NIHSSとは

NIHSSとは

NIHSS(NIH脳卒中スケール)は意識・運動・感覚など11カテゴリー15項目を0〜42点で採点する脳卒中重症度評価ツール。tPA判断や介護現場での既往評価に使う基本知識を整理。

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この記事のポイント

NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale/米国国立衛生研究所脳卒中スケール)は、急性期脳卒中の重症度を意識・運動・感覚など11カテゴリー15項目で評価し、合計0〜42点でスコア化する世界標準の神経学的評価尺度です。tPA(血栓溶解療法)の適応判断や転帰予測、医療スタッフ間の共通言語として使われ、介護現場でも利用者の脳卒中既往の重症度を把握するうえで重要な指標になります。

目次

NIHSSの全体像

NIHSS(NIH脳卒中スケール)は、1989年に米国シンシナティ大学のThomas Brott医師らによって開発された、急性期脳卒中患者の神経学的欠損を定量化する評価ツールです。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)が世界共通のスケールとして整備したことから、この名称が定着しました。

NIHSSの特徴は、特別な機器を必要とせず、訓練を受けた医療者であれば1人で約5〜10分以内に評価できる点にあります。意識レベル・眼球運動・視野・顔面麻痺・四肢の運動・運動失調・感覚・言語機能・構音障害・無視(半側空間無視)といった、脳卒中で典型的に障害される神経機能を網羅的にカバーしているため、病院前救急(救急隊)からER、ICU、回復期病棟、そして退院後の在宅・施設まで「脳卒中の重症度を1つの数字で共有する」ための共通言語として国際的に普及しています。

日本でも、日本脳卒中学会の「脳卒中治療ガイドライン」で急性期評価の標準スケールとして位置付けられており、t-PA静注療法・血栓回収療法の適応判断、入院後の経時的なモニタリング、研究データの国際比較などに不可欠なツールとなっています。介護施設や訪問介護の現場で利用者の入院サマリーに「入院時NIHSS 12点」「退院時NIHSS 4点」といった記載を見かけることがありますが、これがそのスコアです。

NIHSSの15項目と点数配分

NIHSSは11カテゴリー・15項目で構成されます(意識レベルが1a/1b/1cの3項目、上肢運動が5a/5bの2項目、下肢運動が6a/6bの2項目に分かれるため、カテゴリー数より項目数が多くなります)。

No.項目点数範囲評価ポイント
1a意識水準0〜3呼びかけ・痛み刺激への反応で覚醒度を判定
1b意識レベル質問(月齢・年齢)0〜22問正答/1問のみ/不正答
1c意識レベル命令(開閉眼・把握)0〜22動作の遂行可否
2最良の注視(水平眼球運動)0〜2水平方向の眼球運動障害の有無
3視野0〜3四分円ごとの視野欠損を対座法で評価
4顔面麻痺0〜3歯を見せる・閉眼・しかめ面で左右差を判定
5a/5b上肢の運動(左右別)各0〜490度(座位)/45度(仰臥位)挙上を10秒保持できるか
6a/6b下肢の運動(左右別)各0〜4仰臥位で30度挙上を5秒保持できるか
7運動失調0〜2指鼻試験・踵膝試験で小脳症状を確認
8感覚0〜2痛覚刺激への反応(顔面・上肢・下肢・体幹)
9最良の言語0〜3絵カードの説明・文章読みで失語を評価
10構音障害0〜2単語復唱の明瞭度
11消去現象と無視(半側空間無視)0〜2視覚・触覚刺激への両側同時提示で無視を判定

合計点は0点(正常)から最大42点(最重症・昏睡状態)の範囲を取ります。なお2017年の改訂で「現実にとりえる最高点は39点」とされ、5a/5b・6a/6bで「9点(評価不能)」を割り当てた場合は合計に加算しない運用が定着しています。

NIHSS点数の重症度分類

合計スコアによって、おおよそ次のように重症度が分類されます。施設や文献によって若干の差はありますが、日本の臨床現場では下記の区分が広く使われています。

合計点重症度臨床的意味合い
0点正常神経学的欠損なし
1〜4点軽症(Minor)多くは自宅退院可能。約80%が在宅復帰
5〜15点中等症(Mild-Moderate)急性期リハビリテーションを要するレベル
16〜20点重症(Moderate-Severe)長期的なリハビリ・施設入所の検討対象
21〜42点最重症(Severe)長期療養・要介護度の高い状態に至る可能性が高い

Schlegelらの報告(2003年)では、NIHSS≦4点で約80%以上が自宅退院、6〜13点で急性期リハ転院、14点以上で長期療養や施設入所が必要となる傾向が示されています。介護現場で「入院時NIHSS 18点」と書かれていれば、退院後も中等度〜重度の麻痺や高次脳機能障害が残存している可能性が高い、と先読みできます。

tPA・血栓回収療法とNIHSS

tPA・血栓回収療法の判断とNIHSS

NIHSSが最も重要な役割を果たす場面の1つが、急性期脳梗塞に対するt-PA(アルテプラーゼ)静注療法血栓回収療法の適応判断です。

  • NIHSS下限(軽症すぎる症例):かつてはNIHSS 4点未満は適応外とされた時期もありましたが、現在は「disabling symptom(生活機能に影響する症状)」があれば、NIHSS 1〜3点でもt-PA投与を検討する流れが主流です(米国AHA/日本脳卒中学会ガイドライン)。
  • NIHSS上限(重症すぎる症例):発症3時間以内であればNIHSS 25点超でも投与を考慮、4.5時間以内のウィンドウでは概ねNIHSS≦25が目安とされます。
  • 血栓回収療法:内頸動脈・中大脳動脈M1の主幹動脈閉塞かつNIHSS 6点以上が標準的な適応基準。NIHSSが高いほど大血管閉塞の可能性が高まるため、救急隊用のスクリーニング(ELVO Screen等)でもNIHSSの一部項目が活用されます。

つまり「NIHSSが何点だったか」は、発症直後にどの治療を受けたかを推測する有力な手がかりであり、利用者の現在の機能レベルの背景を理解する助けになります。

介護現場でのNIHSSの読み方・活かし方

NIHSSは医療スコアですが、入院時・退院時の点数を入院サマリーや診療情報提供書で目にする介護職・ケアマネジャー・訪問看護師にとっても、利用者の状態理解に直結する情報源です。

  1. 入院時NIHSSで「もとの重さ」を把握する:入院時の点数を見れば、急性期にどれだけ重症だったかが分かります。たとえば「入院時NIHSS 20点 → 退院時NIHSS 8点」と回復していれば、リハビリで大きく改善した経過を理解できます。
  2. 項目別の残存障害を予測する:NIHSS 9(言語)・10(構音障害)が高ければ失語や構音障害が残存している可能性、11(無視)が高ければ半側空間無視によるADL困難(食事の片側を残す、車椅子で左側にぶつかる)を予測できます。
  3. ケアプラン作成のヒントにする:5a/5b(上肢)・6a/6b(下肢)の左右別スコアが高い側を確認することで、移乗・更衣・食事介助時の介助方向を組み立てられます。
  4. 再発リスクの認識:脳卒中既往者の年間再発率は約5〜10%。NIHSS既往スコアが高い利用者ほど再発時のダメージが上乗せされやすいため、血圧管理・服薬確認・脱水予防など二次予防の意識が重要です。
  5. 多職種連携の共通言語にする:訪問看護師・PT・OT・STとサービス担当者会議で情報共有する際、NIHSSは「14点でも歩けるのか」「8点で言語障害が中心なのか」といった重症度の濃淡を伝える便利な指標になります。

介護職が直接NIHSSを採点することはありませんが、「点数が何を意味するか」を理解しているだけで、利用者の状態把握とアセスメントの質が大きく変わります。

NIHSSと他の脳卒中・ADL評価スケールの違い

脳卒中の評価には複数のスケールが併用されます。NIHSSは「急性期の神経学的重症度」を測るスケールで、生活機能やADLを測るmRS・Barthel Indexとは目的が異なります。

スケール測るもの使われる場面点数範囲
NIHSS神経学的欠損(重症度)急性期(発症〜入院中)0〜42点(高いほど重症)
mRS(modified Rankin Scale)機能的アウトカム(介助度)退院時・3か月後・6か月後0〜6(高いほど重度)
Barthel IndexADL自立度退院時〜在宅・施設0〜100点(高いほど自立)
FIMADL自立度+認知機能回復期リハ病棟18〜126点(高いほど自立)
JCS/GCS意識レベル救急・急性期JCS 0〜300/GCS 3〜15

NIHSSは「発症直後にどれだけ神経が障害されたか」、mRSやBarthel Indexは「治療後にどれだけ生活できるか」を測ると整理すると分かりやすいです。介護現場で重要なのは後者ですが、もとのダメージの大きさを示すNIHSSの値も合わせて見ることで、回復の幅や今後の改善余地を読み取りやすくなります。

NIHSSに関するよくある質問

Q1. NIHSSは介護職や家族が採点できますか?

採点自体は医師・看護師が実施します。NIHSS認定講習会(多くはオンライン)を修了した医療従事者が正式な評価者です。ただし「何点だったか」「どの項目が高かったか」を読み取り、ケアに活かすのは介護職や家族にも有用です。

Q2. NIHSSが高いほど予後は悪いのですか?

傾向としてはそうです。一般にNIHSS≦4点で約80%が自宅退院、14点以上で長期療養が必要となる確率が高まります。ただし後方循環系(脳幹・小脳)の脳卒中では、症状が深刻でもNIHSSが低めに出るケースがあり、点数だけで判断しないことが重要です。

Q3. NIHSSとtPA投与の関係は?

NIHSS 1〜3点でも生活機能に影響する症状があれば投与を検討、4.5時間以内のウィンドウでは概ねNIHSS≦25が目安です。下限・上限ともに「絶対の数値」ではなく、症状の質と発症からの時間で総合的に判断します。

Q4. 介護記録で「NIHSS」と書かれていたらどう読めば良いですか?

まず「入院時」か「退院時」かを確認します。入院時のスコアは元のダメージの大きさ、退院時のスコアは現在の残存障害の重さを示します。差分が大きいほどリハビリで改善した、と理解できます。

Q5. NIHSSと要介護度は連動しますか?

直接の換算式はありませんが、NIHSS 16点以上で長期療養が必要となる傾向があり、要介護3〜5に該当するケースが多くなります。NIHSS≦4点であれば要支援〜要介護1相当で在宅復帰できるケースが大半です。

参考文献・公的資料

まとめ

NIHSSは脳卒中の急性期重症度を11カテゴリー15項目・0〜42点で定量化する世界標準スケールです。1〜4点で軽症、5〜15点で中等症、16点以上で重症と分類され、tPAや血栓回収療法の適応判断、転帰予測の基準として臨床で使われています。介護職・ケアマネジャー・訪問看護師にとっては、利用者の入院サマリーに記載されたスコアから「もとのダメージの大きさ」「項目別の残存障害」「再発時のリスク」を読み取るための重要な手がかりです。NIHSSの読み方を理解しておくことで、医療と介護の連携が一段と滑らかになります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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