ハイムリック法(腹部突き上げ法)とは

ハイムリック法(腹部突き上げ法)とは

ハイムリック法(腹部突き上げ法)は意識のある窒息者に行う気道異物除去の応急手当。介護現場で多い高齢者の窒息に備え、JRC蘇生ガイドライン・東京消防庁・日本医師会の手順に基づき、適応・禁忌・背部叩打法との使い分け・実施後の医療受診まで解説する。

ポイント

この記事のポイント

ハイムリック法(腹部突き上げ法)は、意識のある成人・1歳以上の小児が食べ物などで窒息したとき、上腹部(へそとみぞおちの中間)を斜め上方に突き上げて気道の異物を押し出す応急手当です。背部叩打法で除去できないときに行い、妊婦・乳児・反応のない人には実施しません。実施後は内臓損傷の恐れがあるため、症状の有無にかかわらず必ず医療機関で診察を受けます。

目次

ハイムリック法(腹部突き上げ法)とは

ハイムリック法は、1974年にアメリカの外科医ヘンリー・ハイムリック氏が提唱した気道異物除去法で、日本の救急蘇生法では正式名称を「腹部突き上げ法」と呼びます。意識のある窒息者の背後から両腕を回し、上腹部を斜め上方に圧迫することで横隔膜を押し上げ、肺に残った空気の圧力で気道に詰まった異物を排出させます。

東京消防庁や日本医師会の救急蘇生法ガイドでは、まず背部叩打法(肩甲骨の間を強く叩く)を試み、それでも異物が取れない場合に腹部突き上げ法へ移行するとされています。両手法は交互に行い、異物が取れるか反応がなくなるまで継続します。

厚生労働省の人口動態統計(令和5年)では、不慮の窒息で死亡した65歳以上の高齢者は7,779人にのぼり、そのうち食物による誤嚥窒息は4,215人と半数を超えます。介護施設・在宅介護のいずれでも、食事中の窒息は日常的に起こりうる急変事象であり、職員と家族の双方が正しい手技を身につけておく必要があります。

ハイムリック法は強力な手技ですが、内臓に大きな外力が加わるため合併症(肝損傷・胃破裂・肋骨骨折など)のリスクを伴います。日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020でも、適応の判断と実施後の医療受診を重視しています。

実施手順(成人・小児・乳児)

東京消防庁・日本医師会の救急蘇生法に準拠した手順です。年齢で手技が大きく分かれるため、対象者を確認してから着手します。

1. 反応と窒息サインの確認

声をかけて反応を確認し、「のどに手を当てるチョークサイン」「声が出ない」「咳ができない」「ヒューヒューと高い呼吸音」のいずれかがあれば窒息と判断します。咳ができる場合は咳を続けさせ、無理な指かき出しはしません。

2. 119番通報とAED手配

周囲に人がいれば必ず119番通報AEDの手配を依頼します。1人の場合も、まず119番してから応急手当に入ります。施設内ではナースコールと管理者報告を並行して行います。

3. 成人・1歳以上の小児への腹部突き上げ法

窒息者の背後に回り、足を肩幅程度に開いて安定した姿勢をとります。窒息者のウエストに両腕を回し、片方の手で握りこぶしを作って親指側をへそとみぞおち(剣状突起)の中間に当てます。もう片方の手でこぶしを包み、手前上方(自分の方向かつ上方向)へ素早く強く突き上げます。1回ごとに異物が出たかを確認しながら、異物が排出されるか反応がなくなるまで繰り返します。

4. 妊婦・高度肥満者・乳児への対応

妊婦・高度肥満者には腹部突き上げ法を行わず、胸部突き上げ法(胸骨下半分を背部から圧迫)に切り替えます。1歳未満の乳児には腹部突き上げ法は禁忌で、背部叩打法と胸部突き上げ法を交互(各5回ずつ)に行います。うつぶせに腕にのせ頭を低く保ち、肩甲骨の中央を手掌基部で叩きます。

5. 反応がなくなった場合

意識を失ったら直ちに胸骨圧迫を中心とした心肺蘇生(CPR)を開始し、人工呼吸の際に口の中の異物が見えれば取り除きます。見えない異物を指で探る盲目的指拭い(フィンガースイープ)は禁忌です。AEDが届いたら音声指示に従って装着します。

背部叩打法との使い分け

気道異物除去では、まず背部叩打法を試み、効果がなければ腹部突き上げ法に切り替えるのが日本医師会・東京消防庁の標準フローです。両者は競合関係ではなく、組み合わせて素早く繰り返すことで除去成功率を高めます。

項目背部叩打法腹部突き上げ法(ハイムリック法)
対象乳児を含む全年齢意識のある成人・1歳以上の小児
禁忌原則なし(反応なしは中止)反応なし/妊婦/高度肥満/乳児
位置左右の肩甲骨の間へそとみぞおちの中間
力の方向下向きに強く叩く手前上方へ突き上げる
合併症リスク低い内臓損傷・骨折のリスクあり
受診の必要性異物排出後の経過観察必ず医療機関で診察

介護現場では「背部叩打 5回 → 腹部突き上げ 5回」を1サイクルとして、異物が取れるか反応がなくなるまで交互に繰り返す運用が一般的です。妊婦・乳児には腹部突き上げ法を使わず、胸部突き上げ法へ置き換える点は必ず押さえます。

禁忌と注意点

ハイムリック法は強力な手技のため、適応外で行うと内臓損傷を招きます。次の禁忌・注意事項を必ず確認します。

  • 反応のない人には行わない。意識喪失時は心肺蘇生(CPR)へ切り替え、胸骨圧迫を優先します。
  • 1歳未満の乳児には行わない。背部叩打法と胸部突き上げ法(各5回ずつ)の交互サイクルで対応します。
  • 妊婦・高度肥満者には行わない。腹部に十分なスペースが取れず、内臓・胎児へのリスクが高いため、胸部突き上げ法に切り替えます。
  • 力の方向は「手前上方」。真っ直ぐ押し込むのではなく、横隔膜を押し上げる斜め上方への突き上げが基本です。
  • 位置はみぞおち(剣状突起)より下。胸骨や肋骨を直接圧迫すると骨折や心臓損傷の恐れがあります。
  • 盲目的指拭いは禁忌。見えない異物を指で探る行為は異物をさらに奥へ押し込むためJRC蘇生ガイドラインで非推奨です。
  • 実施後は必ず医療機関で診察。腹腔内出血・胃破裂・肝損傷は時間差で症状が出ることがあり、自覚症状がなくても受診を徹底します。
  • 記録と報告。介護施設では事故報告書とヒヤリ・ハット記録を作成し、再発防止策をケアマネジャー・家族と共有します。

よくある質問

Q1. 異物が出た後も医療機関を受診すべきですか?

はい。腹部突き上げ法は強い外力が内臓に加わるため、肝損傷・胃破裂・腹腔内出血が遅れて顕在化することがあります。日本医師会・東京消防庁は「症状の有無にかかわらず必ず医師の診察を受ける」よう指導しています。施設では救急隊に実施した旨を申し送り、主治医へ連絡します。

Q2. 1人で介護中に高齢者が窒息したらどうすればよいですか?

まず119番通報を最優先で行い、続けて背部叩打法→腹部突き上げ法を交互に繰り返します。スマートフォンのスピーカー通話を使えば通報員の指示を受けながら手当を続けられます。AEDが施設内にある場合は近くのスタッフに搬送を依頼します。

Q3. 訓練を受けたことがなくても実施してよいですか?

救急蘇生法に基づく行為で、緊急時には未訓練の人が行っても法的責任を問われない「善きサマリア人」の考え方が日本でも広く支持されています。ただし手技ミスのリスクを下げるため、消防署や日本赤十字社の普通救命講習・救急法基礎講習を年1回受講することが推奨されます。

Q4. 義歯(入れ歯)が外れた場合の窒息対応は?

義歯自体が気道に詰まるケースは介護現場で多発しています。背部叩打法・腹部突き上げ法の手順は通常と同じですが、口腔内に義歯片が見えれば取り除きます。食事前の義歯の固定確認と、食後の口腔ケアで再発を予防します。

Q5. 窒息予防のポイントは?

消費者庁は「餅・パン・肉・こんにゃくゼリー」を高齢者の窒息高リスク食品として注意喚起しています。食事前の嚥下体操、適切な食事姿勢(30度仰臥位や直角座位)、口腔ケア、食形態の調整(きざみ食・とろみ調整)が窒息予防の柱です。

まとめ

ハイムリック法(腹部突き上げ法)は、意識のある成人・1歳以上の小児の窒息に対して横隔膜を押し上げ気道異物を排出させる応急手当です。介護現場では「背部叩打法 → 腹部突き上げ法」の交互サイクルで対応し、妊婦・乳児・反応のない人には実施しません。実施後は内臓損傷の可能性があるため、症状の有無にかかわらず救急隊への申し送りと医療機関での診察が必要です。日常的には消費者庁が注意喚起する高リスク食品(餅・パン・こんにゃくゼリー等)への配慮、食事姿勢の確保、口腔ケア、嚥下体操で窒息そのものを予防することが最優先です。判断に迷ったときは119番通報と主治医への連絡を最優先で行ってください。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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