
訪問診療を家族が依頼する方法|在宅医療の始め方・主治医との連携・看取り対応まで
訪問診療と往診の違い、在宅療養支援診療所の選び方、24時間対応の体制、医療保険の費用、訪問看護との連携、看取り対応までを厚労省データに基づき家族向けに解説します。
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この記事のポイント
訪問診療は、通院困難な患者の自宅へ医師が計画的に定期訪問して診療する医療保険サービスです(最低でも月2回が標準)。急変時に患家の求めに応じて訪問する「往診」とは別物で、両方を組み合わせて在宅医療が成り立ちます。依頼の窓口は在宅療養支援診療所または現在の主治医で、ケアマネジャーや地域包括支援センターに紹介を依頼するのが最も近道です。費用は医療保険適用で月の自己負担は1割で約5,000〜15,000円が目安です。
目次
「親が通院できなくなった」「最期は自宅で過ごさせたい」――そう感じたとき検討するのが訪問診療です。厚生労働省の意識調査では、末期がんへの罹患を想定した場合に医療・療養を受けたい場所として47.4%の人が「自宅」と回答し、最期を迎えたい場所として69.2%の人が「自宅」を選んでいます(2017年調査)。しかし実際の在宅看取り率は近年15〜17%にとどまっており、希望と現実に大きなギャップがあります。
そのギャップを埋める中核の仕組みが、在宅療養支援診療所(在支診)と訪問看護を組み合わせた在宅医療体制です。本記事では、家族側の視点で訪問診療と往診の違い、依頼の流れ、費用、訪問看護・ケアマネとの連携、看取り対応までを公的資料に基づき整理します。
訪問診療・往診・在宅療養支援診療所とは
用語の整理から始めましょう。「在宅医療」と一言で言っても、行為の性質が異なる複数のサービスから成り立っています。
訪問診療と往診の違い
厚生労働省「医療施設調査」の定義によれば、両者は次のように区別されます。
- 訪問診療:在宅で療養を行っている患者で、疾病・傷病のために通院による療養が困難な者に対して定期的に訪問して行う診療。あらかじめ訪問日を計画して行う。
- 往診:患家の求めに応じて患家に赴き行う診療。突発的・緊急的に行うもの。
大きな違いは「計画的かどうか」です。在宅医療では訪問診療を基本に置きつつ、急変時には往診で対応する組み合わせが標準です。
在宅療養支援診療所(在支診)とは
2006年の診療報酬改定で創設された制度で、患家に対する24時間の窓口として、必要に応じて他の病院・診療所と連携しつつ、24時間往診・訪問看護を提供できる体制を構築している診療所のことです。厚生労働省の届出数は約14,000施設(2022年時点)まで拡大しています。
在支診の主な施設要件は以下のとおりです。
- 24時間連絡を受ける医師・看護職員の配置と連絡先の患家への文書提供
- 24時間往診可能な体制(自院または連携先による)
- 24時間訪問看護提供体制
- 緊急入院受入体制(自院または連携先病床)
- ケアマネジャー等との連携
- 在宅看取り数の報告義務
在宅療養支援病院(在支病)とは
2008年に創設された制度で、診療所が少ない地域で在宅医療の担い手となる病院を指します。許可病床200床未満または半径4km以内に診療所がない病院が対象で、24時間体制で訪問診療・往診・緊急入院対応を提供します。
機能強化型在宅療養支援診療所
2012年診療報酬改定で導入された区分で、より厳しい要件(過去1年の往診件数、在宅看取り数、緊急入院体制など)を満たす在支診を「機能強化型」として高い診療報酬で評価する制度です。連携型(複数施設の合算)と単独型があります。
訪問診療を依頼する流れと相談先
訪問診療の導入は、現在の状況(通院中/入院中/在宅介護中)によって流れが変わります。代表的な4パターンを紹介します。
パターン1:現在通院中の方が通えなくなった場合
- かかりつけ医(通院先)に「もう通院が難しい」旨を相談
- かかりつけ医が訪問診療に対応していれば、そのまま訪問診療に切り替え
- 非対応であれば、近隣の在宅療養支援診療所への紹介状を書いてもらう
- 紹介された在支診と面談・契約
- 初回訪問日を決定(通常1〜2週間以内)
パターン2:入院中で退院後に在宅医療を始める場合
- 入院先の病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)または退院支援看護師に相談
- 退院前カンファレンスで、訪問診療医・訪問看護ステーション・ケアマネジャーを決定
- 退院日に訪問診療医が自宅または入院先で初回訪問・診察
- 翌日以降から訪問看護も並行開始
パターン3:すでに在宅介護中で医師が必要になった場合
- 担当ケアマネジャーに「訪問診療を依頼したい」と相談
- ケアマネジャーが地域の在支診を複数提示し、家族が選択
- 選んだ在支診と契約・初回訪問
- ケアプランに訪問診療を組み入れ、訪問看護等と連携体制を構築
パターン4:かかりつけ医がいない・地域に詳しくない場合
- 地域包括支援センターに相談(無料・予約不要)
- センターから近隣の在宅療養支援診療所リスト・特徴を提示
- 家族が2〜3か所に面談予約
- 院長または医師との面談で方針を確認し、契約
在支診を選ぶときのチェックポイント
- 24時間体制の実態:夜間・休日に医師本人が対応するか、連携医師が対応するか
- 訪問看護ステーションとの連携:強い連携体制があれば情報共有がスムーズ
- 緊急時の入院受入先:併設病院または連携病院があるか
- 看取り実績:在宅看取り件数(年間数件以下〜100件超まで施設差が大きい)
- 機能強化型かどうか:機能強化型は経験豊富で体制が整っている傾向
- 家からの距離:原則として在宅医療の保険適用範囲は半径16km以内
主治医・かかりつけ医との関係調整
訪問診療を導入しても、これまでのかかりつけ医(特に専門医)との関係を切る必要はありません。在宅医療の主治医(訪問診療医)と並行して、定期的な専門外来通院や情報提供をしてもらえる場合もあります。診療情報提供書のやり取りで連携を保ちます。
訪問診療・往診・外来通院の比較
在宅医療を始めるにあたり、3つの診療形態の違いを整理しておきましょう。
| 項目 | 訪問診療 | 往診 | 外来通院 |
|---|---|---|---|
| 場所 | 自宅 | 自宅 | 診療所・病院 |
| 頻度 | 原則月2回以上(計画的) | 必要時のみ | 必要時に来院 |
| 対象 | 通院困難な患者 | 急変時の患者 | 通院可能な患者 |
| 計画性 | 事前計画 | その都度依頼 | 事前予約または飛び込み |
| 診療報酬 | 在宅患者訪問診療料 | 往診料+加算 | 初・再診料 |
| 24時間対応 | 在支診なら可能 | 在支診なら可能 | 診療時間のみ |
| 家族の付き添い必要 | 不要(同席は可) | 不要(同席は可) | 多くの場合必要 |
訪問看護との関係
訪問診療と訪問看護は異なる職種・サービスで、両方を組み合わせるのが在宅医療の基本形です。訪問診療医が指示書を書き、訪問看護ステーションの看護師が訪問看護を提供します。役割は次のように分担されます。
| 項目 | 訪問診療医 | 訪問看護師 |
|---|---|---|
| 診察・診断 | ○ | ×(観察と報告のみ) |
| 処方箋発行 | ○ | × |
| 医療処置(点滴・カテーテル管理・吸引) | ○ | ○(指示の下で実施) |
| 療養指導 | ○ | ○ |
| 看取り対応 | ○(死亡診断書作成) | ○(看取り直前のケア) |
| 訪問頻度 | 月2〜4回 | 週1〜7回(必要に応じて) |
訪問看護の依頼方法・医療保険と介護保険の使い分けは、訪問看護を家族が依頼する流れで詳しく解説しています。
訪問診療の費用と医療保険の適用
訪問診療は医療保険が適用されます(介護保険ではありません)。診療報酬は2024年6月改定後の点数で、1点=10円換算、自己負担1割の場合の目安を示します。
主な診療報酬の項目(月の自己負担・1割)
| 項目 | 点数の例 | 1割負担の目安 |
|---|---|---|
| 在宅患者訪問診療料Ⅰ(同一建物以外) | 888点/回 | 約890円/回 |
| 在宅時医学総合管理料(在支診・処方箋なし・月2回以上) | 3,700〜5,400点/月 | 約3,700〜5,400円/月 |
| 機能強化型在支診(病床あり)の在総管 | 5,000〜5,400点/月 | 約5,000〜5,400円/月 |
| 往診料(在支診) | 720点 | 約720円 |
| 緊急往診加算(在支診) | 650〜850点 | 約650〜850円 |
| 夜間・休日往診加算(在支診) | 1,300〜1,700点 | 約1,300〜1,700円 |
| 深夜往診加算(在支診) | 2,300〜2,700点 | 約2,300〜2,700円 |
| 看取り加算 | 3,000点 | 約3,000円 |
| 在宅ターミナルケア加算 | 3,500〜6,500点 | 約3,500〜6,500円 |
月額の自己負担イメージ(要介護者の典型例)
| パターン | 月額の1割負担 |
|---|---|
| 月2回訪問診療+管理料 | 約5,400〜7,400円 |
| 月4回訪問診療+管理料+臨時往診1回 | 約8,000〜11,000円 |
| 看取り月:訪問診療+緊急往診+看取り加算 | 約12,000〜18,000円 |
自己負担割合に注意
後期高齢者医療制度では、所得により1割・2割・3割と段階的に変わります。70〜74歳は2割、現役並み所得者は3割です。費用負担が増える可能性があるため、事前に「高額療養費制度」の限度額を確認しておきます。
高額療養費制度の活用
1か月の医療費自己負担が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。70歳以上・住民税非課税世帯では月8,000円〜15,000円が上限となります。訪問診療・往診費用はこの制度の対象です。事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いを限度額までに抑えられます。
介護保険サービスとの併用
訪問診療は医療保険、訪問介護・通所介護・福祉用具レンタル等は介護保険と、別の保険から給付されるため、両方を組み合わせても支給限度額は別管理です。ただし、訪問看護は介護保険認定者の場合は原則として介護保険が優先(一部の医療依存度の高い病態では医療保険)となります。
看取りまでの体制と家族の備え
訪問診療を選ぶ家族の多くが「最期は自宅で」という希望を持っています。看取りまで在宅で過ごすためには、医療・介護・家族の準備が必要です。
看取り期に向けた準備のポイント
- 本人の意思確認(ACP:人生会議):延命治療の希望、最期を過ごす場所、宗教的配慮、葬儀の希望などを早めに本人と話し合います。判断能力が保たれているうちに行うのが原則。
- 緊急時の連絡先リストの作成:訪問診療医(24時間連絡先)、訪問看護師、ケアマネジャー、家族の緊急連絡先を1枚にまとめ、目立つ場所に貼っておく。
- 救急車を呼ばない判断の共有:自宅看取りを選択した場合、家族が動揺して救急車を呼ぶと、救命処置や病院搬送が始まり、本人の意思に反する結果になることがあります。訪問診療医に最初に連絡する流れを家族で共有します。
- 身体の変化に対する知識:終末期には食事量が減る、傾眠が増える、尿量が減る、呼吸が変化するなど、自然な経過があります。事前に知っておくと家族の動揺を防げます。
- レスパイトケアの活用:看取り期は家族の負担が大きく、ショートステイや訪問入浴を併用して家族の休息を確保します。介護疲れ・共倒れを防ぐも参照。
- 訪問看護の頻度を増やす:症状が変化してきたら、訪問看護を週1回から週3〜7回に増やすことで医療面の安心感が高まります。
- 看取りパスの確認:在宅看取りに慣れた在支診では「看取りまでの数日に起こる変化と対応」をまとめた看取りパスを用意しています。事前に説明を受けておきます。
- 死亡確認と死亡診断書:自宅で看取った場合、訪問診療医が死亡確認に来訪して死亡診断書を発行します(警察への通報は不要)。これにより自宅看取りが正式に完結します。
看取り期の家族の心構えや具体的な準備項目は、看取り期に家族がすべき準備に詳しくまとめています。
訪問診療を始める前に確認したい7項目
1. 訪問可能エリアの確認
原則として在宅医療の保険適用範囲は診療所から半径16km以内です。地方ではこの範囲を超える場合「特殊な事情」として認められる場合もありますが、まずは近隣の在支診を探すのが現実的です。
2. 24時間対応の体制
夜間・休日に電話したとき、誰が対応するかを確認します。施設によっては医師個人のスマートフォンが直接つながる場合と、医療コールセンター経由で対応する場合があります。
3. 医療処置への対応範囲
在宅酸素療法、中心静脈栄養、人工呼吸器、胃ろう、膀胱留置カテーテル、褥瘡処置など、必要な医療処置に対応できるかを確認します。施設により得意分野が異なります。
4. 認知症の患者への対応
認知症のBPSDが強い場合、訪問診療医による薬物調整・行動コントロール支援が必要です。認知症専門の経験がある医師かどうかも確認ポイントです。
5. ターミナルケア・看取り経験
自宅看取りを希望する場合は、年間看取り件数・経験を確認します。機能強化型在支診はターミナルケアの経験が豊富で、家族の心理的サポートも手厚い傾向があります。
6. 訪問看護ステーションとの連携
普段から連携している訪問看護ステーションがあるかを確認します。同じ法人運営または密接な連携先があれば、情報共有・指示書のやり取りがスムーズです。
7. ケアマネジャー・MSWとの情報共有
ケアマネジャーや退院支援担当の医療ソーシャルワーカーと、訪問診療医がどう情報共有するかを事前に確認します。電子的な情報共有ツール(メディカルケアステーション等)を使う施設もあります。
ケアマネジャーとの密な連携が成功の鍵
訪問診療は単独サービスではなく、訪問看護・訪問介護・福祉用具レンタル・短期入所などと組み合わせて運用されます。在宅医療を支える「司令塔」はケアマネジャーで、医師との連絡、家族の意向確認、急変時の調整、看取り期のサービス調整など、すべてに関わります。ケアマネジャーの選び方もあわせて参照してください。
よくある質問
Q. 訪問診療と往診はどちらを依頼すればいいですか?
A. 通院困難な状態が続く場合は訪問診療を契約し、急変時には同じ在支診から往診として対応してもらう、というのが標準的な使い方です。単発の「一度だけ来てほしい」場合は往診で対応できますが、継続的な医学管理が必要な状態であれば訪問診療が現実的です。
Q. 訪問診療を依頼すると、これまでのかかりつけ医とは縁が切れますか?
A. いいえ、必ずしも切れません。専門医(循環器・呼吸器・整形外科等)への定期通院を継続しながら、総合的な日常診療を訪問診療医が担当する形が一般的です。情報のやり取りは診療情報提供書を介して行われます。
Q. 訪問診療で薬は出してもらえますか?
A. はい、訪問診療医が処方箋を発行し、家族が処方箋を薬局に持参するか、薬局の薬剤師による在宅訪問薬剤管理指導で配達してもらえます。寝たきりの患者でも、訪問薬剤師制度により薬を自宅まで届けてもらえる仕組みがあります。
Q. 訪問診療と訪問看護の両方が必要ですか?
A. 病状による異なります。月1〜2回の医学管理だけで安定している場合は訪問診療のみで足り、状態変化が頻繁な方やがん末期、神経難病、医療処置が必要な方は訪問看護も併用するのが標準です。
Q. 在宅医療の費用が払えるか不安です
A. 訪問診療は医療保険適用なので、1〜3割負担の上限は高額療養費制度で月15,000円〜57,600円程度(70歳以上・所得により異なる)に抑えられます。限度額適用認定証を事前に取得しておくと窓口での支払いが抑制されます。介護保険サービス(訪問介護・福祉用具等)の費用は別枠なので、両方の費用を計算した家計試算を行いましょう。在宅介護にかかる費用も参考にしてください。
Q. 急変したら救急車を呼ぶべきですか?
A. 訪問診療を受けている場合、まずは在支診の24時間対応窓口に連絡します。状況により医師の指示で救急搬送を判断します。自宅看取りを選択している場合は、家族が動揺して救急車を呼ぶと意図しない蘇生処置・搬送につながるため、まず訪問診療医に連絡する流れを家族全員で共有しておくことが重要です。
Q. 自宅で亡くなった場合、警察が来ますか?
A. 訪問診療を継続的に受けて状態経過を医師が把握していれば、訪問診療医が死亡診断書を発行し、警察の検視は不要です。医師が死亡を予期できる病態経過であれば、自然死として扱われます。長期間医師が関わっていない場合は警察への通報が必要になることがあるため、看取り期は特に訪問頻度を密にすることが重要です。
参考文献・出典
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まとめ
訪問診療は、通院困難になった方が住み慣れた自宅で医療を受け続けるための制度です。在宅療養支援診療所と訪問看護を組み合わせ、ケアマネジャーが司令塔となって介護サービスと連動させることで、看取りまでの一貫した在宅生活が実現できます。
家族として大切なのは、「いつ訪問診療を始めるか」を主治医・ケアマネジャー・本人と一緒に判断すること、24時間体制で動いてくれる在支診を選ぶこと、急変時の連絡フローを家族全員で共有しておくことです。費用は医療保険適用で高額療養費制度も使えるため、想像よりは抑えられます。
関連記事として、訪問看護を家族が依頼する流れ、看取り期に家族がすべき準備、認知症の親を在宅介護、在宅介護のはじめ方もあわせて読むと、在宅医療・介護の全体像が把握できます。
監修者
介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム
医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)
訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。
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