
転倒リスクアセスメントとは
転倒リスクアセスメントは高齢者の転倒しやすさを内的要因・外的要因の両面から多面的に評価する手法。スクリーニングから精査・予防対策へつなぐ基本モデル、代表的な評価ツール、現場での活かし方を解説します。
転倒リスクアセスメントの定義
転倒リスクアセスメントとは、高齢者がどれだけ転倒しやすいかを、本人の心身機能(内的要因)と生活環境(外的要因)の両面から多面的に評価する手法です。集団からハイリスク者を選び出す「スクリーニング」、要因を詳しく調べる「精査」、予防対策を導く「対策導出」、状態変化に応じた「再評価」という一連のプロセスで構成されます。
目次
転倒リスクアセスメントの概要と基本モデル
転倒リスクアセスメントとは何か
転倒リスクアセスメントは、転倒・転落の危険性(リスク)を事前に把握し、その結果にもとづいて予防の取り組みにつなげるための評価です。転倒は骨折や生活機能低下を招き、要介護や死亡の主要な原因になります。実際、わが国の地域高齢者では転倒の年間発生率が約10〜20%と報告され、転倒・転落による死亡は2002年に交通事故を抜いて不慮の事故死の第1位となりました(日本地域看護学会・国の白書統計)。だからこそ「転倒しやすい人に早く気づく」ことが、現場のリスクマネジメントの出発点になります。
アセスメントの4ステップ(基本モデル)
日本転倒予防学会の転倒・転落リスクアセスメントツール検討委員会は、次の流れを基本モデルとして提唱しています。
- スクリーニング:入院・入所時などに、集団から転倒ハイリスク者を選別する。
- 精査:選別されたハイリスク者について、転倒の要因を詳しく調べる。
- 対策導出:精査でわかった要因をもとに、介助者や本人が行える予防対策を導く。
- 再評価:状態変化に応じてリスク要因も変わるため、適宜やり直す(PDCAサイクル)。
アセスメントは一度きりではありません。ADLや身体機能に変化があったタイミングで繰り返し、そのときの状態に合った対策へ更新していくことが重要です。評価して終わりにせず、ケアプランへ反映し実践・再評価まで回さなければ、転倒予防にはつながりません。
転倒リスクの内的要因と外的要因
内的要因と外的要因に分けて捉える
転倒リスクは、本人側の内的要因と、環境側の外的要因に大別して整理します。多くの転倒はこれらが複数重なったときに起こるため、片方だけでなく両面を見ることが基本です。
内的要因(本人の心身機能)
- 転倒歴:過去6か月〜1年以内の転倒・転落歴は、最も強い予測因子のひとつ(入院患者の解析でオッズ比2.3前後)
- バランス・歩行障害:ふらつき、異常歩行、片足立ちの困難
- 筋力低下:下肢筋力やバランス能力の低下
- 認知機能・精神症状:認知症、判断力・注意力の低下、不穏・徘徊などのBPSD
- 感覚障害:視力・聴覚・平衡感覚の低下、足の感覚不良
- 排泄・夜間行動:頻尿、夜間トイレ、トイレ介助の必要性
- 薬剤:睡眠薬・安定剤、降圧・利尿剤、鎮痛薬など(多剤併用にも注意)
外的要因(生活環境・状況)
- 不十分な照明、滑りやすい床、小さな敷物やマット
- 通路の電気コード・障害物、段差
- 不慣れな環境(入院・入所直後など)
- 履物や着衣の裾、点滴ルート・歩行補助具の使い方
MSDマニュアルでも、環境の障害より「身体の状態(内的要因)」のほうが転倒リスクへの影響が大きいと整理されています。一方で外的要因は介入で取り除きやすいため、両者を組み合わせて対策を考えます。
転倒リスクアセスメントの代表的な評価ツール
代表的な評価ツールと使い分け
転倒リスクアセスメントは、目的(スクリーニングか精査か)や対象(病院・施設か地域か)によって複数のツールを使い分けます。日本転倒予防学会の調査では、回答者は平均約3個のツールを併用していました。大きく「チェックリスト形式」と「実測形式」に分かれます。
チェックリスト形式(主にスクリーニング)
- 転倒・転落アセスメント・スコアシート:日本看護協会が紹介する様式をベースに各施設が改変。国内の使用例の約55%を占める最も一般的なツール
- 泉らの転倒リスクアセスメントツール:研究で最も活用される標準的シート。「過去1〜2年の転倒経験」を重視
- Morse Fall Scale/STRATIFY:海外発でエビデンスが蓄積されたチェックリスト
- 転倒スコア(鳥羽ら):地域高齢者向け。内的・外的要因を22項目で総合評価
- 転倒等リスク評価セルフチェック票:本人が自己評価できる質問票(公的資料)
実測形式(主に精査)
実際に動作してもらいバランスや歩行を測る方法で、精査段階で使われます。代表例が次の3つです。これらは「特定の能力を測る個別の検査」であり、本ページで扱う「転倒リスクアセスメント」はこれらの検査やチェックリストを組み合わせて全体像を評価する枠組みという関係になります。
| ツール | 測るもの | 位置づけ |
|---|---|---|
| TUGテスト | 立ち上がり〜3m歩行〜着座の動作時間 | 移動能力のスクリーニング・精査 |
| BBS(バーグ・バランス・スケール) | 14項目のバランス能力(56点満点) | 静的・動的バランスの精査 |
| Tinetti(POMA) | バランス+歩行(28点満点) | 総合的な身体機能の精査 |
| SIDE・5回立ち上がりテスト | 静的バランス・下肢筋力 | ベッドサイドで簡便に実施 |
どのツールも感度・特異度に限界があり、スクリーニングだけで確定はできません。ハイリスクと判定したら、多職種で精査し、認知機能や身体機能を詳しく評価する流れが推奨されます。
転倒リスクアセスメントを現場で活かすコツ
アセスメントを予防につなげる実務のコツ
- 評価して終わりにしない:ハイリスクと判定したら、必ずケアプラン(看護・介護計画)に反映し、対策を実施・記録・再評価まで回す。
- 「○○禁止」より要因分析へ:「危ないから歩かせない」という後ろ向きの制限ではなく、なぜ転倒するのかを分析し、リハビリ・介助方法の工夫・環境調整で支える方向で考える。安易な行動制限は身体拘束につながりかねません。
- タイミングを決める:入院・入所時に加え、ADLや身体機能・薬剤に変化があったときに再アセスメントする。
- 自施設で検証する:他施設の様式を流用すると感度・特異度が担保されないことがある。自施設の転倒データと照合し、項目や配点を見直す。
- 多職種で共有する:看護師・介護職・PT/OT・薬剤師・医師でリスクと対策を共有し、カンファレンスやヒヤリハット分析につなげる。
転倒リスクアセスメントのよくある質問
よくある質問
転倒リスクアセスメントと転倒予防は何が違いますか?
転倒リスクアセスメントは「誰が・なぜ転倒しやすいかを評価する」段階、転倒予防は「評価結果をもとに対策を実施する」段階です。アセスメントは予防の前提であり、両者はPDCAでつながっています。
誰がアセスメントを行うのですか?
日本転倒予防学会の調査では、評価する職種で最も多いのは看護師、次いで理学療法士・作業療法士でした。実際にはスクリーニングを看護師が担い、精査や対策はPT/OTなど多職種チームで行う流れが一般的です。
どのツールを使えばよいですか?
絶対的な正解はありません。病院・施設用と地域高齢者用があり、対象集団に合わせて選びます。チェックリスト(スクリーニング)と実測テスト(精査)を組み合わせ、自施設の転倒データで妥当性を確認しながら使うことが推奨されます。
アセスメントはどのくらいの頻度で行いますか?
入院・入所などサービス開始時が基本で、その後はADLや身体機能、薬剤に変化があったタイミングで再評価します。一度の評価で固定せず、状態に応じて更新します。
チェックリストで点数が低ければ転倒しませんか?
いいえ。アセスメントツールはスクリーニング(ふるい分け)であり、感度・特異度に限界があります。低スコアでも転倒は起こり得るため、日々の観察や「ナースの直感」も併せて判断します。
転倒リスクアセスメントの参考資料
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転倒リスクアセスメントのまとめ
まとめ
転倒リスクアセスメントは、内的要因(心身機能)と外的要因(環境)の両面から転倒しやすさを多面的に評価し、スクリーニング→精査→対策導出→再評価のサイクルで予防につなげる手法です。TUG・BBS・Tinettiなどの個別検査やチェックリストを組み合わせ、ハイリスク者を早期に見つけて多職種で対策を講じることが、現場の転倒事故を減らす鍵になります。評価して終わりにせず、ケアプランへの反映と再評価まで回しましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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