
雇用管理責任者とは
雇用管理責任者とは、事業所の雇用管理の改善や職員からの相談対応を担う責任者です。建設業では法律上の選任義務がありますが、介護分野に選任義務を定めた条文はなく、厚生労働省が任意の選任を呼びかける施策として位置づけられています。職務内容と離職率のデータを整理します。
雇用管理責任者の定義
雇用管理責任者とは、事業所ごとに置かれ、労働者の雇用管理の改善や労働者からの相談対応などを担当する責任者です。建設業では建設労働者雇用改善法第5条により選任が法律上の義務とされていますが、介護分野には選任を義務づける条文がありません。介護事業所での選任は、厚生労働省が「選任しませんか」と呼びかける任意の取り組みとして位置づけられています。
目次
雇用管理責任者の根拠を法令で確認する
「雇用管理責任者」という名称の選任義務を条文で定めているのは、建設労働者の雇用の改善等に関する法律(建設労働者雇用改善法)です。同法第5条第1項は次のように定めています。
事業主は、建設事業(建設労働者を雇用して行うものに限る。)を行う事業所ごとに、次に掲げる事項のうち当該事業所において処理すべき事項を管理させるため、雇用管理責任者を選任しなければならない。
管理させる事項は、建設労働者の募集・雇入れおよび配置に関すること、技能の向上に関すること、職業生活上の環境の整備に関すること、その他厚生労働省令で定めるものの4つです。あわせて第2項は選任した者の氏名を事業所の建設労働者に周知させるよう努めること、第3項は必要な研修を受けさせるなど知識の習得および向上を図るよう努めることを、いずれも努力義務として定めています。
介護労働者法には雇用管理責任者の条文がない
介護分野の雇用管理を扱う法律は、介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律(介護労働者法、平成4年法律第63号)です。同法は全32条で構成され、第1章 総則、第2章 介護雇用管理改善等計画、第3章 介護労働者の雇用管理の改善等、第4章 介護労働安定センター、第5章 罰則という構成になっています。このうち雇用管理の改善を扱う第8条から第12条は、改善計画の認定、改善計画の変更等、雇用安定事業等としての助成および援助、指導および助言、報告の徴収を定めるもので、雇用管理責任者の選任を義務づける規定は置かれていません。同法施行規則にもありません。
介護労働者法が事業主に求めているのは、第3条第1項の責務規定です。事業主は、雇用する介護労働者について、労働環境の改善、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善を図るために必要な措置を講ずることにより、その福祉の増進に努めるものとする、という努力義務です。雇用管理責任者の選任は、この責務を果たすための手段の一つとして行政が推奨しているものであり、法律が名指しで課した義務ではありません。
推奨の受け皿になっているのが介護雇用管理改善等計画
介護労働者法第6条は、厚生労働大臣が介護労働者の雇用管理の改善、能力の開発および向上等に関し重要な事項を定めた計画(介護雇用管理改善等計画)を策定するものと定めています。雇用管理責任者の選任促進は、この計画に基づく施策として進められてきました。同法第15条に基づき厚生労働大臣が指定する介護労働安定センターが、雇用管理に関する相談援助や講習を担っています。
雇用管理責任者が介護事業所で担う業務
厚生労働省のリーフレット「『雇用管理責任者』を選任しませんか?」は、介護事業所における雇用管理責任者を、魅力ある職場づくりのために、介護労働者の雇用管理の改善、介護労働者からの相談対応、その他介護労働者の雇用管理の改善等に関する管理業務を担当する者と説明しています。
そのうえで、介護分野で雇用管理責任者が担う業務例として次の6項目を挙げています。
- 労働者の適切な配置
- 賃金・評価等の処遇改善
- 人材育成
- メンタルヘルス対策
- 労働者の相談体制の整備
- 情報通信技術やロボット等の活用による業務効率化
リーフレットは、これらを「労働者の身体的・精神的負担を軽減する取り組み」としてまとめています。個々の職員の労務手続を処理する役割ではなく、配置・処遇・育成・相談窓口という職場の仕組みそのものを設計し直す役割として描かれている点が特徴です。
資格要件はなく、無料の講習がある
雇用管理責任者になるために必要な資格は定められていません。厚生労働省は、雇用管理責任者となる方などを対象に、雇用管理の基礎知識や最新の労働法規を学ぶ介護労働者雇用管理責任者講習を無料で実施しています。講習は介護労働安定センターが実施し、受講者には受講証明書が発行されます。集合型のほか、電子的な学習形式の講習も設けられています。
雇用管理責任者の選任と離職率の関係データ
厚生労働省のリーフレットは、介護労働安定センター「介護労働実態調査」を出典として、雇用管理責任者を選任している事業所と選任していない事業所の離職率を並べたグラフを掲載しています。数値は次のとおりです。
| 年度 | 責任者を選任している事業所の離職率 | 選任していない事業所の離職率 | 差 |
|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 14.8% | 16.1% | 1.3ポイント |
| 令和2年度 | 14.9% | 14.9% | 0.0ポイント |
| 令和3年度 | 13.7% | 14.6% | 0.9ポイント |
| 令和4年度 | 13.8% | 14.8% | 1.0ポイント |
| 令和5年度 | 12.2% | 13.5% | 1.3ポイント |
この数字の読み方に注意する
差は5年のうち4年で選任している側が低く、令和5年度は1.3ポイントの開きがあります。ただし令和2年度は両者が同じ14.9%で、差が消えています。また、これは事業所を選任の有無で二分した比較であり、選任そのものが離職率を下げたことを示す実験結果ではありません。
リーフレット自身も、選任している事業所について「賃金等の労働条件の改善や人材育成など、従業員の早期離職防止や定着促進に積極的に取り組んでいるケースが多い」と述べています。つまり、責任者を置くような事業所はもともと雇用管理に力を入れている、という関係が背後にある可能性を、行政資料自体が示唆しています。求職者の立場では「雇用管理責任者がいるかどうか」を単独の判断材料にするのではなく、配置・処遇・相談体制が実際にどう運用されているかを確かめる入口として使うのが妥当です。
雇用管理責任者の建設業と介護分野の比較
| 比較軸 | 建設業 | 介護分野 |
|---|---|---|
| 根拠 | 建設労働者雇用改善法第5条第1項 | 選任を定めた条文はない。介護労働者法第3条第1項の事業主の責務と、第6条の介護雇用管理改善等計画に基づく行政の推奨 |
| 選任 | 義務(選任しなければならない) | 任意(厚生労働省が選任を検討するよう呼びかけている) |
| 選任単位 | 建設事業を行う事業所ごと | 事業所単位で想定されているが、法定の単位ではない |
| 氏名の周知 | 努力義務(同条第2項) | 法令上の定めなし |
| 研修 | 知識の習得・向上を図る努力義務(同条第3項) | 介護労働者雇用管理責任者講習を無料で受講できる |
| 行政への届出 | 法令上の届出義務なし | 法令上の届出義務なし |
「雇用管理責任者」という言葉を検索すると建設業の解説が多く出てくるのは、この違いによります。建設業の解説をそのまま介護に当てはめると、介護事業所にも選任義務があるという誤解が生まれます。介護分野で問われるのは、義務を果たしたかどうかではなく、雇用管理の改善という努力義務を実際に誰が担っているかです。
紛らわしい他の「責任者」と混同しない
介護の現場には名称の似た役職が複数あります。訪問介護のサービス提供責任者は介護保険法に基づく指定基準上の職種、職業紹介責任者は職業安定法第32条の14に基づき有料職業紹介事業者が選任する者で、いずれも雇用管理責任者とは根拠も職務も別です。
雇用管理責任者のよくある質問
Q介護事業所は雇用管理責任者を必ず置かなければなりませんか
置かなければならないという法令上の義務はありません。介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律にも、その施行規則にも、雇用管理責任者の選任を義務づける条文はありません。厚生労働省のリーフレットも「選任しませんか」「選任をご検討ください」という呼びかけの形をとっています。
Q選任したら行政に届け出る必要がありますか
介護分野には選任義務そのものがないため、届出の定めもありません。義務がある建設業でも、雇用管理責任者の選任を役所に届け出る仕組みは設けられていません。
Q雇用管理責任者になるのに資格は要りますか
必要な資格は定められていません。厚生労働省が無料で実施する介護労働者雇用管理責任者講習があり、受講者には受講証明書が発行されます。
Q求人票で雇用管理責任者の有無はわかりますか
法定の記載事項ではないため、求人票から判断することは通常できません。関心があれば、面接の場で職員の相談窓口が誰なのか、配置や処遇の見直しを担当する人がいるのかを確認するほうが実態に近づけます。
雇用管理責任者の参考資料
- [1]介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律- e-Gov法令検索
全32条の条文。第3条の事業主の責務、第6条の介護雇用管理改善等計画、第15条の介護労働安定センターの指定を定める。雇用管理責任者の選任規定は置かれていない。
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
雇用管理責任者のまとめ
雇用管理責任者は、建設業では建設労働者雇用改善法第5条により選任が義務づけられていますが、介護分野には選任義務を定めた条文が存在しません。介護労働者法が事業主に課しているのは第3条第1項の努力義務であり、雇用管理責任者の選任はそれを実現する手段として厚生労働省が推奨している任意の取り組みです。職務は配置、処遇改善、人材育成、メンタルヘルス対策、相談体制の整備、業務効率化の6分野に及び、資格要件はなく無料の講習が用意されています。選任事業所の離職率が低い傾向は行政資料で示されていますが、行政資料自身が述べるとおり、責任者を置く事業所はもともと雇用管理に積極的である場合が多く、有無だけで職場を判断することはできません。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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