相貌失認・街並失認とは

相貌失認・街並失認とは

相貌失認は親しい人の顔を見ても誰かわからなくなる、街並失認は見慣れた風景や建物がわからず道に迷う、視覚性失認の一種です。視力ではなく認識の障害で、認知症や脳卒中で見られます。介護現場での配慮も解説します。

ポイント

相貌失認・街並失認の定義(answer capsule)

相貌失認は、よく知っている人の顔を見ても誰かがわからなくなる症状、街並失認は、見慣れた風景や建物がわからず道に迷う症状で、どちらも「視覚性失認」の一種です。視力の問題ではなく、見えているのに脳がそれを認識できない状態を指します。認知症(とくにレビー小体型や後部皮質萎縮症)や脳卒中で見られ、声や服装、目印といった別の手がかりで補えることがあります。

目次

相貌失認・街並失認の概要

相貌失認・街並失認とは何か

「失認」とは、目や耳などの感覚そのものは保たれているのに、入ってきた情報が脳でうまく意味づけできず、それが何かを認識できなくなる状態をいいます。なかでも、見た情報を解釈できなくなるものを視覚性失認と呼びます。視覚情報は脳の後頭葉で処理されるため、後頭葉やそこにつながる側頭葉・頭頂葉の働きが損なわれると、視力は十分にあるのに「見えているのに、それが何か(誰か)わからない」という状態が起こります。

相貌失認は、この視覚性失認のうち「顔」の認識が選択的に障害されたものです。家族や友人、有名人など、本来よく知っている人の顔を見ても、それが誰なのか判断できなくなります。ひどい場合は、鏡に映った自分の顔がわからないこともあります。一方で「人がそこにいる」「顔がある」ことはわかるため、目の前の相手が誰かを取り違えたり、初対面のように振る舞ったりすることがあります。

街並失認は、建物や風景といった「景色」の認識が障害されたものです。長年暮らした自宅周辺や通い慣れた道でも、建物や角の風景が見慣れたものとして認識できず、目印を手がかりに進めなくなります。その結果、外出すると自分の家に戻れない、近所で道に迷うといったことが起こります。街並失認は、目的地はわかっても方角や順路がわからなくなる「道順障害」とは区別される、別のしくみによる症状です。

いずれも「見る力(視力)」が落ちているのではなく、「見えたものを認識する力」が損なわれている点が共通しています。眼鏡をかけても改善せず、本人も「見えているのにわからない」というもどかしさを抱えやすい症状です。

相貌失認・街並失認と原因疾患・関連する脳の部位

原因となる病気と脳の部位

相貌失認・街並失認は、脳の視覚に関わる領域が傷つくことで起こります。主な背景には次のようなものがあります。

  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血):後頭葉から側頭葉の内側にかけての領域が障害されると、相貌失認や街並失認が現れることがあります。街並失認では、右半球(または両側)の海馬傍回後部・舌状回前部・紡錘状回の損傷が関与するとされ、右の後大脳動脈領域の梗塞が原因になりやすいと報告されています。
  • 後部皮質萎縮症(PCA):視覚情報を担う後頭葉や頭頂葉の大脳皮質が萎縮していくタイプの認知症で、アルツハイマー病の非典型的な現れ方とされることが多い病態です。記憶は比較的保たれる一方、初期から視覚性失認や視空間の障害が目立ち、相貌失認・街並失認が問題になることがあります。
  • レビー小体型認知症:記憶障害より視覚認知の障害や注意の変動が前面に出やすく、見えたものの認識のしづらさが顔や景色の認識の困難につながることがあります。

顔の認識と景色の認識は、脳の中で隣り合いながらも別々のしくみが担っているため、相貌失認と街並失認は片方だけ現れることもあれば、両方そろって現れることもあります。

「物忘れ」や「視力低下」との違い

相貌失認・街並失認は、記憶そのものが抜け落ちる「物忘れ」とは異なります。相手のことを覚えていても、顔という手がかりからその人にたどり着けないのが相貌失認です。また、視力検査では問題が出にくく、「目が悪くなった」のではなく「見えたものを脳が結びつけられない」状態である点も、白内障などの視力低下とは区別されます。

相貌失認・街並失認への介護現場での配慮

道迷い・徘徊との関係と介護現場での配慮

街並失認があると、見慣れた景色を手がかりにできず道に迷いやすくなります。施設や在宅で「外に出たまま戻れない」「自分の居室がわからない」といった行動につながることがあり、いわゆる徘徊(ひとり歩き)の背景に街並失認が隠れている場合もあります。相貌失認があると、職員や家族の顔から相手を判断できず、知っている人なのに警戒したり、別の人と取り違えたりすることがあります。本人にとっては「景色が変わって見える」「知らない人に囲まれている」ように感じられ、不安や混乱が強まりやすいことを理解しておくことが大切です。

相貌失認のある人への配慮

  • 名乗ってから関わる:顔を見せれば伝わると考えず、「○○です」「いつもの担当の△△です」と毎回名前を伝えてから接します。
  • 顔以外の手がかりを残す:相貌失認があっても、声や話し方、髪型、服装、歩き方といった手がかりで人を見分けられることがあります。職員の名札を大きくする、特定の色のエプロンを使うなど、顔以外で「いつもの人」とわかる目印を工夫します。
  • 取り違えを責めない:別人と間違えても、本人を否定せず、さりげなく自分が誰かを伝え直します。

街並失認のある人への配慮

  • わかりやすい目印をつくる:居室の入口に本人の好きな写真や目立つ色の札を付ける、トイレや食堂までの動線に大きな表示を置くなど、景色そのものに頼らずに進める手がかりを用意します。
  • 移動に付き添う:道に迷いやすいことを前提に、外出時や慣れない場所への移動には付き添い、安心できる声かけを添えます。
  • 環境を変えすぎない:家具や掲示の配置を頻繁に変えると、わずかに残った手がかりまで失われます。配置はできるだけ一定に保ちます。

共通して大切なこと

相貌失認・街並失認は本人の努力不足や「わざと」ではなく、脳の働きによるものです。「さっき言ったでしょう」と問い詰めず、安心できる声かけと一貫した環境で、本人が混乱しないよう支えることが基本になります。気になる様子があれば、医師や看護師、リハビリ職と共有し、評価や対応を相談することが望まれます。

相貌失認・街並失認のよくある質問

よくある質問

相貌失認・街並失認は視力が悪いということですか。
いいえ。視力そのものは保たれていることが多く、眼鏡では改善しません。見えてはいるのに、それが誰か・どこかを脳が認識できない状態です。
家族の顔がわからないのは認知症だからですか。
相貌失認は認知症(とくにレビー小体型や後部皮質萎縮症)でも、脳卒中などでも起こります。背景の病気を確かめるため、気づいたら医師に相談することが大切です。
街並失認と道順障害は同じものですか。
違います。街並失認は建物や風景そのものを見分けられない症状で、視覚性失認の一種です。道順障害は、場所はわかっても方角や順路がわからなくなる症状で、別のしくみによるものとされています。
顔がわからなくても、相手を見分ける方法はありますか。
声や話し方、髪型、服装、歩き方といった顔以外の手がかりで見分けられることがあります。名乗ってから関わる、目立つ目印を使うといった工夫が役立ちます。
街並失認があると徘徊につながりますか。
見慣れた景色を手がかりにできないため、外出して戻れない、施設内で自分の居室がわからないといった行動につながることがあります。背景を理解し、目印や付き添いで安心して移動できるよう支えます。

相貌失認・街並失認の参考資料

相貌失認・街並失認のまとめ

まとめ

相貌失認は顔がわからなくなる、街並失認は風景や建物がわからず道に迷う、いずれも視覚性失認の一種です。視力ではなく「見えているのに認識できない」状態で、認知症や脳卒中の背景に隠れていることがあります。本人の不安を減らすには、名乗ってから関わる、顔以外の手がかりや目立つ目印を用意する、環境を変えすぎないといった配慮が役立ちます。気づいたら医師や多職種と共有し、安心して暮らせる関わりを整えていきましょう。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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