
公正な採用選考とは
公正な採用選考とは、応募者の基本的人権を尊重し、適性・能力のみを基準として採用選考を行うという厚生労働省の考え方です。本籍・家族・住宅状況・思想信条など、就職差別につながるおそれのある14事項を把握しないことが求められます。
この記事のポイント
公正な採用選考とは、応募者の基本的人権を尊重し、応募者が持つ適性・能力のみを基準として採用選考を行うという、厚生労働省が事業主に求めている考え方です。求人条件に合致するすべての人に門戸を開くことと、適性・能力に関係のない事項を採用基準にしないことの2点が柱になります。本籍・家族・住宅状況・思想信条など、就職差別につながるおそれのある14事項を把握しないよう求められています。
目次
公正な採用選考の2つの基本的な考え方
厚生労働省は、採用選考にあたって次の2点を基本的な考え方として実施することが大切だとしています。
- 応募者の基本的人権を尊重すること
- 応募者の適性・能力のみを基準として行うこと
そのうえで、公正な採用選考を行う基本を「応募者に広く門戸を開くこと」と「応募者の適性・能力に基づいた採用基準とすること」の2つに整理しています。出自、障害、難病の有無、性的マイノリティなど、特定の人を排除しないことも明記されています。
なぜ「把握しない」ことまで求められるのか
適性・能力に関係のない事項は、採否の基準にするつもりがなくても、ひとたび把握してしまうと予断や偏見を招き、結果として評価に影響する可能性があります。また、尋ねられたくない応募者にとっては精神的な圧迫や苦痛となり、面接で実力を発揮できず、結果的にその人を排除することにつながります。だからこそ、基準にしないだけでなく、質問しない・記載を求めない・実施しないことが求められています。
介護は慢性的な人手不足のなかで採用を急ぎがちですが、この原則は事業所の規模や求人の切迫度によって緩むものではありません。応募用紙の様式についても、厚生労働省は新規大卒者や一般求職者に対して「厚生労働省履歴書様式例」の使用を推奨しています。
採用選考時に配慮すべき14事項
厚生労働省は、就職差別につながるおそれがある具体的事項として、少なくとも次の14事項を挙げています。これらをエントリーシート・応募用紙に記載させる、面接時に尋ねる、作文の題材とするなどによって把握すること、また選考方法として実施することは避けるよう求められています。
本人に責任のない事項の把握(4事項)
- 本籍・出生地に関すること
- 家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)
- 住宅状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握(7事項)
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観・生活信条などに関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
採用選考の方法(3事項)
- 身元調査などの実施
- 本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
- 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
戸籍謄(抄)本や本籍が記載された住民票(写し)を提出させることは、本籍・出生地の把握に該当します。現住所の略図などを提出させることは、住宅状況や生活環境の把握、あるいは身元調査につながる可能性があるとされています。
介護の採用選考で逸脱が起きやすい場面
厚生労働省の公正採用選考特設サイトによると、応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもののうち、「家族に関すること」の質問が多くを占めています。令和6年度にハローワークで把握した854件の内訳としてこの傾向が示されており、面接の空気を和らげるために聞いてしまうケースが多いと注意が促されています。
介護の面接では、シフトや夜勤の話から家庭の状況に話題が流れやすいという固有の事情があります。ここで押さえるべき区別は次のとおりです。
| 尋ねてよいこと | 配慮すべき事項に触れること |
|---|---|
| 夜勤や早番・遅番に対応できるか(勤務条件そのものの確認) | 対応できない理由としての家族構成・同居者・介護や育児の事情 |
| 通勤手段と通勤時間(労働条件の説明・確認) | 住居の種類・間取り・持ち家か賃貸か・現住所の略図 |
| 保有資格と実務経験、身体介助の経験 | 合理的・客観的な必要性が認められない健康診断書の提出 |
| ケアの方針についての考え方 | 宗教・支持政党・尊敬する人物・愛読書 |
この区別は、厚生労働省が示す「適性・能力のみを基準とする」という原則を、介護の勤務形態に当てはめて整理したものです。判断に迷う質問が出てきたら、その情報が職務遂行に必要な適性・能力の評価に直結するかどうかを基準にしてください。直結しないなら尋ねない、が原則です。
公正な採用選考に関するよくある質問
Q. 14事項を尋ねると法律違反になりますか
14事項そのものが直ちに罰則を伴うわけではありませんが、就職差別につながるおそれのある行為として厚生労働省が事業主に是正を求めているものです。あわせて、求職者などの個人情報の収集・保管・使用については職業安定法およびこれに基づく指針の規制があり、社会的差別の原因となるおそれのある事項や思想・信条、労働組合への加入状況の収集は原則として認められていません。
Q. 応募者が自分から家族の話をした場合はどうしますか
応募者が自発的に話した内容を、こちらから掘り下げて把握しにいかないことが重要です。話題を勤務条件や職務経験に戻し、評価シートには記録しません。
Q. 健康状態は一切聞けないのですか
問題になるのは、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施です。職務遂行のために必要な身体的条件の確認と、必要性の乏しい健康診断書の一律提出要求は区別されます。
Q. 小規模な事業所でも同じ基準ですか
同じです。事業所の規模や求人の切迫度によって基準が変わるものではありません。面接官が管理者1人という体制でも、質問項目と評価基準を事前に定めておくことで逸脱を防げます。
公正な採用選考の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
公正な採用選考のまとめ
公正な採用選考は、応募者の基本的人権を尊重し、適性・能力のみを基準として選考を行うという厚生労働省の考え方です。広く門戸を開くことと、適性・能力以外を採用条件にしないことが柱になります。
実務では、就職差別につながるおそれのある14事項を把握しないことが具体的な指針になります。本人に責任のない事項が4つ、本来自由であるべき事項が7つ、採用選考の方法に関するものが3つです。指摘の多くは「家族に関すること」で、緊張をほぐそうとした雑談から生じています。面接前に質問項目と評価基準を書き出しておくことが、最も確実な予防策です。
この用語に関連する記事

介護の採用実務|計画から定着まで、施設の採用を5ステップで設計する
介護施設の管理者・採用担当者向けに、採用計画・チャネル選定・求人票・面接・定着の5ステップを一気通貫で設計する手引き。介護労働実態調査と当サイトの独自データ(チャネル別効果率・大手法人シェア)で各ステップの数字の要点を押さえます。

介護の採用計画の立て方|離職率から年間の必要採用数を逆算する
介護施設の管理者・採用担当者向けに、年間何人採用するかを数字で決める手順を解説。令和7年度介護労働実態調査の離職率を使い、事業所規模別・サービス系型別に現員維持に必要な採用数を逆算し、歩留まりから必要応募数まで落とし込みます。

介護の採用面接で見るべき評価軸とNG質問|面接官ガイド
介護施設の採用担当者・面接官向けに、離職理由データから逆算した評価軸の作り方、ケース別の質問例、公正な採用選考で避けるべきNG質問の言い換え、求人票との条件すり合わせまでを実務目線で解説します。

応募が来る介護求人票の書き方|職業安定法の法定明示11項目を欄ごとに逐条チェック
介護施設の採用担当者向けに、応募が集まる求人票の書き方を解説。職業安定法が定める法定明示11項目と2024年4月追加の「変更の範囲」を求人票の欄ごとに対応づけ、夜勤・処遇改善加算・送迎など介護特有の誤解を生む欄をNG例と修正例で整理します。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。