解決志向アプローチ(SFA)とは

解決志向アプローチ(SFA)とは

解決志向アプローチ(SFA)は、Steve de Shazerらが提唱した短期療法の一つ。原因追究ではなく『解決した未来』に焦点を当てる対話技法で、スケーリング・ミラクル・例外探し・コンプリメントの4技法を介護現場でどう活かすか解説します。

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この記事のポイント

解決志向アプローチ(SFA:Solution Focused Approach)は、米国の家族療法家スティーブ・ド・シェイザーとインスー・キム・バーグらが1980年代に開発した短期療法(ブリーフセラピー)の一つです。「問題の原因」ではなく「解決した未来の姿」に焦点を当てる対話技法で、スケーリング・ミラクル・例外探し・コンプリメントの4技法を中心に、相手の強みとリソースを引き出します。介護現場では利用者・家族との関係構築、職員のメンタルケア、多職種会議の合意形成などに応用されています。

目次

解決志向アプローチの基本理念と歴史

解決志向アプローチ(SFA / SFBT:Solution-Focused Brief Therapy)は、1980年代に米国ウィスコンシン州ミルウォーキーのBrief Family Therapy Center(BFTC)で、スティーブ・ド・シェイザー(Steve de Shazer)とインスー・キム・バーグ(Insoo Kim Berg)夫妻を中心に体系化された心理療法・対人援助技法です。ミルトン・エリクソン(Milton Erickson)の臨床催眠と短期療法の系譜を引き継ぎ、従来の「問題の原因を分析して取り除く」アプローチとは正反対の発想で生まれました。

SFAが革新的だったのは、「原因が分からなくても解決はできる」と割り切った点にあります。たとえば「なぜ夜間に徘徊するのか」を延々と分析するのではなく、「徘徊が起こらなかった日には何が違ったのか」「夜が落ち着いて過ごせている瞬間はどんな状態か」を一緒に探していく。問題の周辺ではなく、すでに起きている小さな解決の芽(例外)を増やしていくという発想です。

SFAには3つの中心哲学があります。①「うまくいっているなら、変えるな」、②「一度うまくいったなら、もう一度それをやれ」、③「うまくいかないなら、違うことをやれ」。シンプルですが、介護現場のチームミーティングで意思決定がぶれそうになったとき、立ち返るべき軸として非常に有効です。

SFAは元々は心理療法として発展しましたが、その対話の構造が普遍的であるため、現在では福祉・看護・教育・コーチング・組織開発など幅広い領域で応用されています。日本の介護福祉領域では、認知症ケア、在宅介護者支援、虐待防止支援、介護職のスーパービジョン、退職予防面談など多様な場面で導入が広がっています。

SFAの4つの主要技法

SFAには複数の質問技法がありますが、介護現場で特に使い勝手が良いのは次の4つです。それぞれの技法を「利用者・家族との対話」と「職員ミーティング」の2面で使い分けられるようにしておくと、応用範囲が一気に広がります。

1. スケーリング・クエスチョン(Scaling Question)

「現在の状態を0〜10で表すと、いくつですか?」と尺度で問う技法です。「眠れていますか?」と二択で聞くより、「7日前と比べて夜の落ち着きを10点満点でつけると?」と聞いた方が、本人の主観的変化を可視化できます。さらに「その点数を1点上げるには何が必要ですか?」と続けることで、本人自身が次の小さな一歩を語り始めます。家族介護者の負担評価、職員のストレスチェック、ケアプラン評価会議でも応用可能です。

2. ミラクル・クエスチョン(Miracle Question)

「もし今夜寝ている間に奇跡が起きて、この問題がすっかり解決していたとしたら、明日の朝、最初に気づく違いは何ですか?」という未来焦点の質問です。問題が解決した状態を具体的に描写してもらうことで、本人が本当に望んでいるゴール像(ウェルフォームド・ゴール)を引き出します。介護現場では、漠然と「楽になりたい」と訴える家族介護者に「楽になっている朝の一場面」を語ってもらうことで、支援すべき具体的な手立てが見えてきます。

3. 例外探し(Exception Question)

「問題が起きていない時間や日はありませんか?」「少しでもマシな日と、そうでない日の違いは何ですか?」と、すでに存在する小さな解決の芽を発掘する質問です。BPSDが激しい認知症高齢者でも、必ず「落ち着いて過ごせている瞬間」が存在します。その例外条件をチームで分析し、再現性を高めることがケアプラン改善の最短距離になります。

4. コンプリメント(Compliments)

相手の努力・強み・すでに行っている工夫を具体的に言葉で承認する技法です。「ねぎらい」とも訳されますが、単なるお世辞ではなく、相手のリソース(資源)を本人自身に気づかせるための介入です。介護家族に「毎日3回の食事介助を1人で続けていらっしゃるのは、本当に並大抵のことではないですね」と具体的に伝えると、家族は自分が孤独ではなく評価されていると感じ、支援者との信頼関係が深まります。

SFAと従来の問題解決アプローチの違い

介護現場で「問題が起きるとまず原因分析」という発想は根強く、PDCAサイクルやKJ法でも「課題抽出」から始まるのが一般的です。SFAはこの順序を意図的に逆転させます。

観点従来型(問題志向)解決志向アプローチ(SFA)
焦点問題の原因・欠点解決した未来・強み・例外
過去/未来過去(なぜ起きたか)未来(どうなりたいか)
対話の起点「何が問題ですか?」「どうなれば良いですか?」
専門家の役割分析者・指導者協働者・質問者
所要セッション数長期(数ヶ月〜年単位)短期(3〜10回)
介護現場での例BPSDの原因を医学的にアセスメントBPSDが落ち着く瞬間の条件を探索

誤解されやすいのは、SFAが「問題を無視するアプローチ」と捉えられることです。実際には問題の存在は認めつつ、「問題を深掘りしてもエネルギーは生まれないが、解決の芽を深掘りすればエネルギーが生まれる」という臨床経験に基づいた選択をしています。介護現場の限られた時間で、家族や職員に元気を残しながら次の一歩を引き出すには、SFA的な質問の使い分けが有効です。

介護現場でSFAを実践するためのコツ

1. 「なぜ」を「いつ・どうやって」に置き換える

「なぜ拒否されるのか」と聞くと相手は防衛的になりますが、「うまく入浴できた時はどんな声かけをしていましたか?」と聞くと、すでに持っているノウハウが出てきます。質問の出だしを変えるだけで、対話のエネルギーが変わります。

2. ケアプラン会議で「例外」をテーブルに乗せる

ケアカンファレンスで利用者の「困っている点」だけを共有するのではなく、「うまくいっている時間帯・場面」を必ず1つ報告する運用にすると、チームのリソース感が変わります。再現可能なケアが具体化し、職員の自己効力感も高まります。

3. スケーリングで「変化の見える化」を共有する

家族介護者の負担、職員のメンタル状態、利用者のQOLなど主観的指標は、毎月10点満点でスコアリングして推移を見える化すると有効です。「先月7点、今月8点」という1点の変化を一緒に喜べる関係性が、燃え尽き予防につながります。

4. コンプリメントは「行動・努力・工夫」に向ける

「優しいですね」など人格への称賛より、「毎日のおむつ交換を時間を決めてやっていらっしゃいますね」と具体的な行動を承認した方が、相手の自己評価が安定します。介護現場では家族・利用者・職員のいずれにも有効です。

5. 自分自身に対しても使う

SFAは他者支援だけでなくセルフケアにも応用できます。退勤前に「今日うまくいったことを3つ挙げる」「明日1点だけ良くするために何ができるか」と自問する習慣は、介護職のバーンアウト予防研究でも効果が示されています。

解決志向アプローチに関するよくある質問

Q. SFAは資格がなくても使えますか?

はい、SFAは特定の国家資格を必要としません。ただし系統的に学ぶには、日本ブリーフサイコセラピー学会や日本ブリーフセラピー協会が開催する研修・ワークショップへの参加が推奨されます。基本技法は研修書や入門書でも独習可能ですが、ロールプレイで身につけることが重要です。

Q. 認知症のある人にもSFAは使えますか?

使えますが、質問の抽象度を下げる工夫が必要です。ミラクル・クエスチョンのような「もし〜だったら」型の仮定質問は理解しづらい場合があるため、写真や絵カードを併用するとよいでしょう。一方、スケーリングやコンプリメントは、認知症が進行した方にも有効に作用することが多数報告されています。

Q. パーソン・センタード・ケアやユマニチュードとの違いは何ですか?

いずれも本人尊重を軸とする点では共通します。パーソン・センタード・ケアは認知症の人の心理的ニーズを満たす「ケアの理念」、ユマニチュードは見る・話す・触れる・立つの4本柱からなる「ケア技法」、SFAは解決像を引き出す「対話・面接技法」です。実践現場ではこれらを組み合わせて使うのが一般的です。

Q. SFAを使うとどのくらいで効果が出ますか?

SFAは「短期療法」の名のとおり3〜10セッション程度で目に見える変化が生まれることを目指す技法です。介護現場の家族面談やチームミーティングでは、初回から「次の一歩」が明確になりやすいのが特徴です。ただし、生命危機・虐待リスクなど緊急介入が必要なケースでは別の専門的支援が優先されます。

Q. 1対1の面談以外でも使えますか?

もちろんです。多職種カンファレンス、家族会議、職員ミーティング、職場の1on1面談など、複数人での合意形成にも応用できます。「みんなで100点満点中何点?」とスケーリングで全員の主観を可視化し、「1点上げる工夫」を持ち寄る形式は、短時間で建設的な議論を生み出します。

まとめ

解決志向アプローチ(SFA)は、「問題の原因を分析する」のではなく「解決した未来から逆算する」短期療法・対人援助技法です。スケーリング・ミラクル・例外探し・コンプリメントの4技法を覚えれば、利用者・家族との面談、職員ミーティング、自身のセルフケアまで応用可能です。介護現場は「足りない・できない」が積み上がりやすい現場ですが、SFAの問いかけ一つで対話の温度が変わり、チームに「すでにあるリソース」を再発見させる力があります。多職種連携の合意形成や、現場のバーンアウト予防にも有効な、押さえておきたい技法です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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