
KYTとは
KYT(危険予知トレーニング)は職場に潜む危険要因をチームで発見・共有し対策を立てる手法。中災防が普及したKYT基礎4ラウンド法の流れと、介護現場での移乗・入浴・夜勤シーンの実施例を解説します。
KYTとは
KYT(ケーワイティー)とは「危険(Kiken)・予知(Yochi)・トレーニング(Training)」の頭文字を取った、職場に潜む危険要因をチームで発見し対策を立てる安全衛生活動です。中央労働災害防止協会(中災防)が普及させたKYT基礎4ラウンド法(現状把握→本質追究→対策樹立→目標設定)が標準とされ、製造業発祥ながら医療・介護現場でも転倒・誤嚥・移乗事故の予防に幅広く活用されています。
目次
KYTとは何か:危険予知トレーニングの定義と歴史
KYTは「Kiken(危険)・Yochi(予知)・Training(トレーニング)」の3語の頭文字を取った造語で、日本語では「危険予知訓練」または「危険予知トレーニング」と呼ばれます。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」は、KYTを「職場・現場において潜在する危険要因を発見し、危険予知活動を発展させるための方法」と定義しています。
もともとは1973年に住友金属工業(現・日本製鉄)の安全衛生活動として開発された手法で、その後中央労働災害防止協会(中災防)が問題解決4ラウンド法と結びつけ「KYT基礎4ラウンド法」として体系化。建設業・製造業を中心に普及し、現在では病院・介護施設・運輸・サービス業など幅広い分野で実施されています。
介護現場では、職員の経験年数のばらつき・夜勤帯の少人数体制・移乗や入浴など身体接触を伴うケアの多さから事故リスクが高く、KYTは新人OJTや施設内研修・申し送り前の数分間ミーティングなど、さまざまな形で組み込まれています。特に2024年度介護報酬改定で安全対策体制加算・事故防止研修の重要性が高まったことから、KYTの定期実施を仕組み化する事業所が増えています。
KYTの大きな特徴は、座学ではなくイラストシートを使ったグループワークとして行う点です。1枚のイラスト(例:「ベッド柵が外れたままの利用者ベッド」「濡れた浴室の床」など)を全員で見て、「どんな危険が潜んでいるか」を口頭で出し合い、対策を絞り込みます。これにより、危険感受性(リスクセンス)と当事者意識を同時に養うことができます。
KYT基礎4ラウンド法の進め方
KYT基礎4ラウンド法は、中災防が標準として推奨している進行手順です。1セッション15〜30分程度で完結するよう設計されており、申し送り前後やフロアミーティングに組み込みやすい構成になっています。
第1ラウンド:現状把握(どんな危険がひそんでいるか)
イラストシート、または実際の現場・現物を全員で観察し、「〇〇すると、△△となって、□□のリスクがある」という形で危険要因を出し合います。リーダーは批判せず、出た意見をすべてホワイトボードや付箋に書き出します。質より量、自由な発想を重視するフェーズです。
第2ラウンド:本質追究(これが危険のポイント)
第1ラウンドで出た危険要因の中から、特に重要な「危険のポイント」を1〜2件に絞り込みます。チーム全員で◎印をつけ、最後に指差し唱和(指差しながら声に出して確認)で全員の認識を統一します。
第3ラウンド:対策樹立(あなたならどうする)
絞り込んだ危険のポイントに対し、「具体的に何をすれば防げるか」を全員で出し合います。誰でも実行できる、業務手順に組み込める対策が望ましく、抽象的な「気をつける」ではなく「ブレーキを2回確認する」のように行動レベルまで分解します。
第4ラウンド:目標設定(私たちはこうする)
第3ラウンドで出た対策の中から、必ず実施する重点項目を絞り込み、「私たちは〇〇する時は、〇〇をする。ヨシ!」という形でチーム行動目標として確定。最後に全員で指差し唱和し、当日のシフトから実践します。
第4ラウンドまで終えたら、行動目標を申し送りノートやリーダー会議で他のシフトにも共有し、組織全体で同じ予防行動を取れるようにするのがポイントです。
ヒヤリハット・インシデント・アクシデントレポートとの違い
介護現場の事故予防には複数の仕組みが連動しており、KYTはその中で「事前予測」の役割を担います。それぞれの違いを整理すると次のとおりです。
| 仕組み | タイミング | 目的 | 形式 |
|---|---|---|---|
| KYT(危険予知トレーニング) | 事故が起きる前 | 危険を予測する力を養う | グループワーク・訓練 |
| ヒヤリハット報告 | 事故未満・冷や汗体験の直後 | 事故の芽を組織で共有 | 個人記入の報告書 |
| インシデントレポート | 軽微な事象発生後 | 影響評価と再発防止策の策定 | 事象記録+分析シート |
| アクシデントレポート | 実際の事故発生後 | 事実関係の記録・行政報告・家族説明 | 正式な事故報告書 |
KYTは「予測」、ヒヤリハット・インシデント・アクシデントレポートは「発生後の記録と分析」と整理すると分かりやすいでしょう。実務上は、過去のヒヤリハット事例をイラストシート化してKYTの題材にすることで、自施設で実際に起きたリスクを訓練に反映できるという好循環が生まれます。
ハインリッヒの法則(1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故、300件のヒヤリハットがある)に照らすと、KYTで300件分の「ヒヤリ」を未然に潰す活動こそが、重大事故ゼロに最も効率的に近づく手段といえます。
介護現場でのKYT実施シーン別ポイント
介護現場でKYTを定着させるには、職員が日常的に行うケアシーンを題材にし「自分ごと」として議論できる設計が重要です。代表的なシーン別の着眼点を整理します。
移乗介助のKYT
車椅子のブレーキ確認、フットレストの上げ忘れ、片麻痺側の介助位置、利用者の体重に対する人員配置などが定番テーマ。「ブレーキは利用者に座ってもらう前と後の2回確認する」など、行動目標を二段階で設計すると効果的です。
入浴介助のKYT
浴室の床の濡れ・滑り、湯温管理によるヒートショック、利用者の体調変化への気づきの遅れがリスク要因。「入室前に必ず湯温計で確認し声かけする」「介助中は片手を必ず利用者に添える」など、複数手順の同時並行に注意します。
食事介助のKYT
誤嚥・誤飲・窒息が最大のリスク。「飲み込んだことを目視で確認してから次の一口を運ぶ」「ながら介助(同時に他の利用者に声をかける)を禁止する」など、一連の動作を分解した行動目標が有効です。とろみ調整や食形態の確認も含めます。
夜勤・夜間巡回のKYT
少人数体制・暗所での視認性低下・ベッド柵の確認漏れ・離床センサー誤作動などが課題。「巡回時は懐中電灯ではなく足元灯を必ず点灯する」「センサーが鳴ったら何より先に該当居室へ向かう」などの絞り込みが重要です。
服薬介助のKYT
誤薬(人違い・薬剤違い・タイミング違い)は介護施設の重大事故の上位を占めます。「6R確認(正しい患者・薬剤・目的・用量・経路・時間)を声に出して指差し確認する」を行動目標化すると、医療職連携ともそろえやすくなります。
定着のための運用Tips
- 15分ルール:申し送り前または交代時に15分だけ実施し、間延びさせない
- イラスト→自施設写真:徐々に汎用イラストから自施設で撮影した実際の場面写真へ切り替えると当事者意識が一気に上がる
- 新人OJTに組み込む:入職1〜3か月目の新人にリーダーをやらせると、危険感受性とアウトプット力が同時に育つ
- 記録を残す:行動目標を施設の業務マニュアル改訂につなげると、KYTがマニュアル化サイクルの起点になる
KYTに関するよくある質問
Q1. KYTは1回どのくらいの時間で実施すれば良いですか?
標準的なKYT基礎4ラウンド法で15〜30分が目安です。介護施設では申し送り前後の10〜15分で簡易版を実施するケースも多く、無理なく継続できる時間設計が定着のカギです。月1〜2回の定例研修と日次の短時間KYTを組み合わせるのが一般的です。
Q2. 介護現場のKYTイラストシートはどこで入手できますか?
中央労働災害防止協会(中災防)が「ゼロ災職場をめざそう KYTイラストシート集」を販売しているほか、一般社団法人安全衛生マネジメント協会などが無料イラストシートを公開しています。慣れてきたら自施設で撮影した写真をシート化し、より現実的な題材にステップアップすると効果的です。
Q3. ヒヤリハット報告とKYTはどう使い分ければ良いですか?
ヒヤリハット報告は「実際に起きたヒヤリ体験」の事後記録、KYTは「これから起きる危険」の事前予測訓練です。実務的には、ヒヤリハット事例を題材にKYTシートを作成し、過去事例から学んだ予防行動を全員にインストールするサイクルが理想です。
Q4. KYTは1人でもできますか?
原則はグループワークですが、自問自答方式の「1人KYT(指差し呼称KYT)」も中災防が紹介しています。訪問介護のように単独業務が多い場合は、利用者宅に入る前に「今日のリスク」を声に出して指差し確認する短縮版KYTが有効です。
Q5. KYTを導入したいのですが、最初に何から始めれば良いですか?
まずはリーダー候補を1〜2名選び、中災防や安全衛生マネジメント協会の研修・書籍で4ラウンド法を学んでもらうのが最短ルートです。初回は管理者がファシリテーターを務め、汎用イラストシートで成功体験を作ったうえで、徐々に自施設のヒヤリハット事例ベースに切り替えるとスムーズに定着します。
参考資料・出典
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まとめ
KYT(危険予知トレーニング)は、職場に潜む危険要因をチームで言語化し、行動目標まで落とし込む安全衛生活動です。中災防のKYT基礎4ラウンド法(現状把握→本質追究→対策樹立→目標設定)を15〜30分で回せる小集団活動として組み込めば、新人からベテランまで同じ「危険を見る目」を育てられます。
介護現場では、移乗・入浴・食事・服薬・夜勤の各シーンで起きやすい事故が比較的パターン化されているため、ヒヤリハット事例とセットでKYTを定着させることが、重大事故ゼロへの最短ルートです。安全管理体制の充実は、職員の安心して働ける環境づくりと採用・定着率にも直結します。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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