認知症基本法とは

認知症基本法とは

2024年1月1日施行の認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)を解説。正式名称・7つの基本理念・認知症の日(9月21日)・認知症施策推進本部・新オレンジプランや認知症施策推進大綱との違い・自治体の責務・介護現場への影響まで整理。

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この記事のポイント

認知症基本法(正式名称:共生社会の実現を推進するための認知症基本法/令和5年法律第65号)とは、2024年1月1日に施行された、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らせる「共生社会」の実現を国の責務として明文化した基本法です。7つの基本理念、9月21日の「認知症の日」、内閣総理大臣を本部長とする認知症施策推進本部の設置、国・都道府県・市町村の認知症施策推進計画の策定(自治体は努力義務)などを定めています。

目次

法律の正式名称と施行日・目的

認知症基本法は、正式名称を「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」といいます。2023年6月14日に参議院本会議で全会一致で可決・成立し、同年6月16日に公布(令和5年法律第65号)、2024年(令和6年)1月1日に施行されました。

法の目的は第1条で次のように定められています。認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進すること、そして認知症の人を含めた国民一人一人が、その個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(共生社会)の実現を推進すること、です。

背景には、2025年に認知症の人が約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)に達すると推計されている人口構造の変化があります。これまで国の認知症施策は「新オレンジプラン」(2015年)や「認知症施策推進大綱」(2019年)といった閣議決定の戦略・大綱として運用されてきましたが、政権交代や予算編成に左右されない法律に格上げされたことが、本法の最大の特徴です。

7つの基本理念

第3条には、認知症施策を講ずる際に貫くべき7つの基本理念が掲げられています。すべて「認知症の人」が主語であり、家族や事業者ではなく当事者本人が政策の中心に据えられている点が特徴です。

  1. 本人の意思尊重と自分らしい生活 — すべての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活・社会生活を営めるようにする
  2. 共生社会の実現に向けた国民の理解 — 国民が認知症に関する正しい知識と、認知症の人に関する正しい理解を深められるようにする
  3. 社会参加の機会の確保 — 認知症の人が社会の対等な構成員として、地域で安全に安心して自立した生活を営めるよう、社会参加の機会が確保される
  4. 切れ目のない保健医療・福祉サービス — どこに住んでいても、その意向を十分に尊重したうえで切れ目なく保健医療・福祉サービスを受けられる
  5. 家族など関係者への支援 — 認知症の人のみならず家族・介護者など関係者に対しても支援が行われ、これらの人々が地域で安心して暮らせるようにする
  6. 研究の推進・新技術の活用 — 認知症に関する科学的知見に基づく研究、予防・診断・治療・リハビリテーション・介護方法・社会参加の在り方等についての研究等を推進する
  7. 分野を越えた総合的対応 — 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉等、関連する分野で総合的に取り組まれる

従来の新オレンジプラン・認知症施策推進大綱が「対策」を並べる行政文書だったのに対し、基本法では「本人の意思」「人権」「共生」が条文として明記された点が大きな転換点です。

認知症の日(9月21日)と認知症月間(9月)

第9条で、認知症への国民の理解を深めるための啓発期間として次の2つが法定化されました。

名称期間由来
認知症の日9月21日国際アルツハイマー病協会(ADI)が定める「世界アルツハイマーデー」と同日。すでに国際的に広く認知された記念日と整合させた。
認知症月間9月1日〜9月30日世界アルツハイマー月間と同月。重点的に普及啓発・行事を実施する月として位置づけられた。

国と地方公共団体は、この日と月間にふさわしい事業・行事を実施するよう努めなければならないと定められています。介護事業所でも、家族向け勉強会、認知症カフェの開催、職員研修の集中実施などをこの時期に企画する動きが広がっています。

認知症施策推進本部と認知症施策推進基本計画

第4章では、政府の実施体制が定められています。

認知症施策推進本部(内閣に設置)

  • 本部長:内閣総理大臣
  • 副本部長:内閣官房長官、厚生労働大臣、その他指定する国務大臣
  • 本部員:本部長・副本部長以外のすべての国務大臣

本部の事務は内閣官房が処理し、認知症施策推進基本計画の案の作成、関係行政機関の調整、施策の実施推進などを担います。総理大臣を本部長に据えることで、厚生労働省単独ではなく、教育・雇用・住宅・交通などを所管する各省庁を横断して施策を進める設計です。

認知症施策推進基本計画

政府は基本計画を策定する義務を負い、認知症施策推進関係者会議(認知症の人および家族等で構成)の意見を聴いたうえで案を作成します。2024年9月3日に第1期の認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。第1期計画は、新しい認知症観(誰もが認知症になりうる、認知症になっても希望を持って暮らせる社会の実現)を打ち出し、本人発信支援・社会参加・相談支援・医療介護福祉サービスなどを重点課題に位置づけています。

都道府県・市町村の計画

都道府県は都道府県認知症施策推進計画、市町村は市町村認知症施策推進計画を、それぞれ国の基本計画を勘案して策定するよう努める(努力義務)と規定されています。介護保険事業計画など既存計画との調和を図ることも求められています。

新オレンジプラン・認知症施策推進大綱との違い

これまで国の認知症施策は、戦略や大綱として閣議決定されてきました。基本法との位置づけの差は次のとおりです。

新オレンジプラン(2015)認知症施策推進大綱(2019)認知症基本法(2024〜)
法的位置づけ 関係12省庁の共同戦略(閣議決定なし) 認知症施策推進関係閣僚会議の決定(閣議了解) 法律(議員立法・全会一致)
キーワード 「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会」 「共生」と「予防」を車の両輪 「共生社会」を全面に。「予防」は強調を緩和し人権を前面
当事者参画 限定的(ワーキンググループの一部) 当事者ヒアリングを実施 関係者会議への参加が法定。基本計画の策定に意見反映が義務
自治体の計画 規定なし(介護保険事業計画等で対応) 規定なし 都道府県・市町村に努力義務
事業者の責務 記載なし 記載なし 医療・介護事業者と一般事業者(交通・金融等)に努力義務

基本法は新オレンジプラン・大綱を否定するものではなく、それらの蓄積を土台に「法律」へ昇格させたものです。実務上は、認知症施策推進基本計画と各自治体の認知症施策推進計画が、旧来の大綱に代わる施策ロードマップとして運用されます。

自治体・介護事業者・介護職員への影響

自治体への影響

都道府県・市町村は、国の認知症施策推進基本計画を踏まえ、地域の実情に応じた認知症施策推進計画の策定を努めることになります。介護保険事業計画・地域福祉計画・健康増進計画など既存計画との調和、当事者・家族の意見聴取、関係機関との連携が条文で求められています。地域包括支援センター・認知症初期集中支援チーム・認知症地域支援推進員などの既存の地域資源を計画に位置づけ直す動きが各地で進んでいます。

介護事業者への影響

第7条(保健医療サービス・福祉サービスを提供する事業者の責務)で、認知症の人に対し良質かつ適切な保健医療サービス・福祉サービスを提供するよう努めること、国・自治体の施策に協力することが努力義務として規定されました。具体的には次のような実務対応が広がっています。

  • 認知症介護基礎研修の確実な受講(無資格職員は2024年度から義務化)
  • 本人の意思決定支援を組み込んだケアプラン・計画書の見直し
  • 「身体拘束ゼロ」「BPSD対応の見直し」など、人権視点の現場ルール再構築
  • 家族・地域住民を巻き込んだ認知症カフェ・社会参加プログラムの企画

介護職員への影響

現場で働く介護職員にとっては、「ケアする側/される側」という固定的な関係から、本人の力を引き出す「協働」へと役割が変わっていきます。意思決定支援、本人発信のサポート、地域連携の橋渡しなど、これまで以上に専門性が問われる場面が増えています。認知症介護実践者研修・実践リーダー研修・認知症介護指導者など、キャリアラダーに沿った学びが評価されやすい環境になりつつあります。

よくある質問

Q. 認知症基本法は誰に適用されますか?

国・地方公共団体・保健医療福祉サービス事業者・一般事業者(公共交通機関、金融機関など)に責務を、国民には共生社会の実現に協力する努力義務を課しています。介護事業者は第7条の対象として、認知症の人への良質なサービス提供と国・自治体の施策への協力が努力義務化されています。

Q. 認知症の日に介護事業所は何をすべきですか?

法律で具体的行事が義務付けられているわけではありませんが、国・地方公共団体は9月21日と9月の認知症月間に趣旨にふさわしい事業・行事を実施するよう努めると定められています。事業所では家族向け勉強会、認知症カフェ、地域住民向け公開講座、職員のサポーター養成講座などを実施する例が増えています。

Q. 新オレンジプランや認知症施策推進大綱はもう廃止されたのですか?

大綱・戦略は法定文書ではないため、基本法施行後は認知症施策推進基本計画(2024年9月3日閣議決定の第1期計画)に役割を引き継ぐ形になりました。新オレンジプランで示された7つの柱や、大綱の「共生と予防」の考え方は基本計画にも反映されています。

Q. 自治体の認知症施策推進計画はいつまでに策定が必要ですか?

努力義務のため法的な期限はありませんが、多くの自治体は次期介護保険事業計画(2027〜2029年度・第10期)と一体的に検討し、2026年度末までに策定する見通しです。すでに先行策定した自治体(東京都、神奈川県大和市、奈良県大和郡山市など)も出ています。

Q. 認知症基本法と介護保険法はどう関係しますか?

介護保険法は介護サービスの給付制度を定める法律で、認知症基本法はその上位で「認知症の人がどのような社会で暮らすか」という理念と総合的施策を定める基本法です。介護保険事業計画の策定や認知症対応型サービスの整備は、基本計画と整合性を保ちながら進められることになります。

参考資料

  • 内閣府「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」e-Gov法令検索(令和5年法律第65号)
  • 厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法について」社会保障審議会介護保険部会(第107回)資料4(令和5年7月10日)PDF
  • 内閣府「認知症施策推進基本計画」(令和6年9月3日閣議決定)認知症施策推進本部ホームページ
  • 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(平成27年策定)関連ページ
  • 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月18日認知症施策推進関係閣僚会議決定)関連ページ
  • 「共生社会の実現を推進するための認知症基本法施行規則」e-Gov法令検索

まとめ

認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)は、2024年1月1日施行の議員立法で、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らせる共生社会の実現を国の責務として位置づけた法律です。7つの基本理念、9月21日の認知症の日と9月の認知症月間、内閣総理大臣を本部長とする認知症施策推進本部、認知症施策推進基本計画、自治体の認知症施策推進計画(努力義務)が柱です。介護現場では、本人の意思決定支援・人権視点のケア・地域連携が、これまで以上に評価される時代に入っています。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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