
薬剤副作用とは
薬剤副作用(ADR)は高齢者で頻発する有害事象。ふらつき・便秘・せん妄・低血糖など代表5タイプの症状と原因薬剤、介護職が観察すべきサイン、SBAR形式での看護師・薬剤師への報告手順を厚労省指針と日本老年医学会の知見から整理する。
この記事のポイント
薬剤副作用(Adverse Drug Reaction, ADR)とは、医薬品を適正に使用しても発現する有害な反応のこと。高齢者は腎・肝機能低下や多剤併用によりADRリスクが高く、5剤以上の服用で発生頻度が急増する。介護現場ではふらつき・便秘・せん妄・低血糖・口渇の5タイプを「いつもと違う」サインとして観察し、看護師・薬剤師にSBAR形式で報告することが安全な薬物療法の起点となる。
目次
薬剤副作用(ADR)の定義と高齢者で頻発する理由
薬剤副作用(ADR:Adverse Drug Reaction)は、WHOの定義で「医薬品を疾病の予防・診断・治療または生理機能を変える目的で、人に通常用いられる量で投与されたときに起こる、有害かつ意図しない反応」と整理される。誤投与や過量投与による中毒とは区別される概念で、添付文書に記載された用量・用法を守っていても発現しうる点が重要だ。
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」では、高齢者のADRリスクが上昇する背景として次の4要因が示されている。
- 腎・肝機能の低下:薬剤の代謝・排泄が遅れ、血中濃度が想定より高くなる
- 体組成の変化:体内水分量が減り脂肪分が増えるため、脂溶性薬剤が体内に蓄積しやすい
- 多剤併用(ポリファーマシー):6剤以上で薬物有害事象の発生頻度が15%超に上昇
- 血液脳関門の機能低下:中枢神経系への薬剤移行が増え、せん妄・認知機能障害を起こしやすい
日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015/2025」は、これらの背景を踏まえ「特に慎重な投与を要する薬物リスト(PIMs)」を提示している。介護現場で関わる利用者の処方薬がPIMsに含まれている場合、ADR発現の予兆を早期に拾うことが重要になる。
ADRの発見経路は、看護師の医療観察だけでなく「日常生活で利用者と長時間接する介護職の気づき」が大きな比重を占める。歩行のふらつき、排便回数の変化、夜間の言動の混乱といった「いつもと違う」サインは、ADRの初期症状であることが多い。
介護現場で頻発する薬剤副作用5タイプ
厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針」と日本老年医学会のガイドラインから、介護現場で観察すべき代表的なADRを5タイプに整理した。原因薬剤の代表例と観察ポイントを併記する。
| 副作用 | 主な原因薬剤 | 介護現場での観察ポイント |
|---|---|---|
| ふらつき・転倒 | ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬(ブロチゾラム、エチゾラム)、降圧薬、三環系抗うつ薬 | 起床時のふらつき、歩行時の壁伝い、椅子からの立ち上がり困難、転倒の増加 |
| 便秘 | オピオイド系鎮痛薬、抗コリン薬(過活動膀胱治療薬・三環系抗うつ薬)、カルシウム拮抗薬 | 3日以上排便なし、硬便、腹部膨満、食欲低下、悪心。オピオイド開始直後は特に注意 |
| せん妄 | 抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系、H2受容体拮抗薬、ステロイド、抗パーキンソン病薬 | 夜間の言動混乱、見当識障害、幻視・幻聴、注意集中力の低下。日内変動が大きい点が認知症との鑑別ポイント |
| 低血糖 | スルホニルウレア薬(グリメピリド、グリベンクラミド)、インスリン、グリニド系 | 冷汗、振戦、動悸、生あくび、ぼんやり。高齢者は典型症状が出ずいきなり意識障害に至ることがある |
| 口渇・脱水 | 利尿薬、抗コリン薬、SGLT2阻害薬 | 口腔乾燥、水分摂取量低下、皮膚ツルゴール低下、尿量減少、立ちくらみ |
これらは「老年症候群」と症状が重なるため、加齢変化として見過ごされやすい。新規処方や用量変更のタイミングで症状が出現した場合、ADRを強く疑う必要がある。
ADRを発見してから報告までの5ステップ
介護職がADRの予兆に気づいた場合の標準的な対応フローを整理する。判断は看護師・薬剤師に委ねつつ、観察情報を確実に伝達することが介護職の役割となる。
- STEP1 「いつもと違う」を記録する:歩行・排便・睡眠・食事・言動の変化を、発現時刻・頻度・程度とともにケア記録に残す。主観的表現(「元気がない」)よりも具体的事実(「朝食を半分残した」「夜10時に廊下を歩き回った」)を優先する。
- STEP2 直近の処方変更を確認する:お薬手帳・服薬カレンダー・施設の処方記録から、症状出現の前後で新規処方・用量変更・中止があったかを確認する。3日〜2週間以内の変更が特に疑わしい。
- STEP3 緊急度を判定する:意識障害・呼吸困難・大量出血・けいれん・冷汗を伴う低血糖症状などはバイタルサイン異常を伴うため、看護師に即時連絡。それ以外は次回の医療カンファレンスや看護師ラウンドのタイミングで報告する。
- STEP4 SBAR形式で報告する:Situation(何が起きているか)、Background(いつから・処方変更歴)、Assessment(介護職としての気づき)、Recommendation(受診依頼・観察強化の提案)の4要素で簡潔に伝える。
- STEP5 報告後の経過観察と再評価:減量・中止・薬剤変更後、症状が改善するかを再評価する。改善が見られればADRが強く疑われる。改善しない場合は別の要因(感染・脱水・基礎疾患の悪化)も検討する。
このフローは厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編)」が推奨する多職種連携の枠組みに沿っている。介護職は「観察・記録・報告」の3点に集中し、薬学的判断は看護師・薬剤師・医師に委ねるのが原則だ。
SBAR形式での副作用報告例
SBARは医療安全分野で標準化された報告フォーマット。介護職が看護師・薬剤師に薬剤副作用を伝える際にも有効に機能する。実際の報告例を示す。
ケース1:ふらつき増加(睡眠薬の影響を疑う)
- S(Situation):Aさん、今朝の起床時に立ち上がりでふらつきがあり、ベッドサイドに座り込まれました。
- B(Background):5日前から睡眠薬がブロチゾラムに変更されています。それまで歩行は安定していました。
- A(Assessment):睡眠薬の持ち越し効果による日中のふらつきではないかと考えます。
- R(Recommendation):医師に減量・他剤への変更をご相談いただけますか。本日は車椅子移動で安全確保します。
ケース2:排便回数減少(オピオイドによる便秘)
- S:Bさん、4日間排便がなく腹部膨満を訴えておられます。
- B:1週間前から疼痛コントロールでフェンタニル貼付剤が開始されました。下剤は処方されていません。
- A:オピオイド誘発性便秘の可能性が高いと考えます。
- R:下剤の追加処方を医師にご相談いただけますか。本日は摘便の必要性も含めて評価をお願いします。
ケース3:夜間せん妄(H2ブロッカーが原因の疑い)
- S:Cさん、昨夜10時頃から「知らない人がいる」と訴え、廊下を歩き回られました。
- B:3日前から胃薬としてファモチジンが追加されています。日中は穏やかです。
- A:薬剤性せん妄の可能性があると考えます。
- R:H2ブロッカーから別の胃薬への変更を医師にご相談いただけないでしょうか。
ポイントは「介護職の主観的判断を Assessment に置きつつ、最終判断は医療者に委ねる」スタンスを保つこと。報告先は施設の医療連携体制に応じて、看護師→医師、または薬剤師の在宅訪問薬剤管理指導を活用する。
薬剤副作用に関するよくある質問
Q1. 薬剤副作用と「老化」はどう見分けますか?
症状の出現タイミングが鍵になります。新規処方・用量変更から3日〜2週間以内に新しい症状が現れた場合、ADRの可能性が高いです。老化による機能低下は緩やかに進行するため、急な変化はまず薬剤を疑うのが原則です。減薬・中止で症状が改善するかどうかが診断の決め手になります。
Q2. 介護職は薬剤を中止する判断ができますか?
できません。医師の処方変更なしに服薬を中止することは医療事故につながります。介護職の役割は「観察・記録・報告」までで、薬学的判断は医師・薬剤師に委ねます。ただし、明らかな意識障害や呼吸困難など緊急性の高い症状がある場合は、看護師に即時連絡し救急対応の判断を仰ぎます。
Q3. お薬手帳をどう活用すれば副作用に気づきやすいですか?
新規処方・用量変更の日付に色付け(マーカー)し、その前後で利用者の状態がどう変化したかを記録と突き合わせます。複数の医療機関にかかっている場合は、お薬手帳を1冊に集約してもらい、薬剤の重複や飲み合わせを薬剤師に確認してもらうことが重要です。
Q4. 認知症の悪化と薬剤性せん妄はどう区別しますか?
せん妄は症状の日内変動が大きく、夜間や夕方に悪化する「夕暮れ症候群」型の出現パターンを示します。認知症は基本的に緩やかに進行するため、数日単位で症状が変動する場合は薬剤性せん妄を疑います。また、せん妄では注意集中力の低下が著明で、会話の途中で話題を見失う様子が見られます。
Q5. 副作用報告は誰が行うべきですか?
医療機関での重大な副作用は医師がPMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告する仕組みがあります。介護現場では、まず施設内の看護師に報告し、必要に応じて主治医・薬剤師に情報共有します。患者本人・家族が直接報告できる「PMDA医薬品副作用報告」制度もあり、介護職が家族に情報提供することで活用が広がります。
参考資料
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」(2018年5月)
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性せん妄」(2021年3月)
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」(令和5年12月改定)
- PMDA医薬品医療機器総合機構「医薬品副作用報告」
- 日本老年医学会「高齢者では薬の数が増えてきます — 薬が増えると副作用が起こりやすくなります」(2016年11月)
まとめ
薬剤副作用(ADR)は高齢者の安全な暮らしを脅かす最大級のリスク因子で、ふらつき・便秘・せん妄・低血糖・口渇の5タイプを「いつもと違う」サインとして観察することが介護職の第一歩だ。新規処方や用量変更のタイミングと症状出現を結びつけ、SBAR形式で看護師・薬剤師に報告する仕組みを施設内に定着させたい。判断は医療職に委ね、観察と報告に専念する姿勢が安全な薬物療法の土台となる。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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