
意思決定支援とは
意思決定支援は本人の意思を尊重し意思形成・表明・実現を支えるケアの根幹概念です。認知症ガイドライン6原則、ACPや成年後見との違い、3つの支援領域、現場での実践プロセスをやさしく解説します。
この記事のポイント
意思決定支援とは、認知症や障害などにより判断が難しくなった人が、自分の生き方や暮らしを自分の意思で決められるよう、周囲が情報提供・対話・選択肢の整理を通じて支える一連のプロセスです。代理で決める「成年後見」とは異なり、あくまで本人の意思形成・表明・実現を伴走で支える点が核心で、厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年)が現場の指針となっています。
目次
意思決定支援が介護現場で重視される理由
意思決定支援は、ケアマネジメントや認知症ケア、終末期ケアに通底するケアの根幹概念です。「本人の意思を尊重する」という理念は介護保険法第1条にも書かれていますが、認知症や脳血管障害で判断能力が低下した人に対しては、何もしないと「家族が決めればよい」「医療者に任せる」という代行決定に流れてしまいがちです。意思決定支援は、こうした代行決定を最小限にとどめ、本人が最後まで主役で居続けられるようにする実践のフレームを指します。
厚生労働省は本人の意思尊重を制度横断で位置づけるため、複数のガイドラインを段階的に整備してきました。代表的なのは以下の4本です。
- 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2007年策定/2018年改訂)— 終末期医療における本人意思の尊重と多職種協働を規定。ACP(人生会議)の根拠文書です。
- 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(2018年6月策定)— 認知症がある人の日々の暮らしの選択を支える基本原則とプロセスを示したものです。
- 障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(2017年策定)— 障害福祉領域の支援者向け指針です。
- 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン(2019年策定)— 身寄りがない高齢者の医療同意・意思決定支援を扱います。
介護の現場ではこのうち、認知症ガイドラインと人生最終段階ガイドラインの2本が頻繁に参照され、認定調査・サービス担当者会議・ケアプラン作成・看取り対応など日々の業務に組み込まれています。とくに2024年度の介護報酬改定で看取り介護加算・ターミナルケア加算がACP指針への準拠を要件化したことで、意思決定支援は「理念」ではなく「実務」として運用される段階に入りました。
意思決定支援が対象とする3つの領域
意思決定支援は単一のガイドラインではなく、生活のどの場面の決定かによってアプローチが変わります。介護の現場で扱う領域は大きく3つに整理されます。
① 医療・ケアに関する意思決定
延命治療を望むか、胃ろうを造設するか、肺炎時に入院するか、最期をどこで迎えたいか — など医療・ケア方針に関する決定です。「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」とACP(人生会議)がこの領域を扱います。判断能力があるうちに本人の価値観・希望を多職種で繰り返し話し合い、本人が表明できなくなった後も「本人ならどう望むか」を推定できるようにします。
② 日常生活・社会生活に関する意思決定
今日着る服、食事の中身、趣味活動、外出先、自宅で暮らし続けるか施設に入るか、どのサービスを使うか — など生活全般の選択です。「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」がこの領域の中心で、訪問介護員・通所スタッフ・ケアマネジャーが日々の関わりの中で支援します。「介護者が決めてしまう」ことが起きやすい領域で、声かけ・選択肢提示・反応の読み取りなど現場スキルがそのまま支援の質に直結します。
③ 財産管理・契約に関する意思決定
預貯金の管理、不動産の処分、施設入所契約、遺言など財産や法律行為に関わる決定です。判断能力が著しく低下した場合は成年後見制度(法定後見・任意後見)や日常生活自立支援事業(社会福祉協議会)が制度的なバックアップを担いますが、ここでも代理判断の前に「本人がどう望むか」を確認する意思決定支援が前提に置かれます。2026年4月施行の改正民法では成年後見の運用がより本人意思尊重型に近づく予定で、後見人にも意思決定支援の視点が一層求められます。
これら3領域は独立しているのではなく、本人の人生という一つの軸の上で連続しています。ケアマネジャーや相談員には、領域ごとの専門職(医師・弁護士・社会福祉士など)と連携しながら、本人の意思を中心に据えた一貫した支援を組み立てる役割があります。
認知症の人の意思決定支援ガイドライン 基本原則
2018年6月に厚生労働省が策定した「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」は、本人の意思尊重を支える基本原則を示しています。実務では次の6つの柱として整理して使われます。
原則1:本人の意思の尊重
認知症の診断がついていても、それだけで意思決定能力がないと決めつけない。「能力があるかをまず評価して、能力がある場合のみ支援する」という発想は誤りとガイドラインは明記しています。まず本人の意思表明を引き出すことから始めます。
原則2:本人の意思決定能力への配慮
意思決定能力は「あるか/ないか」の二択ではなく、決める事柄の難易度・時間帯・体調・環境で変動する流動的なもの。能力が低下している局面でも、説明の仕方や場面の整え方を工夫することで本人が決められる範囲は広がる、という前提に立ちます。
原則3:チームによる早期からの継続的支援
家族・ケアマネ・主治医・サービス提供者など多職種で支援チームを組み、認知症の早期段階から本人の価値観を共有し続けます。意思決定支援は単発のイベントではなく継続的なプロセスで、本人の心身状態に応じて何度も繰り返されます。
原則4:意思決定支援は3段階のプロセス
「①意思形成支援(本人が意思を組み立てる支援)→②意思表明支援(表現する支援)→③意思実現支援(実行する支援)」の3段階に分けて関わります。どの段階でつまずいているかを見極めて支援を選びます。
原則5:本人にとってわかりやすい情報提供
専門用語を避ける、写真や実物を見せる、選択肢を一度に詰め込まない、短い文で繰り返す、家族や馴染みの職員が同席する — など本人の認知特性に合わせた情報の渡し方を工夫します。
原則6:本人の最善の利益と意思推定
本人が意思を表明できない場合でも、過去の発言・生活歴・価値観・信条から「本人ならどう望むか」を推定し、それを最大限尊重します。書面に残された意思表示(リビングウィルなど)は重要な手がかりとなります。代行決定はあくまで最後の手段で、決定に至った理由を記録する責任があります。
なお、本人の意思が他者の生命・身体に重大な危害を及ぼす場合や、本人にとって取り返しのつかない不利益が予想される場合は、例外的に意思の制限が許容されます。ただし「危ないから」「家族が心配するから」程度では制限の理由になりません。例外を限定的に運用することがガイドラインの趣旨です。
意思決定支援の3つのプロセス
ガイドラインは意思決定支援を一連のプロセスとして捉え、3段階に分けて関わり方を示しています。現場では「うまく決められない」という見立ての前に、どの段階でつまずいているかを観察することが重要です。
STEP 1:意思形成支援(決めるための材料を整える)
本人が選択について自分の考えを組み立てられるよう、情報・選択肢・比較ポイントを整理して伝える段階です。
- 選択肢を2〜3個に絞り、写真や実物で示す
- 「○○がしたいですか/○○したくないですか」と閉じた質問と「どう感じますか」という開かれた質問を組み合わせる
- 説明は短く区切り、繰り返す。一度に決めさせない
- 体験できる選択肢(ショートステイ・通所体験など)は実際に試す
- 体調・時間帯のよい時に話し合う
STEP 2:意思表明支援(表現することを助ける)
形成された意思を本人が言葉や態度で表せるよう、表明を阻害する要因を取り除く段階です。
- 緊張しない環境(馴染みの場所・人)を整える
- 言葉が出にくい人には、絵カード・ジェスチャー・選択肢の指差しなど多様な表現手段を用意する
- 1回の表明だけで結論にせず、日を変えて複数回確認する
- 過去の信条・生活歴と矛盾がないか照らし合わせる
- 本人の意思が変わったときはそれを受け入れ、再度確認する
STEP 3:意思実現支援(決めたことを実現する)
表明された意思を実際の暮らしに反映させる段階です。本人の力を最大限に活かしつつ、足りない部分を多職種で補います。
- 本人ができる部分は本人が行い、不足する部分のみ支援する
- 多職種でサービス担当者会議を開き、社会資源を組み合わせる
- 本人の決定が「合理的でない」と他者が感じても、他者を害さない限り尊重する
- 実現可能性を上げる工夫(住宅改修・福祉用具・ICT活用など)を検討する
- 実現後も「これでよかったか」を本人に確認し続ける
3段階のどこかで支援が不十分だと、結果として「本人が決められなかった」という外観になり、代行決定に流れます。「決められなかった」のではなく「決める支援が足りなかった」ととらえ直す視点がこのプロセスの本質です。
意思決定支援と類似制度の違い
意思決定支援は、ACP・成年後見・日常生活自立支援事業など隣接する制度や概念と混同されがちですが、それぞれ役割が異なります。違いを整理します。
| 制度・概念 | 主な目的 | 関わる時期 | 代行決定の有無 |
|---|---|---|---|
| 意思決定支援 | 本人が自分で意思を形成・表明・実現することを支える | 判断能力の段階に関係なく継続的に | 原則代行しない(最終手段のみ) |
| ACP(人生会議) | 人生の最終段階の医療・ケアについて本人・家族・医療介護チームで話し合う | 判断能力があるうちから繰り返し | 代行ではなく事前共有 |
| リビングウィル | 延命治療への希望を文書で残す | 判断能力があるうち | 代行ではなく事前指示 |
| 成年後見制度(法定後見) | 判断能力が低下した人の法律行為を代理・同意・取消 | 判断能力が低下してから家裁が選任 | あり(財産管理・身上監護) |
| 任意後見 | 判断能力があるうちに将来の後見人を契約で決めておく | 能力あるうちに契約/低下後に発効 | 発効後はあり |
| 日常生活自立支援事業 | 福祉サービス利用援助・日常的金銭管理 | 判断能力に不安がある段階 | 原則本人契約・代行は限定的 |
大事なのは意思決定支援はすべての制度の上位概念として位置づけられている点です。成年後見人が選任されている人であっても、後見人が一方的に決めるのではなく、まず本人の意思を引き出し尊重するよう求められます。2026年4月施行の改正民法では成年後見の運用がより意思決定支援型に改められ、後見人にもガイドライン準拠の関わりが期待されます。
同様にACPも、判断能力があるうちから本人を中心に話し合うという意味で「医療・ケア領域の意思決定支援」の具体的手法といえます。意思決定支援は概念で、ACPはその実践フレームの一つと整理するとわかりやすいです。
虐待防止・身体拘束ゼロとの接続
意思決定支援は、虐待防止・身体拘束適正化と地続きの実践です。本人の意思を確認しないままケアを進めることは、最悪の場合「本人の意思に反する行為」として虐待や不当な拘束に該当する恐れがあります。
2024年度の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業所に対し高齢者虐待防止措置の義務化(未実施減算)と身体拘束等適正化検討委員会の設置義務化が拡大されました。これらの委員会で議論される「拘束以外の選択肢」を検討するプロセスそのものが、意思決定支援の発想に基づいています。
- 身体拘束の3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たすか検討する際、本人がそのケアをどう感じるかを把握する必要があります。これが意思決定支援の入口です。
- 「スピーチロック」(言葉の拘束:「動かないで」「待って」など)の見直しも、本人の意思を尊重するという同じ価値観に立脚しています。
- 看取り介護加算・ターミナルケア加算の算定要件には「本人の意思決定を基本にした計画書の作成」が盛り込まれており、これは意思決定支援の制度的な担保にあたります。
つまり意思決定支援は、認知症ケア・虐待防止・身体拘束ゼロ・看取り対応のすべての土台に置かれている「ケアの倫理的なOS」のような存在で、現場のどの仕事にもつながっています。
現場で意思決定支援を実践するためのチェックポイント
ガイドラインの原則を日々の業務に落とし込むために、訪問・通所・施設のどの現場でも使えるチェックポイントをまとめました。サービス担当者会議や毎月のモニタリング、認定調査前の準備に活用できます。
- 本人の生活歴・価値観・大切にしてきたこと(仕事・家族・趣味・宗教観など)を記録に残しているか
- 選択肢を提示するとき、専門用語ではなく日常語で説明しているか
- 本人の体調・時間帯がよい時間を選んで話し合いをしているか
- 「説明したが理解されなかった」のではなく「説明の仕方を変えれば理解できるかも」と考えているか
- 本人が言葉で表現しにくい場合、絵カード・写真・指差し・表情観察など複数の手段を用意しているか
- 家族の意向と本人の意向が異なるとき、家族の意向で押し切っていないか
- 本人の意思が前回と変わったとき、それを受け入れて記録を更新しているか
- 代行決定が必要な場合、推定の根拠(過去の発言・生活歴・書面など)を記録しているか
- サービス担当者会議でACPや意思決定支援に関する話題を取り上げているか
- 身体拘束やスピーチロックに気づいたとき、代替案を多職種で検討しているか
これらは認定介護福祉士・主任ケアマネ・看護師・社会福祉士など、職種を問わず共有できる視点です。とくにケアマネジャーは多職種の橋渡し役として、本人の意思をチーム全体に伝え続ける責任があります。
意思決定支援についてよくある質問
Q. 認知症で会話が成り立たない人にも意思決定支援は必要ですか
はい、必要です。ガイドラインは「意思決定能力が低下しているから支援しない」のではなく「能力が低下している人ほど丁寧な支援が必要」という立場をとります。会話が成り立たなくても、表情・反応・過去の生活歴から本人の意思を読み取り、推定する関わりが求められます。
Q. 本人の意思と家族の意向が食い違うときはどうしますか
原則は本人の意思を優先します。ただし家族の意向を無視するのではなく、なぜ家族がそう望むのかを丁寧に聴き取り、本人と家族の橋渡しをするのがケアマネ・相談員の役割です。サービス担当者会議で多職種の視点を入れて話し合うのが一般的です。
Q. ACPと意思決定支援は何が違うのですか
意思決定支援はすべての領域の決定を扱う上位概念で、ACP(人生会議)はその中の医療・ケア領域、特に人生の最終段階の決定について繰り返し話し合うプロセスです。ACPは意思決定支援の実践手法の一つと整理できます。
Q. 成年後見人がついている人は意思決定支援が要らないのですか
いいえ、後見人がいてもまず本人の意思を確認します。後見人は本人の意思を尊重する義務があり、一方的に決めることは想定されていません。2026年4月の民法改正でこの方向はさらに強化されます。
Q. 意思決定支援を学べる研修はありますか
都道府県や認知症介護研究・研修センター(東京・大府・仙台)が「意思決定支援研修」を実施しています。市区町村の認知症地域支援推進員からも案内がもらえます。介護福祉士・ケアマネ・看護師が一緒に受講するチーム研修の形式も増えています。
Q. 加算算定との関係はありますか
看取り介護加算・ターミナルケア加算・認知症専門ケア加算などで「本人の意思に基づくケア計画」が要件となっており、意思決定支援の記録が監査時にも確認されます。記録の質が報酬請求に直結する場面が増えています。
参考文献
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(2018年6月)
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)
- 厚生労働省「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(2017年3月)
- 日本老年医学会「ACPの概念と推進」
- 共生社会の実現を推進するための認知症基本法(2024年1月1日施行)
まとめ
意思決定支援は「本人の意思を最大限に尊重する」介護・医療の根幹概念。認知症の人の意思決定支援ガイドライン6原則とACP(人生会議)の理念を、現場のアセスメント・ケアプラン・サービス担当者会議に組み込むことで、利用者主体のケアを実現できる。成年後見は意思決定の「代行」ではなく、意思決定の「支援」を選択肢として優先する姿勢が、認知症基本法時代の標準となる。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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