
ジェノグラムとは
ジェノグラムは3世代以上の家族関係を標準記号で図示する家族療法発祥のアセスメントツール。書き方・記号・エコマップとの違い・認知症ケア/ヤングケアラー可視化での活用までケアマネ実務目線で解説。
この記事のポイント
ジェノグラム(Genogram)とは、利用者を中心に祖父母世代から孫世代までの3世代以上を、男性□・女性○・婚姻実線・離別二重斜線などの標準記号で図示する家族構造アセスメントツールです。1985年にMcGoldrickとGersonがボーエン家族療法を体系化して以降、医療・心理・社会福祉領域に広がり、ケアマネジメントの基本シートとして用いられています。
目次
家族療法から発展した3世代家族図
ジェノグラムは、米国の精神科医Murray Bowenが1970年代に提唱した「ボーエン家族療法(Bowenian Family Therapy)」の中核ツールである family diagram を起源とします。ボーエンは、個人の問題を切り離して捉えるのではなく、多世代にわたる家族システムのなかで生じる情緒的相互作用として理解しようとし、3世代を一望できる図を治療面接に持ち込みました。
1985年、Monica McGoldrickとRandy Gersonは『Genograms in Family Assessment』(W.W. Norton社)で記号体系を体系化し、現在では世界中の医療・看護・社会福祉教育で標準的なアセスメント様式として採用されています。日本では1990年代以降、家族看護学・社会福祉援助技術論を経て介護・ケアマネジメント分野に普及しました。
ジェノグラムが他の家系図(family tree)と決定的に違うのは、単なる血縁関係の記録ではなく、同居・別居の境界線、感情的距離、葛藤や疎遠、世代間連鎖といった「関係性の質」までを1枚の図に統合できる点です。介護現場では、利用者の主訴の背後にある家族力動を短時間で読み解くツールとして、初回アセスメント・サービス担当者会議・地域ケア会議で活用されています。
ジェノグラムの標準記号と書き方
McGoldrick/Gerson基準を踏まえた、ケアマネ実務でも使われる主要記号は以下のとおりです。本人(クライエント)を二重線の四角/丸で強調し、上方向に親世代、下方向に子・孫世代を配置するのが原則です。
人物の記号
- 男性:□(四角)
- 女性:○(丸)
- 性別不明・胎児:△(三角)
- 本人(インデックス・パーソン):□または○を二重線で囲む
- 故人:記号の中に「×」を記入し、可能なら横に没年を添える
- 年齢:記号の中に算用数字で記入(例:□78)
関係を表す線
- 婚姻関係:実線(横線)で結ぶ。夫を左、妻を右に配置するのが慣例
- 事実婚・同棲:点線で結ぶ
- 離別・離婚:婚姻線に二重斜線(//)を入れる(一重斜線は別居)
- 親子関係:婚姻線から下方向に縦線を伸ばし、子は左から年齢順に並べる
- 養子・継子:親子線を点線にする
- 双子:親子線をV字に分岐させる
- 同居:同じ世帯の人物を点線で囲む(同居円)
世代の並べ方
- 用紙の上段に祖父母世代(第1世代)
- 中段に親世代(第2世代)
- 下段に本人・きょうだい世代(第3世代)
- 必要に応じてさらに下に子・孫世代を追加
記入時は名前・年齢・没年・職業・主疾患・要介護度を記号脇に小さく添えると、サービス担当者会議で多職種が同じ視点で情報を共有できます。
なぜ3世代以上を描くのか
ボーエンが「3世代」を最小単位としたのは、家族の情緒的パターンが少なくとも3世代を経て繰り返されると仮説したためです。介護現場でこの視点が重要になる典型場面は次のとおりです。
- 介護役割の世代間連鎖:本人が若い頃に親を介護した経験が、今度は自分の子(キーパーソン)への介護期待として再現される
- 主介護者の負担集中:きょうだい構成・同居有無・配偶者の有無を俯瞰すると、なぜ特定の1人に負担が集中しているかが図上で一目でわかる
- 家族内のキーマン特定:意思決定権を持つ家族(多くは長男・長女、または同居家族)を視覚的に同定し、ケアプラン同意の説明順序を設計できる
- 支援の空白地帯:故人(×)が多い世代、遠方居住が続く家系では、インフォーマルサポートが期待しにくいことが図から読み取れる
「親子の2世代だけ」のジェノグラムは家系図に近く、ケアマネジメントの判断材料としては情報量が不足します。祖父母世代の認知症既往・死因・婚姻歴まで踏み込むことで、利用者本人の疾患リスクや家族の介護観の背景が見えてきます。
ジェノグラムとエコマップの違い・組み合わせ
ジェノグラムとエコマップは、しばしばセットで作成される双子のアセスメントツールですが、見ているレイヤーが異なります。
| 項目 | ジェノグラム | エコマップ |
|---|---|---|
| 視点 | 家族内部の構造 | 家族と外部資源の関係 |
| 軸 | 時間軸(縦=世代) | 空間軸(中心=家族/外=資源) |
| 描く範囲 | 3世代以上の血縁・婚姻 | 医療機関・介護サービス・職場・近隣・友人 |
| 強み | 世代間連鎖・キーパーソン同定 | 社会資源の過不足・孤立度の把握 |
| 弱み | 外部資源の情報は載らない | 家族内の歴史・葛藤は載らない |
実務では、A4用紙の左半分にジェノグラム、右半分にエコマップを並べて1枚に統合する書式が普及しています。両者を組み合わせることで「家族内で誰が誰にどう関わり、外部からは何が支えているか」が1ページで俯瞰できるため、サービス担当者会議や退院前カンファレンスでの情報共有が短時間で完結します。
関連用語:エコマップ(家族と社会資源の関係図)
現代的活用:ヤングケアラー・ダブルケア・認知症ケア
ヤングケアラーの可視化
3世代以上を描くと、第3世代に18歳未満の子どもがいて、第2世代の親が要介護・精神疾患・難病といった構造が一望でき、ヤングケアラーのリスクを早期に同定できます。子の年齢を記号脇に明記し、同居円で囲むことで「学齢期の子が主介護者になっている」事実が他職種にも一目で伝わります。
ダブルケアの構造把握
第2世代の働き盛り世代が、第1世代(親)の介護と第3世代(子)の育児を同時に担うダブルケア構造も、ジェノグラム上で「上下から負荷がかかる中央世代」として明示できます。配偶者の有無・きょうだい構成と合わせて見ることで、レスパイトケアや産後支援の優先度判断に直結します。
認知症ケアでの活用
認知症ケアでは、本人が同定できなくなった家族関係を支援者側があらかじめ図化しておくことで、「孫の名前を呼んでくれる」「亡き配偶者の話題を出すと落ち着く」といったパーソン・センタード・ケアの手がかりが生まれます。BPSD(行動・心理症状)の背景に、過去の家族喪失体験や役割葛藤が潜むことも多く、ジェノグラムはライフレビューの補助ツールとしても有効です。
よくある質問
- Q1. ジェノグラムは何世代まで描けばよいですか?
- 最低3世代(祖父母・親・本人)が原則です。本人の子・孫が存在する場合は4世代まで広げると、世代間連鎖や介護役割の偏りが見やすくなります。
- Q2. 離婚や再婚はどう書きますか?
- 離婚は婚姻線に二重斜線(//)を入れ、別居は一重斜線を入れます。再婚相手は最初の配偶者の外側に配置し、新たな実線で結びます。連れ子は元の親子線を保ったまま、新しい家庭の同居円で囲む方法が一般的です。
- Q3. 故人の情報まで聞き取る必要がありますか?
- 故人の死因・没年齢は、本人の疾患リスク評価や家族の喪失体験の重み付けに役立ちます。プライバシーに配慮しつつ、初回アセスメントで把握できる範囲で記入し、不明欄は「?」で明示します。
- Q4. 家族が複雑で1枚に収まりません。
- 本人と直接関わる主介護者ライン(直系3世代+同居家族)を中心に描き、関係の薄い親族は省略するか欄外注記にします。ジェノグラムは「すべて」を書く図ではなく、支援判断に必要な範囲を選択的に描く図です。
- Q5. デジタルツールで作成してもよいですか?
- LucidchartやGenoProなど専用ソフト、Excelや手書きでも構いません。重要なのはツールではなく、標準記号を統一して多職種で共有できることです。サービス担当者会議では1枚紙のコピーが扱いやすく実務的です。
参考文献・出典
- McGoldrick, M., Gerson, R., & Petry, S. (2008). Genograms: Assessment and Intervention (3rd ed.). W.W. Norton & Company.(邦訳:石川元 監訳『ジェノグラム——家族のアセスメントと介入』金剛出版)
- Bowen, M. (1978). Family Therapy in Clinical Practice. Jason Aronson.(多世代家族療法の原典)
- 日本家族療法学会『家族療法テキストブック』金剛出版
- 日本ケアマネジメント学会 編『ケアマネジメント実践事例集』中央法規出版
- 厚生労働省「ヤングケアラーについて」(ジェノグラムを用いた早期発見のガイドライン)
まとめ
ジェノグラムは、ボーエン家族療法から発展した3世代以上の家族構造アセスメントツールです。男性□・女性○・本人二重線・故人×・婚姻実線・離別二重斜線などの標準記号で家族関係を1枚に集約し、世代間連鎖・キーパーソン・支援の空白地帯を多職種で共有できます。エコマップと組み合わせて使うことで、家族内部と外部資源の両方を俯瞰でき、ヤングケアラー・ダブルケア・認知症ケアといった現代的課題の早期発見・支援設計に直結します。ケアマネ・社会福祉士・看護師にとって初回アセスメントの基本書式と位置づけられるツールです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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