音楽療法は認知症のBPSD・QOLに効くか|Cochraneレビューが示す研究エビデンスを介護現場目線で読み解く
介護職向け

音楽療法は認知症のBPSD・QOLに効くか|Cochraneレビューが示す研究エビデンスを介護現場目線で読み解く

音楽を用いたケアは認知症の抑うつ・不安・行動症状に効くのか。Cochraneレビュー(2018/2025)やメタ解析のRCTエビデンスを、効果の確実性と限界まで含めて介護職目線で読み解きます。

Quick Diagnosis

45

全6問・動画ガイド付き

性格から、合う働き方をみつける。

介護の仕事を嫌いになる前に。施設タイプや転職サービスの選び方を、6つの質問と45秒の動画で整理できます。

無料で診断を始める
ポイント

この記事のポイント

「音楽療法は認知症に効く」とよく言われますが、研究で確かめられた結論はもっと慎重です。世界で最も信頼されている研究のまとめの一つ、Cochraneレビュー(van der Steen ら)は、施設で暮らす認知症の高齢者に5回以上音楽を使った関わりを行うと、気分の落ち込み(抑うつ)をおそらくやわらげ、行動面の困りごと(BPSD全体)も少し軽くする可能性がある一方、興奮・攻撃性や、記憶などの頭の働き(認知機能)にはほとんど変化が見られないと報告しています。22の研究(約1,097名)を統合した2018年版では、抑うつがやわらぐ可能性は「まずまず確からしい」とされていました。ところが30の研究(約1,720名)に増えた2025年の最新版では、抑うつへの効き目はより小さく見積もられ、確からしさも下がりました。つまり「治療として確実に効く」とは言えず、「気分や情緒の面にプラスになる可能性があり、体への負担が少ない、薬に頼らないケアの選択肢」と読むのが正確です。介護職にとっての価値は、効果を言い切ることではなく、研究が示す強さと限界を理解したうえで、日々のケアに無理なく取り入れる点にあります。

目次

音楽を流すと、ふだん表情の乏しい入居者が口ずさみ始める。なじみの曲で表情がやわらぎ、ケアを受け入れてくれる——介護現場で音楽の力を実感したことのある人は多いはずです。一方で、「音楽療法で認知症が良くなる」「BPSDが消える」といった強い言い回しを見かけると、本当にそこまで言えるのか、と立ち止まる場面もあります。

この記事では、音楽を使ったケア(音楽療法・音楽を用いた関わり)が認知症の人の気分の落ち込み(抑うつ)・不安・興奮や攻撃性などのBPSD(行動・心理症状)、情緒的な幸福感や生活の質(QOL)、記憶などの頭の働き(認知機能)にどこまで効くのかを、たくさんの試験の結果をまとめて検証したCochraneレビューという信頼性の高い研究のまとめに沿って読み解きます。期待を煽るのでも、効果を否定するのでもなく、「研究は何をどこまで示したか/何はまだ分かっていないか」を、効き目の大きさと、その結果をどこまで信用してよいかまで含めて、誠実に整理するのが狙いです。

そのうえで、研究が示す強さと限界をふまえて、介護職が現場で音楽を使ったケアをどう位置づければよいか——科学的介護(LIFE)やアセスメント、多職種連携の文脈での活かし方まで掘り下げます。なお本記事は医療行為や治療の助言ではなく、研究知見の解説です。

音楽を用いたケアの研究は、何を調べてきたのか

まず用語の整理です。研究の世界で「音楽を用いた治療的介入(music-based therapeutic intervention)」と呼ばれるものには、大きく分けて2つの形があります。一つは、訓練を受けた音楽療法士が目的をもって行う能動的な音楽療法(一緒に歌う、楽器を鳴らす、即興演奏でやりとりする)。もう一つは、なじみの曲や好みの音楽を聴いてもらう受動的な音楽聴取です。Cochraneレビューはこの両方を含めて評価しています。

なぜ「効くかどうか」を厳密に調べる必要があるのか

音楽がその場の気分を和らげること自体は、多くの人が経験的に知っています。問題は、それが「介入による効果」なのか「たまたま」なのかを区別することです。認知症の人は日によって状態が大きく変動し、観察する側の期待(「効いてほしい」という思い)も評価をゆがめます。そこで、対象者を音楽群と対照群(通常ケアや別の活動)にランダムに割り付けて比較するランダム化比較試験(RCT)が必要になります。なお、ここで比較対象が「何もしない通常ケア」なのか「別のレクリエーション活動」なのかによって結論は変わります。音楽でなくとも、人と関わる活動そのものに効果がある可能性を切り分けるためで、2025年版のCochraneレビューはこの2つの比較を分けて評価しています。

個々のRCTを束ねる「メタ解析」と「Cochraneレビュー」

個々のRCTは対象者数が数十人と小規模なものが多く、結果がばらつきます。そこで、複数のRCTを系統的に集めて統合し、全体としての効果の大きさ(効果量)と、その推定の確からしさ(確実性)を評価するのがシステマティックレビュー・メタ解析です。なかでもCochrane共同計画によるレビューは、研究の選び方やバイアス評価の手続きが標準化されており、医療・ケアのエビデンス評価で世界的に参照されています。本記事が軸にするのは、このCochraneによる「認知症の人に対する音楽を用いた治療的介入」レビューです。2018年版と2025年の最新版があり、結論が少しずつ更新されてきた経緯も含めて読み解きます。

結論は「更新される」ことを前提に読む

エビデンスは一度出たら確定するものではありません。新しいRCTが加わるたびに統合結果は計算し直され、結論も微調整されます。音楽を用いたケアでも、2018年版で「中程度の確実性」とされた抑うつへの効果が、2025年版では推定値が小さくなり確実性も見直されました。これは研究が「失敗した」のではなく、研究が増えて推定がより正確になった結果です。介護職が研究を読むときも、「最新版はどう言っているか」「結論は変わっていないか」を確認する習慣が、根拠に基づくケアの土台になります。

主要な研究と報告された数値|Cochraneレビューとメタ解析

音楽を用いたケアが認知症の人の症状に「効くか」を検証した代表的な研究の数値を、一次ソースから整理します。軸になるのは、複数の試験を束ねて統合したCochraneレビュー(van der Steen ら)です。

研究ごとの主要結果

研究デザイン・対象主なアウトカムと効き目(SMD・95%CI・確実性)
Cochraneレビュー
2018年版
(van der Steen)
施設入所中の認知症高齢者を対象としたRCTを統合したメタ解析/22研究・約1,097名、介入は5回以上抑うつ(気分の落ち込み)SMD -0.27(95%CI -0.45〜-0.09、確実性)/行動上の問題(BPSD全体)-0.23(-0.46〜-0.01、中)/興奮・攻撃性 -0.07(-0.24〜0.10、中)/認知機能 0.15(-0.06〜0.36、低)/情緒的幸福感・QOL 0.32(0.02〜0.62、低)
Cochraneレビュー
2025年最新版
(van der Steen)
2018年版に試験を追加した更新版/15か国・30研究・約1,720名。通常ケアとの比較と、別の活動との比較を分けて評価通常ケアとの比較で抑うつをおそらく改善(中)・行動上の問題を改善する可能性(低)。ただし抑うつへの効き目は2018年版より小さく見積もられ、確からしさも低下。情緒/QOL・興奮・認知機能は明確な差の証拠なし。効果は治療終了後まで持続しない可能性

SMD(効き目の大きさ)の読み方

表のSMD(標準化平均差)は、ものさしの違う複数の研究の効き目を同じ尺度で比べられるようにした数字です。一般的な目安では 0.2前後で小さい・0.5前後で中くらい・0.8以上で大きいとされます(これは効き目を読むための共通のものさしで、研究そのものが出した値ではありません)。抑うつのSMD -0.27 は「小さめの効き目」にあたります。マイナスがついているのは、点が下がるほど症状が軽いという尺度のため、マイナス=抑うつが改善する方向を意味します。向きを取り違えると正反対の解釈になるので注意が必要です。

「効くとは言えない」アウトカムの見分け方

効き目の数字には幅(本当の値はこのあたりに収まるという範囲=95%信頼区間)がつきます。この幅が「0」をまたぐと、「実は効き目がない」という可能性を統計的に消しきれません。興奮・攻撃性(-0.07、幅 -0.24〜0.10)と認知機能(0.15、幅 -0.06〜0.36)は幅が0をまたいでおり、「効くとは言えない」のが正確な読みです。一方、抑うつ(-0.27、幅 -0.45〜-0.09)は幅が0をまたいでおらず、改善方向に一定の確からしさがあります。

確からしさ(GRADE)と「結論は更新される」前提

効き目の数字をどこまで信用してよいかはGRADE(結果の確からしさを中・低・非常に低の段階で示す仕組み)で表します。音楽を用いたケアでは抑うつ・興奮・行動上の問題が「中」、QOL・認知機能などが「低」と評価され、全体に強い断定はできません。実際、2018年版で「中程度の確からしさ」とされた抑うつへの効果は、研究数が22から30へ増えた2025年版で推定値が小さくなり、確からしさも見直されました。これは研究が失敗したのではなく、データが増えて推定がより正確になった結果です。なお、興奮への効果を中程度(Cohen d=0.61、95%CI 0.38〜0.84)と報告した別のメタ解析(Frontiers 2017、12研究・658名)もありますが、これは研究の選び方やバイアス評価の厳しさの違いによるもので、Cochraneのより保守的な結論と幅があることを押さえておく必要があります。

数値の正しい読み方|効果量・確実性・研究段階の落とし穴

表の数字を現場で誤読しないために、押さえておきたい3つの読み方を整理します。

1. 「効き目の大きさ」と「結果の確からしさ」は別物として読む

研究では、効き目の大きさをSMD(標準化平均差。複数の研究の結果を同じものさしで比べられるようにした数字)という値で表します。一般的な目安では、0.2前後で小さい、0.5前後で中くらい、0.8以上で大きい効き目とされます(これは効き目を読むための共通のものさしで、研究そのものの数字ではありません)。抑うつ(気分の落ち込み)のSMDは -0.27 で「小さめの効き目」にあたります。ここでマイナスがついているのは、点が下がるほど症状が軽いという尺度のため、マイナス=抑うつが改善する方向を意味します。一方、GRADE(結果をどこまで信用してよいかを評価する仕組み)による確からしさ(中・低・非常に低の段階で示す)は、その効き目の数字をどれだけ信じてよいかを表します。効き目が小さくても確からしさが中くらいなら「おそらく本当」、逆に効き目が大きく見えても確からしさが低ければ「今後ひっくり返るかもしれない」と読みます。音楽を使ったケアの多くは確からしさが低〜中で、強い断定はできません。

2. 「効果なし」の可能性が残っていないかを見る

研究では効き目の数字に幅(本当の値はこのあたりに収まるという範囲。信頼区間)がつきます。この幅が「0」をまたぐと、「実は効き目がない」という可能性を統計的に消しきれません。興奮・攻撃性(-0.07、幅は -0.24〜0.10)や認知機能(0.15、幅は -0.06〜0.36)はまさにこの状態で、「効くとは言えない」のが正確な読みです。逆に抑うつ(-0.27、幅は -0.45〜-0.09)は幅が0をまたいでおらず、改善の方向に一定の確からしさがあります。

3. 「効き目がある」と「症状を治す」は違う=研究の段階を取り違えない

これらはあくまで大勢を平均したときの傾向であり、目の前の一人に同じ効果が出る保証ではありません。また音楽を使ったケアは認知症そのものを治すものではなく、抑うつや行動面の困りごとを和らげる「薬に頼らないケアの選択肢」です。効果が長続きする証拠も乏しいため、「一度効いたから続ければ治る」といった発想にはつながりません。研究は「治療法の確立」ではなく「ケアの役立ち方を確かめる」段階にある、と理解しておくことが大切です。

研究知見を介護現場でどう活かすか|科学的介護・アセスメント・多職種連携

エビデンスは「音楽を用いたケアは万能ではないが、抑うつや情緒面・行動面にプラスの可能性があり、副作用が少ない」と教えてくれます。これを現場の実践にどう翻訳するか、介護職の視点で整理します。

1. 「治す手段」ではなく「整える環境」として位置づける

効果量が小さく長期効果も不確かである以上、音楽を「BPSDを消すための介入」と過大に期待すると、効かなかったときに継続が途切れます。むしろ抑うつ傾向のある方の気分を支え、ケアを受け入れやすい雰囲気をつくる「環境づくり」として日常に織り込むのが、エビデンスと整合した使い方です。NICE(英国国立医療技術評価機構)の認知症ガイドライン(NG97)も、苦痛や興奮に対してまず心理社会的・環境的介入を行うよう推奨し、音楽を感覚刺激の選択肢の一つに挙げています。

2. アセスメントと記録に結びつける(個別性を重視する)

エビデンスは「なじみの・好みの音楽」を前提とした研究が多く含まれます。一律のBGMではなく、その人の生活歴・嗜好を聞き取り、いつ・どの曲で表情や言動がどう変わったかを記録することが、効果を引き出す鍵です。これはセンター方式やライフヒストリーの聞き取りといった既存のアセスメント手法と地続きで、新たな専門技術がなくても始められます。

3. 科学的介護(LIFE)・多職種連携の文脈で語れるようにする

科学的介護情報システム(LIFE)にデータを提出し、ケアの効果をPDCAで回す流れのなかで、音楽を用いた関わりも「実施内容と本人の反応」を記録し評価する対象になります。効果があいまいなケアこそ、印象論ではなく観察記録で語ることが、加算算定やケアの質の説明責任につながります。音楽療法士・作業療法士・言語聴覚士など専門職が関与できる施設では、能動的音楽療法の導入を多職種で検討する余地もあります。

4. 介護職のキャリアにとっての意味

「音楽は気持ちよさそうだから」で終わらせず、エビデンスの強さと限界をふまえて非薬物的ケアを語れる介護職は、認知症ケアの質を底上げする中核人材です。BPSD対応や非薬物療法の知識は、認知症介護実践者研修・リーダー研修や、ユニットリーダー・生活相談員といったキャリアパスでも評価されます。研究を読む習慣は、根拠に基づくケア(EBC)を実践できる専門職としての差別化になります。

研究の限界|介護職が結果を過大評価しないために

音楽を用いたケアは「副作用が少なく、気分や情緒面にプラスの可能性がある」一方で、研究が示す効き目には無視できない限界があります。介護職が結果を過大評価しないために、メリットと限界を整理します。

研究から言えるメリット(控えめに)

  • 抑うつ(気分の落ち込み)をおそらくやわらげる可能性がある(5回以上の介入、効き目は小さめ・確からしさは中程度)
  • 行動面の困りごと(BPSD全体)も少し軽くする可能性がある
  • 薬を使わないため副作用や身体への負担が小さい非薬物的なケアの選択肢になりうる
  • なじみの曲は表情をやわらげ、ケアを受け入れやすい雰囲気づくりにつながりやすい

過大評価しないための限界

  • 認知症そのものを「治す」ものではない。記憶などの頭の働き(認知機能)を改善する確かな証拠はなく(SMD 0.15、幅が0をまたぐ・確実性は低)、進行を止める効果も示されていない
  • 興奮・攻撃性に効くとは言えない(SMD -0.07、幅が0をまたぐ)。BPSDのうち興奮への明確な効果は確認されていない
  • 効き目が確認された抑うつでも効果量は小さく、2025年の最新版(30研究・約1,720名)では推定値がさらに控えめに修正され、確からしさも下がった
  • 効果が長続きする証拠は乏しい。最新版では効果が治療終了後まで持続しない可能性が指摘されており、「一度効いたから続ければ治る」という発想にはつながらない
  • 研究の質にばらつきがあり、多くの試験で実施上のバイアスのリスクが高いと評価されている。確からしさ(GRADE)が低〜中にとどまる結果が多い
  • これらは大勢を平均したときの傾向であり、目の前の一人に同じ効果が出る保証ではない

「効果なし」ではなく「治療ではない」と読む

限界が多いからといって「音楽は無意味」と切り捨てるのも誤りです。研究は「治療法の確立」ではなく「薬に頼らないケアの役立ち方を確かめる」段階にあります。効果量が小さく長期効果も不確かである以上、音楽を「BPSDを消すための介入」と過大に期待すると、効かなかったときに継続が途切れます。むしろ抑うつ傾向のある方の気分を支え、ケアを受け入れやすい環境をつくる「環境づくり」として日常に織り込むのが、エビデンスと整合した使い方です。

介護職のキャリアにとっての意味

効果があいまいなケアこそ、印象論ではなくエビデンスの強さと限界をふまえて語れる介護職が現場の質を底上げします。「音楽は気持ちよさそうだから」で終わらせず、研究が「どこまで示し、何はまだ分かっていないか」を理解したうえで非薬物的ケアを設計できる力は、認知症介護実践者研修・リーダー研修や、ユニットリーダー・生活相談員といったキャリアパスでも評価されます。研究を読む習慣は、根拠に基づくケア(EBC)を実践できる専門職としての差別化になります。

現場ですぐ使える、音楽を用いた関わりのヒント

  • その人の青春期の曲を起点に:10〜20代に親しんだ曲は記憶に残りやすいとされます。生活歴の聞き取りから本人や家族に好きだった歌手・曲を確認し、選曲に反映しましょう。
  • 「流すだけ」で終わらせない:可能なら一緒に口ずさむ・手拍子する・歌詞カードを見るなど、本人が能動的に関われる工夫を。研究では能動的な関わりを含む介入が多く扱われています。
  • 反応を必ず記録に残す:いつ・どの曲で・表情や発語・落ち着き具合がどう変わったかをケア記録に。効果のあいまいなケアほど観察記録が価値を持ちます。
  • 苦痛・興奮の「原因探し」とセットで:音楽は万能薬ではありません。痛み・空腹・環境(騒音・室温)など不快の原因を取り除く対応を優先し、その補完として音楽を使います。
  • 音量・時間帯への配慮:大音量や長時間の連続再生はかえって刺激過多になることも。短時間から本人の様子を見て調整しましょう。
  • 効かない日があっても自然:効果量は小さく日内・日差変動も大きいもの。「今日は乗らなかった」を失敗と捉えず、淡々と続けられる関わりにします。
  • チームで共有する:効果のあった曲や場面は申し送りやケアプランに残し、担当が変わっても同じ関わりを再現できるようにしておくと、施設全体のケアの質が安定します。

よくある質問(FAQ)

Q. 結局、音楽療法は認知症に効くのですか?

「認知症そのものを治す・進行を止める」効果は示されていません。一方で、施設入所中の認知症高齢者に5回以上行うと、抑うつ症状をおそらく軽減し、行動面をやや改善する可能性がCochraneレビューで示されています。ただし効果量は小さく、確実性も中〜低程度です。「副作用が少なく、気分や情緒面を支えうる非薬物的ケアの選択肢」と捉えるのが正確です。

Q. 興奮や暴言・暴力(BPSD)は音楽で抑えられますか?

Cochraneレビューでは、興奮・攻撃性そのものへの明確な効果は確認されていません(SMD -0.07、95%CIが0をまたぐ)。別のメタ解析では中程度の効果を報告したものもありますが、これは研究選定の厳しさの違いによります。興奮への対応は、まず原因(痛み・不快・環境)の除去を優先し、音楽はその補完と考えるのが現実的です。

Q. 認知機能(記憶・見当識)は良くなりますか?

現時点のエビデンスでは、認知機能を改善するという確かな証拠はありません(SMD 0.15、信頼区間が0をまたぐ/確実性は低)。音楽を認知機能の改善目的で導入することは、研究の裏づけに乏しいといえます。

Q. 受動的に聴かせるのと、一緒に歌うのではどちらが良いですか?

研究は両方を含みますが、どの形式が最適かを示す決定的なエビデンスはまだありません。一般には本人が能動的に関われる関わりが推奨されますが、重度で参加が難しい場合は好みの曲を聴いてもらうだけでも意味があります。本人の反応を見て個別に調整してください。

Q. 音楽療法士の資格がないと実施できませんか?

専門的な能動的音楽療法は音楽療法士が担いますが、なじみの曲を一緒に楽しむ日常的な関わりは介護職が実践できます。資格の有無より、本人の嗜好を尊重し反応を記録して個別最適化していく姿勢が重要です。施設に専門職がいれば連携して導入を検討しましょう。

参考文献・一次情報

  • [1]
    Music-based therapeutic interventions for people with dementia (2018 update)- Cochrane Database of Systematic Reviews 2018, Issue 7, CD003477.pub4(van der Steen JT, Smaling HJ, van der Wouden JC, ら)

    本記事の主要数値の原報(2018年版)。22RCT・約1,097名。抑うつSMD -0.27(95%CI -0.45〜-0.09,中)、行動上の問題-0.23(-0.46〜-0.01,中)、情緒/QOL 0.32(0.02〜0.62,低)、不安-0.43(-0.72〜-0.14,低)、興奮-0.07(-0.24〜0.10,中)、認知0.15(-0.06〜0.36,低)。全試験が実施バイアスリスク高。DOI:10.1002/14651858.CD003477.pub4

  • [2]
    Does music-based therapy help people with dementia?(2025年最新版の平易な要約)- Cochrane 2025-03-07(CD003477.pub5/van der Steen JT, ら)

    2025年更新版。15か国・30試験・約1,720名。通常ケアとの比較で抑うつをおそらく改善(中)・行動上の問題を改善する可能性(低)、別活動との比較で社会的行動を改善する可能性(低)。情緒/QOL・興奮・認知は明確な差の証拠なし。効果は治療終了後まで持続しない可能性。

  • [3]
    Effects of Music on Agitation in Dementia: A Meta-Analysis- Frontiers in Psychology 2017;8:742(Pedersen SKA, Andersen PN, Lugo RG, ら/PMC全文)

    音楽介入の興奮への効果を統合したメタ解析。12RCT・658名、Cohen d=0.61(95%CI 0.38〜0.84,中程度)。Cochraneの保守的な結論との差は研究選定・バイアス評価の厳しさの違いによる。異質性の高さが限界。

  • [4]
    Dementia: assessment, management and support(NG97)Recommendations- NICE(英国国立医療技術評価機構)Guideline NG97(2018発行・2025最終レビュー)

    公的ガイドライン。苦痛・興奮にはまず心理社会的・環境的介入を行うよう推奨し、音楽介入を感覚刺激の選択肢の一つとして位置づけ。非薬物的介入を第一選択とする方針。

まとめ|エビデンスを過不足なく現場に活かす

音楽を用いたケアの研究エビデンスは、「魔法のように効く」でも「無意味」でもない、誠実な中間地点を示しています。Cochraneレビューが伝えるのは、施設入所中の認知症高齢者への5回以上の介入が抑うつ症状をおそらく軽減し、行動面をやや改善する可能性がある一方、興奮・攻撃性や認知機能への明確な効果は確認されていないこと。そして2025年の最新版では抑うつへの効果の推定値が控えめに修正され、効果は小さく、長続きする保証もないことが示されました。

だからこそ介護現場での価値は、効果を断定することではなく、副作用が少ない非薬物的ケアの選択肢として、本人の嗜好に合わせて日常に織り込み、反応を記録して個別最適化していく運用にあります。アセスメント・科学的介護(LIFE)・多職種連携の文脈に位置づければ、印象論ではなく根拠に基づくケアとして語れるようになります。エビデンスの強さと限界を正しく押さえた関わりは、効いても効かなくても本人を尊重するケアにつながります。

エビデンスの強さと限界の両方を理解したうえで、目の前の一人の表情の変化を丁寧に見続ける——それが、研究を現場に活かす介護職の専門性です。なお本記事は研究知見の解説であり、特定の療法・商品の推奨や医療上の助言ではありません。導入の判断は利用者の状態と施設の体制をふまえ、多職種で行ってください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

続けて読む

このテーマを深掘り

関連トピック

ご家族・ご利用者の視点

同じテーマをご家族・ご利用者の方の視点から書いた記事。視野を広げるためのヒントとして。