
高齢者の予防接種(ワクチン)とは
高齢者の予防接種について、インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナ・帯状疱疹のB類定期接種4種と任意接種を整理。自己負担額の目安、介護施設での集団接種、職員・同居家族の接種重要性まで解説します。
この記事のポイント
高齢者の予防接種とは、65歳以上を中心に発症予防・重症化予防を目的に接種するワクチンの総称です。予防接種法に基づくB類定期接種(インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナ・帯状疱疹の4種)と、本人希望で受ける任意接種(RSウイルス、破傷風など)に分かれ、自治体ごとに公費補助があり自己負担は2,000〜7,000円程度が一般的です。
目次
高齢者の予防接種の全体像と法的位置づけ
高齢者の予防接種は、加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化、いわゆるimmunosenescence)によって感染症の重症化リスクが高まることを背景に、発症予防よりも重症化・死亡予防を主目的として行われます。日本における高齢者向けワクチンは、予防接種法上の位置づけによって大きく2つに分類されます。
B類疾病の定期接種(個人予防に重点)
予防接種法に基づき市区町村が実施する定期接種のうち、個人の発病・重症化予防を主目的とするものがB類疾病に分類されます。A類(小児中心、努力義務あり)と異なり、努力義務はなく接種は本人の希望に基づいて行われますが、対象年齢内であれば公費補助により自己負担が大幅に軽減される仕組みです。2026年5月時点で高齢者向けB類定期接種に該当するのは以下の4種類です。
- 季節性インフルエンザ(65歳以上、毎年1回、毎冬実施)
- 高齢者肺炎球菌(65歳到達年度に1回、2026年度から20価結合型ワクチンプレベナー20に切り替え)
- 新型コロナウイルス感染症(65歳以上、年1回・秋冬実施、2024年10月から定期接種化)
- 帯状疱疹(2025年4月からB類定期接種化、65・70・75・80・85・90・95・100歳の節目年齢が対象)
任意接種(自費・全額自己負担)
B類に含まれないワクチンは任意接種として全額自己負担で接種します。高齢者で検討対象になる主なものは以下のとおりです。
- RSウイルスワクチン(60歳以上で重症化リスクあり、2024年に国内承認)
- 破傷風トキソイド(1968年以前出生者は基礎免疫が不十分なケースあり)
- 麻疹・風疹(過去の流行歴で免疫を持つ世代が多いが、抗体価が低い場合に検討)
- A型・B型肝炎(海外渡航や血液曝露リスクのある介護職員で検討)
介護現場では、入居者本人だけでなく職員・同居家族の接種状況が集団感染(クラスター)発生リスクに直結するため、施設運営上も予防接種の知識は必須です。
高齢者向けB類定期接種4種の接種スケジュール
2026年5月時点で、高齢者がB類定期接種として公費補助で受けられる4種類のワクチンの対象年齢・接種回数・自己負担目安を一覧で示します。実際の自己負担額は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村のホームページで確認が必要です。
| ワクチン | 対象年齢 | 接種回数・時期 | 自己負担目安 | 主な予防対象 |
|---|---|---|---|---|
| 季節性インフルエンザ | 65歳以上(60〜64歳で心・腎・呼吸器に重度障害がある方も対象) | 毎年1回・10〜12月 | 1,500〜2,500円 | 発症・重症化・入院・死亡予防 |
| 高齢者肺炎球菌(PCV20) | 65歳到達年度に1回 | 誕生日前日〜翌年度開始日まで | 4,000〜7,000円(2026年度〜PCV20切替で増額傾向) | 侵襲性肺炎球菌感染症・誤嚥性肺炎の重症化予防 |
| 新型コロナウイルス感染症 | 65歳以上(60〜64歳の基礎疾患該当者含む) | 年1回・秋冬(9〜12月) | 3,000〜7,000円(自治体ごとに差大) | 発症・重症化・入院予防 |
| 帯状疱疹(組換えワクチン/生ワクチン) | 65・70・75・80・85・90・95・100歳の節目年齢(経過措置) | 組換え:2か月以上空け2回/生:1回 | 組換え:1回約10,000円×2/生:約4,000円(自治体差大) | 帯状疱疹発症・帯状疱疹後神経痛(PHN)予防 |
2026年度の主な変更点
- 肺炎球菌:従来の23価多糖体ワクチン(ニューモバックス)から20価結合型ワクチン(プレベナー20)に切り替わり、自己負担額が引き上げられている自治体が多い
- 帯状疱疹:2025年4月のB類化を受け、2026年度も65歳ほか節目年齢が対象。組換えワクチン(シングリックス)2回接種が主流
- 新型コロナ:定期接種化2年目に入り、年1回・秋冬の集中接種が定着
B類定期接種と任意接種の違い
同じ「予防接種」でも、予防接種法上の位置づけが異なると公費補助・救済制度・施設での実施フローが大きく変わります。介護施設で接種計画を立てる際は、両者の差を正確に把握しておく必要があります。
| 項目 | B類定期接種 | 任意接種 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 予防接種法第5条 | 個人の希望(医療契約) |
| 実施主体 | 市区町村(受託医療機関) | 医療機関(自由診療) |
| 努力義務 | なし(本人希望) | なし |
| 費用負担 | 公費補助あり(自己負担2,000〜7,000円程度) | 全額自己負担(5,000〜20,000円超) |
| 健康被害救済 | 予防接種法に基づく救済(医療費・障害年金等、給付水準が高い) | 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品副作用被害救済制度 |
| 該当ワクチン例 | インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナ・帯状疱疹 | RSウイルス・破傷風・A型/B型肝炎・麻疹風疹 |
| 介護施設での接種 | 嘱託医・受託医療機関で集団接種が可能 | 個別に医療機関受診が原則(施設集団接種は要相談) |
救済制度の差は実務上の重要ポイント
定期接種で健康被害が生じた場合は予防接種法による国の救済制度(医療費・医療手当・障害年金・遺族年金など)が適用される一方、任意接種ではPMDAの医薬品副作用被害救済制度が適用されます。給付水準・対象範囲は前者が手厚く、対象年齢内であれば原則として定期接種で受けることが推奨されます。
介護施設での集団接種をスムーズに進める実務ポイント
介護老人福祉施設(特養)・介護老人保健施設(老健)・有料老人ホーム等の入居型施設では、毎年秋〜冬にかけて入居者へのインフルエンザ・新型コロナ・肺炎球菌・帯状疱疹の集団接種が実施されます。看護師・施設長が押さえておくべき実務ポイントを整理します。
1. 嘱託医・協力医療機関との事前調整
B類定期接種は市区町村の受託医療機関でのみ公費補助対象となります。施設の嘱託医が受託契約を結んでいるかを確認し、未契約であれば自治体保健所経由で手続きを行います。集団接種日は10月〜11月に集中するため、夏前から日程調整するのが望ましい運用です。
2. 入居者の同意取得と接種前確認
意思決定能力が低下した認知症入居者については、家族・成年後見人からの同意取得が必須です。接種前確認では、(1) 当日の体温・体調 (2) 過去のアレルギー歴・接種後副反応歴 (3) 抗血栓薬服用の有無 をチェックリスト化し、嘱託医の問診で再確認します。
3. 自己負担免除対象者の一括申請
生活保護受給者・市民税非課税世帯等は自己負担が免除される自治体が大半です。施設で入所者分を一括郵送申請する場合は、接種者ごとに自己負担免除対象者申請書(委任欄記入)と本人確認書類のコピーを揃えて提出します。
4. 職員・同居家族の接種促進
高齢者本人へのワクチン効果は加齢で減弱するため、周囲の感染源を絶つcocoon strategy(コクーン戦略)が重要です。介護職員のインフルエンザ・新型コロナ接種、入居者家族の接種を施設として推奨することで、クラスター発生リスクを下げられます。費用補助制度(職員分の施設負担、自治体助成)の活用も検討します。
5. 接種記録の電子化とLIFE連携
接種日・ロット番号・接種医師名を介護記録ソフトに記録しておくと、感染症発生時の濃厚接触者特定や副反応報告がスムーズになります。一部の科学的介護情報システム(LIFE)連携ソフトでは予防接種項目を入力可能で、施設の感染対策の質指標としても活用できます。
高齢者の予防接種に関するよくある質問
Q1. 65歳になったら、4種類のワクチンを全部受けるべきですか?
B類定期接種は努力義務がないため強制ではありませんが、いずれも重症化予防のエビデンスが確立されており、対象年齢内で公費補助を受けられる機会は限定的です。基礎疾患・既往歴・副反応歴を踏まえて、かかりつけ医や嘱託医と相談のうえ計画的に接種することが推奨されます。
Q2. 複数のワクチンを同時接種してもよいですか?
不活化ワクチン同士(インフルエンザ・新型コロナ・肺炎球菌・帯状疱疹組換えワクチン等)は、医師が認めた場合に同時接種が可能です。左右の腕に分けて接種するのが一般的です。帯状疱疹生ワクチンを使う場合は他の生ワクチンとの接種間隔(27日以上)に注意が必要です。
Q3. 介護施設の入居者は施設内で接種できますか?
嘱託医または受託医療機関が施設に訪問して接種する施設内集団接種が可能です。市区町村の受託契約と入居者の同意取得が前提となります。施設外の医療機関へ移送する場合は移送負担と感染対策の観点から、施設内実施が一般的です。
Q4. 予防接種で副反応が出たらどうなりますか?
定期接種で健康被害が発生した場合は、予防接種法に基づく救済制度により医療費・医療手当・障害年金等が給付されます。任意接種の場合はPMDAの副作用被害救済制度が適用されます。重篤な副反応は予防接種後副反応疑い報告制度に基づき医療機関から国へ報告されます。
Q5. 介護職員はワクチン接種の費用補助を受けられますか?
多くの自治体・施設で職員向けインフルエンザワクチン費用助成が実施されています。新型コロナ・B型肝炎についても施設負担で接種する例が増えています。職員の接種は入居者保護(cocoon effect)の観点からも推奨されており、雇用契約・就業規則で位置づけを明確にしておくと運用しやすくなります。
まとめ
高齢者の予防接種は、B類定期接種4種(インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナ・帯状疱疹)と任意接種(RSウイルス・破傷風など)から構成され、対象年齢内であれば自己負担2,000〜7,000円程度で接種できます。介護施設では入居者本人の接種に加え、職員・同居家族の接種推進がクラスター予防の鍵となります。2026年度は肺炎球菌が20価結合型(プレベナー20)に切り替わり、自治体ごとの自己負担額・対象者が更新されているため、最新情報を市区町村のホームページで確認したうえで、嘱託医と連携した集団接種計画を進めましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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