中心静脈栄養(TPN)とは
介護職向け

中心静脈栄養(TPN)とは

中心静脈栄養(TPN)は消化管が使えない患者に高カロリー輸液を中心静脈から投与する栄養療法。在宅TPN(HPN)の導入流れ・経管栄養との違い・介護現場での観察ポイントを解説。

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この記事のポイント

中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)は、鎖骨下静脈などの中心静脈に留置したカテーテルから高カロリー輸液を投与し、消化管を使わずに必要な栄養素を補給する栄養療法です。短腸症候群・腸閉塞・重症炎症性腸疾患など「腸が使えない」患者が対象で、在宅で実施する場合は在宅中心静脈栄養法(HPN)と呼ばれ、1985年から保険適用されています。介護現場ではカテーテル挿入部の感染兆候観察と家族支援が看護・介護職の重要な役割になります。

目次

中心静脈栄養(TPN)とは・対象者・経管栄養と何が違うか

中心静脈栄養(TPN)は、心臓に近い太い静脈(鎖骨下静脈・内頚静脈・大腿静脈など)にカテーテルを挿入し、高濃度のブドウ糖・アミノ酸・脂質・電解質・ビタミン・微量元素を含む高カロリー輸液を投与する栄養療法です。日本臨床栄養代謝学会(旧 日本静脈経腸栄養学会/JSPEN)の「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」では、栄養療法の大原則として「腸が働いているなら、腸を使おう」と明記されており、TPNは経口・経管栄養が困難または消化管が安全に使えない場合の最終手段として位置づけられています。

末梢静脈栄養(PPN)が約840kcal/日(脂肪乳剤併用で1,200kcal/日)までしか投与できず、2週間以内の短期使用に限定されるのに対し、TPNは高濃度輸液で1日2,000kcal以上の必要栄養量を確保でき、長期にわたる栄養管理が可能です。在宅で実施する形態を在宅中心静脈栄養法(HPN:Home Parenteral Nutrition)と呼び、療養者を入院から解放してQOLを高める目的で1985年に保険適用、1994年に対象疾患の制限が撤廃されて以降、悪性疾患終末期にも適用が広がっています。

経管栄養との最大の違いは「消化管を通すか通さないか」です。経管栄養(経鼻胃管・胃瘻・腸瘻)は消化管機能が保たれている患者に栄養剤を直接消化管へ送り込みますが、TPNは消化管をバイパスして血管から直接栄養を補給します。腸を使わないことで腸粘膜萎縮・bacterial translocation(腸内細菌の血中移行)のリスクが上がるため、可能な範囲で少量の経口摂取を併用する施設が増えています。

TPNの主な適応疾患

TPNは「消化管が使えない/使うべきでない」病態が対象です。JSPENガイドラインおよびPDNレクチャーで示されている代表的な適応は以下のとおりです。

絶対適応(TPNでなければ栄養維持できない)

  • 短腸症候群:小腸の大量切除後で吸収面積が著しく不足するケース。
  • 消化管閉塞(イレウス):腸閉塞・癒着性イレウス等で消化管が通過しない状態。
  • 重症の炎症性腸疾患:クローン病・潰瘍性大腸炎の急性増悪期で腸管安静が必要な場合。
  • 消化管瘻・縫合不全:消化液漏出があり経腸栄養を行えないケース。
  • 重症急性膵炎:膵臓の安静が必要で経腸栄養が困難な急性期。
  • 放射線性腸炎・難治性下痢:吸収障害が高度で経腸栄養では栄養を維持できないケース。

相対適応(他の栄養法と併用が原則)

  • 悪性疾患終末期で経口摂取が困難な患者
  • 化学療法・放射線療法中で消化器症状が強い患者
  • 周術期・重症感染症・多臓器不全など全身状態が不安定な患者

原則禁忌

  • 脳血管疾患(脳出血・脳梗塞)など神経・脳疾患のみで消化管が使える患者
  • 短期間の経口摂取障害で栄養状態が良好な周術期患者

在宅中心静脈栄養(HPN)導入の流れ

HPNを導入するには、入院中に病状が安定し、患者・家族が手技を習得していることが前提です。一般的な導入ステップは次のとおりです。

  1. 導入適応の評価:主治医・NST(栄養サポートチーム)が「経腸栄養不可」「長期にわたる栄養維持が必要」「在宅環境で安全に管理可能」の3条件を確認します。
  2. 中心静脈アクセスの選択:体外式カテーテル(Broviac/Hickman)または皮下埋め込み式CVポート(CVAP)を留置します。長期HPNでは感染リスクが低いCVポートが第一選択です。
  3. 退院前指導:患者・家族に対し輸液バッグの取り扱い、ヒューバー針交換(週1回程度)、ポート部消毒、輸液ポンプ操作、廃棄物処理を入院中に繰り返し練習させます。
  4. 在宅医療体制の整備:在宅療養支援診療所・訪問看護ステーション・薬局(無菌調剤対応)・保険会社のフォローアップを契約します。
  5. 退院・初回訪問:退院当日または翌日に訪問看護師が訪問し、輸液開始・物品配置・緊急時連絡網を最終確認します。
  6. 定期フォローアップ:訪問看護で週1〜2回の観察、外来受診で月1回程度の採血・輸液処方見直しを継続します。

診療報酬上は2022年度改定で新設された在宅中心静脈栄養法加算150点のほか、在宅静脈栄養法指導管理料(3,000点/月)、在宅中心静脈栄養法用輸液セット加算(2,000点/月)、在宅持続注入ポンプ加算(1,250点/2か月)が算定可能です。

保険適用の歴史と在宅TPNの広がり

在宅中心静脈栄養法(HPN)の保険適用は段階的に拡大されてきました。日本病院薬剤師会・薬局向け解説資料および医療経営系資料を整理すると、制度面の歩みは次のように整理できます。

  • 1985年:HPNが在宅医療として初めて保険適用に。当初は短腸症候群など限定的な疾患のみが対象。
  • 1992年:悪性疾患(がん末期等)が対象疾患に追加され、終末期がん患者の在宅療養支援が現実的になる。
  • 1994年:適用疾患の制限が原則撤廃。「経腸栄養が困難で長期の栄養管理が必要な患者」全般がHPN対象に。
  • 2022年度診療報酬改定:薬局向けに在宅中心静脈栄養法加算(150点)が新設され、薬局薬剤師による訪問・配合変化指導が制度化。
  • 2024年度診療報酬改定:在宅静脈栄養法指導管理料の見直しと、無菌調剤対応薬局・訪問看護ステーション連携の評価強化が継続。

厚生労働省の患者調査でHPN実施患者数の公表値は限定的ですが、PDNレクチャーや日本臨床栄養代謝学会の総説では、本邦のHPN療養者は数千人規模で推移しており、特に消化管悪性腫瘍術後・短腸症候群・神経変性疾患の終末期で導入が増加している実態が示されています。

経管栄養・末梢静脈栄養(PPN)・中心静脈栄養(TPN)の比較

栄養療法の選択は「消化管が使えるか」「必要なエネルギー量」「投与期間」で決まります。介護現場で利用者の栄養法を理解するために、3つの代表的方法を整理しました。

項目経管栄養(経鼻・胃瘻・腸瘻)末梢静脈栄養(PPN)中心静脈栄養(TPN/HPN)
投与経路消化管手・腕などの末梢静脈鎖骨下・内頚静脈・CVポート
消化管使用使う使わない使わない
1日エネルギー1,200〜2,000kcal約840kcal(脂肪併用で1,200)2,000kcal以上可能
想定投与期間長期可2週間以内長期(在宅で年単位も可)
主な合併症下痢・誤嚥・チューブ閉塞血管痛・静脈炎カテーテル感染・気胸・高血糖
介護現場での観察ポイント注入速度・嘔吐・胃残量刺入部発赤・点滴漏れカテ刺入部の感染兆候・発熱

JSPENガイドラインでは「腸が機能している限り経腸栄養を第一選択にする」と明記されています。経管栄養が困難になった段階で初めてTPNが検討されるため、訪問看護・介護職は「なぜ経管ではなくTPNなのか」の臨床的理由を把握しておくと、家族への説明やリスク観察に活かせます。

中心静脈栄養(TPN)に関するよくある質問

Q1. 介護施設で在宅中心静脈栄養(HPN)の利用者を受け入れられますか?

A. 特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・グループホームでの受け入れは、看護師の配置時間とカテーテル管理体制によって判断が分かれます。訪問看護との契約や24時間対応の在宅医がいることが受け入れの前提となるケースが多く、施設長・看護管理者・在宅医・薬局による事前カンファレンスでルートを確定する流れが一般的です。

Q2. 介護職員はカテーテルに触れて良いのですか?

A. 輸液ラインの接続・抜針・薬剤交換は医行為で看護師の業務範囲です。介護職員は体位変換時にカテーテルを引っ張らない輸液バッグの落下高さを保つ滴下停止アラーム時に看護師へ連絡するなどの「触らないけれど見守る」役割が中心となります。

Q3. TPN患者が発熱したらどう対応すべきですか?

A. カテーテル関連血流感染(CRBSI)の可能性があり、敗血症に進展しうるため緊急対応が必要です。バイタルサイン測定・刺入部の発赤腫脹確認のうえ、訪問看護師・在宅医に即時連絡してください。「発熱=抗菌薬」で済まないため、自己判断でカロナール等を投与せず指示を仰ぎます。

Q4. TPNで口から食べる楽しみはなくなりますか?

A. 嚥下機能が保たれていれば、誤嚥リスクを評価したうえで少量の経口摂取を併用する施設が増えています。腸粘膜を維持し、患者本人と家族の食の楽しみを守る観点でも、医師の許可範囲内で「味わう量」を取り入れる動きが広がっています。

Q5. 在宅TPNの費用はどれくらいかかりますか?

A. 医療保険の自己負担分(1〜3割)に加え、輸液・物品・訪問看護費用が発生します。高額療養費制度・障害者医療費助成・小児慢性特定疾病医療費助成などの公費制度を組み合わせると、世帯所得に応じた自己負担上限額に抑えられます。介護保険ではなく医療保険の範疇です。

参考資料

まとめ

中心静脈栄養(TPN)は「腸が使えない」患者の生命線となる栄養療法であり、在宅で実施するHPNは1985年の保険適用以降、対象疾患の拡大と診療報酬上の評価強化によって徐々に普及してきました。介護現場でTPN・HPN療養者を支える際には、(1) なぜ経管ではなくTPNなのかという臨床判断の背景、(2) カテーテル関連血流感染を疑う発熱への即時対応、(3) 看護師・在宅医・薬局との多職種連携――の3点を押さえると、家族支援と急変対応の質が大きく変わります。栄養法は単なる医療処置ではなく、療養者と家族の生活そのものを左右する選択であることを忘れずに支援に当たりたい用語です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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