
前立腺肥大症とは
前立腺肥大症(BPH)とは前立腺が肥大して尿道を圧迫し排尿障害を起こす高齢男性に多い良性疾患。症状・治療薬・手術と、介護現場での排尿ケア・観察ポイントを解説します。
前立腺肥大症の定義(要点)
前立腺肥大症(BPH:benign prostatic hyperplasia)とは、膀胱の下にある前立腺が加齢とともに肥大し、内側を通る尿道を圧迫することで、尿の出にくさ・頻尿・夜間頻尿などの排尿障害(下部尿路症状)を引き起こす、高齢男性に多い良性の疾患です。前立腺がんとは別の病気で、適切な薬物療法や手術で症状を改善できます。
目次
前立腺肥大症の主な症状
前立腺肥大症の症状は「下部尿路症状(LUTS)」と総称され、大きく3つのタイプに分けられます。
蓄尿症状(尿をためる段階の症状)
- 頻尿:日中に何度もトイレに行きたくなる
- 夜間頻尿:就寝後に何度も排尿に起きる(睡眠不足や転倒リスクにつながる)
- 尿意切迫感:急に強い尿意を感じ、我慢が難しい
排尿症状(尿を出す段階の症状)
- 尿勢低下:尿の勢いが弱く「チョロチョロ」しか出ない
- 排尿困難・遷延:排尿開始まで時間がかかる、いきまないと出ない
- 尿線分割・尿線途絶:尿が途中で分かれる・途切れる
排尿後症状
- 残尿感:排尿後も尿が残っている感じがする
- 排尿後尿滴下:排尿を終えた後に下着が濡れる
とくに夜間頻尿・昼間頻尿・尿勢低下を訴える人が多いことが知られています。進行すると膀胱機能の低下や尿路感染症、まれに尿が全く出せなくなる「尿閉」を起こすこともあります。
前立腺肥大症と前立腺がん・過活動膀胱の違い
前立腺肥大症と紛らわしい病気の違い
排尿のトラブルは前立腺肥大症以外の病気でも起こるため、医師は鑑別を行います。介護職が違いの概要を知っておくと、看護師への報告や受診のすすめに役立ちます。
| 病気 | 性質 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 前立腺肥大症 | 良性 | 前立腺が肥大して尿道を圧迫。尿勢低下・残尿感・頻尿。命に関わることはまれ |
| 前立腺がん | 悪性 | 初期は無症状が多い。PSA検査で発見。肥大症と併存することもある |
| 過活動膀胱(OAB) | 機能の障害 | 尿意切迫感・頻尿が中心。前立腺肥大症に合併することが多い |
| 尿路感染症(UTI) | 感染 | 排尿時痛・発熱・尿の濁り。高齢者では発熱やせん妄など非典型的な症状も |
症状が似ていても治療法は異なります。自己判断せず、排尿の変化に気づいたら泌尿器科の受診につなげることが大切です。
前立腺肥大症の検査と治療の流れ
前立腺肥大症の検査と治療
主な検査
- 症状スコア:IPSS(国際前立腺症状スコア)やOABSSで重症度を点数化(IPSSは0〜7点が軽症、8〜19点が中等症、20点以上が重症)
- 尿流量測定(ウロフロー):最大尿流率が毎秒15mL以上で正常、5〜10mLで中等症、5mL以下で重症の目安
- 残尿測定:超音波で排尿後に膀胱に残る尿量を確認
- PSA検査・超音波・尿検査:前立腺がんや尿路感染症の除外、前立腺の大きさの評価
治療の進め方
軽症では経過観察、中等症以上では薬物療法、薬で十分な効果が得られない場合や合併症がある場合は手術が検討されます。
薬物療法(主な3系統)
- α1遮断薬(タムスロシン・シロドシン・ナフトピジルなど):前立腺と膀胱出口の筋肉の緊張をゆるめて尿を出しやすくする。第一選択として最も多く使われ、比較的早く効果が出る
- PDE5阻害薬(タダラフィル):前立腺や膀胱の血流を改善し平滑筋をゆるめる
- 5α還元酵素阻害薬(デュタステリド):肥大した前立腺そのものを小さくする(効果発現まで数か月かかる)
頻尿や尿意切迫感など過活動膀胱を併発する場合は、β3作動薬や抗コリン薬を併用することがあります。
手術療法
経尿道的前立腺切除術(TURP)や、レーザーを用いたホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)などの内視鏡手術が中心で、診療ガイドラインで推奨グレードAとされています。
前立腺肥大症の介護現場での観察・ケアのポイント
介護現場での観察と排尿ケアのポイント
前立腺肥大症のある高齢男性を支える際、介護職が日常で気づける変化や工夫があります。診断・治療は医療職の役割ですが、生活の中での観察が早期対応の鍵になります。
- 排尿パターンの観察:夜間にトイレへ起きる回数、尿の勢い、残尿感の訴えなどを記録し、変化があれば看護師に報告する
- 夜間頻尿と転倒予防:夜間に何度もトイレに起きると、暗がりでの移動による転倒・骨折のリスクが高まる。足元の照明やポータブルトイレの活用を検討する
- 尿閉のサインに注意:「丸一日尿が出ていない」「下腹部が張って苦しそう」といった訴えは尿閉の可能性があり、緊急性が高いため速やかに看護師・医療職へ連絡する
- 服薬の確認:α遮断薬には立ちくらみ(起立性低血圧)の副作用があるため、服用後の急な立ち上がりに付き添うなど配慮する
- 水分制限はしない:頻尿を嫌がって水分を控えると脱水や尿路感染のリスクが上がる。夜間頻尿対策は就寝直前の水分を控えめにする程度にとどめ、自己判断の制限は避ける
これらは前立腺肥大症に限らず、排尿障害のある利用者全般に通じる視点です。介護職と看護師が情報を共有することで、利用者の生活の質を守ることができます。
前立腺肥大症のよくある質問
前立腺肥大症は前立腺がんになりますか?
前立腺肥大症は良性の疾患で、それ自体が前立腺がんに変化(がん化)するわけではありません。ただし両者は併存することがあり、症状だけでは区別できないため、PSA検査などでがんの可能性を確認します。
前立腺肥大症は自然に治りますか?
加齢に伴って進行することが多く、自然に治る病気ではありません。症状が軽ければ経過観察となりますが、悪化すると尿閉や腎機能障害などの合併症につながることもあるため、気になる症状があれば泌尿器科を受診しましょう。
女性も前立腺肥大症になりますか?
前立腺は男性だけにある臓器のため、前立腺肥大症は男性特有の病気です。女性の頻尿や尿失禁は過活動膀胱や骨盤底の問題など別の原因によることが多くなります。
薬を飲めば手術しなくても大丈夫ですか?
多くの方は薬物療法で症状をコントロールできますが、薬で十分な効果が得られない場合や、尿閉・繰り返す尿路感染・膀胱結石・腎機能障害などの合併症がある場合は手術が検討されます。治療方針は前立腺の大きさや症状の程度をふまえて医師が判断します。
前立腺肥大症の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
前立腺肥大症のまとめ
まとめ
前立腺肥大症は、加齢に伴って前立腺が大きくなり尿道を圧迫することで、頻尿・尿勢低下・残尿感などの排尿障害を起こす高齢男性に多い良性の疾患です。多くは薬物療法で症状をコントロールでき、必要に応じて手術も選べます。介護現場では、夜間頻尿による転倒や尿閉のサインに注意し、排尿の変化を看護師と共有することが、利用者の生活の質を守る第一歩になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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