
看護師の医療行為とは
看護師の医療行為は保助看法に基づく診療の補助業務で、原則として医師の指示下で実施します。介護施設で看護師が単独実施できる範囲、特定行為研修21区分38行為、医師指示の必要性レベルまでやさしく解説します。
この記事のポイント
看護師の医療行為とは、保健師助産師看護師法(保助看法)第5条・第37条に基づき、看護師が業として行う「療養上の世話」と「診療の補助」のうち、医師の指示に基づいて実施する医学的処置のことです。介護施設では注射・採血・褥瘡処置・経管栄養管理などを担い、2015年からは特定行為研修を修了した看護師が手順書により21区分38行為を医師の包括指示で実施できます。
目次
看護師の医療行為の法的位置づけ
看護師の業務は保健師助産師看護師法(保助看法)第5条で「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」と定義されています。このうち医療行為に該当するのは「診療の補助」であり、本来は医師のみが行える医行為を、医師の指示のもと看護師が代わりに実施する仕組みです。
保助看法第37条では「主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をなしその他医師若しくは歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と定めており、看護師が医療行為を行う前提として医師の指示が必須です。
介護施設で看護師が担う典型的な医療行為は、注射(皮下・筋肉・静脈内)、点滴管理、採血、褥瘡処置、創傷処置、経管栄養(胃ろう・経鼻)、喀痰吸引、導尿、インスリン注射、酸素吸入、人工呼吸器管理、ターミナルケアにおける疼痛管理などです。介護職員が行える医療的ケア(医師法・保助看法の例外規定で認められた喀痰吸引・経管栄養の一部、軟膏塗布、湿布貼付、点眼、坐薬挿入、市販浣腸など)とは法的根拠も実施範囲も異なります。
2015年(平成27年)10月からは「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行され、研修を修了した看護師は医師があらかじめ作成した手順書により、21区分38行為について個別具体的な指示を待たずに実施できるようになりました。在宅医療や夜間帯のタイムリーな医療提供を可能にする制度として、訪問看護や介護施設での活用が広がっています。
介護施設で看護師が日常的に実施できる医療行為
以下は介護施設(特養・老健・有料・グループホーム等)の常勤・配置看護師が医師の指示書または包括指示のもと実施する代表的な医療行為です。実施には主治医・配置医の事前指示と施設のマニュアル整備が前提となります。
- 注射・点滴:皮下注射(インスリン・抗凝固薬)、筋肉注射(ワクチン)、静脈内注射、末梢点滴の管理・抜針
- 採血:定期検査・血糖測定のための採血、血糖自己測定器(SMBG)使用支援
- 褥瘡・創傷処置:ドレッシング材交換、洗浄、軟膏塗布、デブリードマン補助、感染兆候の観察
- 経管栄養管理:胃ろう・経鼻経管からの栄養剤注入、チューブ交換補助、注入トラブル対応
- 喀痰吸引:口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内の吸引(介護職への指導・連携含む)
- 排泄ケア医療部分:導尿、膀胱留置カテーテル管理・交換、摘便、ストーマケア
- 呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸器(NPPV含む)の装着確認・観察、SpO2モニタリング
- 服薬管理:内服薬の用法確認・配薬監視、麻薬性鎮痛薬の管理(金庫保管・投与記録)
- 看取り・ターミナルケア:疼痛アセスメント、医師指示による麻薬投与、死亡確認立会い
- 感染対策・予防接種:インフルエンザ・コロナワクチン接種、PCR検体採取、隔離指導
特定行為研修21区分38行為の全体像
2015年10月施行の特定行為研修制度では、医師が事前に作成した手順書により看護師が実施できる「特定行為」を21区分・38行為に整理しています。区分ごとの研修を修了することで、該当区分の行為のみ手順書実施が可能になります。在宅・介護現場で特に活用されるのは呼吸器・栄養・水分管理・創傷管理の区分です。
- 呼吸器(気道確保)関連:経口・経鼻気管挿管チューブの位置調整
- 呼吸器(人工呼吸療法)関連:人工呼吸器設定変更、侵襲的陽圧換気の設定変更、非侵襲的陽圧換気の設定変更、人工呼吸器離脱
- 呼吸器(長期呼吸療法)関連:気管カニューレの交換
- 循環器関連:一時的ペースメーカ操作・管理、一時的ペースメーカリードの抜去、経皮的心肺補助装置の操作・管理、大動脈内バルーンパンピング離脱の補助
- 心嚢ドレーン管理関連:心嚢ドレーンの抜去
- 胸腔ドレーン管理関連:低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧調整、胸腔ドレーンの抜去
- 腹腔ドレーン管理関連:腹腔ドレーンの抜去
- ろう孔管理関連:胃ろうカテーテル・腸ろうカテーテル・胃ろうボタンの交換、膀胱ろうカテーテルの交換
- 栄養に係るカテーテル管理(中心静脈):中心静脈カテーテルの抜去
- 栄養に係るカテーテル管理(末梢留置):末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
- 創傷管理関連:褥瘡・慢性創傷の血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法
- 創部ドレーン管理関連:創部ドレーンの抜去
- 動脈血液ガス分析関連:直接動脈穿刺法による採血、橈骨動脈ラインの確保
- 透析管理関連:急性血液浄化療法における血液透析器・血液透析濾過器の操作・管理
- 栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連:持続点滴中の高カロリー輸液の投与量調整、脱水症状に対する輸液による補正
- 感染に係る薬剤投与関連:感染徴候がある者への薬剤の臨時の投与
- 血糖コントロールに係る薬剤投与関連:インスリンの投与量調整
- 術後疼痛管理関連:硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与・投与量調整
- 循環動態に係る薬剤投与関連:持続点滴中のカテコラミン・ナトリウム・カリウム・クロール・降圧剤・糖質輸液・電解質輸液・利尿剤の投与量調整
- 精神及び神経症状に係る薬剤投与関連:抗けいれん剤・抗精神病薬・抗不安薬の臨時の投与
- 皮膚損傷に係る薬剤投与関連:抗癌剤等の皮膚漏出時のステロイド薬の局所注射・投与量調整
2025年4月時点で特定行為研修修了者は全国で約9,800人。共通科目250時間(医学・薬学・臨床推論等)と区分別科目(15〜72時間)の研修を、指定研修機関で受講する仕組みです。在宅医療・訪問看護領域では「在宅・慢性期領域パッケージ」が用意され、6区分11行為をまとめて学べます。
医師指示の必要性レベル別の比較
看護師の医療行為は、必要な医師指示の「具体性」と「タイミング」によって4段階に整理できます。研修修了の有無、行為の侵襲性、緊急性によって適用される指示の種類が変わります。
| 指示レベル | 必要な指示の内容 | 該当行為の例 | 必要な研修・要件 |
|---|---|---|---|
| 具体的指示(個別指示) | 「いつ・誰に・何を・どれだけ」を医師が個別に指示 | 静脈内注射、輸血、高カロリー輸液、抗癌剤投与 | 看護師免許+施設マニュアル |
| 標準指示(指示書) | 事前に作成された指示書に従って実施 | 定時の点滴・注射、褥瘡処置、経管栄養注入 | 看護師免許+施設・主治医の指示書 |
| 包括指示(手順書) | 医師が事前作成した手順書の範囲内で臨床判断して実施 | 特定行為21区分38行為(インスリン量調整、気管カニューレ交換、脱水補正等) | 特定行為研修修了+手順書 |
| 指示不要 | 医師の指示なしで看護師の判断で実施可能 | 療養上の世話(清拭、食事介助、体位変換、観察、健康相談) | 看護師免許のみ |
特定行為研修の最大の意義は、医師が常駐しない介護施設・訪問看護の現場で、看護師がアセスメントから処置までをタイムリーに完結できる点にあります。例えばインスリン投与量調整を手順書化しておけば、夜間の高血糖時に医師連絡を待たずに調整可能になります。
介護施設で看護師が医療行為を行うときの実務ポイント
- 主治医・配置医の指示書を文書化する:口頭指示は緊急時を除き避け、必ず書面・電子記録で残します。後追い記録(24時間以内)も必須です。
- 施設マニュアルを整備する:医療行為ごとに「実施手順・観察項目・異常時対応・報告先」を明文化し、新人看護師にも同じ手順で実施できる体制を作ります。
- 介護職との役割分担を明確にする:喀痰吸引・経管栄養は研修修了介護職員も実施可能ですが、判断業務(バイタル評価・実施可否判断)は看護師が担います。
- 夜間オンコール体制を準備する:医師指示が必要な場面(急変・薬剤臨時投与)に備え、主治医・配置医への連絡手順とバックアップ医療機関を整備します。
- 特定行為研修の活用を検討する:在宅・慢性期パッケージ修了で、看取り期の脱水補正・気管カニューレ交換・褥瘡デブリードマンを手順書で実施でき、医師の負担と利用者の待ち時間を同時に減らせます。
- 記録は具体的に:実施日時・指示元・実施内容・利用者の反応・異常の有無を記録します。インシデント時の根拠資料となり、施設の医療安全体制を支えます。
よくある質問
看護師は医師の指示なく医療行為を行えますか?
保助看法第37条により、原則として医師の指示が必要です。例外は「療養上の世話(清拭・体位変換・観察)」と「緊急時の応急処置(心肺蘇生・止血等)」のみ。それ以外の医療行為は具体的指示・標準指示・包括指示のいずれかの形で医師指示が前提となります。
介護職と看護師の医療行為の違いは何ですか?
介護職員が実施できるのは法的例外として認められた範囲のみです。具体的には、研修修了介護職員による喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内)・経管栄養注入、および解釈通知で医療行為に該当しないとされる軟膏塗布・湿布貼付・点眼・坐薬挿入・市販浣腸など。看護師はこれらに加え、注射・点滴・採血・褥瘡処置など医師指示下の医療行為全般を担えます。
特定行為研修を受けるとどんな行為ができるようになりますか?
21区分38行為のうち、研修を修了した区分について「手順書」により実施可能になります。例えば「在宅・慢性期領域パッケージ」を修了すると、気管カニューレ交換・胃ろうカテーテル交換・脱水補正の輸液・褥瘡デブリードマン・インスリン量調整・抗精神病薬臨時投与の6区分11行為が手順書実施できます。
特定行為研修の修了にはどのくらいの期間がかかりますか?
共通科目250時間と区分別科目(15〜72時間)の研修で、就業しながらeラーニング併用で受講するケースが一般的です。区分数にもよりますが、修了までに6か月〜2年程度かかります。指定研修機関は全国に約400機関(2025年時点)。
介護施設で勤務する看護師に特定行為研修は必須ですか?
必須ではありません。ただし、配置医が非常勤・遠隔の特養・グループホーム・有料・サ高住では、研修修了看護師がいることで夜間・休日のタイムリーな処置が可能になり、入院搬送の減少と利用者QOL向上に直結します。介護報酬上の評価加算(看取り介護加算等)の取得にも有利に働くケースがあります。
参考資料・公的ソース
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まとめ
看護師の医療行為は保助看法に基づく「診療の補助」業務であり、原則として医師の指示が必要です。介護施設では注射・採血・褥瘡処置・経管栄養管理・喀痰吸引などを担い、介護職員が行える医療的ケア(喀痰吸引研修修了者の吸引・経管栄養や、解釈通知で医療行為とされない軟膏塗布等)とは法的根拠も実施範囲も異なります。
2015年施行の特定行為研修制度により、研修修了看護師は21区分38行為を手順書で実施でき、医師不在時のタイムリーな医療提供が可能になりました。在宅・慢性期領域パッケージは介護現場での活用が広く、看取り期のケア質向上と入院搬送削減に寄与します。介護施設で医療行為に関わる看護師は、施設マニュアル整備・指示書文書化・介護職との役割分担を意識して、安全で連続性のあるケアを実現していきましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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