介護の採用実務|計画から定着まで、施設の採用を5ステップで設計する
介護職向け

介護の採用実務|計画から定着まで、施設の採用を5ステップで設計する

介護施設の管理者・採用担当者向けに、採用計画・チャネル選定・求人票・面接・定着の5ステップを一気通貫で設計する手引き。介護労働実態調査と当サイトの独自データ(チャネル別効果率・大手法人シェア)で各ステップの数字の要点を押さえます。

ポイント

この記事のポイント

介護の採用実務は、①採用計画(現員数×離職率で年間の必要採用数を確定する)、②採用チャネルの選定(効果率のデータで配分を決める)、③求人票(職業安定法の法定明示11項目を書き切る)、④面接(評価軸の設計と公正な採用選考)、⑤定着(翌年の必要採用数を減らす前工程)の5ステップで設計します。令和7年度介護労働実態調査では、従業員が不足していると答えた事業所は65.8%。現員30人の事業所は増員ゼロでも年間3.6人から3.7人の採用が必要で、欠員が出てから募集する運用では追いつきません。

目次

介護施設の採用は、個々の打ち手を思いつきで足しても改善しません。求人媒体を1つ増やす、ホームページを作り直す、面接官を替える。どれも部分の話であり、そもそも年間何人採る必要があるのか、その人数をどのチャネルで集め、どの求人票で受け止め、どの基準で選び、どう定着させるのかという全体の設計がなければ、効いたかどうかの判断すらできません。

状況は厳しい方向に動いています。公益財団法人介護労働安定センターの『令和7年度介護労働実態調査』(令和8年7月29日公表)では、従業員が不足していると答えた事業所は65.8%と前年度の65.2%からさらに上昇しました。一方で、訪問介護員と介護職員を合わせた2職種計の採用率は14.6%、離職率は12.4%。入ってくる人の少なさが不足感の主因になっており、同じやり方を続けるだけでは母集団の縮小に飲み込まれます。

この記事は、介護施設の管理者・経営者・採用担当者に向けた「採用実務の全体マップ」です。採用のプロセスを時系列の5ステップに分け、各ステップで決めるべきことと数字の要点を示したうえで、詳細はステップごとの個別記事につなぎます。個別記事はいずれも、介護労働実態調査などの公的統計と、当サイトが独自に集計・試算したデータ(採用チャネル別の効果率、都道府県別の大手法人シェア、離職率からの必要採用数逆算)を土台にしています。採用支援サービスの紹介記事ではないため、特定のチャネルに誘導する動機はありません。数字と法令根拠だけで組み立てています。

なお、本記事を含む採用実務の各記事は事業者側の視点で書いています。求職者として求人票や面接に向き合う方向けの記事は、別のテーマとして扱っています。

採用実務の全体像|5つのステップと2つの横串

介護の採用実務は、時系列で並べると5つのステップに整理できます。上流から順に、採用計画、チャネル選定、求人票、面接、定着です。それぞれのステップに「決めるべきこと」があり、上流の決定が下流の精度を規定します。年間の必要採用数が決まっていなければチャネルの予算配分は決められませんし、求人票が曖昧なままでは、面接がどれだけ丁寧でも入職後の「聞いていた話と違う」を防げません。

5つのステップの地図

ステップ決めること数字の要点詳細記事
1. 採用計画年間の必要採用数と必要応募数現員30人なら増員ゼロでも年3.6〜3.7人(令和7年度調査の離職率12.4%から逆算)採用計画の立て方
2. チャネル選定どの経路で応募を集めるかと予算配分効果率1位は無料の職員紹介46.0%。HP21.3%・SNS16.8%は実施率ほど効かない(令和6年度調査の独自分析)採用チャネル別の効果率
3. 求人票法定明示11項目と介護特有の誤解を生む欄職業安定法の明示義務+2024年4月追加の「変更の範囲」。虚偽表示は罰則の対象求人票の書き方
4. 面接評価軸・質問設計・NG質問の回避離職理由1位は人間関係27.3%。評価軸は離職理由から逆算する面接の評価軸とNG質問
5. 定着翌年の必要採用数を減らす施策定着に困っている事業所の離職率19.0%、困っていない事業所9.7%。必要採用数は2倍近く違う本記事のステップ5と採用計画の立て方の後半

2つの横串

5ステップとは別に、すべてのステップに横から効いてくる要素が2つあります。

  • 地域の競合環境。同じ求人票・同じチャネルでも、競合する相手が全国展開の大手法人なのか地元の中小法人なのかで結果は変わります。当サイトの独自試算では、大手法人シェアは東京都42.8%に対し沖縄県4.8%と8.9倍の開きがあります。詳細は大手法人シェア都道府県ランキングへ。
  • リファラル採用(職員紹介)。効果率が最も高く費用もかからない一方、報奨金の出し方を誤ると職業安定法40条違反になります。制度設計はリファラル採用の作り方へ。

どこから読むか

これから採用体制を立て直すなら、ステップ1の計画から順に読むのが早道です。すでに募集中で成果が出ていないなら、詰まっている工程から入ってください。応募が来ないならステップ2と3、応募は来るが採用に至らない・すぐ辞めるならステップ4と5です。どの工程が詰まっているかを判定するには、応募数・面接実施数・内定数・入職者数の4つの記録が要ります。記録がない場合は、まずステップ1の記事にある歩留まりの考え方から始めてください。

ステップ1:採用計画。年間の必要採用数を数字で確定させる

採用実務の起点は、「年間で何人採るのか」を数字で確定させることです。必要な人数が決まっていなければ、求人にいくらかけるべきかも、いつ動き出すべきかも決められません。計算の骨格は次の1本の式です。

年間必要採用数 = 現員数 × 離職率 + 増員計画数 + 基準充足のための不足分

離職率は自施設の過去3年の実測値が最優先ですが、出るまでの暫定値として公表統計が使えます。『令和7年度介護労働実態調査』の2職種計(訪問介護員+介護職員)の離職率は12.4%。この値を当てると、現員30人の事業所は増員ゼロでも年間3.6人から3.7人、現員100人なら13.1人前後の採用が必要になります。100人規模は月1人以上のペースであり、「欠員が出たら募集する」運用では構造的に追いつきません。

事業所の条件で必要数は2倍近く変わる

同じ現員30人でも、事業所の状態によって必要採用数は大きく振れます。同調査の公表値から逆算すると、差が最も大きいのは開設からの経過年数と定着状況です。

  • 開設2年から3年未満の事業所の離職率は21.4%で、10年以上の11.4%の約1.9倍。現員30人換算の必要採用数は6.4人対3.4人
  • 「定着率が低く困っている」事業所の離職率は19.0%で、「定着率は低くない」事業所の9.7%の約2倍。現員30人換算で5.7人対2.9人

新規開設の立ち上げ期を既存施設と同じ前提で計画すると、初年度から破綻します。逆に、定着に手を打つことは翌年の必要採用数をほぼ半減させる効果を持ちます(ステップ5で詳述)。

必要応募数まで落とし込む

必要採用数が出たら、応募から面接、内定、入職までの歩留まりを掛け戻して、必要応募数と月あたりの応募目標まで落とします。介護分野の段階別通過率には信頼できる公的統計がないため、自施設の実績値で計算します。数えるのは応募数・面接実施数・内定数・入職者数の4つだけです。この記録があって初めて、「今月の応募ゼロ」が単月の不調ではなく年間計画に対する遅れの確定だと分かります。

離職率の定義式、事業所規模別・サービス系型別・年齢構成別の逆算表、人員配置基準からの不足分の出し方、介護福祉士国家試験の日程から逆算した年間スケジュールまで、計画づくりの全手順は介護の採用計画の立て方で扱っています。

ステップ2:採用チャネル。効果率のデータで配分を決める

必要応募数が決まったら、どの経路で集めるかを配分します。ここで判断材料になるのが、当サイトが介護労働実態調査から独自に再集計した「チャネル別の効果率」です。効果率とは、そのチャネルを実施している事業所のうち「採用に効果があった」と回答した事業所の割合を指します。令和6年度調査(有効回答8,978事業所)の値を効果率順に並べると次のようになります。

採用チャネル実施率効果率
職員に友人・知人などの紹介を依頼65.6%46.0%
有料職業紹介所を活用41.5%45.2%
民間の有料求人情報サイトを活用36.6%41.1%
ハローワークや福祉人材センターの担当者に相談66.9%40.1%
事業所ホームページで発信37.2%21.3%
SNSで発信14.8%16.8%

実施率と効果率は一致しない

読みどころは、労力をかけている施策ほど効いているとは限らないことです。効果率1位の職員紹介は費用がかかりません。一方、採用広報として推奨されがちな事業所ホームページは37.2%が実施しているのに効果率21.3%、SNSは16.8%で最下位です。求職者はまず媒体やハローワークで求人を探し、施設名で検索するのはその後なので、自社発信は「入口」ではなく「見つけた後の確認先」として機能します。応募数を増やす主力施策には位置づけないのが、データに沿った判断です。

有料職業紹介には活用社数別のデータがあり、1社のみの効果率32.6%に対し3〜5社では56.5%と1.7倍の差があります。相関であって因果ではありませんが、少なくとも1社運用が有利である根拠はデータからは出てきません。

なお、令和7年度調査でも、職員への紹介依頼(効果率47.3%)と有料職業紹介(同53.4%)が効果率の上位を占め、事業所ホームページ(同24.4%)が実施率のわりに効かないという構図は続いています。

配分の順序

予算は「まず無料チャネル(職員紹介・ハローワーク)で集まる見込みを置き、必要応募数との差分だけを有料チャネルに割り付ける」順序で組みます。最初から有料前提で組むと、無料チャネルの改善が止まります。チャネルごとの向き・不向き、自施設の効果率の測り方(応募経路・面接到達・採用決定・6か月定着の4点記録)は介護の採用チャネル別「効果率」で詳しく扱っています。

ステップ3:求人票。法定明示11項目をチェックリストとして使う

チャネルを決めても、受け皿になる求人票が弱ければ応募には変わりません。求人票は募集の告知文である前に、労働条件を法的に明示する書面です。職業安定法第5条の3と同法施行規則第4条の2第3項は、業務内容・労働契約の期間・試用期間・賃金・労働時間・保険の適用など11項目の明示を求めており、2024年4月からは「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準(更新上限を含む)」の3項目が追加されました。

この明示義務は、面倒な規制ではなくチェックリストとして使えます。11項目を欄ごとに書き切ろうとすると、業務の範囲、シフト、賃金の内訳といった、求職者が最も知りたい情報が自然に埋まるからです。逆に、虚偽の広告や虚偽の条件提示で募集を行うと、職業安定法第65条により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になります。第5条の4は誤解を生じさせる表示も禁じており、「業界トップクラスの手厚い人員配置」のような根拠のない形容もリスクになります。

介護で誤解を生みやすい欄

介護の求人票で特につまずきやすいのは次の欄です。

  • 賃金。処遇改善加算分を「加算含む」の一言で総額に溶かし込まない。手当として金額を切り出し、加算区分に連動して改定されうる旨を添える
  • 夜勤。回数、1回の勤務時間、仮眠の有無、手当の額と深夜割増賃金を含むか否かまで書く
  • 固定残業代。基本給の額、時間数と金額、超過分を追加で支払う旨の3点セットが揃わないと不適切な表示になる
  • 送迎。有無、車種、頻度を仕事の内容欄に書き切る。後出しは選考辞退と早期離職の両方を生む
  • 職種名。「介護職員」だけでは開かれない。「介護職員(特別養護老人ホーム)」のようにサービス種別まで書く

「人数」の問題か「質」の問題かで直す欄が違う

令和7年度介護労働実態調査では、採用した従業員について「人数・質ともに確保できていない」が30.6%で最多、施設系(入所型)では42.0%に達します。人数が足りないなら直すのは職種名・賃金・就業時間・休日、質に満足していないなら仕事の内容・資格要件の書き分けです。同じ「求人票を直す」でも触る欄はまったく別になります。11項目の逐条チェックリスト、「変更の範囲」の介護向け記載例、NG記載と修正例の対比は応募が来る介護求人票の書き方にまとめています。

ステップ4:面接。評価軸の設計と公正な採用選考

面接の精度は、面接官の「見抜く力」ではなく、評価軸が事前に言語化されているかで決まります。何を評価すべきかは、実際に人が辞めた理由から逆算するのが確実です。令和7年度介護労働実態調査(労働者調査)では、直前の介護関係の仕事を辞めた理由の1位が「職場の人間関係に問題があったため」で27.3%、2位が「勤務先の事業理念や運営のあり方に不満があったため」で21.0%でした。人間関係の中身をさらに分解すると、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が45.8%と、上司・先輩との関係に集中しています。

ここから、面接で確認すべき軸が決まります。意見が食い違ったときの対処の仕方、ケア観を自分の言葉で説明できるか、指摘を受けたときに何を変えたか、夜勤や移動などの業務条件に従事可能か、通勤を含めて働き続けられる現実条件があるか。この5軸を、質問・順番・評価基準を事前に固定した構造化面接に落とし、面接官2名以上がそれぞれ独立に採点してからすり合わせると、担当者によって結論が変わる面接から抜け出せます。

「和ませるつもり」の質問が違反になる

同時に、聞いてはいけない領域を面接官全員が知っている必要があります。厚生労働省は「公正な採用選考」の考え方として、本籍・出生地、家族の職業や健康、住宅状況、生活環境といった本人に責任のない事項や、宗教・支持政党・尊敬する人物といった本来自由であるべき事項の把握など、就職差別につながるおそれがある14事項を挙げています。介護の面接では、夜勤シフトに家庭の理解が必要だという思い込みから「ご家族は夜勤に賛成していますか」「お子さんの急な発熱のときは誰が見ますか」といった質問が紛れ込みやすいのが実情です。

確認したい業務上の必要は、ほぼすべて「施設側が条件を先に提示し、従事可能かを本人に確認する」形に置き換えられます。「月4回程度、16時間の夜勤があります。この条件で従事可能でしょうか」は正当な確認であり、家族の賛否を尋ねる必要はありません。評価シートの作り方、経験者・未経験者・夜勤あり施設・訪問介護・管理職候補それぞれのケース別質問例、NG質問と言い換えの対比表は介護の採用面接で見るべき評価軸とNG質問で扱っています。

ステップ5:定着。翌年の必要採用数を減らす最大のレバー

定着は採用の「後工程」ではなく、翌年の必要採用数を決める「前工程」です。令和7年度介護労働実態調査の定着状況別の集計が、このことを端的に示しています。

  • 「定着率が低く困っている」事業所:採用率19.5%、離職率19.0%。大量に採っているのに純増はわずかで、現員30人換算の年間必要採用数は5.7人
  • 「定着率は低くない」事業所:採用率12.5%、離職率9.7%。少ない採用で人が増えており、必要採用数は2.9人

同じ人数規模で必要な採用数が2倍近く違います。採用チャネルを増やすより離職率を下げるほうが、必要採用数への効き方は大きいというのが数字の示すところです。

打ち手を選ぶうえで重要なのは、採用に効く施策と定着に効く施策が違うことです。同調査では、採用に効果があったとする割合の1位は「賃金水準の向上」(38.4%)、職場定着に効果があったとする割合の1位は「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」(57.9%)で、順位が入れ替わっています。賃上げには原資が要りますが、休暇の取りやすさと勤務日時の変更しやすさはシフト設計と運用の問題であり、原資が小さくても着手できます。

優先順位をつけるなら、29歳以下の定着です。同調査の年齢階層別離職率で29歳以下は17.3%と全階層中最も高く、ここを下げる効果は他の年齢層より大きく出ます。定着状況別の必要採用数の逆算、離職1人あたりの損失額の組み立て方は採用計画の立て方のステップ5で扱っています。

横串1:地域の競合環境で打ち手を変える

5つのステップの打ち手は、地域の競合環境によって最適解が変わります。当サイトは厚生労働省の介護サービス情報公表システムの公開データ(2025年12月時点)から6サービス種別89,129事業所を抽出し、法人番号で名寄せして、10事業所以上を運営する法人を「大手」と定義した都道府県別シェアを独自に試算しました。結果は、東京都42.8%に対して沖縄県4.8%と8.9倍の差。全国平均は23.0%で、大手に該当するのは40,249法人中711法人でした。

競合の性質が違えば、効く打ち手も違う

  • 大手シェアが高い地域(東京42.8%、神奈川41.7%、埼玉37.6%など)。競合は研修体系と給与テーブルを整えた法人で、求職者は条件で比較します。条件の明示(基本給と手当の内訳・夜勤回数・休日数)と選考スピードで戦い、異動がない・意思決定が早い・シフトの融通が利くといった大手にない要素を打ち出します
  • 大手シェアが低い地域(沖縄4.8%、宮崎6.8%、鹿児島7.6%など)。競合は地元法人で、条件差は小さく地縁と評判が効きます。職員紹介を主軸に、ハローワーク・福祉人材センターの担当者への相談、地域の養成校との関係づくりに比重を置きます

サービス種別によっても環境は分かれます。大手シェアは有料老人ホームで57.8%と過半数に達する一方、特別養護老人ホームは15.4%、介護老人保健施設は14.2%にとどまります。都道府県と種別を掛け合わせれば、自施設が「条件で比較される市場」にいるのか「地縁が効く市場」にいるのかが見えます。

もっとも、介護は産業全体として極めて分散しており、最大手の法人でも集計対象の約2.5%、上位100法人を合わせても12.6%です。採用市場で圧倒的に有利な相手は存在せず、地域単位では規模に関係なく競争できます。47都道府県の全ランキング、種別ごとの集計、通勤圏内の競合を具体的に調べる手順は介護の「大手法人シェア」都道府県ランキングで公開しています。

横串2:リファラル採用を制度として整える

もう1つの横串が、職員紹介(リファラル採用)の制度化です。令和6年度介護労働実態調査の独自分析では、職員への紹介依頼は効果率46.0%と全チャネル中最も高く、外部への支払いも発生しません。実施率も65.6%と高いのですが、裏を返せば、依頼している事業所の半分以上は効果を実感していないということでもあります。「誰かいたら紹介して」と口頭で頼むことと、支給条件を規程に定めて周知し、応募から入職までの動線を用意することは別物です。

報奨金は「賃金」として払う

制度化で最初に押さえるべきは法的な枠組みです。職業安定法第40条は、労働者の募集を行う者が募集に従事する者へ報酬を与えることを原則禁止しており、例外は「その被用者で当該労働者の募集に従事するもの」に賃金・給料その他これらに準ずるものを支払う場合です。つまり報奨金は、就業規則(または賃金規程)に支給条件を定め、給与として計上して源泉徴収を行う形で支払う必要があります。違反は第65条により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。

避けるべき運用は4つあります。退職者や取引先など被用者以外への支払い、規程がないままの都度支給、商品券や現金手渡しなど賃金以外の形、特定の職員が反復継続して紹介する状態の放置です。そして金額より重要なのは、職員が自分の評判を賭けて知人を誘いたいと思える職場かどうかです。紹介が出ない状態は、多くの場合、制度ではなく定着施策の課題を映しています。支給額の決め方、2段階支給の設計、シフト制の職場での周知経路、紹介者と入職者の配属を分ける配慮までは介護のリファラル採用(職員紹介制度)の作り方で扱っています。

よくある失敗パターン

採用実務の相談で繰り返し見かける失敗は、5ステップのどこかが抜けている形に還元できます。代表的なパターンを挙げます。

  • 欠員が出てから募集を始める。退職の申し出から退職日までは1〜2か月、選考から入職まではそれ以上かかることも珍しくなく、後追いでは空白期間がほぼ確実に生まれます。計画(ステップ1)の不在が原因で、誰が辞めるかは予測できなくても、毎年おおよそ何人辞めるかは統計と実績から見積もれます
  • 「みんなやっている施策」を効く施策だと思い込む。事業所ホームページでの発信は37.2%が実施していますが、効果があったとするのは21.3%です(令和6年度調査)。実施率と効果率は別の指標であり、労力の配分はデータで見直す必要があります(ステップ2)
  • 賃金欄で「高見せ」する。「月給28万円以上(処遇改善加算含む)」のような書き方は、応募は増えても入職後の「聞いていた話と違う」を生み、早期離職と評判低下で回収されます。手当の内訳を切り出して書くのが結局いちばん応募に効きます(ステップ3)
  • 面接で家族や家庭環境の話をする。場を和ませるつもりの質問が、就職差別につながるおそれがある事項の把握に該当しえます。条件を先に提示して従事可能かを確認する形に置き換えます(ステップ4)
  • 採用の強化だけで定着を放置する。定着に困っている事業所は採用率19.5%と大量に採ってもほぼ純増せず、必要採用数は定着している事業所の2倍近くになります。採って埋める回転に費用を投じ続ける構図です(ステップ5)
  • 全国平均の数字を自施設にそのまま当てる。離職率も効果率も全国の回答事業所の平均であり、地域の競合環境やサービス種別で実際の値は大きく振れます。統計は出発点として使い、自施設の実測値(応募数・面接実施数・内定数・入職者数・離職者数)に置き換えていくのが正しい使い方です

よくある質問

Q. どのステップから手をつければよいですか

これから体制を整えるなら、ステップ1の採用計画からです。年間の必要採用数と必要応募数が決まらないと、他のステップの成否を判定する基準がありません。すでに募集中なら、応募数・面接実施数・内定数・入職者数の4つの記録から詰まっている工程を特定し、そこに対応するステップの記事から読んでください。

Q. 採用にかけられる予算がほとんどありません

費用のかからないチャネルの効果率が高いのが介護採用の特徴です。令和6年度調査の独自分析では、職員紹介の効果率46.0%が全チャネル中1位で、ハローワーク(担当者への相談まで実施した場合)も40.1%です。まず職員紹介を規程のある制度として整え、ハローワークは求人票を出すだけでなく担当者への相談まで踏み込む。この無料の土台を作ったうえで、不足分だけを有料チャネルに割り付けます。

Q. 現員10人程度の小規模事業所でも5ステップ全部が必要ですか

すべてを重装備にする必要はありませんが、計画と求人票は省けません。小規模ほど1人の欠員が人員配置基準に直結するためです。率ではなく実人数で管理し(現員10人・離職率13.0%なら年間1.3人、つまり2年に3人ペース)、求人票は法定明示11項目を欄ごとに埋める。この2つだけでも、欠員のたびに慌てる状態からは抜け出せます。

Q. 助成金を採用予算に組み込んでよいですか

雇用関係助成金はコースの新設・廃止・要件変更が毎年度あるため、受給見込み額を先に予算へ組み込むのは避けたほうが安全です。まず助成金なしで成立する予算を組み、受給できたら上乗せする順序にします。申請の可否と現時点の取り扱いは、厚生労働省の助成金のページと管轄の都道府県労働局に確認してください。

Q. 記事中の統計はいつのものですか

採用計画・面接・定着の数値は『令和7年度介護労働実態調査』(令和8年7月29日公表)、チャネル別効果率の独自分析は令和6年度の同調査(有効回答8,978事業所)、大手法人シェアは介護サービス情報公表システムの2025年12月時点の公開データに基づく当サイトの独自試算です。各記事の本文に調査年度と定義を明記しています。

Q. 求職者向けの記事とはどう違うのですか

このページと配下の6記事は、採用する側(施設の管理者・経営者・採用担当者)の視点で書いています。求人票の読み方や面接の受け方など、求職者向けのテーマは別の記事群で扱っており、視点が混ざらないよう分けています。

参考文献・出典

まとめ

介護の採用実務は、計画、チャネル、求人票、面接、定着の5ステップを時系列でつなぎ、地域の競合環境とリファラル採用の2本を横串として通すと、全体が1枚の設計図になります。各ステップの数字の要点をあらためて並べます。

  • 現員30人の事業所は、増員ゼロでも年間3.6人から3.7人の採用が必要(令和7年度調査の離職率12.4%から逆算)
  • 効果率1位は無料の職員紹介46.0%。ホームページ21.3%・SNS16.8%は実施率ほど効かない(令和6年度調査の独自分析)
  • 求人票は職業安定法の法定明示11項目+2024年4月追加の3項目をチェックリストとして使う。虚偽の条件提示は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象
  • 面接の評価軸は離職理由(人間関係27.3%・理念運営21.0%)から逆算し、公正な採用選考の14事項に触れない質問に設計する
  • 定着は翌年の採用数を決める前工程。定着状況の違いで必要採用数は2倍近く変わり、定着に最も効くとされる施策(休暇の取得・勤務日時の変更のしやすさ、57.9%)は賃上げの原資がなくても着手できる
  • 打ち手は競合環境で変える。大手法人シェアは東京42.8%対沖縄4.8%と8.9倍違い、高い地域は条件とスピード、低い地域は紹介と地縁が効く

最初の一歩はどの施設でも同じです。過去1年の在籍者数・採用者数・離職者数と、応募数・面接実施数・内定数・入職者数を数えてください。この数字が揃えば年間計画が作れ、計画があれば、チャネル・求人票・面接・定着のどこに投資すべきかを、感覚ではなく実績で判断できるようになります。各ステップの詳細は本文中で案内した6本の記事へ進んでください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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