
実行機能障害(遂行機能障害)とは
実行機能障害(遂行機能障害)は、計画を立てて段取りよく物事を実行する力が低下する認知症の中核症状です。料理や買い物の手順がわからなくなる具体例、記憶障害との違い、家族・介護者の関わり方をやさしく解説します。
実行機能障害の直接回答
実行機能障害(遂行機能障害)とは、計画を立てて段取りよく物事を最後までやり遂げる力(実行機能)が低下した状態をいいます。認知症で脳の働きが低下することで直接起こる中核症状の一つで、料理や買い物などの日常動作がうまく進められなくなります。一つひとつの動作はできても、順序を組み立ててまとめることが難しくなるのが特徴です。
目次
実行機能障害(遂行機能障害)の意味と位置づけ
実行機能とは、目標を決め、段取りを考え、必要な手順を順番に進め、状況に合わせて修正しながら物事を最後までやり遂げる力のことです。料理を一品作る、外出の準備をする、買い物をして家計をやりくりするといった、日常生活のほとんどの行動はこの力に支えられています。実行機能障害(遂行機能障害)は、この一連の段取り力が低下した状態を指します。
認知症では、脳の細胞が傷つくことで直接あらわれる症状を「中核症状」と呼びます。健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)は、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などを認知症の中核症状として挙げています。実行機能障害は、記憶障害や見当識障害と並ぶ中核症状の一つであり、認知症のある方に広くみられます。
大切なのは、実行機能障害は「やる気がない」「怠けている」状態ではないということです。本人は今までどおりに生活したいと思っていても、頭の中で手順を組み立てる働きがうまくいかないために行動が止まってしまいます。アルツハイマー型認知症で目立ちやすいほか、血管性認知症や前頭側頭型認知症でもみられます。なお、脳卒中や頭部外傷など認知症以外の脳の損傷で起こる場合は、医療の分野では高次脳機能障害の一症状として「遂行機能障害」と呼ばれます。介護・生活支援の場面では、まず「段取りがしづらくなっている状態」として理解することが、適切な関わりの出発点になります。
実行機能障害の生活にあらわれる具体例
生活にあらわれる具体例
実行機能障害(遂行機能障害)は、次のような日常の場面であらわれます。いずれも「手順を組み立ててまとめる」ことが難しくなるために起こります。
- 料理の手順がわからなくなる:野菜を切る、火にかける、味つけをする、盛りつけるといった工程を同時に進められず、途中で止まったり、同じ料理ばかり作ったりする。
- 買い物や金銭管理が難しくなる:必要なものを考えて買う、レジで支払う、おつりを確認するといった一連の流れがつながらず、同じ物を何度も買う、家計の管理がうまくいかない。
- 複数の作業を同時に進められない:洗濯をしながら料理を温めるなど、二つ以上のことを並行して段取りするのが難しくなる。
- 家電やATMの操作で迷う:リモコンや電子レンジ、ATMなど、順番にボタンを押す操作の途中で次に何をするかわからなくなる。
- 外出の準備に時間がかかる:持ち物をそろえる、着替える、時間に合わせて家を出るという段取りが組み立てにくく、約束の時間に間に合わない。
ひとつひとつの動作(包丁を使う、ボタンを押す)はできるのに、全体をまとめて進められないのがこの障害の特徴です。「できない人」になったのではなく、「順番を組み立てる支えが必要になった」と捉えると、関わり方が見えてきます。
実行機能障害と記憶障害の違い
記憶障害との違い
実行機能障害は記憶障害と混同されやすいですが、低下している力が異なります。記憶障害は「覚える・思い出す」働きの低下で、新しいことを覚えられない、さっきの出来事を忘れるといった形であらわれます。これに対して実行機能障害は、覚えているかどうかとは別に、「段取りを組み立てて実行する」働きの低下です。
| 項目 | 記憶障害 | 実行機能障害(遂行機能障害) |
|---|---|---|
| 低下する力 | 覚える・思い出す力 | 計画・段取り・実行する力 |
| あらわれ方 | 同じ話を繰り返す、約束を忘れる、置き忘れ | 料理の手順が進まない、買い物や家計の管理が難しい |
| 困りごとの中心 | 情報が頭に残らない | 順番を組み立ててまとめられない |
両者はしばしば同時にあらわれます。たとえば、買い物の場面で「何を買うか思い出せない(記憶障害)」のと「買う・支払う・確認する流れを組み立てられない(実行機能障害)」のは別の困りごとであり、どちらが大きいかで必要な支えも変わります。本人の様子を観察し、「思い出せないのか」「段取りができないのか」を見分けることが、的確な手助けにつながります。
実行機能障害の生活への影響
生活への影響
実行機能障害(遂行機能障害)が進むと、これまで当たり前にできていた家事や外出、金銭管理が少しずつ難しくなり、生活全体に影響が広がります。料理や買い物に時間がかかる、薬の飲み忘れや重複が起こる、予定どおりに動けないといった困りごとが積み重なります。
見落とされやすいのが、本人の心理面への影響です。これまでできていたことがうまく進まない経験が重なると、不安や自信の低下につながり、外出や家事を避けるようになることがあります。国立障害者リハビリテーションセンターも、計画を立てて実行することが難しくなった結果としての失敗体験が、不安や混乱、無力感を生み、行動上の問題につながり得ると指摘しています。本人が「できない」と感じる場面を減らす関わりが、生活の質と意欲を保つうえで重要になります。
実行機能障害における家族・介護者の関わり方
家族・介護者の関わり方
実行機能障害(遂行機能障害)への関わりは、本人の「段取りを組み立てる力」を周囲が補い、できる部分を活かすことが基本です。次の工夫が役立ちます。
- 手順を小さく分ける:「料理を作って」ではなく、「野菜を洗う」「鍋に入れる」と一つずつに分けて伝えると、行動が進みやすくなります。
- 一度に一つだけ示す:複数の指示を同時に出すと混乱します。今やることを一つに絞り、終わってから次へ進みます。
- 環境を整える:手順表やメモを見える場所に貼る、物の置き場所を固定する、使う道具だけを出しておくなど、迷わず進める環境をつくります。
- できる部分を活かす:すべてを代わりにやってしまうのではなく、本人ができる工程は任せ、難しい部分だけ手伝います。役割を持ち続けることが自信と意欲につながります。
- 急かさず、責めない:時間がかかっても待ち、失敗を責めません。落ち着いて取り組める雰囲気が、本人の力を引き出します。
「全部できないから全部やってあげる」ではなく、「どこでつまずいているかを見極めて、その一手だけを支える」。この考え方が、本人の生活と尊厳を守る関わりの土台になります。
実行機能障害(遂行機能障害)のよくある質問
- 実行機能障害と遂行機能障害は違うものですか。
- 同じ状態を指す言葉で、内容に違いはありません。介護や生活支援の場面では「実行機能障害」、医療やリハビリの分野では「遂行機能障害」と表記されることが多く、どちらも計画・段取り・実行の力が低下した状態を意味します。
- 実行機能障害はわがままや怠けではないのですか。
- 怠けやわがままではありません。本人はやろうとしているのに、頭の中で手順を組み立てる働きがうまくいかないために行動が止まります。責めるのではなく、手順を分けて支える関わりが大切です。
- 料理ができなくなったらすべて代わりにやるべきですか。
- すべてを代わりにやる必要はありません。野菜を洗う、混ぜるなど本人ができる工程は任せ、火加減や段取りなど難しい部分だけ手伝うと、役割と自信を保てます。
- 実行機能障害は認知症だけで起こりますか。
- 認知症の中核症状として起こるほか、脳卒中や頭部外傷などによる高次脳機能障害の一症状としてもあらわれます。介護の場面では、まず「段取りがしづらくなっている状態」として捉えて関わることが出発点になります。
実行機能障害(遂行機能障害)の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
実行機能障害(遂行機能障害)のまとめ
まとめ
実行機能障害(遂行機能障害)は、計画を立てて段取りよく物事をやり遂げる力が低下する認知症の中核症状です。料理や買い物、金銭管理など日常の段取りが難しくなりますが、一つひとつの動作はできることが多く、「怠け」ではありません。記憶障害との違いを理解し、手順を分ける、一度に一つだけ示す、環境を整える、できる部分を活かすといった関わりで、本人の生活と自信を支えることができます。「どこでつまずいているか」を見極め、その一手だけを支える姿勢が、その人らしい暮らしを守る土台になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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