っても改善しないといった強い発作のサインがあるときは、ためらわず119番通報してください。

高齢者の喘息の参考資料

高齢者の喘息のまとめ

まとめ

高齢者の喘息は、夜間・早朝の咳や喘鳴、息切れが変動しながら繰り返すのが特徴で、高齢になってからの発症やCOPDとの合併(ACO)も多く見られます。治療は吸入ステロイド薬を中心とした毎日の吸入が基本で、高齢者では吸入手技の確認とデバイス選びが鍵になります。強い発作のサインがあるときはためらわず救急要請を。環境整備・感染予防・服薬支援といった日々のケアが発作の予防につながります。気になる症状や治療の疑問は、自己判断せず医療職に相談してください。

この用語に関連する記事

病院のICT導入に最大8000万円補助、業務効率化が努力義務に|医療従事者の負担軽減へ厚労省が新事業

病院のICT導入に最大8000万円補助、業務効率化が努力義務に|医療従事者の負担軽減へ厚労省が新事業

厚労省が病院のICT導入を最大8000万円補助する新事業を令和8年度に実施。健康保険法等改正案では医療機関の業務効率化が努力義務に。看護師ら医療従事者の負担軽減・働き方改革に何をもたらすか、対象や時期を一次資料で整理します。

在宅酸素療法・COPDの利用者を施設で支える|介護職の観察・呼吸介助・火気管理と看護連携

在宅酸素療法・COPDの利用者を施設で支える|介護職の観察・呼吸介助・火気管理と看護連携

在宅酸素療法(HOT)やCOPDのある利用者を介護施設で支える介護職向け実務ガイド。SpO2の見方と医行為の境界、増悪サインの観察と記録、呼吸を楽にする体位・介助、火気と感染の管理、息切れに合わせた活動調整、看護師への報告と多職種連携を一次ソースで解説。

インスリン療法の利用者の介護|介護職ができること・できないこと

インスリン療法の利用者の介護|介護職ができること・できないこと

インスリン療法を受ける高齢者の介護で、介護職ができること・できないこと(厚労省令和4年通知の医行為線引き)を解説。低血糖・高血糖の観察と補食対応、シックデイ、看護師への報告・連携まで現場目線でまとめます。

看護師の不足感、病院・介護施設の77.3%に|SMS調査「働き方改革は約5割が未着手」

看護師の不足感、病院・介護施設の77.3%に|SMS調査「働き方改革は約5割が未着手」

株式会社エス・エム・エスが2026年5月に公表した調査で、病院や介護施設など事業者の77.3%が看護師の不足感を回答。働き方改革・定着の取り組みは約5割が未着手。介護現場の医療連携・夜間対応への影響と業務設計の打ち手を読み解きます。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。