
動機づけ面接(Motivational Interviewing)とは
動機づけ面接(MI)はMiller & Rollnickが体系化した対話技法。OARS技法(開かれた質問・是認・聞き返し・要約)で利用者自身の変化への動機を引き出す。介護現場での服薬支援・リハ動機づけ・生活習慣指導の実践ポイントを解説。
この記事のポイント
動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)は、米国の心理学者 William R. Miller と Stephen Rollnick が1980年代に体系化した、本人の中にある「変わりたい気持ち」を引き出して行動変容を支える協働的な対話技法です。指示や説得ではなく、開かれた質問・是認・聞き返し・要約(OARS)と、4つのプロセス(関わる・焦点化する・引き出す・計画する)を使い、依存症治療・生活習慣指導・服薬支援・リハビリの動機づけなど介護・医療の幅広い領域で活用されています。
目次
動機づけ面接とは何か
動機づけ面接(Motivational Interviewing:以下MI)は、Miller & Rollnick が1991年の初版『Motivational Interviewing: Preparing People to Change Addictive Behavior』で提唱し、2013年の第3版で現在の枠組みに整理した対人援助の対話モデルです。当初はアルコール依存症の治療研究から生まれましたが、現在では糖尿病・高血圧などの生活習慣指導、服薬アドヒアランス向上、禁煙支援、リハビリ動機づけ、認知症の人の生活再構築支援、ヤングケアラー支援など、相手の「変わりたいが変われない」両価性(アンビバレンス)に向き合うほぼ全ての援助領域に応用されています。
MI の最大の特徴は、援助者が情報や説得を「与える」のではなく、本人の中にある変化への動機(チェンジトーク)を「引き出す(evoke)」点にあります。背景には、人は他者に押し付けられた目標より、自分自身で言語化した目標のほうが実行に移しやすいという行動科学の知見があります。介護現場で「水分を摂ってください」「リハビリに来てください」と繰り返しても動かない利用者に対し、本人の語りから「自分はなぜ・どう変わりたいのか」を引き出すアプローチとして注目されています。
MI には4つの基本姿勢(スピリット)があります。パートナーシップ(援助者と本人の協働関係)、受容(絶対的価値・正確な共感・自律支援・是認)、思いやり(本人の福祉を最優先する姿勢)、引き出し(本人の中の動機・資源を引き出す)の4つで、これらが欠けるとMIは単なる「うまい質問テクニック」になり機能しません。
OARSとは|動機づけ面接の4つの基本スキル
MI を実践する上で核となる4つのマイクロスキルが OARS(オールズ)です。頭文字を取って覚えやすく、研修プログラムでも最初に学ぶ技法群です。
- O:Open questions(開かれた質問) — 「はい/いいえ」で終わらない質問で、本人の経験・価値観・変化への思いを引き出す。「リハビリについて、今どんなふうに感じていますか?」のように選択肢を限定しない聞き方をする。閉じた質問の比率を下げ、開かれた質問を多用するのが MI の入り口。
- A:Affirmations(是認) — 本人の強み・努力・価値観を具体的に認める言葉。「お薬を3日続けて飲めたんですね、忙しい中で工夫されたんだと思います」のように、行動の背景にある努力を言語化して返す。お世辞や評価ではなく、事実に基づく承認である点が重要。
- R:Reflective listening(聞き返し) — 本人の言葉を受け止め、要約・言い換え・意味の深掘りで返す。「リハビリは正直しんどい」と言われたら「思っていたより身体への負担が大きいと感じているんですね」と返す。MI の中でも最も比重が大きく、熟練すると質問の3倍以上の聞き返しを使う。
- S:Summaries(要約) — ここまでの語りを束ねて返す。「整理すると、足が痛むのは事実だけれど、孫の結婚式までに歩けるようになりたい気持ちも強いということですね」のように両価性を可視化し、本人が自分の語りを俯瞰できるようにする。
OARS の4つは独立した技法ではなく、対話の中でリズミカルに織り交ぜて使います。特に「聞き返し:質問=2:1 以上」のバランスが、説得モードに陥らないコツとされています。
動機づけ面接の4つのプロセス
第3版(2013年)で整理された MI の進め方は、次の4プロセスで構成されます。順序通りに進めるとは限らず、行ったり来たりしながら深めていきます。
- 1. 関わる(Engaging) — 援助者と本人が信頼関係を結ぶ段階。傾聴と是認を中心に、相手が「話してもよい」と感じられる場を作る。ここを飛ばすと残り3プロセスがすべて空回りする。
- 2. 焦点化する(Focusing) — 何について話し合うかを共有する段階。本人の関心、援助者の専門的視点、文脈(家族の希望・制度の枠)を擦り合わせて議題を1つに絞る。介護現場では「服薬」「入浴拒否」「リハ拒否」など具体的なテーマに焦点化することが多い。
- 3. 引き出す(Evoking) — MI の中核。本人の中にある変化への動機(チェンジトーク)を意図的に引き出し、強化する段階。「もし変わったら何が良くなりますか?」「ご家族はどう感じるでしょうか?」など、変化のメリット・自分にとっての意味・自信などに焦点を当てた問いを重ねる。
- 4. 計画する(Planning) — 本人の準備が整ったら、具体的な行動計画に落とし込む段階。タイミングが早すぎると逆効果になるため、本人から「では、どうすれば?」という言葉が出てきてから入るのが原則。
介護現場での活用ポイント
介護・医療の現場で MI を実践する際の具体的なヒントです。
- 「直面化」を避ける — 「水分を摂らないと脱水になりますよ」と危機を煽る声かけは MI と相反する。本人の語りを聞き、本人自身が必要性に気づくよう問いを返す。
- 正したい反射(righting reflex)を抑える — 援助者は「正しい答えを伝えたい」衝動を持ちやすい。MI では「教える前に1分聞く」を意識し、まず本人の認識を聞き返す。
- 抵抗ではなく「維持トーク」として受け止める — 「リハビリは嫌だ」は抵抗ではなく現状維持の理由を語っているだけ。否定せず受け止めると、その後にチェンジトーク(「でも本当は歩けるようになりたい」)が出やすくなる。
- 家族介護者の支援にも有効 — 介護負担が大きい家族へのレスパイト利用提案や、認知症の人の対応相談でも、家族自身の語りを引き出すことで腑に落ちる選択につながりやすい。
- 記録・申し送りに本人の言葉を残す — 「水分摂取拒否」ではなく「『冷たいお茶は飲みたくない、温かい白湯ならいい』との発言あり」のように本人の言葉を残すと、次の支援者も MI の流れを引き継げる。
研修は日本動機づけ面接学会(JaSMINe)や Motivational Interviewing Network of Trainers(MINT)が認定する MITI(治療整合性評価尺度)を使った録音フィードバックが標準的です。書籍だけでは身につきにくく、ロールプレイ+スーパービジョンの継続練習が前提となります。
動機づけ面接についてよくある質問
Q. コーチングや傾聴と何が違いますか?
傾聴は受け止めること自体が目的ですが、MI は「変化に向けた動機を引き出す」という明確なゴールを持って戦略的に質問・聞き返しを選びます。コーチングと近い部分もありますが、MI は「両価性(変わりたいが変われない)」への介入に特化し、依存症・健康行動・服薬など研究エビデンスが豊富な点が特徴です。
Q. 何分くらいで効果が出ますか?
研究では1回15〜20分の短時間 MI(Brief MI)でも、生活習慣改善や受診行動などで有意な行動変容が報告されています。介護現場では入浴介助中の数分間の会話の中で OARS を意識するだけでも、利用者の参加度が変わることがあります。
Q. 認知症の人にも使えますか?
軽度〜中等度認知症の方への適用研究は進んでおり、選択肢を絞った開かれた質問、ゆっくりした聞き返し、本人の表情・言葉から「今ここでの希望」を引き出すアプローチは有効とされます。重度認知症で言語理解が難しい場合は、非言語的サインを「聞き返す」MI 的姿勢が活かせます。
Q. 介護職が独学で学べますか?
書籍(『動機づけ面接 第3版』星和書店)で基本概念は理解できますが、技能習得には録音セッションのフィードバックを伴うトレーニングがほぼ必須です。日本動機づけ面接学会のワークショップや、MINT 認定トレーナーによる研修への参加が推奨されます。
参考文献
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- [4]
まとめ
動機づけ面接(MI)は、説得や指示ではなく本人の中の「変わりたい気持ち」を引き出すことで行動変容を支える、エビデンスに基づく対話技法です。OARS(開かれた質問・是認・聞き返し・要約)と4プロセス(関わる・焦点化する・引き出す・計画する)が骨格となり、依存症治療から始まって今では介護現場の服薬支援・リハ動機づけ・家族支援にまで応用が広がっています。書籍だけでは身につきにくい技能ですが、「正したい反射を抑える」「聞き返しを質問の2倍以上使う」といった原則を意識するだけでも、利用者の参加度や納得度は変わります。多職種連携の中で対話の質を高めたい介護職・ケアマネ・看護職にとって、習得して損のないスキルセットです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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