NPIとは

NPIとは

NPI(Neuropsychiatric Inventory/神経精神症状質問票)は、Cummingsらが1994年に開発したBPSDの代表的評価尺度。妄想・幻覚など10項目を頻度×重症度でスコア化し、介護負担も同時に評価する。

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この記事のポイント

NPI(Neuropsychiatric Inventory/神経精神症状質問票)とは、1994年にCummingsらが開発したBPSD(認知症の行動・心理症状)の代表的な評価尺度です。妄想・幻覚・興奮など10項目(追加2項目含めて12項目版もあり)について、頻度(0〜4)×重症度(0〜3)でスコアを算出し、介護者の負担度も同時に評価できる点が特徴です。BPSD評価のグローバル標準として臨床試験・施設ケアの両方で広く使われています。

目次

NPIの位置づけと開発の背景

NPI(Neuropsychiatric Inventory、日本語では「神経精神症状質問票」)は、米国UCLAのJeffrey L. Cummingsらが1994年に開発したBPSD評価ツールです。発表当初の論文(Neurology, 1994)は5,000回以上引用され、抗認知症薬の臨床試験や認知症ケア研究においてBPSD評価のde facto standard(事実上の標準)として確立しました。日本でも博野信次氏らによって日本語版が作成され、認知症疾患医療センター・もの忘れ外来・特養・グループホームなど幅広い現場で活用されています。

BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、認知症の中核症状(記憶障害・見当識障害など)に対する周辺症状を指し、介護負担と直結する症状群です。家族の主観的訴えだけでは「興奮が増えた」「不安そう」といった表現にとどまり、ケア介入の効果検証が難しい——その課題を解決するために、症状の頻度・重症度・介護者負担を数値化する仕組みとして設計されたのがNPIです。

NPIには対象や情報源に応じて複数のバージョンがあります。原版のNPIは家族・介護者への半構造化面接、施設入所者向けのNPI-NH(Nursing Home版)は施設職員からの聞き取り、簡略版のNPI-Q(Questionnaire版)は介護者が直接回答するアンケート形式で、それぞれ運用負荷と精度のバランスを変えています。

NPIで評価する10項目(+追加2項目)

NPIの原版は次の10項目で構成されます。後年、施設運用ニーズに合わせて「夜間行動」「食行動」を追加した12項目版が一般化しました。

  1. 妄想(Delusions):「物を盗られた」「家族が偽者」など、根拠のない確信
  2. 幻覚(Hallucinations):実在しない人が見える、声が聞こえるなど
  3. 興奮・攻撃性(Agitation/Aggression):抵抗・叫び・暴言・暴力
  4. 抑うつ・不快気分(Depression/Dysphoria):悲しみ・涙・自己否定
  5. 不安(Anxiety):そわそわ・付きまとい・離れることへの恐怖
  6. 多幸(Euphoria/Elation):場にそぐわない高揚・笑い
  7. 無関心・無気力(Apathy/Indifference):意欲低下・興味喪失
  8. 脱抑制(Disinhibition):場をわきまえない発言・性的行動・浪費
  9. 易刺激性(Irritability/Lability):怒りっぽさ・気分の急変
  10. 異常行動(Aberrant Motor Behavior):徘徊・常同行動・物いじり

追加2項目は (11) 夜間行動の障害(夜間覚醒・他者を起こす)、(12) 食行動の変化(過食・偏食・嗜好変化)です。BPSD全般を網羅できる構成になっており、認知症の鑑別診断のヒント(例:レビー小体型は幻覚、前頭側頭型は脱抑制が突出)にもなります。

スコア計算:頻度×重症度+介護負担

NPIのスコアは「症状の量」と「介護者の主観負担」を別軸で評価する2階層構造になっています。

1. ドメインスコア=頻度 × 重症度

各項目について、まず症状の有無を確認し、ある場合のみ次の2軸を聞き取ります。

  • 頻度(Frequency, 0〜4):0=なし/1=ときどき(週1未満)/2=しばしば(週1回程度)/3=頻繁(週数回〜毎日)/4=非常に頻繁(1日複数回・ほぼ常時)
  • 重症度(Severity, 1〜3):1=軽度(介入なしで対処可)/2=中等度(介入が必要)/3=重度(介入困難・本人または周囲に強い影響)

ドメインスコア=頻度×重症度で、1項目あたり最大12点です。10項目版の合計は最大120点、12項目版で最大144点になります。

2. 介護者の負担度(Caregiver Distress, 0〜5)

各項目で症状が確認された場合、別軸で介護者・家族の主観的負担を 0〜5(0=なし/5=極めて強い)で評価します。本人のスコアは軽くても介護者の負担が重い、という乖離をとらえられるのがNPIの大きな特徴で、ケア計画の優先順位づけに直結します。

3. 評価期間と所要時間

原則として過去4週間(1か月)の状況を対象に評価します。半構造化面接で15〜30分程度、慣れれば10分前後で完了します。簡略版のNPI-Qは介護者が自記式で記入するため5〜10分です。

NPI/NPI-NH/NPI-Qの使い分け

NPIは情報源と運用環境に応じて3バリエーションがあります。誰から情報を取るかが選択のポイントです。

バージョン 情報源 主な利用シーン 所要時間
NPI(原版) 家族・介護者への半構造化面接 外来・在宅で家族が主介護者の場合。臨床試験で多用。 15〜30分
NPI-NH(Nursing Home版) 施設の看護・介護スタッフ 特養・老健・グループホーム等の入所者評価。職員観察を統合する設計。 20〜30分
NPI-Q(Questionnaire) 介護者の自記式質問紙 外来の待ち時間・自宅事前記入。スクリーニングや経時フォロー。 5〜10分

NPI-Qは頻度を省き「重症度1〜3」+「介護者負担0〜5」だけで簡略化されており、合計スコアは項目数×3=最大36点(12項目版)です。網羅性のNPI/NPI-NH、機動力のNPI-Qと覚えると整理しやすいでしょう。

関連する評価尺度との位置づけでは、認知機能のスクリーニングはMMSE改訂長谷川式(HDS-R)、BPSDの中核症状であるBPSDの定義そのもの、ケアの理念であるパーソン・センタード・ケアなどと組み合わせて使われます。

介護現場でのNPI活用ポイント

NPIは「点数を取る」ことが目的ではなく、ケア介入の効果を見える化し、チームで共通言語を持つためのツールです。実務で活かす際の5つのコツを整理します。

  • 情報源と観察期間を固定する:誰から(家族/日勤職員/夜勤職員)、いつの4週間を評価するかを毎回そろえないとスコアがぶれる
  • 頻度より具体例を先に書き出す:「夕方そわそわして帰宅願望を訴える、週3回、声かけで沈静」のように時間帯・場面・誘因をメモしてから頻度・重症度を決定する
  • 本人スコアと介護者負担を別々に追う:本人軽度でも介護者負担が高い項目はケアの優先順位を上げる根拠になる
  • 非薬物療法の効果検証に使うユマニチュードや音楽療法・回想法など介入前後で2〜4週間あけて再評価すれば、加算算定の根拠資料にもなる
  • カンファレンス資料に組み込む:レーダーチャート化して「興奮が下がり無関心が上がった」など変化を可視化、家族説明やサービス担当者会議でも有効

特養や認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では、認知症専門ケア加算のケアプロセス記録や、BPSD対応の質改善PDCAにNPI-NHを組み込む施設が増えています。

NPIに関するよくある質問

Q. NPIは誰でも実施できますか?

原則として医師・看護師・公認心理師など、認知症評価の訓練を受けた医療職が面接者となるのが基本です。NPI-NHは施設の介護スタッフへの聞き取り、NPI-Qは家族自記式なので、より広い職種で運用可能です。実施前には日本語版のマニュアル(博野信次氏らの版、認知症介護情報ネットワーク等で公開)に目を通すことが推奨されます。

Q. NPIに「カットオフ値」はありますか?

NPIには絶対的なカットオフ値は設定されていません。臨床的に意義のある変化(MCID)は概ね合計スコアで4〜8点の減少とされ、非薬物・薬物療法の効果指標として使われます。経時比較が本質なので、同じ評価者が同じ情報源で繰り返し測ることが重要です。

Q. MMSEや改訂長谷川式(HDS-R)との違いは?

MMSEHDS-R認知機能(記憶・見当識・計算など)の評価尺度であるのに対し、NPIはBPSD(行動・心理症状)の評価尺度です。診断・経過観察では両者をセットで使い、認知機能とBPSDの両面から状態像を把握するのが標準です。

Q. 介護報酬の算定要件に組み込まれていますか?

NPI自体が要件文に明記されているわけではありませんが、認知症ケア専門士の研修・認知症対応型サービスの質評価・科学的介護情報システム(LIFE)の参考指標として活用が進んでいます。介入効果の定量的根拠を残せるため、加算算定の説明資料として有用です。

Q. 家族の主観バイアスは大きくないですか?

家族評価には主観バイアスが入る前提で設計されています。だからこそ介護者負担(Caregiver Distress)を別軸で測り、「家族にとって何が一番つらいか」を可視化する役割も担います。NPI-NHでは複数職員の観察を集約することで個人バイアスを薄める運用が推奨されます。

まとめ:NPIは「測ること」がゴールではない

NPIは1994年にCummingsらが開発したBPSDの代表的評価尺度で、10〜12項目を頻度×重症度でスコア化しつつ、介護者の負担も別軸で可視化する2階層設計が最大の特徴です。情報源によってNPI(家族面接)/NPI-NH(施設職員)/NPI-Q(自記式)を使い分ければ、外来から特養まで一貫した指標で経過を追えます。

大切なのは、点数の獲得ではなくケア介入の効果検証とチームの共通言語化。具体例(時間帯・場面・誘因)を先に記録してからスコア化し、本人スコアと介護者負担を別々に追い、レーダーチャートでカンファレンスに持ち込むと、認知症ケアの質改善PDCAが回り始めます。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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