
ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)とは
ACP(人生会議)は本人が望む医療・ケアについて家族や医療チームと繰り返し話し合うプロセス。厚労省2018年ガイドラインの定義、5ステップの進め方、リビングウィル・DNAR・遺言との違い、家族からの切り出し方を介護現場目線で解説。
この記事のポイント
ACP(アドバンス・ケア・プランニング、愛称「人生会議」)とは、自分が将来受けたい医療やケアについて、本人を主体に家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、その内容を共有しておく意思決定支援のプロセスです。厚生労働省が2018年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、同年「人生会議」という愛称を定め、毎年11月30日を「人生会議の日」としています。一度決めたら終わりではなく、心身の状態や価値観の変化に応じて何度も見直すのが特徴です。
目次
ACP(人生会議)の定義と背景
ACP(Advance Care Planning)は、もしものときに備えて、自分が望む医療やケア、最期を過ごしたい場所、大切にしたい価値観について、本人を中心に家族や近しい人、医療・ケアチームと「繰り返し」話し合っておくプロセスを指します。厚生労働省は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、ACPの考え方を正式に取り入れました。同年11月には国民への普及を目的に「人生会議」という愛称が決定し、毎年11月30日(いい看取り・看取られ)が「人生会議の日」として制定されています。
背景には、超高齢社会の進行と在宅・施設での看取りの増加があります。日本では年間約160万人が亡くなる「多死社会」を迎えつつあり、終末期に本人の意思を確認できなくなるケースが少なくありません。実際、人生の最終段階で約70%の人が自分で意思決定できない状態になるとされ、家族や医療者が「本人ならどうしたかったか」を推し量らざるを得ない状況が生まれます。ACPはこの「意思決定の空白」を防ぎ、本人の人生観に沿った医療・ケアを実現するための事前準備として位置づけられています。
ACPの核心は「一度決めて書類にする」ことではなく、対話のプロセスそのものにあります。健康状態や価値観は時間とともに変わるため、繰り返し話し合い、内容を更新していくことが推奨されています。話し合いの結果を文書化することも重要ですが、それ以上に「本人の思いを家族や医療者が共有している状態」を作ることが目的です。
ACPの進め方|5つのステップ
厚生労働省や各自治体が推奨するACPの基本的な流れは、次の5ステップで整理できます。一度に完結させる必要はなく、何度も行き来しながら進めるのが現実的です。
STEP1:考える(自分の価値観を整理する)
まず、自分が何を大切にして生きてきたか、これからどう過ごしたいかを振り返ります。「最期はどこで過ごしたいか(自宅・施設・病院)」「延命治療を望むか」「家族にどこまで負担をかけたいか」「人として大切にしたい時間や活動は何か」など、医療の話に限らず人生観そのものを言語化していきます。
STEP2:話し合う相手を選ぶ(信頼できる代弁者を決める)
自分が意思表示できなくなったとき、本人に代わって医療者と話し合ってくれる人(代弁者・代理意思決定者)を選びます。配偶者・子・きょうだいなど家族が一般的ですが、家族と疎遠な場合は信頼できる友人や成年後見人を指名することもあります。複数人と共有しておくと、後日の家族間トラブルを避けやすくなります。
STEP3:主治医・医療者から情報を得る
かかりつけ医や担当看護師、ケアマネジャーに、現在の病状・予後の見通し・選択肢となる治療やケアの内容を確認します。胃ろう、人工呼吸器、心肺蘇生、点滴による水分補給など、それぞれのメリット・デメリットを正しく理解することで、選択の精度が上がります。
STEP4:話し合う(家族・医療チームと共有する)
STEP1で整理した価値観と、STEP3で得た医療情報を踏まえ、家族と医療・ケアチーム(医師・看護師・ケアマネ・介護職)が同じテーブルで話し合います。「もし誤嚥性肺炎で意識が戻らなくなったら」「がんが進行して食事が摂れなくなったら」など、具体的な場面を想定すると議論が深まります。
STEP5:記録し、繰り返し見直す
話し合いの内容を「私の心づもりノート」「事前指示書」などの形で書き残し、家族・主治医・ケアマネと共有します。病状の進行や生活環境の変化、価値観の変化に応じて、半年〜1年ごと、または入院・状態変化のタイミングで見直すことが推奨されます。書類は「最終決定」ではなく、その時点でのスナップショットと捉えるのが適切です。
リビングウィル・DNAR・遺言との違い
ACPは「事前指示」と混同されがちですが、目的も法的位置づけも異なります。それぞれの違いを整理しておくと、家族で話し合う際の道具立てが明確になります。
| 項目 | ACP(人生会議) | リビングウィル | DNAR | 遺言 |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 医療・ケア全般 | 終末期の延命治療 | 心肺停止時の蘇生処置 | 財産・身分関係 |
| 形式 | 対話プロセス+記録 | 書面による意思表示 | 医師の指示書(カルテ記載) | 法的な書面(自筆証書遺言等) |
| 更新 | 繰り返し見直す前提 | 必要に応じて書き換え | 医療状況に応じて随時 | 新しい遺言で書き換え |
| 主体 | 本人+家族+医療チーム | 本人単独 | 本人の意向を踏まえ医師が指示 | 本人単独 |
| 法的拘束力 | なし(プロセス重視) | 日本では法制化なし | 医療現場で運用 | 民法上の効力あり |
| 効力発生 | 常時(話し合いの蓄積) | 意思表示できなくなった時 | 心肺停止時 | 死亡時 |
リビングウィルは「延命治療を望むか否か」を書面で表明する意思表示で、ACPの一部として作成されることもあります。DNAR(Do Not Attempt Resuscitation:蘇生処置を試みない指示)は心肺停止時の蘇生処置を行わないという医療現場の具体的な指示で、ACPでの本人の意向を踏まえて医師が記載します。遺言は財産分与や認知などを定める法的書面であり、医療・ケアとは目的が異なります。ACPはこれらを包含する「上位概念」として、本人の生き方そのものを話し合うプロセスです。
家族からACPを切り出すコツ|介護現場での活用ポイント
家族向け:自然に話し始める切り口
- ニュース・著名人の話題から:「テレビで看取りの話をやっていたけど、お父さんはどう思う?」など、第三者の事例を入り口にする。
- 年中行事や節目のタイミングで:誕生日、お盆、正月、入院・退院、介護保険更新時など、自然に将来の話に触れやすいタイミングを選ぶ。
- 「もしも」のレベルから入る:「もし入院することになったら」「もし食事が摂れなくなったら」と仮定形で話すと、本人の身構えが解けやすい。
- 結論を急がない:「決めよう」ではなく「聞かせてほしい」のスタンスで臨み、1回で完結させない。
介護職向け:現場での支援の視点
- サービス担当者会議を活かす:ケアプラン更新時に、本人・家族の価値観や望む暮らし方を改めて確認する場として使う。
- 「望まないこと」も聞き取る:「やりたいこと」だけでなく「絶対にされたくないこと」を把握すると、緊急時の判断材料になる。
- 本人の言葉をそのまま記録する:解釈や要約せず、本人の表現で残しておくと、後日家族・医療者と共有する際の信頼性が高まる。
- 多職種で共有する:訪問看護・主治医・ケアマネ・施設職員が同じ情報を持つことで、急変時に本人意向に沿った判断がしやすくなる。
切り出すタイミングの目安
「元気なうち」が最も理想的ですが、現実的には①介護保険申請時、②入院・退院時、③要介護度の変化時、④主治医から予後の説明があったとき、⑤本人が「もしものとき」を口にしたとき、などが自然なきっかけになります。緩和ケアや在宅看取りを検討する段階に入ったら、ACPは「するかどうか」ではなく「どう進めるか」のフェーズと考えるとよいでしょう。
ACP(人生会議)のよくある質問
Q1. ACPはいつから始めればよいですか?
「元気なうち」が理想とされ、特に病気の有無にかかわらず40〜50代から考え始めることが推奨されています。現実的には、介護保険申請時、入院・退院時、要介護度の変化時、主治医から予後の説明を受けたときなど、生活の節目が自然なきっかけになります。「もう遅い」ということはなく、今からでも始められます。
Q2. 話し合った内容に法的拘束力はありますか?
ACPそのものに法的拘束力はありません。ただし、繰り返し話し合った内容や記録は、医療者が本人の意思を推し量るうえで最も重要な手がかりになります。日本では「事前指示書」も法制化されていませんが、厚労省ガイドラインに沿った話し合いと記録があれば、医療現場で本人意向として尊重されるのが一般的です。
Q3. 本人が認知症になってしまった場合でもACPは可能ですか?
軽度・中等度の認知症であれば、本人の意思確認は十分可能です。重度に進行した場合は、過去に本人が表明してきた価値観や、家族・関係者の知る本人の人柄から「本人ならどう判断するか」を推定する形になります。だからこそ、認知症と診断される前、または初期段階でACPを始めておくことが重要です。
Q4. 家族の意見と本人の意向が食い違ったらどうしますか?
ACPの主体はあくまで本人です。家族の意向は重要な参考情報ですが、本人の意思を上書きするものではありません。医療・ケアチームを交え、なぜ家族がそう考えるのか・なぜ本人がそう望むのかを丁寧に共有し、双方が納得できる落としどころを探るのがACPの本来の進め方です。
Q5. 緩和ケアや在宅看取りとACPはどう関係しますか?
緩和ケアは「苦痛を和らげる医療」、在宅看取りは「最期を自宅で過ごす選択」を指し、いずれも本人がどう過ごしたいかを前提に成立します。ACPはこれらを選ぶための「土台となる話し合い」です。ACPで本人の希望が明確になっていれば、緩和ケアへの移行や在宅看取り体制の構築もスムーズに進みます。
参考資料
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まとめ
ACP(人生会議)は、本人が望む医療・ケアを実現するための「対話のプロセス」です。一度書類を作って終わりではなく、価値観や状態の変化に合わせて何度も見直すことが本質となります。家族にとっては、本人の思いを知ることで「これでよかったのか」という後悔を減らすための備えにもなります。介護現場では、サービス担当者会議や日々の関わりを通じて、本人の言葉を丁寧に拾い上げることがACP支援の第一歩です。元気な今だからこそ、信頼できる人とテーブルを囲み、「自分はどう生きたいか」を語り合うところから始めてみてください。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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