
創傷ケアとは
創傷ケアは皮膚の傷を治癒に導く処置全般。高齢者では褥瘡・スキンテア・術後創が中心で、湿潤環境保持療法(モイストヒーリング)が標準。介護職と看護師の役割分担を解説。
この記事のポイント
創傷ケア(そうしょうけあ/Wound Care)とは、皮膚や軟部組織に生じた傷を治癒に導くための一連の処置・観察を指す。高齢者介護では褥瘡・スキンテア・術後創・下肢潰瘍が主な対象で、現在は乾燥させず適度な滲出液を保つ湿潤環境保持療法(モイストヒーリング)が標準。創部の評価や処置は看護師の業務で、介護職は予防的スキンケア・観察・報告を担う。
目次
創傷ケアの基本と現在の標準
創傷ケアは、皮膚や粘膜の損傷(創傷)に対し、感染を防ぎつつ正常な治癒過程を促す処置全般を指す。かつては「傷は乾かして消毒する」が常識だったが、1960年代以降、傷を湿潤に保つ方が上皮化が早いことが明らかになり、現在は湿潤環境保持療法(モイストヒーリング)が国際的な標準となった。創部の滲出液には線維芽細胞を活性化させるサイトカインや成長因子が豊富に含まれ、適度な湿潤下で肉芽形成と上皮化が円滑に進む。
高齢者介護現場で扱う主な創傷は、(1)圧迫による褥瘡、(2)摩擦・ずれで皮膚が裂けるスキンテア、(3)手術後の術後創、(4)糖尿病や血流障害による下肢潰瘍の4種類。いずれも加齢に伴う皮膚菲薄化・栄養低下・循環不全が共通の背景要因にあり、創ができてから処置するのではなく、発生させない予防ケアこそが介護現場の主戦場になる。
創傷治癒は「炎症期→増殖期→再構築期」の3段階で進行する。各段階で創部の色調・滲出液量・周囲皮膚の状態が変化し、ドレッシング材も使い分けられる。介護職が直接ドレッシング材を選択することはないが、創部の状態変化を看護師に正確に伝えることでケアの精度が大きく変わる。
高齢者に多い創傷の比較
高齢者に多い創傷の比較(褥瘡・スキンテア・術後創)
| 項目 | 褥瘡 | スキンテア | 術後創 |
|---|---|---|---|
| 主な原因 | 持続的圧迫・ずれ | 摩擦・引き剥がし | 手術による切開 |
| 好発部位 | 仙骨部・踵・大転子 | 前腕・下肢・手背 | 術式に依存 |
| 発症の速さ | 数時間〜数日 | 瞬時(外力時) | 術直後から |
| 評価ツール | DESIGN-R®2020 | STAR分類 | 創部観察項目(発赤・腫脹・滲出液・離開) |
| 予防の主軸 | 体位変換・除圧マットレス・栄養 | 保湿・長袖・四肢保護 | 感染管理・固定・離床支援 |
| 治癒期間目安 | ステージにより数週〜数ヶ月 | 適切処置で1〜3週間 | 抜糸まで7〜14日が目安 |
同じ「皮膚の傷」でも原因と進行が大きく異なるため、観察ポイントも処置内容も別物になる。介護職は「なぜその傷ができたか」を意識して報告するだけで、看護師の処置選択を助けられる。
介護職が関わる創傷ケアの流れ
厚生労働省「医師法第17条等の解釈について」(医政発0726005号、令和4年改正)により、介護職が単独で実施できる行為と、看護師に委ねるべき行為が区分されている。
- 予防スキンケア(介護職が主担当):入浴・清拭時の保湿剤塗布、衣服や寝具の摩擦軽減、体位変換、踵や仙骨部の除圧マットレス活用。
- 異変の早期発見(介護職):入浴・更衣・排泄介助時に発赤・水疱・表皮剥離・出血・滲出液を確認し、部位・大きさ・状態を看護師へ報告。写真記録があれば共有。
- 創部の評価(看護師):DESIGN-R®2020 等の評価ツールで重症度を採点し、ドレッシング材選定や処置方針を決定。必要時に医師へ報告し処方を依頼。
- 処置(看護師・医師):洗浄・デブリードマン・軟膏処置・ドレッシング材交換。褥瘡部位への軟膏塗布は医行為に該当するため介護職は単独実施不可。
- 処置後の継続ケア(介護職+看護師):体位変換スケジュール遵守、ドレッシング材の剥がれや汚染の確認、栄養摂取量の記録、家族への状況説明。
創傷のない健常皮膚への保湿剤・軟膏の塗布介助は介護職が実施可能だが、褥瘡部位など創部への軟膏塗布は医行為として明確に区別される点に注意したい。
観察と報告のコツ
- 「DESIGN-Rの数値」より「変化」を伝える:介護職は重症度採点を行わなくてよい。前日と比べて「広がった」「色が黒い」「臭いがある」など変化を具体的に伝える方が看護師の判断に直結する。
- 滲出液の量・色・臭いを記録:透明〜淡黄色は正常、緑黄色や悪臭は感染兆候。リネンや寝衣の汚染量で量を把握する。
- 創周囲皮膚も合わせて観察:発赤・浸軟(白くふやけた状態)・乾燥・かゆみは創部本体と同じくらい重要な情報。
- ドレッシング材の貼付期間を守る:剥がれや汚染がなければ自己判断で剥がさず、交換タイミングは看護計画に従う。
- 栄養を見落とさない:低アルブミン血症は治癒遅延の最大因子。食事摂取量や体重変化を必ず記録に残す。
よくある質問
- Q. 介護職員が利用者の傷に絆創膏を貼ってもよい?
- A. ごく小さな擦り傷など医師の判断が不要な軽微な創傷への絆創膏貼付は、原則として医行為に該当しないと整理されている。ただし褥瘡やスキンテア、滲出液のある創部はサイズに関わらず看護師の評価対象であり、独断で被覆せずまず看護師へ報告する運用が安全。
- Q. 健常な皮膚への保湿剤や軟膏の塗布は介護職でも可能?
- A. 創傷のない皮膚への保湿剤・市販軟膏の塗布介助は医行為に該当しない行為として認められている。一方で褥瘡部位への軟膏塗布は医行為として除外されており、創部への塗布は看護師が実施する。
- Q. 創部を消毒すべき?
- A. 現在の創傷ケアでは、感染兆候のない創部に消毒薬を使うと正常な細胞も傷害してしまうため、生理食塩水または水道水で十分に洗浄するのが原則。施設の手順や医師指示に従う。
- Q. ラップ療法は今でも標準?
- A. 安価な代替として一部で行われたが、感染リスク管理が難しく、現在は専用のポリウレタンフィルム・ハイドロコロイドなどの創傷被覆材使用が日本褥瘡学会ガイドラインで推奨されている。施設方針に従って判断する。
- Q. 褥瘡を見つけたら家族にどう説明する?
- A. 発見の事実と現在の処置体制を看護師・施設長と相談のうえ早期に伝える。隠さないこと、予防策と今後の計画を併せて説明することが信頼維持の鍵になる。
参考資料・出典
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」医政発0726005号(平成17年7月26日/令和4年12月一部改正)
- 厚生労働省「介護現場における医行為ではない行為の整理に関するガイドライン」(令和6年度老人保健健康増進等事業)
- 日本褥瘡学会『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』
- 日本創傷外科学会/日本創傷・オストミー・失禁管理学会「創傷ケアに関する公開情報」
- 日本褥瘡学会「DESIGN-R®2020 改定とその使用方法」
まとめ
創傷ケアは「乾かす・消毒する」から湿潤環境を保持するパラダイムへ移行し、ドレッシング材選択と継続観察が治癒スピードを決める時代になった。高齢者介護現場では褥瘡・スキンテア・術後創を発生させない予防ケアと、看護師への正確な変化報告こそが介護職の役割。医行為に該当する処置と該当しない介助の線引きを理解し、チームの一員として治癒過程を支えることが求められる。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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