デプリスクライビングとは

デプリスクライビングとは

デプリスクライビングは高齢者の処方薬を計画的に見直し・減量・中止する段階的プロセス。厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、ポリファーマシー対策として5剤以上の併用薬を多職種で評価する流れと介護現場での観察ポイントを解説する。

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この記事のポイント

デプリスクライビング(Deprescribing)とは、高齢者の処方薬を医師・薬剤師・多職種で計画的に見直し、不要・有害となった薬剤を減量または中止していく段階的なプロセスのこと。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」(2018年総論編・2019年各論編、2024年通知更新)が示すポリファーマシー対策の中核概念で、単なる薬剤数の削減ではなく、有害事象の予防とQOL維持を目的とする。

目次

デプリスクライビングとは|医師が患者と協働して薬を『減らす』医療

デプリスクライビング(Deprescribing)は、不適切と判断された薬剤の減量・中止を医療者と患者が協働して計画的に行うプロセスです。2003年に学術用語として登場し、欧米では2010年代後半に体系化、日本では厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年)で公式に推奨されました。

背景には、高齢者のポリファーマシー(多剤併用)の問題があります。日本の75歳以上では約4割が6剤以上を服用しており、薬剤性の有害事象(転倒、認知機能低下、せん妄、低血糖、消化管出血など)のリスクが高まります。「飲み始めた」薬を「やめる」のは「処方する」より難しく、デプリスクライビングはその難しさに専門的にアプローチする方法論です。

「服薬を減らす」ではなく「本人の生活の質を最大化するために薬を見直す」のが本質。介護現場では、訪問薬剤管理指導・お薬手帳の一元化・服薬カレンダーの導入と並行して進められます。

日本のポリファーマシー実態|75歳以上の4割が6剤以上を服用

デプリスクライビングの必要性を理解するには、日本の高齢者がどれだけ多剤併用にさらされているかを押さえておく必要がある。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」(2018年)が引用する各種データを整理する。

年齢別の処方薬剤数の傾向

  • 75歳以上の外来患者の約4割が6剤以上を併用(厚労省指針 総論編、レセプトデータ集計)
  • 65〜74歳でも約3割が5剤以上を服用。慢性疾患の併存数とともに薬剤数も増える傾向
  • 処方薬剤数6種類以上で薬物有害事象の頻度が約1.5倍に増加(東京大学病院老年病科外来データ、厚労省指針引用)
  • 5剤以上で転倒リスクが有意に上昇することが複数の研究で報告されている

薬剤起因性老年症候群の代表例

厚労省指針では、加齢に伴う症状と区別しにくいが薬剤が原因となりうる症候群を「薬剤起因性老年症候群」として整理している。

  • ふらつき・転倒: 睡眠薬・抗不安薬・降圧薬・利尿薬
  • 記憶障害・せん妄: 抗コリン作用薬・H2受容体拮抗薬・ベンゾジアゼピン系
  • 抑うつ: 中枢性降圧薬・β遮断薬・ステロイド
  • 食欲低下: NSAIDs・SSRI・コリンエステラーゼ阻害剤
  • 便秘: オピオイド・抗コリン薬・カルシウム拮抗薬
  • 排尿障害: 抗コリン薬・α遮断薬

これらは「歳のせい」と片付けられがちだが、デプリスクライビングで原因薬剤を特定・調整することで改善する余地が大きい。介護現場が観察事実を医療職に共有する意義はここにある。

デプリスクライビングの5ステップ

デプリスクライビングは思いつきの減薬ではなく、確立された手順に沿って進める方法論。Scott IAらが提唱し、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」(2018年)でも基本的な流れとして示されている。

  1. すべての服用薬を把握: お薬手帳・処方箋・サプリ・市販薬(OTC)まで一覧化する。複数医療機関を受診している場合は「お薬手帳の一元化」が出発点。薬剤師・訪問薬剤師が中心となって整理する
  2. 各薬剤のリスク評価: STOPP/START、Beers基準、日本老年医学会「特に慎重な投与を要する薬物」リストなどのスクリーニングツールを用いて「やめるべき候補」「むしろ追加すべき候補」を抽出する
  3. 本人・家族・主治医と協議: 候補薬の中止理由・期待される効果・離脱症状のリスクを丁寧に説明し、SDM(共同意思決定)で合意する。本人の希望や生活目標を尊重するのが原則
  4. 段階的減量・中止の実行: 急に止めると離脱症状が出る薬は時間をかけて減らす。代表例はベンゾジアゼピン系(不安・不眠・けいれん)、SSRI(離脱症候群)、ステロイド(副腎不全)、PPI(リバウンド分泌)など
  5. 経過観察と再評価: 中止後2〜4週で症状再燃や離脱症状の有無をチェック。問題があれば再開や代替治療を検討し、なければ次の候補薬へ進む。記録は次の見直しの根拠になる

デプリスクライビングと『単なる減薬』の違い

「薬を減らす」という結果だけ見ると同じに見えるが、デプリスクライビングは方法論・主体・記録の3点で「単なる減薬」と明確に異なる。

項目デプリスクライビング単なる減薬
主体医師・薬剤師・本人・家族の協働医師の判断のみ
評価ツールSTOPP/START、Beers基準、日本老年医学会リスト主観的判断
合意形成SDM(共同意思決定)で本人・家族と決定事後説明のみ
離脱症状管理段階的減量+経過観察プラン急な中止になりがち
記録中止理由・代替手段・経過を明確に残す「中止」とだけ記載
多職種連携薬剤師・看護師・介護職・ケアマネが関与処方箋上の操作で完結

違いの本質は「本人の生活の質を最大化するための薬剤計画」として扱うかどうか。剤数の削減そのものではなく、QOL維持・有害事象予防というゴール設定が共有されている点が重要となる。

介護職が現場で気づけるデプリスクライビング候補のサイン

  • 転倒の頻度が増えた → 睡眠薬・抗不安薬・降圧剤の過量を疑う
  • 食欲低下・体重減少 → 制酸薬・SSRI・コリンエステラーゼ阻害剤の副作用を疑う
  • 夜間せん妄・日中傾眠 → 抗ヒスタミン・抗コリン作用薬・睡眠薬を疑う
  • 飲み残しが多い → 本人が「効いていない」「副作用が気になる」と感じているサイン
  • 6剤以上で症状が悪化傾向 → ポリファーマシーが進行している可能性

気づいたらサービス担当者会議で主治医・薬剤師に共有することが介護職の役割。直接「やめさせる」のではなく、専門職に判断材料を提供します。

よくある質問

Q1. 介護報酬での評価はありますか?
A. 直接の加算ではありませんが、訪問薬剤管理指導・居宅療養管理指導の枠内で実施されます。ケアプランに「服薬管理」目標を入れることが多いです。
Q2. 家族が「先生の処方なんだから減らさないで」と反対します
A. 「やめる」のではなく「本人の生活を良くするための見直し」というメッセージで、SDMの場を作ることが重要です。薬剤師が同席すると説得力が増します。
Q3. 中止後にすぐ症状が戻ったら?
A. 段階的減量の途中で再開する判断は主治医の範囲です。介護職は経過観察記録(バイタル・行動・食事・睡眠)を細かく残すことで貢献できます。

まとめ

デプリスクライビングは、ポリファーマシーが進行する高齢者ケアにおいて「やめる勇気」を体系化した医療プロセスです。介護職は転倒・食欲・行動変化のサインに気づき、薬剤師・主治医に共有することで、本人の生活の質を高めるチームの一員になれます。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

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