
前頭側頭型認知症(ピック病)の利用者の介護|常同行動を活かすケアと対応の工夫
前頭側頭型認知症(FTD・ピック病)のある利用者を介護する職員向けに、脱抑制・常同行動・無関心・食行動異常への対応を解説。常同行動を活かすルーティン化ケアの4手順、他の認知症との違い、若年発症と指定難病127の制度まで、現場の役割に絞ってまとめます。
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この記事のポイント
前頭側頭型認知症(FTD・ピック病)のある利用者の介護では、記憶障害よりも「脱抑制・常同行動・無関心・食行動異常」という行動の変化に対応することが中心になります。介護職の役割は、症状を「困った行動」として止めるのではなく、毎日決まったことを繰り返す常同行動を生活リズムに組み込む「ルーティン化ケア」と、トラブルを未然に防ぐ環境調整にあります。診断・治療は専門医の領域ですが、日々の様子を観察・記録して多職種につなぐことが質の高いケアの土台になります。
目次
認知症ケアに関係する介護サービスの供給データ
本サイトが保有する厚生労働省由来の施設データでは、この記事に関係するグループホーム、デイサービス、訪問介護だけでも全国に72,975件あります。認知症ケアの記事では、制度名や費用だけでなく「実際に選べるサービスがどれくらいあるか」を見ることが大切です。認知症ケアでは、在宅サービスと地域密着型サービスをどの順番で組み合わせるかが重要です。
| サービス種別 | 全国件数 | 多い都道府県 |
|---|---|---|
| グループホーム | 14,099件 | 北海道994件、神奈川県808件、東京都701件 |
| デイサービス | 23,979件 | 大阪府1,511件、東京都1,510件、福岡県1,359件 |
| 訪問介護 | 34,897件 | 大阪府5,001件、東京都2,998件、神奈川県2,108件 |
同じ介護保険サービスでも、地域によって候補数は大きく変わります。相談先を探すときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに「この地域で使いやすいサービス種別」と「空き状況の見方」を確認すると、家族だけで探すより現実的な選択肢に近づきます。
出典: 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」等に基づく本サイト集計。施設数は公開データの登録状況により変動します。
「いつも同じ時間に同じコースを歩き回る」「制止すると急に怒り出す」「他の人の食事に手を伸ばす」「身だしなみに無関心になった」——前頭側頭型認知症(FTD)のある利用者のケアでは、アルツハイマー型認知症とはまったく異なる行動に戸惑う場面が少なくありません。物忘れが目立たないぶん「わざとやっている」「性格が変わった」と受け止められやすく、家族も介護職も対応に悩みがちな認知症です。
しかしFTDの行動の多くは、脳の前頭葉・側頭葉が障害されたことで生じる「症状」であり、本人が意図しているわけではありません。そして特徴的な常同行動(同じことを繰り返す性質)は、対応を工夫すればケアの味方にもなります。本記事は、FTD・ピック病のある利用者を担当する介護職に向けて、4つの代表的な症状の理解と、現場で実践できる対応の工夫、常同行動を活かすルーティン化ケア、若年発症ならではの制度の知識までを、介護職の役割に絞って整理します。診断・治療・薬の判断は専門医の領域であり、本記事では扱いません。
前頭側頭型認知症(FTD・ピック病)とは
前頭側頭型認知症(FTD:Frontotemporal Dementia)は、脳の前頭葉と側頭葉が限局して萎縮していくことで起こる神経変性疾患の総称です。かつて「ピック病」と呼ばれていた病気の多くがこのグループに含まれ、現在は前頭側頭葉変性症(FTLD)という大きな枠組みのなかで整理されています。介護現場では「ピック病」「前頭側頭型認知症」という呼び方が混在しますが、利用者を担当する立場では、まず「障害される脳の場所が違うから、症状も対応も違う」という点を押さえるのが実用的です。病名そのものの定義や仕組みをやさしく確認したい方は、前頭側頭型認知症とは(用語解説)もあわせてご覧ください。
障害される脳の部位と現れる症状
FTDで主に障害されるのは、人間らしい判断や社会性、言語をつかさどる前頭葉と側頭葉です。それぞれの役割が失われることで、記憶よりも「行動」と「言葉」に症状が出るのが大きな特徴です。
| 障害される部位 | 本来の役割 | 障害されると現れる症状 |
|---|---|---|
| 前頭葉 | 思考・判断・計画・感情のコントロール・社会的な行動の調整・自発性 | 脱抑制(衝動的な行動)・常同行動・無関心・判断力の低下・社会的マナーの喪失 |
| 側頭葉 | 言葉の意味の理解・物の名前の記憶・聴覚情報の処理・感情の処理 | 語義失語(言葉の意味がわからなくなる)・言葉が出にくくなる・感情の平板化 |
3つの臨床型
FTDは症状の現れ方によっていくつかの型に分けられます。介護現場で出会う代表的な型は次の3つです。
- 行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD):人格変化・脱抑制・常同行動・無関心が中心となる、もっとも代表的な型。介護で「対応が難しい」とされる行動の多くはこの型でみられます。
- 意味性認知症(SD):言葉の「意味」が抜け落ちていく型。「リンゴって何?」のように、見慣れたものの名前や意味がわからなくなります。
- 進行性非流暢性失語(PNFA):言葉は理解できるが、なめらかに話せなくなる型。発語に努力を要し、たどたどしくなります。
このうち行動障害型と意味性認知症は、後述する国の指定難病(前頭側頭葉変性症)の対象になっています。型によって「行動が問題になるのか」「言葉が問題になるのか」が違うため、担当する利用者がどの型に近いのかを意識すると、観察と対応の焦点が定まります。
FTDのある利用者にみられる4つの代表的な症状
FTDのケアを組み立てる出発点は、代表的な4つの症状を「病気の症状」として正しく理解することです。いずれも本人が意図して行っているわけではなく、前頭葉・側頭葉の障害によって生じています。「わがまま」「乱暴」と受け止めてしまうとケアが対立的になりますが、症状として捉えると対応の道筋が見えてきます。
1. 脱抑制(だつよくせい)
脱抑制とは、社会的なルールやマナー、他者への配慮を抑える力が失われ、思いついた行動をそのまま実行してしまう状態です。前頭葉の「ブレーキ」が効かなくなることで生じます。具体的には、店の商品を断りなく食べる・持ち出す(万引きにつながる)、他人に失礼な発言を繰り返す、公共の場で不適切な行動をとる、急に怒り出す・手が出るといった形で現れます。本人に悪気はなく、「やってはいけない」という判断そのものが働きにくくなっている点が、しつけや説得では止められない理由です。
2. 常同行動(じょうどうこうどう)
常同行動は、同じ行動・言葉・ルーティンを毎日決まったように繰り返す症状で、FTDの最も特徴的なサインです。毎日まったく同じ時間に同じコースを歩く「時刻表的生活」「常同的周遊」、同じ言葉や話を繰り返す、同じものしか食べない・同じ番組しか見ない、同じ場所を何度も行き来する、などがみられます。時計のように正確で、途中で止められると強く抵抗したり興奮したりします。後述するように、この「決まったことを繰り返す力」はケアに活用できる大切な手がかりでもあります。
3. 無関心・自発性の低下
周囲の出来事や自分自身に関心を向けられなくなる症状です。入浴や着替え、整容といった身だしなみに無頓着になる、声をかけないと一日中ぼんやり過ごす、以前楽しんでいた趣味への意欲が消える、といった変化が現れます。「やる気がない」「さぼっている」のではなく、自発的に行動を起こす機能そのものが低下しています。うつ病と誤解されやすい症状でもあります。
4. 食行動の変化(食行動異常)
食べ物への執着や食べ方の変化もFTDに特徴的です。同じ食品(特に甘いもの)を際限なく食べる、過食、早食い・かき込み、口に入る量を超えて詰め込む、他の人の食事に手を伸ばす、といった行動がみられます。満腹感が働きにくくなることもあり、体重増加や窒息・誤嚥のリスク、他利用者とのトラブルにつながるため、安全管理の視点が欠かせません。
あわせて知っておきたい症状
このほか、目の前のものや音につられて行動してしまう「被影響性の亢進(ひえいきょうせいのこうしん)」、状況に関係なく突然その場を離れる「立ち去り行動」、語義失語をはじめとする言語障害がみられます。一方で、初期には記憶や見当識(時間・場所・人の把握)、慣れた手作業(手続き記憶)が比較的保たれているのも重要な特徴です。この「保たれている力」が、後述するルーティン化ケアの土台になります。
他の認知症との違い(アルツハイマー型との比較)
FTDのケアがアルツハイマー型認知症と同じ発想ではうまくいかないのは、障害される脳の場所と、初期に目立つ症状が根本的に違うからです。介護職が「いつものやり方が通じない」と感じる背景には、この違いがあります。下表で要点を整理します。
| 比較項目 | 前頭側頭型認知症(FTD) | アルツハイマー型認知症 |
|---|---|---|
| 主に障害される部位 | 前頭葉・側頭葉 | 側頭葉内側・頭頂葉(海馬周辺から広がる) |
| 発症年齢 | 40〜60代の若年発症が多い | 65歳以上に多い |
| 初期の主な症状 | 人格変化・行動障害・言語障害 | 記憶障害(特に最近のことを忘れる) |
| 記憶障害 | 初期は比較的保たれる | 初期から目立つ |
| 常同行動 | 顕著に現れる | あまり見られない |
| 脱抑制・反社会的行動 | よく見られる | あまり見られない |
| 食行動の変化 | 特定食品への執着・過食が多い | 進行期に食欲低下が多い |
| 進行の仕方 | 行動・言語症状が先行し、記憶障害は後から | 記憶障害を中心に全般的に進行 |
ケアの考え方が逆になる場面に注意
アルツハイマー型では「忘れること」を前提に、繰り返し説明したり手がかりを置いたりする支援が中心になります。一方FTDでは記憶は保たれていることが多く、むしろ「行動のブレーキが効かない」「決まったことを繰り返す」性質に合わせる必要があります。たとえばアルツハイマー型のケアで重視される「みんなで一緒に活動する」アプローチは、FTDでは刺激が多すぎて落ち着かない場合があり、静かな環境で個別に関わるほうが集中できることが少なくありません。「認知症ケアの定石」がそのまま当てはまらない——この前提を共有しておくことが、チームでの混乱を防ぎます。
誤診・診断の遅れが起きやすい点も理解しておく
FTDは、反社会的な行動から統合失調症と、自発性の低下からうつ病と、言葉の障害からアルツハイマー型と誤解されることがあります。記憶検査の点数が良いために「認知症ではない」と見過ごされるケースもあります。介護職が日々記録する具体的な行動の様子(いつ・どんな場面で・何をしたか)は、専門医が型を見極めるうえで貴重な情報になります。受診に同行する家族に「ふだんの様子のメモを持っていくとよい」と伝えるだけでも、適切な診断への助けになります。
常同行動を活かすルーティン化ケアの進め方

FTDケアの中心となる考え方が「ルーティン化療法(ルーティン化ケア)」です。これは、FTDの症状である「何かにこだわる」「同じことを繰り返す(常同行動)」「目の前のものにつられる(被影響性の亢進)」という性質を逆に活用し、「困った習慣」を「問題のない習慣」へ置き換えていく作業療法的アプローチです(大阪市立弘済院の解説資料による)。止めるのではなく、活かす。これがFTDケアの発想の転換点です。
なぜ常同行動を「活かせる」のか
FTDではアルツハイマー型と比べて、見当識・体験記憶・慣れた動作(手続き記憶)・視空間認知が比較的保たれています。つまり「やる力」は残っているのに、自分からそれを使えない状態です。そこで支援者が、保たれた力と「こだわる」特徴を組み合わせ、安全で本人らしい活動を毎日のスケジュールに組み込んでいきます。生活習慣が安定すると精神状態が穏やかになり、結果として介護負担も軽くなる——これがルーティン化ケアの狙いです。
ルーティン化ケアの4ステップ
大阪市立弘済院の作業療法の手順を、介護現場で使える形に整理すると次の4段階になります。
- 準備:使う道具や物を、本人の目に入りやすい場所にあらかじめ置いておく。被影響性の亢進(目に入ったものにつられる性質)を利用して、自然に行動が始まる状況を整えます。
- 誘導:簡潔な言葉と、手招きなどのジェスチャーで目的の場所へ自然に誘導する。長い説明より「こちらへどうぞ」と動作で示すほうが伝わります。
- 導入:道具を手渡し、やり方を「見せて」動作を促す。言葉での指示より、見本を見せるほうがスムーズに始められます。
- 実施:気が散る刺激を避け、集中できる環境で活動を続けてもらう。静かで小さな空間のほうが集中しやすい傾向があります。
取り入れやすい活動の例
本人の職歴・趣味・生活史を家族から聞き取り、「なじみがあって・視覚的にわかりやすく・単純で失敗の少ない」活動を選ぶのがコツです。
- 手作業:タオルたたみ、毛糸巻き、編み物、折り紙、ぬり絵、切手はがし
- 家事:掃除、ごみ出し、茶碗洗い、配膳準備、献立書き
- 運動・視聴覚:散歩、体操、ボール遊び、音楽、好きな番組の視聴
- 趣味・楽しみ:書道、生け花、園芸、おやつ作り、カルタ
定着させる4つのコツ
- 場所・人・時間・活動を固定する:なじみの場所で、なじみの職員が、決まった時間に、同じ活動を。マンツーマンで関わると定着しやすくなります。
- 「見せて」促す:道具を見せる・動作を見せるなど、視覚刺激を活用する。
- 立ち去りには別の刺激で対応:突然立ち去ろうとしたら、別の話題・歌・道具など関係のない刺激を向け、注意をそらす(転導性の利用)。
- 環境を整える:小さく・静かで・家庭的な空間を居場所にする。
当サイトの見解:ルーティン化ケアは「特別な訓練」ではなく、入浴・整容・食事といった毎日の生活援助そのものを習慣として定着させる発想です。たとえば入浴拒否への対応も、進行してから慌てるのではなく、記憶や関係づくりの力が残っている初期のうちに「決まった曜日・決まった職員での入浴」を習慣化しておくことが、後々の拒否を防ぐ最も現実的な予防策になります。担当が日替わりになりがちな現場ほど、FTDの利用者には「担当を固定する」配置の工夫が効いてきます。
症状別の対応の工夫(脱抑制・食行動異常・無関心・コミュニケーション)
ルーティン化ケアと並んで、日々の場面ごとの対応の引き出しを持っておくと、トラブルを未然に防ぎやすくなります。共通する原則は「制止より誘導」「叱責より環境調整」です。
脱抑制への対応——否定せず、別の行動へ
不適切な言動が出たときに「それはダメです」と強く否定すると、かえって興奮を高めてしまいます。「○○しましょう」と別の行動に誘導したり、その場を穏やかに離れてもらったりするほうが効果的です。さらに重要なのは、起きてから対応するより「起きない環境」をつくることです。商品やよその利用者の私物に近づきにくい動線にする、トラブルが起きやすい相手とは食事や活動の席を離す、といったリスクを下げる環境設定を多職種で検討します。万引きなど施設外でのトラブルが心配な場合は、外出時の付き添い体制を相談員・家族と共有しておきます。
食行動異常への対応——安全管理を最優先に
過食や特定食品への執着がある場合は、提供する食事量をあらかじめ適切に調整する、食事以外の時間の口寂しさには低カロリーの代替品(おやつなど)を用意する、といった工夫が有効なことがあります。早食い・かき込みがある利用者では、窒息・誤嚥のリスクが高まるため、一口量を調整した提供、見守りの強化、食事のペース配分が安全管理の要になります。他の人の食事に手を伸ばす場合は、席の配置を工夫する・食事開始のタイミングをそろえるなど、環境面での対応を優先します。体重や食事量の変化は記録して、栄養士・看護職と共有します。
無関心・自発性低下への対応——「きっかけ」をつくる
「やる気がない」のではなく自分から動き出せない状態なので、声かけだけでは動きません。ルーティン化ケアの「準備→誘導→導入」のように、道具を目の前に用意し、動作を見せて始めるきっかけをつくることが対応そのものになります。整容や入浴も、本人任せにせず決まった流れに乗せることで保たれやすくなります。
コミュニケーションの工夫——言葉だけに頼らない
言語障害がある利用者には、言葉だけでなく表情・ジェスチャー・指差し・写真や絵カードを活用します。語義失語がある場合は言葉の意味自体がわかりにくくなっているため、短く・具体的な言葉を選びます。言葉での意思疎通が難しくても、声のトーンや表情から伝わる「安心できる雰囲気」は届いていることが多いものです。穏やかな表情と落ち着いた声を意識してください。
薬と「身体拘束ではない」対応の原則
FTDの行動症状(BPSD)への対応は、薬よりもまず非薬物的なかかわりが第一選択とされています。厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」も、対応の第1選択は非薬物的介入を原則とする姿勢を示しています。薬の使用は医師の判断であり介護職が判断するものではありませんが、「まず環境と関わりで整える」というケアの優先順位を現場で共有しておくことが、過剰な薬や不適切な行動制限を防ぐことにつながります。
家族への支援——「病気の症状」だと伝える
FTDは人格変化が先行するため、家族は「性格が悪くなった」「わざとやっている」と受け止めて深く傷ついていることがあります。介護職が「これは病気の症状で、本人がコントロールできるものではない」と丁寧に伝えるだけでも、家族の接し方が受容的に変わり、それが本人の安定にもつながります。必要に応じて相談員・医師・地域包括支援センターなどの専門職につなぎます。
若年発症と制度(指定難病127・介護保険・支援制度)
FTDは40〜60代での発症が多く、現役世代や子育て世代で発症することも珍しくありません。介護職としては、利用者本人だけでなく、働き盛りで介護を担う家族の生活・経済の不安まで視野に入れた支援が求められます。制度を「知っている」だけで、適切な相談先につなげられます。
指定難病127「前頭側頭葉変性症」
前頭側頭葉変性症は、国の指定難病(告示番号127)に認定されています。対象となる病型は「行動異常型前頭側頭型認知症」と「意味性認知症」で、いずれも原則として65歳以下での発症が対象です。診断基準を満たし重症度分類で一定以上と認定されると、医療費助成の対象になります。難病情報センターによると、令和元年度の医療受給者証保持者数は1,071人で、決して多くはない希少な疾患です(そのぶん現場でも情報が行き渡りにくく、誤解されやすいともいえます)。申請窓口は都道府県・指定都市の保健所などで、診断は難病指定医が行います。
若年発症で使える支援制度
- 介護保険(第2号被保険者):40〜64歳でも、初老期における認知症(FTDを含む)は特定疾病に該当するため、要介護・要支援認定を受けて介護保険サービスを利用できます。「若いから介護保険は使えない」と誤解されやすい点です。
- 自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳:症状に応じて精神科医療の自己負担軽減や各種支援の対象になることがあります。
- 障害年金:現役世代で就労が難しくなった場合、家計を支える制度として検討の余地があります。
- 成年後見制度:判断力の低下に備え、金銭管理や契約を支える仕組みです。
これらの判断・申請は介護職が行うものではありませんが、「こういう制度があるので相談員やケアマネに聞いてみては」とつなぐ一言が、家族にとって大きな支えになります。担当者会議の場で、本人の症状の様子とあわせて家族の負担状況を共有しておくとよいでしょう。
現場ですぐ使える対応のコツ
- 「止める」前に「観察」する:困った行動が出たら、止める前に「いつ・どこで・どんなきっかけで・何をしたか」を記録する。常同行動のパターンが見えれば、ケアプランに組み込みやすくなります。
- 担当・時間・場所を固定する:日替わり対応はFTDの利用者には逆効果。シフトの工夫で「なじみの職員」を意図的につくります。
- 説明より「見せる」:言葉が届きにくい場面では、道具を渡し動作を見本で示すほうがスムーズです。
- 立ち去りには別刺激:制止せず、好きな話題・歌・道具で注意をそらす(転導性の利用)。
- 家族には「症状です」と必ず一言:人格変化を「本人のせい」と思い込まないよう、病気の症状であることを繰り返し伝える。
- 静かな環境を選ぶ:大人数の活動より、小さく静かな空間のほうが落ち着けることが多い。
よくある質問(FAQ)
Q. 常同行動は無理にやめさせたほうがよいですか?
いいえ。安全が確保できる範囲では、無理に止めないのが基本です。常同行動を強引に止めると、混乱や興奮、暴力的な反応につながることがあります。むしろ「決まったことを繰り返す」性質を生活リズムやケアに組み込む(ルーティン化する)ほうが、本人も穏やかになり介護負担も軽くなります。
Q. FTDの利用者が急に怒り出すのはなぜですか?
多くは、決まった習慣やこだわりを邪魔されたときに起こります。いつも座る席に他の人が座っていた、進行中の常同行動を中断された、といった場面です。脱抑制により怒りが抑えにくくなっていることも背景にあります。原因を観察して、環境を整え、本人の習慣を尊重することで予防できます。
Q. 物忘れが目立たないのに認知症なのですか?
FTDは記憶よりも「行動」と「言葉」に症状が出る認知症です。初期には記憶や見当識が比較的保たれているため、「認知症らしくない」と感じられますが、前頭葉・側頭葉の障害による神経変性疾患です。記憶検査の点数が良いために診断が遅れることもあります。
Q. 食べ物への執着や過食にはどう対応すればよいですか?
提供量をあらかじめ調整する、低カロリーの代替品を用意する、他の人の食事と席を離す、といった環境面の工夫が中心です。早食い・かき込みがある場合は窒息・誤嚥のリスクが高いため、一口量の調整や見守りなど安全管理を優先し、変化は栄養士・看護職と共有します。
Q. 若い利用者ですが介護保険は使えますか?
使える場合があります。40〜64歳でも、初老期における認知症(FTDを含む)は介護保険の特定疾病に該当するため、要介護・要支援認定を受ければサービスを利用できます。加えて指定難病127の医療費助成や障害年金など、若年発症ならではの制度もあるため、相談員やケアマネにつなぎましょう。
参考文献・出典
- [1]
- [2]前頭側頭型認知症&意味性認知症(認知症サポート医・かかりつけ医向け資料)- 大阪市(大阪市立弘済院)
ルーティン化療法の考え方と作業療法の手順(準備→誘導→導入→実施)、BPSD対応における非薬物的介入の位置づけ
- [3]前頭側頭型認知症に特徴的な症状:常同行動・無関心/無気力・脱抑制など- NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン(認知症の語り)
常同行動・脱抑制・無関心など前頭側頭型認知症に特徴的な症状の解説
- [4]
まとめ
前頭側頭型認知症(FTD・ピック病)のある利用者の介護は、「記憶を支える」アルツハイマー型のケアとは発想が異なります。脱抑制・常同行動・無関心・食行動異常という行動の症状を「困った行動」として制止するのではなく、病気の症状として理解し、保たれている力と「こだわる」性質を活かして生活リズムに組み込む——このルーティン化ケアが対応の軸になります。制止より誘導、叱責より環境調整、そして「これは症状です」と家族に伝える一言が、本人と家族の双方を支えます。
診断・治療・薬の判断は専門医の領域ですが、日々の様子を観察・記録し、適切な相談先や制度につなぐことは、介護職だからこそ担える大切な役割です。FTDのケアは難しいと身構えられがちですが、症状の仕組みを知り、対応の引き出しを持てば、利用者が穏やかに過ごせる時間を確実に増やせます。
こうした認知症ケアの専門性を活かせる職場をお探しの方は、自分の強みや希望する働き方を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。下の働き方診断で、あなたに合った介護の職場像を確認できます。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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