
サルコペニア肥満とは
サルコペニア肥満は筋肉量・筋力の低下と体脂肪の過剰が共存する状態。2024年の日本の診断基準、サルコペニア単独や肥満との違い、要介護・転倒・生活習慣病リスク、予防の要点を介護現場目線で解説します。
サルコペニア肥満の定義
サルコペニア肥満(sarcopenic obesity)とは、加齢などによる骨格筋量・筋力の低下(サルコペニア)と、体脂肪の過剰な蓄積(肥満)が同時に存在する状態を指します。筋肉の「不足」と脂肪の「過多」が共存するため、サルコペニア単独や肥満単独よりも、要介護・転倒・生活習慣病・死亡のリスクが重なって高まるとされています。
目次
サルコペニア肥満の概要
サルコペニア肥満とは何か
サルコペニア肥満は、ギリシャ語で「筋肉の喪失」を意味するサルコペニア(骨格筋量と筋力・身体機能の低下)に、肥満(体脂肪の過剰な蓄積)が併存した病態です。日本肥満学会と日本サルコペニア・フレイル学会の合同ワーキンググループ(JWGSO)は、サルコペニア肥満を「過剰な脂肪組織と、骨格筋量・筋力の低下が共存している状態」と定義しています。
厄介なのは、体重計の数字や見た目だけでは気づきにくい点です。加齢や運動不足、極端な食事制限によるダイエットで筋肉が減ったところへ脂肪が蓄積すると、体重や体型は標準のままでも、体脂肪率が高く筋肉が少ない状態になります。このため「隠れ肥満」とも呼ばれ、健康診断でも見落とされやすいことが指摘されています。
筋肉はインスリンの作用で血糖を取り込む主要な臓器でもあるため、筋肉量が減るとインスリンの効きが悪くなり(インスリン抵抗性)、血糖値が上がりやすくなります。脂肪の過剰と筋肉の減少が重なることで、糖尿病・脂質異常症・高血圧・動脈硬化といった代謝異常のリスクが、肥満かサルコペニアのどちらか一方のときよりも大きくなると報告されています。介護現場では、見た目の体格に惑わされず体組成や筋力の変化に目を向ける視点が求められます。
サルコペニア肥満と類似概念の違い
サルコペニア・肥満・フレイル・低栄養との違い
サルコペニア肥満は、筋肉の減少と脂肪の増加という「相反する2つの要素」が同居する点が固有の特徴です。よく混同される概念との違いを整理します。
| 状態 | 体の特徴 | 主なリスク |
|---|---|---|
| サルコペニア(単独) | 骨格筋量・筋力が低下。多くは低体重〜標準 | 転倒・骨折・要介護 |
| 肥満(単独) | 体脂肪が過剰に蓄積。筋肉量は保たれることが多い | 生活習慣病(糖尿病・高血圧など) |
| サルコペニア肥満 | 筋肉の減少と脂肪の増加が共存 | 両者のリスクが重なり、心血管疾患・糖尿病の危険度がさらに上昇 |
| フレイル | 加齢で心身が衰え、健康と要介護の中間にある状態 | 要介護・入院・死亡。サルコペニアはフレイルの主要因の一つ |
| 低栄養 | エネルギー・たんぱく質が不足した状態 | 筋肉減少を加速。サルコペニアの背景要因になる |
注意したいのは、サルコペニア肥満は「太っているのに栄養が足りていない」状態が起こり得ることです。エネルギーは過剰でも、筋肉の材料となるたんぱく質が不足していれば筋肉は減ります。つまり肥満と低栄養(たんぱく質不足)が同時に成立することがあり、体重を落とすだけのダイエットでは筋肉まで失ってかえって悪化させる恐れがあります。日本人の高齢者は欧米人に比べて軽度の肥満でも糖尿病になりやすいことも、サルコペニア肥満を見過ごせない理由です。
サルコペニア肥満の診断基準と数値
サルコペニア肥満の診断基準(日本の考え方)
サルコペニア肥満は、サルコペニアと肥満それぞれの基準を単純に組み合わせるだけでは正しく診断できないとされ、長らく統一された基準がありませんでした。2022年に欧州のESPEN・EASOが合同声明を発表し、日本でも2024年に日本肥満学会と日本サルコペニア・フレイル学会の合同ワーキンググループ(JWGSO)が、日本人の体格を考慮した診断基準を学術誌に公表しました(アジアで初めてのコンセンサス)。その骨子は次の通りです。
- 2ステップ構成:①スクリーニング(ふるい分け)→ ②確定診断、の順で進める。
- 肥満のスクリーニング:日本の基準に基づくウエスト周囲径(男性85cm以上/女性90cm以上)および/またはBMIを用いる。
- サルコペニアのスクリーニング:AWGS 2019の基準に「指輪っかテスト」(ふくらはぎを両手の親指と人差し指で囲み、すき間ができると筋肉量低下の疑い)を加える。
- 筋力の評価:握力で判定。男性28kg未満・女性18kg未満が低下の目安。
- 身体機能の評価:5回椅子立ち上がりテストなどを用いる。
- 骨格筋量の評価:DXA法やBIA法で四肢骨格筋量(BMIで補正)を測定。
- 肥満の確定評価:内臓脂肪面積または体脂肪率で評価する。
- ステージ分類:筋力・機能低下+骨格筋量低下+肥満を伴うステージI、合併症を含むステージIIに分類する。
このJWGSO基準はまだ臨床的な検証段階にあり、臨床データの蓄積に応じて適用年齢範囲などが更新される予定とされています。従来の研究では体脂肪率32%以上などのカットオフ値も用いられてきましたが、測定法(DXA・BIA・CT)や基準値の違いにより、同じ集団でも有病率が男性16.7%〜35.1%と大きく変動することが報告されており、基準の統一が課題でした。介護・看護の現場で確定診断を下す機会は限られますが、握力測定・指輪っかテスト・ウエスト周囲径といった器具が少なくても行えるスクリーニングを知っておくことが、早期発見の第一歩になります。
サルコペニア肥満のリスクと予防のポイント
サルコペニア肥満が招くリスクと予防のポイント
重なり合うリスク
- 要介護・寝たきりリスク:下肢の筋力低下でつまずきやすくなり、転倒・骨折から要介護に至りやすい。
- 生活習慣病の悪化:筋肉減少によるインスリン抵抗性と脂肪過剰が重なり、2型糖尿病・脂質異常症・高血圧を併発しやすい。
- 心血管疾患・死亡リスク:海外研究では、サルコペニア肥満は肥満単独・サルコペニア単独より心血管疾患の発症リスクが約23%高く、メタ解析では男性で全死亡リスクが約24%上昇したと報告されている。
- 発見の遅れ:体重や見た目が変わらない「隠れ肥満」型では自覚しにくく、気づかぬうちに代謝異常が進行する。
予防・改善のポイント
- たんぱく質を「減らさない」:減量中でも筋肉の材料となるたんぱく質を確保する。中高年や運動を行う人では体重1kgあたり1.0〜1.5gが一つの目安(腎機能が低下している場合は主治医に相談のうえ調整)。
- レジスタンス運動(筋トレ):スクワットなど下半身の大きな筋肉を使う運動が効率的。有酸素運動と組み合わせると脂肪減少と筋肉維持の両立が期待できる。
- 極端な食事制限を避ける:摂取エネルギーを絞りすぎると脂肪だけでなく筋肉も落ち、サルコペニア肥満を招く。
- 定期的な体組成・筋力チェック:体重だけでなく握力や体脂肪率、ふくらはぎの太さに目を向ける。
介護・看護の現場では、利用者の「最近よく転ぶ」「ペットボトルの蓋が開けにくい」「片足立ちで靴下が履けない」といったサインが、サルコペニア肥満を含む筋力低下の手がかりになります。食事・運動・リハビリの多職種連携で、筋肉を守りながら過剰な脂肪を減らす支援が重要です。
サルコペニア肥満のよくある質問
サルコペニア肥満に関するよくある質問
Q. サルコペニアとサルコペニア肥満は何が違いますか?
サルコペニアは骨格筋量と筋力・身体機能が低下した状態を指し、多くは低体重〜標準体型です。一方サルコペニア肥満は、その筋肉減少に体脂肪の過剰(肥満)が加わった状態で、筋肉の「不足」と脂肪の「過多」が共存します。両方のリスクが重なるため、より重篤な代謝異常や要介護につながりやすいとされています。
Q. やせている高齢者でもサルコペニア肥満になりますか?
はい。体重や見た目が標準でも、筋肉が脂肪に置き換わって体脂肪率が高い「隠れ肥満」型のサルコペニア肥満があり得ます。BMIが正常範囲でも内臓脂肪が多く筋肉が少ないケースは珍しくありません。
Q. 体重を減らすダイエットで改善できますか?
摂取エネルギーを絞るだけのダイエットは、脂肪と一緒に筋肉も減らしてサルコペニア肥満を悪化させる恐れがあります。たんぱく質をしっかり確保しつつ、筋トレと有酸素運動を組み合わせ、脂肪を減らしながら筋肉を維持・増加させることが大切です。
Q. サルコペニア肥満の診断基準は確立していますか?
2022年に欧州(ESPEN・EASO)、2024年に日本(JWGSO)が診断基準を公表し、統一に向けた整備が進みました。ただし日本の基準は臨床的な検証段階にあり、今後データの蓄積に応じて更新される予定です。握力・指輪っかテスト・ウエスト周囲径などのスクリーニングが早期発見に役立ちます。
Q. 介護現場でできることはありますか?
専門的な確定診断は医療機関で行いますが、握力測定や指輪っかテスト、歩行・立ち上がりの様子の観察といったスクリーニングは現場でも可能です。気になるサインがあれば医師・管理栄養士・リハビリ職と連携し、栄養と運動の両面から支援します。
サルコペニア肥満の参考資料
- [1]サルコペニア肥満の診断基準が発表されました(合同ワーキンググループ)- 日本サルコペニア・フレイル学会
日本肥満学会との合同WGによる日本人向けサルコペニア肥満の診断基準(2024年)を公表した学会公式サイト。
- [2]サルコペニア診療ガイドライン CQ・ステートメント(CQ2 サルコペニア肥満の定義と意義)- 日本サルコペニア・フレイル学会
サルコペニアおよびサルコペニア肥満の定義・意義に関する診療ガイドラインのクリニカルクエスチョン。
- [3]
- [4]
- [5]
サルコペニア肥満のまとめ
まとめ
サルコペニア肥満は、筋肉量・筋力の低下と体脂肪の過剰が共存する状態で、サルコペニア単独や肥満単独よりも要介護・転倒・生活習慣病・死亡のリスクが重なって高まります。体重や見た目では気づきにくい「隠れ肥満」型もあるため、握力・指輪っかテスト・ウエスト周囲径などのスクリーニングで早期に気づくことが重要です。予防の鍵は、たんぱく質を確保しながら筋トレと有酸素運動を続け、極端な食事制限を避けること。介護・看護の現場では、見た目の体格にとらわれず体組成と筋力の変化に目を向け、栄養と運動の両面から多職種で支援していきましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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