
進行性核上性麻痺(PSP)とは
進行性核上性麻痺(PSP・指定難病5)の定義をやさしく解説。易転倒・下方視困難な眼球運動障害・嚥下障害の特徴、パーキンソン病との違い、介護現場の転倒予防と受診の目安をまとめます。
進行性核上性麻痺(PSP)の定義
進行性核上性麻痺(PSP、progressive supranuclear palsy)は、脳の大脳基底核・脳幹・小脳の神経細胞が異常なタウ蛋白の蓄積とともに減っていく神経変性疾患です。指定難病5番に認定されており、初期からよく転ぶ(易転倒性)、下の方が見にくくなる眼球運動障害、飲み込みにくさ(嚥下障害)が特徴です。発症初期はパーキンソン病に似ますが、パーキンソン病治療薬が効きにくく、進行が早い傾向があります。
目次
進行性核上性麻痺(PSP)の概要と位置づけ
進行性核上性麻痺(PSP)とは何か
進行性核上性麻痺は、淡蒼球・視床下核・黒質・脳幹被蓋・小脳歯状核などの神経細胞が脱落し、異常にリン酸化したタウ蛋白が神経細胞とグリア細胞の中にたまっていく病気です。タウの異常蓄積を背景にもつ「タウオパチー」のうち、4リピートタウオパチー(4RT)に分類されます。1964年にSteele、Richardson、Olszewskiらによって一つの疾患単位として報告されました。「核上性」とは、目を動かす神経そのものではなく、その動きを調節する上位の神経機構が障害されることを指し、進行性に核上性の眼球運動麻痺が現れる特徴から名づけられました。
発症は40歳以降に多く、平均すると60歳代です(近年は70歳代発症の報告もあります)。男性にやや多い傾向があります。原因はまだ特定されておらず、一般的には遺伝しません。わが国の有病率は人口10万人あたり10〜20人程度と推測され、1999年調査の5.8人と比べると増加がみられます。これは高齢者の増加に加え、典型例以外の病型が認識されるようになったこと、指定難病認定による受診増加、診断技術の進歩などが背景と考えられています。2012年度(平成24年度)の医療受給者証保持者数は約8,100人でした。
典型例はRichardson症候群(古典型PSP)と呼ばれ全体の約半数を占めますが、パーキンソン病に似てレボドパがある程度効くPSP-parkinsonism(PSP-P)、すくみ足が長く先行する純粋無動症型(PAGF)、小脳症状が前景に立つ小脳型など、複数の亜型が知られています。亜型によって初期症状や進行の速さは異なります。
進行性核上性麻痺(PSP)の主な症状
- 易転倒性(よく転ぶ):最大の特徴で、初期からとにかくよく転びます。研究班の調査では半数以上の患者が発病1年以内に転倒を繰り返しています。姿勢が不安定なうえ、バランスを崩しても手を出して防ぐ反応が起きにくいため、顔面や頭部を直撃して外傷を負うことがしばしばあります。
- 眼球運動障害(下方視困難):上下方向、特に下向きの随意的な眼球運動が障害され、下を見ることが難しくなります。発症初期には目立たず、発症2〜3年後に出現することも少なくありません。進行すると左右方向の動きも制限され、最終的に眼球は正中位で固定して動かなくなります。縦書きの本が読みにくい、階段を下りにくい、食事中に食べ物が見にくいといった訴えが手がかりになります。
- 構音障害・嚥下障害:聞き取りにくい話し方や、飲み込みにくさ・むせが徐々に出現します。中期以降は誤嚥性肺炎をしばしば合併し、口からの食事が困難になると経管栄養や胃ろうが検討されます。
- パーキンソニズム:動作の緩慢さ、筋強剛(体のこわばり)がみられます。四肢の末梢よりも体幹や頸部に目立ち、頸部が後屈して反り返った姿勢になるのが特徴です。安静時振戦(じっとしているときの手の震え)はまれです。
- 認知症・精神症状:思考が緩慢になる、意欲が低下するといった前頭葉性の認知障害(皮質下認知症)がみられます。ただし程度は比較的軽く、アルツハイマー型と異なり見当識障害や物忘れは目立ちにくい傾向です。質問に答え始めるまで時間がかかる、病気への深刻感が乏しく多幸的にみえることもあります。
進行性核上性麻痺(PSP)とパーキンソン病の違い
パーキンソン病との違い
進行性核上性麻痺は発症初期にパーキンソン病とよく似た動作緩慢や歩行障害を示すため、区別がつきにくいことがあります。次のような点が鑑別の手がかりになります。
| 項目 | 進行性核上性麻痺(PSP) | パーキンソン病 |
|---|---|---|
| 転倒 | 発症初期から頻回に転ぶ | 進行してから出現することが多い |
| 安静時振戦 | まれ | よくみられる(初発症状になりやすい) |
| 眼球運動障害 | 下方視が困難になる垂直性核上性眼球運動障害が特徴的 | 目立たない |
| 姿勢 | 頸部が後屈し反り返る | 前かがみ(前傾)になりやすい |
| パーキンソン病治療薬(レボドパ) | 効きにくい、効いても一時的 | よく効く |
| 進行の速さ | 比較的早い | 比較的ゆるやか |
ただしPSP-parkinsonism(PSP-P)という亜型では、左右差があってレボドパが中等度効くなど、パーキンソン病との区別がさらに難しい場合があります。最終的な鑑別は脳神経内科の専門的な診察と画像検査によります。安静時振戦の有無や薬の効き方だけで自己判断せず、診断は医師に委ねることが大切です。
進行性核上性麻痺(PSP)の指定難病・数値データ
指定難病としての位置づけと数値
- 指定難病番号:5番(進行性核上性麻痺)。要件を満たすと医療費助成の対象になります。
- 有病率:人口10万人あたり10〜20人程度(1999年調査では5.8人程度)。
- 医療受給者証保持者数:約8,100人(平成24年度)。
- 発症年齢:40歳以降に多く、平均60歳代。男性にやや多い。
- 経過:発症から寝たきりになるまで平均4〜5年程度(個人差が大きい)。誤嚥による肺炎が死因として多くみられます。
- 重症度分類:modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸の評価スケールのいずれかが一定以上で医療費助成の対象となります。
指定難病に認定されると、要介護認定とは別に難病医療費助成制度を利用できる場合があります。申請には脳神経内科など指定医による臨床調査個人票が必要です。制度の詳しい要件は最新の公的情報で確認してください。
進行性核上性麻痺(PSP)の介護・転倒予防の注意点
介護現場・在宅での転倒予防と注意点
進行性核上性麻痺の介護で最も重要なのが転倒予防です。注意力や危険を察知する力が低下するため、本人に声をかけても、その場になると立ち上がって転んでしまうことが繰り返されます。「何度言っても聞いてくれない」のではなく、病気による特性であることを理解して環境面で備えることが大切です。
- 立ち上がりの先回り:手の届く範囲に物を置かず、急に立ち上がろうとする動きを早めに察知できる配置にします。車いすやベッドからの転落も多いため、低床ベッドや離床センサーの活用を検討します。
- 頭部・顔面の保護:手を出して防ぐ反応が起きにくく、顔面から倒れやすいため、転倒時の外傷リスクが高くなります。床材の工夫やヘッドギアの使用が検討されることもあります。
- 下方視困難への配慮:足元の段差や階段が見えにくくなります。段差をなくす、コントラストをつけた目印を貼る、声かけで足元の状況を伝えるといった工夫が役立ちます。
- 嚥下・誤嚥への対応:むせや飲み込みにくさが出てきたら、食事の形態(とろみ・刻み)を調整し、姿勢を整え、嚥下体操などを言語聴覚士と相談します。誤嚥性肺炎の予防として口腔ケアも重要です。
- 多職種連携:脳神経内科医、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャーが連携し、進行に合わせてリハビリ(筋力維持・バランス訓練・関節拘縮予防)と生活支援を組み立てます。
進行性核上性麻痺(PSP)の受診の目安
受診の目安(こんなときは脳神経内科へ)
進行性核上性麻痺は専門的な診察が必要な病気です。以下のようなサインが続く場合は、自己判断せず脳神経内科(神経内科)への受診を検討してください。診断や治療方針は必ず医師に相談します。
- 原因がはっきりしないのに、初期からよく転ぶ・後ろ向きに倒れやすい
- 下の方が見えにくい、階段を下りにくい、縦書きの本が読みにくい
- パーキンソン病と診断されたが、治療薬があまり効かない・効きが早く弱まる
- 話し方が聞き取りにくくなった、むせる・飲み込みにくいことが増えた
- 頸部が後ろに反り返るような姿勢になってきた
これらは進行性核上性麻痺以外の病気でもみられることがあり、ここに挙げた内容で病名を確定するものではありません。気になる症状があるときは早めに専門医を受診し、必要に応じて画像検査などで評価してもらうことが、転倒予防や生活の備えにつながります。
進行性核上性麻痺(PSP)のよくある質問
よくある質問
進行性核上性麻痺は遺伝しますか?
一般的には遺伝しません。ごくまれに家族性に起こる例が報告されていますが、多くは孤発性です。
パーキンソン病とどう違うのですか?
初期は似ていますが、PSPは発症早期からよく転び、下方視が困難な眼球運動障害が現れ、パーキンソン病治療薬が効きにくく、進行が早い傾向があります。詳しい鑑別は脳神経内科で行います。
治る病気ですか?
根本的な治療薬はまだありません。パーキンソン病治療薬や抗うつ薬で一時的に症状が和らぐことがあり、リハビリテーション(筋力維持・バランス訓練・嚥下訓練・拘縮予防)が中心になります。治療方針は主治医と相談してください。
介護保険や難病の制度は使えますか?
指定難病5番に該当し、要件を満たせば難病医療費助成の対象になります。要介護認定を受ければ介護保険サービスも利用できます。申請には指定医による書類が必要です。最新の要件は公的窓口で確認してください。
認知症になりますか?
思考の緩慢さや意欲低下などの認知障害がみられることがありますが、アルツハイマー型と比べると物忘れや見当識障害は目立ちにくく、程度は比較的軽い傾向です。
進行性核上性麻痺(PSP)の参考資料
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- [4]
進行性核上性麻痺(PSP)のまとめ
まとめ
進行性核上性麻痺(PSP)は、初期からの易転倒性、下方視が困難になる眼球運動障害、嚥下障害を特徴とする指定難病5番の神経変性疾患です。発症初期はパーキンソン病に似ますが、安静時振戦がまれでレボドパが効きにくく、進行が早い点が異なります。根本治療薬はまだなく、転倒予防・誤嚥対策・リハビリを軸にした生活の備えと多職種連携が支援の中心になります。気になるサインが続くときは脳神経内科への受診を検討し、診断と治療は医師に相談しましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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