
在宅医療充実体制加算、重度認知症の診療で要件緩和|厚労省5月1日通知訂正・2026年度診療報酬改定
厚労省は2026年5月1日付で在宅医療充実体制加算の施設基準を訂正。重度認知症患者の延べ診療月数割合が8分以上などの条件をクリアすれば、重症患者割合の基準が2割から1割5分に緩和される。在宅で認知症患者を支える体制づくりに新たな選択肢が生まれた。
あなたらしい働き方は?
年収の目安も一緒にチェック
Q1. 利用者さんと深く関わることに、やりがいを感じる
お近くの介護施設を探す
地域ごとの施設数や施設タイプを確認しながら、候補を絞り込めます。
この記事のポイント
厚生労働省は2026年5月1日、2026年度診療報酬改定で新設した「在宅医療充実体制加算」の施設基準を訂正し、重度認知症患者を在宅で支える診療所には重症患者割合の要件を2割から1割5分に緩和する取り扱いを正式に盛り込んだ。認知症自立度IV以上またはMに該当する患者の延べ診療月数割合が8分以上で、うち在宅時医学総合管理料を算定する患者が4分以上ある在宅療養支援診療所が対象となる。新点数の算定は2026年6月1日からで、在宅看取りだけでなく認知症の伴走的ケアを評価する設計に転換した点が大きい。介護職・家族にとっては、医療連携の選択肢が広がる改定として実務影響を読み解く価値がある。
目次
解説動画
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、在宅医療の体制を厚くする方向に大きく舵が切られた。その目玉のひとつが、在宅療養支援診療所向けに新設された「在宅医療充実体制加算」だ。在宅時医学総合管理料に上乗せして算定でき、加算点数は従来の関連加算と比べておよそ2倍に引き上げられたとされる。
新加算は「重症な患者を一定割合以上受け入れている」ことを施設基準としており、その割合は当初「直近1年間の患者の2割以上」と設定された。ところが、重症の定義からこぼれる患者像がある。代表が、認知症が進行して在宅で長期的に診てもらう必要があるものの、看取り期や末期がんには該当しない患者だ。在宅医からは「終末期の数字合わせの基準では、認知症の伴走的ケアを評価できない」という声が上がっていた。
厚労省は2026年5月1日付で「令和8年度診療報酬改定関連通知及び官報掲載事項の一部訂正について」を発出。特掲診療料の施設基準等を含む11本の通知をまとめて改めた。その中で、適切なケアを行う重度認知症患者を一定以上抱える診療所には、重症患者割合の要件を「2割以上」から「1割5分以上」に緩める扱いを正式に組み込んだのである。新点数の算定は2026年6月1日から開始される。本記事では、訂正の背景と内容、そして在宅医療・介護現場に与える影響を、家族・介護職双方の視点で読み解く。
在宅医療充実体制加算の新設と基準訂正の経緯
新設された「在宅医療充実体制加算」とは
在宅医療充実体制加算は、2026年度診療報酬改定で在宅療養支援診療所を対象に新設された加算である。在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料に上乗せして算定する設計で、診療報酬本体プラス3.09%という改定率の中でも、在宅医療領域は「体制の厚みを評価する方向」に重点が置かれた。日経メディカルや関連解説では、従来の関連加算と比べて点数は約2倍に引き上げられたと指摘されており、診療所経営にとって取得の有無が収支に直結する加算となる。
算定にあたっては、24時間体制の確保、看取り実績、緊急往診の体制など複数の体制要件に加え、過去の患者構成から「重症患者をどれだけ診てきたか」を示す指標を満たす必要がある。具体的には、直近1年間に在宅時医学総合管理料を算定した患者のうち、別表第八に定める状態にある患者(末期の悪性腫瘍、難病、人工呼吸器装着など)を一定割合受け入れていることが求められる構造だ。
当初の重症患者割合は「2割以上」だった
2026年3月5日付で発出された当初の特掲診療料施設基準通知(保医発0305第8号)では、この重症患者割合の基準を「2割以上」としていた。在宅医療を強化したい狙いとは裏腹に、現場からは「在宅で重症患者の比率を2割確保しているクリニックは、看取り集中型の一部に限られる」「在宅医療の機能を広げる加算なのに、要件が看取り偏重で逆に分母が狭まる」という不満が即座に上がった。中医協の答申段階から指摘されていた論点であり、改定後の早い時期に運用調整が入る可能性が示唆されていた。
5月1日付通知訂正の経緯
厚労省は2026年4月23日に「疑義解釈資料の送付について(その4)」を発出。この中で、重度認知症患者を適切にケアしている診療所については、重症患者割合の基準を緩和して取り扱う旨を明示した。そして2026年5月1日、「令和8年度診療報酬改定関連通知及び官報掲載事項の一部訂正について」を発し、疑義解釈で示した運用を施設基準通知本体に正式に書き込む形で訂正を行った。届け出書類のチェックリストも一部訂正されており、6月1日施行に向けて施設基準を届け出る診療所は、訂正後の通知に基づいて記載することが求められる。
重度認知症患者の診療を要件化した狙い
緩和の対象となる「重度認知症患者」の定義
訂正通知で要件緩和の鍵となるのは、「適切なケアを行う重度の認知症患者」をどう定義するかである。通知では、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準で「ランクIV以上またはM」に該当する患者を中心に据え、加えて以下の要件を求めた。第一に、介護者への助言や療養方針に関する意思決定支援を本人・介護者と継続的に行っていること。第二に、直近3か月以内に関係機関との間で情報を共有し、連絡調整を行っていることだ。単に重度認知症のレセプト病名がついているだけでは対象にならず、ケアマネジャーや訪問看護ステーションとの実質的な多職種連携が問われる構造になっている。
具体的な数値要件と緩和後の基準
緩和を受けるための数値要件は二段構えで設定された。直近1年間における、適切なケアを行う重度認知症患者の延べ診療月数割合が「8分以上」、つまり全体の8%以上を占めること。さらに、そのうち在宅時医学総合管理料を算定している患者の延べ診療月数割合が「4分以上」、つまり4%以上であることが求められる。この二つの条件を同時に満たした場合に限り、重症患者割合の基準は「2割以上」から「1割5分以上」、つまり15%以上に緩和される。「重症患者割合を引き下げる代わりに、認知症の長期診療実績で穴埋めする」という構造だ。
訪問診療患者数の取り扱いも明確化
5月1日付の訂正では、もう一つ実務に直結する明確化が行われた。常勤換算医師1人当たりの訪問診療患者数を100人以下とする基準について、特定の患者カテゴリーに該当する場合は「70人を上限として0.5人としてカウント」する運用が示された。重症・認知症患者を多く受け持つ診療所では、医師1人あたりの「頭数」が膨らみやすく、これまで基準クリアが難しかったケースもある。0.5人カウントの導入は、重度患者を厚く診ている診療所の不利を取り除く措置と位置づけられる。
在宅医療現場・介護現場への波及
在宅看取り中心の評価から「認知症伴走ケア」を含む評価へ
これまで、在宅医療の重症度評価は末期がん・難病・人工呼吸器装着といった「客観的に重症と判定しやすい疾患群」を中心に組まれてきた。背景には、限られた財源を集中的に重症者へ振り向けたいという制度設計上の合理性がある。一方で、在宅医療の現場では、重度認知症で身体合併症を抱えた患者を5年・10年単位で支えるケースが増えており、看取り期間の短いがん末期患者と同じ「分母」では評価しきれない領域が広がっていた。今回の緩和は、在宅医療の評価軸に「認知症の長期伴走的ケア」を初めて公式に組み込んだという意味で、加算の細部の話を超えた制度設計上の転換点でもある。
介護現場との連携が加算要件に組み込まれた点の重み
注目したいのは、重度認知症患者の認定要件に「直近3か月以内に関係機関との情報共有・連絡調整」が含まれていることだ。ここで言う関係機関には、居宅介護支援事業所のケアマネジャー、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどが当然含まれる。つまり、診療所が単体で加算をクリアすることは想定されておらず、介護側との文書交換・カンファレンス記録・サービス担当者会議への参加実績が、加算の根拠資料として残っていく構造になる。介護報酬上の医療連携加算とは別ルートで「医療側からも介護連携の証跡が求められる」流れが強まったわけで、医介連携のドキュメンテーションは双方向に厚みを増していくと見ていい。
施設からの自宅復帰・在宅看取りに与える影響
特別養護老人ホームや介護老人保健施設で看取りを担うケースが増える中、家族の希望で「最期は自宅で」と帰宅する事例も依然として存在する。これまで、こうした重度認知症の在宅復帰患者を地域の在宅療養支援診療所がどこまで引き受けられるかは、診療所側の体制余力に依存していた。在宅医療充実体制加算の要件緩和は、認知症の在宅復帰を引き受けても重症患者割合の基準で不利にならない設計に転換したことを意味する。結果として、重度認知症患者の「施設から自宅へ」「病院から自宅へ」の選択肢が、地域の医療資源によっては広がる可能性がある。
読者(介護職・家族)にとっての意味
訪問介護・訪問看護との連携実務がどう変わるか
在宅医療充実体制加算を取得する診療所が増えれば、訪問看護ステーションや訪問介護事業所への「重度認知症の在宅患者」の依頼は確実に増える。情報共有の頻度が加算根拠資料として求められるため、ケアマネジャーに対しては従来以上に「3か月以内のサービス担当者会議の記録」や「医療・介護の連絡票」の整備が求められる。とくに認知症の意思決定支援は記録の取り方に難しさがあり、本人・家族の希望の変遷を時系列で残せる連絡シートの運用は、地域単位で見直しが進む可能性が高い。介護職にとっては、加算根拠資料の整備が増える煩雑さがある一方、医療側からの情報還流が安定する側面もある。
家族レスパイトとショートステイの位置づけ
重度認知症患者を自宅で支える家族介護者にとって、ショートステイや小規模多機能型居宅介護といったレスパイト資源は欠かせない。今回の加算が在宅で認知症患者を支える診療所を後押しする以上、家族のレスパイト需要も同時に伸びると考えるのが自然だ。一方で、ショートステイ中の医療管理は「在宅扱い」と「施設扱い」が混在しがちで、加算要件の「延べ診療月数」のカウントにどう響くかは現場で運用が試されることになる。ケアマネジャーは、レスパイト利用日と訪問診療日のかみ合わせを月単位で設計する視点が、これまで以上に重要になるだろう。
ケアマネ・介護職のキャリアへの示唆
制度上、加算の要件をクリアできるかは「医療側の判断」だが、その判断材料を整備する担い手は介護側にも広がる。具体的には、認知症の意思決定支援に関する研修受講歴、認知症ケア専門士・認知症介護指導者などの資格、ACP(人生会議)の進め方を地域で回せるファシリテーションスキルといった経験が、これまで以上に医療連携で評価されやすくなる。転職や異動を考えている介護職にとっては、「在宅医療充実体制加算を取得している(または取得を準備している)診療所と密に連携する事業所」を職場として選ぶ視点が、キャリアの幅を広げる手がかりになる。介護報酬の単発の加算動向だけでなく、医療側の加算改定までセットで読むことが、これからの介護キャリア設計の前提になっていく。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]令和8年度診療報酬改定について- 厚生労働省
- [7]令和8年度診療報酬改定説明資料等について- 厚生労働省
まとめ
2026年度診療報酬改定で新設された在宅医療充実体制加算は、5月1日付の通知訂正によって「重度認知症患者を適切にケアしている診療所」に対し重症患者割合の要件を2割から1割5分に緩和する運用が正式に組み込まれた。認知症自立度IV以上またはMに該当する患者の延べ診療月数割合が8分以上、うち在宅時医学総合管理料を算定する患者が4分以上、という二段構えの数値要件をクリアすることが条件となる。これは、在宅医療の評価軸を看取り集中型から「認知症の長期伴走的ケア」までを含む方向へ広げる制度設計上の転換と読める。
介護現場にとっては、関係機関との情報共有・連絡調整が加算根拠資料として求められるため、ケアマネジャー・訪問看護・訪問介護とのドキュメンテーション運用が一段と重みを増す。家族にとっては、重度認知症患者を自宅で支える医療体制の選択肢が地域で広がる可能性があり、看取りだけでなく長期的な伴走ケアを在宅で受けやすい環境が整っていく流れだ。自分の地域の在宅療養支援診療所がこの加算を取得するかどうか、ケアマネを通じて確認しておく価値は十分にある。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
続けて読む

2026/5/1
認知症ケアの基礎|介護職が押さえる中核症状・BPSD対応・実践フレームワーク
介護職が現場で活かせる認知症ケアの基礎を体系化。中核症状とBPSDの違い、パーソン・センタード・ケアの考え方、ユマニチュード/バリデーション/回想法の実践フレーム、場面別の接し方、認知症介護基礎研修~指導者までのキャリアパス、介護報酬の認知症関連加算まで一気通貫で解説します。

2026/5/12
看取り期の家族対応プロトコル|介護現場の説明・同意・グリーフケアの実務
看取り介護加算の算定要件、ACP(人生会議)の進め方、家族説明会の組み立て、グリーフケアまで、介護現場で実践する家族対応プロトコルを厚労省ガイドラインに沿って解説。

