
CDRとは
CDR(Clinical Dementia Rating/臨床的認知症尺度)は、記憶・見当識・判断力など6領域を診察と家族からの聴取に基づき評価し、0〜3の5段階で認知症の重症度を判定する観察式スケールです。MMSEやHDS-Rとの違い、各段階の意味を解説します。
この記事のポイント
CDR(Clinical Dementia Rating/臨床的認知症尺度)とは、記憶・見当識・判断力など6領域を診察所見と家族からの聴取に基づき評価し、認知症の重症度を 0(健康)/0.5(疑い・MCI)/1(軽度)/2(中等度)/3(重度) の5段階で判定する観察式スケールです。1980年代から世界中で使われ、診断ではなく重症度判定とケアプラン立案に用いられます。
目次
CDRの概要と位置づけ
CDR(Clinical Dementia Rating)は、1982年に米国ワシントン大学アルツハイマー病研究センターのHughesらによって開発された認知症重症度評価スケールです。日本語では「臨床的認知症尺度」「臨床認知症評価尺度」と訳され、本人への質問式検査ではなく、医師の診察所見と家族・介護者からの聴取情報を組み合わせて評価する 半構造化面接(観察法) である点が大きな特徴です。
CDRは認知症の「診断」を行うためのものではありません。すでに認知症が疑われる、あるいは診断された人について、その重症度を均一な物差しで評価し、ケアプランや支援内容を組み立てるための共通言語として活用されます。MMSEやHDS-Rなどの神経心理検査が「点数」で能力低下を可視化するのに対し、CDRは 日常生活への影響度 から重症度を捉える点が強みです。
国内の認知症疾患医療センターや物忘れ外来、治験・臨床研究、介護現場での状態把握など幅広く使われており、近年は新規アルツハイマー病治療薬(レカネマブ等)の適応判定でも軽度認知障害(MCI)相当のCDR 0.5〜1が重要な指標となっています。
CDRが評価する6つの領域
CDRは以下の6領域について、本人の様子と家族・介護者からの聴取をもとに それぞれ0/0.5/1/2/3の5段階 で評価し、最終的に全体の重症度(Global CDR)を判定します。
- 記憶(Memory):最近の出来事を覚えていられるか、繰り返し同じ話をしないか。CDRでは記憶を最重要領域として、原則的に他5領域より重く扱う「Memory rule」が採用されている。
- 見当識(Orientation):今日が何月何日か、いる場所がどこか、目の前の人が誰かを正しく把握できるか。
- 判断力と問題解決(Judgment & Problem Solving):日常で生じるトラブルへの対応、金銭管理、社会的・倫理的判断ができるか。
- 社会適応(Community Affairs):仕事・買い物・ボランティアなど家庭外の活動を1人でこなせるか、地域とのつながりを維持できるか。
- 家庭状況および趣味・関心(Home & Hobbies):家事・趣味・読書・テレビ視聴など家庭内の活動が以前と同じレベルで継続できているか。
- 介護状況(Personal Care):食事・着替え・整容・排泄など身の回りのことを自立して行えるか、介助の必要度はどの程度か。
このうち 「記憶」を主領域(primary category) 、それ以外の5領域を副領域(secondary category)とし、副領域の評価が分かれた場合は記憶領域の評価に多数派を合わせるアルゴリズムでGlobal CDRを決定します。
CDR 0〜3の判定基準と意味
Global CDRは 0/0.5/1/2/3の5段階 で表されます。各段階の概要は次のとおりです。
| 段階 | 呼称 | 状態の目安 |
|---|---|---|
| CDR 0 | 健康 | 記憶障害なし。日常生活・社会活動・身の回りのことすべて完全に自立しており、年齢相応の物忘れの範囲。 |
| CDR 0.5 | 認知症の疑い/MCI | 軽度の物忘れや判断力低下があるが、日常生活はおおむね自立。軽度認知障害(MCI)に相当することが多く、近年は認知症の前駆段階として特に重視される。 |
| CDR 1 | 軽度認知症 | 記憶障害が明らかで日常生活にも支障が出始める。家事や趣味は単純化され、買い物や金銭管理など複雑な活動で介助や見守りが必要になる。 |
| CDR 2 | 中等度認知症 | 記憶は断片的にしか保持できず、見当識障害も顕著。家庭内の活動はごく簡単なものに限られ、外出・社会活動はほぼ不可能。身の回りのことにも声かけや部分介助が必要。 |
| CDR 3 | 重度認知症 | 家族の認識も曖昧で、ほとんどの日常生活動作に全介助が必要。意思疎通も困難になり、施設や常時介護を前提とした生活となることが多い。 |
臨床現場では「CDR 0.5以上をMCI、CDR 1以上を認知症」として捉えることが一般的です。さらに研究や薬剤治験では、各領域のスコアを合計した CDR-SB(Sum of Boxes、0〜18点) を用い、より細かい重症度の連続変化を追跡することもあります。
MMSE・HDS-Rとの違い
認知症を評価する代表的なツールには、CDRのほかにMMSE(Mini-Mental State Examination)と 改訂長谷川式(HDS-R) があります。それぞれ役割と評価の切り口が異なります。
| 指標 | CDR | MMSE | HDS-R |
|---|---|---|---|
| 形式 | 半構造化面接(観察法) | 本人への質問式検査 | 本人への質問式検査 |
| 情報源 | 本人の診察+家族・介護者からの聴取 | 本人への直接検査 | 本人への直接検査 |
| 得点化 | 0/0.5/1/2/3の段階評価 | 30点満点の総得点 | 30点満点の総得点 |
| 主な目的 | 重症度の判定とケアプラン立案 | スクリーニングと経過観察 | スクリーニングと経過観察 |
| カットオフ | 0.5=MCI、1以上=認知症 | 23点以下で認知症疑い | 20点以下で認知症疑い |
| 所要時間 | 30〜45分程度 | 10〜15分 | 5〜10分 |
つまり MMSE やHDS-Rは「本人がどれだけ答えられるか」を点数で測るスクリーニング検査、CDRは「日常生活でどの程度の支障があるか」を観察と聴取から段階評価する重症度尺度、という関係になります。実務上は両者を併用し、検査結果と生活実態の双方から認知症像を立体的に捉えることが推奨されます。
介護現場でのCDRの活用ポイント
CDRは医師や臨床心理士が実施する評価ですが、介護職や家族にとっても結果を読み解くことには意味があります。実務での活用ポイントは次のとおりです。
- ケアプランの粒度を合わせる:CDR 1の方には「複雑な家事や金銭管理の支援」、CDR 2の方には「身の回り動作の声かけ・見守り」、CDR 3の方には「全介助+安全確保」というように、重症度ごとに介入の重心が変わる。
- 家族との共通言語にする:「中等度認知症(CDR 2)です」と段階で伝えることで、家族も今後の生活変化や利用可能なサービスをイメージしやすくなる。
- 変化の早期察知:半年〜1年ごとにCDRを再評価することで、CDR 0.5→1への移行など重症度の変化を早期に捉え、サービス追加や入居検討のタイミング判断材料にできる。
- BPSD評価とセットで考える:CDRは認知機能と生活障害を見る尺度であり、徘徊や攻撃性などの行動・心理症状(BPSD)は別軸で評価する必要がある。両方を組み合わせることで現場ニーズが明確になる。
- 新薬適応の判断材料:レカネマブなど早期アルツハイマー病治療薬の適応はCDR 0.5〜1(軽度認知障害〜軽度認知症)が中心となるため、地域の物忘れ外来との連携で重要な指標となる。
CDRに関するよくある質問
- Q. CDRはどこで受けられますか?
- A. もの忘れ外来や認知症疾患医療センター、精神科・神経内科などで医師・臨床心理士が実施します。診療報酬上は「認知症スクリーニング検査」として算定されることが多く、本人が直接申し込むというよりは診察の流れの中で行われます。
- Q. CDR 0.5と診断されました。認知症ですか?
- A. CDR 0.5は 軽度認知障害(MCI) 相当とされ、認知症の前段階と位置づけられます。約半数は数年以内に認知症に進行する一方、健常レベルに戻るケースもあります。生活習慣の見直しや定期的な再評価が重要です。
- Q. CDRとMMSEはどちらが正確ですか?
- A. 目的が異なるため優劣ではなく相補関係です。MMSE は本人の認知機能を点数で測るスクリーニング、CDRは日常生活への影響度から重症度を段階評価する尺度であり、両方併用して総合的に判断するのが一般的です。
- Q. CDR-SBとは何ですか?
- A. 6領域それぞれのスコア(0/0.5/1/2/3)を単純合計した0〜18点のスコアで、CDR Sum of Boxesの略です。Global CDRより細かい変化を捉えられるため、臨床試験や認知症進行のモニタリングに広く用いられています。
- Q. CDRは要介護認定の代わりになりますか?
- A. なりません。要介護認定は身体機能や生活全般を含む別制度の判定です。ただしCDR重症度は主治医意見書や認定調査の参考情報として活用されることがあり、両者を組み合わせて支援内容を設計します。
参考文献・出典
- [1]Hughes CP, Berg L, Danziger WL, et al. A new clinical scale for the staging of dementia. Br J Psychiatry. 1982;140:566-572.- British Journal of Psychiatry
CDR(Clinical Dementia Rating)の原著論文。6領域・5段階評価の元となった1982年の論文。
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
まとめ
CDR(Clinical Dementia Rating)は、記憶・見当識・判断力・社会適応・家庭状況・介護状況の 6領域 を診察と家族からの聴取で評価し、0/0.5/1/2/3の5段階 で認知症の重症度を判定する観察式スケールです。MMSEやHDS-Rが「本人の能力」を点数で測るのに対し、CDRは「日常生活への影響度」から段階を決めるため、ケアプラン立案や家族との情報共有に直結する尺度といえます。介護現場では結果を読み解き、各段階に応じた支援設計と再評価のリズムを持つことが、本人と家族の生活の質を支える鍵になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
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