
KTバランスチャートとは
KTバランスチャート(KTBC)は口から食べる力を13項目・4側面でスコア化しレーダーチャートで可視化する包括的評価ツール。項目・側面・使い方・看護師の関わりをやさしく解説します。
KTバランスチャートの定義
KTバランスチャート(KTBC:Kuchikara Taberu Balance Chart)は、「口(K)から食べる(T)」ことを支援するための包括的な評価ツールです。食べる意欲・全身状態・嚥下・栄養など13項目を1〜5点でスコア化し、4つの側面からレーダーチャートで「見える化」することで、強みと不足を多職種で共有し、具体的なケアプランにつなげます。小山珠美氏らが開発し、2015年に発表されました。
目次
KTバランスチャートの概要
KTバランスチャート(以下、KTBC)は、摂食嚥下障害がある人が「口からおいしく安全に食べる」ことを支えるために開発された当事者主権の包括的評価ツールです。口腔ケアや姿勢調整だけで安全に食べられるわけではなく、誤嚥していると評価されたからといって好きな食べ物をあきらめる必要があるわけでもありません。KTBCは、心身の調和を図りながら不足を補い、強みを伸ばすという生活者としての視点に立って、食支援を多面的に整理することを目指しています。
開発したのは、看護師である小山珠美氏らのグループです。2015年に発表され、2017年には信頼性・妥当性の検証結果を反映してブラッシュアップされました。妥当性・信頼性を検証した研究論文は、米国老年医学会雑誌(Journal of the American Geriatrics Society, 2016年)に掲載されています。
KTBCの大きな特徴は、特別な器械や検査を必要とせず、対象者を観察することで簡便に評価できる点です。身体への侵襲がなく、医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・介護職など職種を超えて実施・共有できるため、医療機関だけでなく特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・在宅などさまざまな現場で活用されています。評価結果はレーダーチャートとして可視化されるため、本人や家族を含めた多職種が現状を一目で共有できる「共通言語」として機能します。
KTバランスチャートの13項目と4側面
KTBCは、「口から食べる」ための要素を4つの側面(視点)に分け、その中に合計13の評価項目を配置しています。各項目を「1点:かなり不良もしくは困難/2点:不良もしくは困難/3点:やや不良もしくは困難/4点:概ね良好/5点:かなり良好」の5段階で評価します。
① 心身の医学的視点
- ①食べる意欲 — 食事への意欲・主体性
- ②全身状態 — 発熱・脱水・全身の安定度
- ③呼吸状態 — 呼吸の安定・誤嚥リスクに関わる呼吸機能
- ④口腔状態 — 口腔衛生、歯・義歯の状態
② 摂食嚥下の機能的視点
- ⑤認知機能(食事中) — 食事中の集中・注意・遂行機能
- ⑥咀嚼・送り込み — 噛む力と食塊を喉へ送る力
- ⑦嚥下 — 飲み込みの力
③ 姿勢・活動的視点
- ⑧姿勢・耐久性 — 食事姿勢の保持と持久力
- ⑨食事動作 — 自分で食べる動作・食具の使用
- ⑩活動 — 日常生活での活動量・離床
④ 摂食状況・食物形態・栄養的視点
- ⑪摂食状況レベル — 経口摂取の達成度(経管栄養併用の有無など)
- ⑫食物形態 — 普通食・軟菜食・ソフト食・ゼリーなどの形態
- ⑬栄養 — 体重変化・栄養状態
13項目のスコアをレーダーチャートに結ぶと、点数の低い項目(介入が必要な側面)と高い項目(強み)が一目でわかります。点数の低い項目へのケアを充実させるだけでなく、点数の高い「強み」を活かして不足部分をカバーするアプローチを展開できるのがKTBCの考え方です。
KTバランスチャートと嚥下機能評価の違い
KTバランスチャートと嚥下機能検査の違い
「むせるかどうか」を調べる検査と、KTBCは目的が異なります。VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)、改訂水飲みテスト・反復唾液嚥下テスト(RSST)などの嚥下機能評価は、主に「飲み込みの安全性・誤嚥の有無」という嚥下機能そのものを評価します。一方、KTBCは嚥下だけでなく、食べる意欲・栄養・姿勢・活動・食事動作・食物形態までを含めて「口から食べる生活」全体を13項目で包括的に評価する点が異なります。
| 観点 | KTバランスチャート(KTBC) | 嚥下機能検査(VE・VF・RSST等) |
|---|---|---|
| 評価対象 | 食べる意欲・全身・嚥下・姿勢・栄養など13項目の包括評価 | 飲み込みの安全性・誤嚥の有無など嚥下機能 |
| 方法 | 観察による5段階スコア化(器械不要) | 内視鏡・造影など専用機器や手技が必要なものを含む |
| 主な実施者 | 多職種(看護・介護・リハ・栄養など) | 医師・歯科医師・言語聴覚士など |
| 狙い | 強みと不足の可視化、支援計画とチーム連携 | 誤嚥リスクの判定・診断 |
両者は対立するものではなく補い合う関係です。嚥下機能検査で安全性を確認しつつ、KTBCで生活全体の食支援を設計するという使い分けが現場では有効です。なお、不顕性誤嚥のようにむせない誤嚥もあるため、KTBCの「③呼吸状態」「⑦嚥下」のスコアが低い場合は専門的な嚥下機能検査につなぐ判断も重要です。
KTバランスチャートの使い方と活用場面
KTBCの基本的な進め方は次のとおりです。
- 観察してスコア化:13項目の評価基準(イラスト付き)を参照しながら、各項目を1〜5点で評価します。
- レーダーチャートを作成:スコアを線で結び、強み(高得点)と不足(低得点)を可視化します。
- 支援計画を立てる:項目ごとにまとめられた支援方法を参考に、低い項目への介入と、強みを活かしたアプローチを検討します。
- 再評価で変化を見る:継続的に評価することで、介入後の変化(複数回分)を「見える化」できます。
活用場面は幅広く、初回評価での全体像把握、アプローチ方法の検討、多職種カンファレンス、入退院先への情報提供、地域連携、本人・家族への説明などに役立ちます。点数を上げることだけが目的ではなく、病状の進行や終末期では、あえて評価を下げて現実に合わせた対応を選ぶこともあり、あくまで個別性を重視します。
KTBCは、パソコン・スマートフォン・タブレットで評価・記録・共有ができる無料のWebサイトも提供されており、医学書院からは入力用のExcelシートやエッセンスノートなどの書籍も公開されています。
KTバランスチャートのよくある質問
Q. KTバランスチャートは誰が評価できますか?
特別な器械や検査を必要とせず、対象者を観察してスコア化するため、看護師・介護職・言語聴覚士・管理栄養士・理学療法士・作業療法士など職種を超えて実施・共有できます。多職種が同じ視点で評価できることがチーム連携の強みになります。
Q. KTBCの「KT」とは何の略ですか?
「Kuchikara Taberu(口から食べる)」の頭文字です。正式名称は「口から食べるバランスチャート(Kuchikara Taberu Balance Chart)」で、英語版は「KT index」とも呼ばれます。
Q. 項目は何項目あり、何点満点ですか?
4つの側面に分かれた合計13項目で構成され、各項目を1〜5点で評価します。点数の高さだけを目的とせず、強みと不足のバランスをレーダーチャートで把握することが目的です。
Q. 嚥下機能検査(VE・VF)の代わりになりますか?
役割が異なります。KTBCは食べる生活全体を包括的に整理するツールで、誤嚥の有無を確定診断するものではありません。呼吸状態や嚥下のスコアが低い場合は、専門的な嚥下機能検査につなぐ判断が必要です。
Q. 介護施設や在宅でも使えますか?
はい。医療機関だけでなく、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・在宅などさまざまな現場で活用されています。無料のWebサイトやExcelシートも公開されています。
KTバランスチャートの参考資料
- [1]
- [2]
- [3]Reliability and Validity of a Simplified Comprehensive Assessment Tool for Feeding Support: Kuchi-Kara Taberu Index- Journal of the American Geriatrics Society (2016)
Maeda K, Shamoto H, Wakabayashi H ほか。KT indexの信頼性・妥当性を検証した原著論文(PubMed)。
- [4]介護老人保健施設における経口摂取に対する実態調査―KTバランスチャートを導入してみて―- 厚生連医誌 第30巻1号(JA新潟厚生連)
老健でのKTBC導入事例。4側面13項目の構成と多職種連携での活用効果を報告した査読論文。
- [5]
KTバランスチャートのまとめ
まとめ
KTバランスチャート(KTBC)は、「口から食べる」ことを13項目・4側面で包括的に評価し、レーダーチャートで強みと不足を見える化する支援ツールです。器械を使わず観察で評価できるため、看護・介護・リハ・栄養など多職種の共通言語として機能し、医療機関から介護施設・在宅まで幅広く使われています。点数を上げることが目的ではなく、その人らしい「食べる幸せ」を支えるための支援計画とチーム連携につなげることが本来の狙いです。摂食嚥下の評価に関わる看護師・介護職の方は、嚥下機能検査と組み合わせて活用できる視点として押さえておくとよいでしょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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