
苦情解決(苦情解決制度)とは
苦情解決とは、社会福祉法に基づき事業者が利用者の苦情を適切に解決する仕組みです。苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員の体制、運営適正化委員会の役割、申し出の流れをやさしく解説します。
苦情解決の定義(苦情解決制度)
苦情解決(苦情解決制度)とは、社会福祉法第82条に基づき、福祉サービスを提供する事業者が利用者や家族からの苦情を適切に解決するために整える仕組みです。事業所内に苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員を置き、事業所で解決できない場合は都道府県社会福祉協議会の運営適正化委員会が相談・助言・あっせんを担います。利用者の権利擁護とサービスの質の向上を目的とした制度です。
目次
苦情解決制度の概要と法的位置づけ
苦情解決とは|社会福祉法に基づく仕組み
苦情解決とは、介護をはじめとする福祉サービスについて、利用者や家族から寄せられた苦情を、事業者が責任をもって適切に解決していく仕組みのことです。根拠となるのは社会福祉法で、第82条は「社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」と定めています。つまり苦情への対応は、事業者の任意ではなく法律上の責務として位置づけられています。
具体的な運用は、厚生労働省の通知「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針」(平成12年策定、平成29年改正)に沿って行われます。この指針は、苦情への適切な対応によって、利用者の満足感を高めるとともに、早期の虐待防止や利用者個人の権利擁護につなげることを目的に掲げています。あわせて、苦情を密室化せず、社会性や客観性を確保した一定のルールで解決を進めることで、円滑な解決と事業者への信頼確保をめざすとしています。
苦情解決の仕組みは、二段構えの重層的な構造になっている点が特徴です。まず第一段階として、それぞれの事業所が自ら苦情解決の体制を整えて対応します。事業所の段階で解決しない場合の受け皿として、第二段階に都道府県の運営適正化委員会が置かれ、中立的な立場から相談・助言・あっせんを行います。さらに、虐待など不当な行為のおそれがある場合には、行政(都道府県知事)が指導監督に乗り出す経路も用意されています。利用者が「どこにも言えない」状態に陥らないよう、複数の窓口が段階的に備えられているのです。
苦情解決制度における事業所内の3つの役割
事業所内の体制|3つの役割
苦情解決の仕組みでは、事業所のなかに次の3つの役割を置くこととされています。それぞれの立場と職務を整理します。
- 苦情解決責任者:苦情解決の責任主体を明確にするため、施設長や理事などが務めます。利用者への周知、苦情申出人との話し合いによる解決、改善状況の報告などを担います。
- 苦情受付担当者:利用者が苦情を申し出しやすい環境を整えるため、職員のなかから任命されます。苦情の受付、内容や利用者の意向の確認・記録、苦情解決責任者および第三者委員への報告を行います。
- 第三者委員:苦情解決に社会性と客観性を確保し、利用者の立場や特性に配慮した対応を進めるために設置されます。事業者から独立した立場で、苦情を直接受け付けたり、話し合いに助言・立ち会いをしたりします。中立性を保つため、経営者の責任で選任しつつ、社会的信望のある人や専門的知識を持つ人などが想定されています。
これらの担当者の氏名や連絡先は、施設内への掲示やパンフレットの配布などで利用者に周知することが求められます。誰に言えばよいかが見える形になっていることが、制度が機能する前提になります。
運営適正化委員会の役割(苦情解決制度)
運営適正化委員会の役割
事業所のなかだけでは苦情が解決しないとき、利用者が頼れる第三者的な機関が運営適正化委員会です。社会福祉法第83条に基づき、各都道府県の社会福祉協議会に設置されています。委員は、人格が高潔で社会福祉に識見を持ち、かつ社会福祉・法律・医療に関する学識経験を有する人で構成され、中立・公正な立場が確保されています。
苦情への対応は、委員会内に置かれる「苦情解決合議体」が担当します。社会福祉法第85条以下に沿って、申し出のあった福祉サービスの苦情について、相談に応じ、申出人に必要な助言を行い、事情を調査します。申出人と事業者の双方の同意が得られれば、解決に向けた「あっせん」(双方の間に入って解決案を示す調整)を行うこともできます。
さらに重要なのが、虐待や法令違反のおそれを見つけたときの役割です。社会福祉法第86条は、苦情の解決にあたって利用者の処遇につき不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは、運営適正化委員会は都道府県知事に速やかに通知しなければならないと定めています。つまり運営適正化委員会は、単なる相談窓口にとどまらず、深刻なケースを行政の監督につなぐ安全網の役割も果たしています。
全国社会福祉協議会のまとめによると、全国の運営適正化委員会に寄せられた苦情の受付件数は近年増加傾向にあり、2023年度は5,080件と、これまでで最も多い件数となりました。窓口が一定の役割を果たしていることがうかがえます。
苦情の申し出先と解決までの流れ(苦情解決制度)
苦情の申し出先と解決の流れ
利用者や家族が苦情を申し出るときの主な経路と、解決までの流れを整理します。申出人は、内容に応じて次のいずれかを選んで解決を図ることができます。
- 事業所に直接申し出る:まずは利用している事業所の苦情受付担当者や苦情解決責任者に伝えるのが基本です。第三者委員に直接申し出ることもできます。
- 事業所内での受付・記録:苦情受付担当者が内容や申出人の希望を書面に記録し、その内容を申出人に確認します。受け付けた苦情は原則として苦情解決責任者と第三者委員に報告されます。ただし申出人が第三者委員への報告を明確に拒否した場合は除かれます。
- 話し合いによる解決:苦情解決責任者が申出人との話し合いで解決に努めます。必要に応じて第三者委員が助言や立ち会いを行い、客観性を確保します。
- 記録・報告・公表:受付から解決・改善までの経過を書面に記録し、改善を約束した事項は一定期間後に申出人と第三者委員へ報告します。個人情報を除き、事業報告書や広報誌などで解決結果を公表することも求められます。
- 運営適正化委員会への申し出:事業所に直接言いにくい場合や、事業所段階で解決しない場合は、都道府県社会福祉協議会の運営適正化委員会へ申し出ることができます。委員会は相談・助言・調査を行い、双方の同意があればあっせんを実施します。
苦情の申出人になれるのは、福祉サービスの利用者本人だけでなく、その家族や代理人なども含まれます。本人が声を出しにくい場合でも、家族が代わりに相談できる仕組みになっています。
苦情解決制度が利用者・家族・職員にもつ意味
利用者・家族・職員にとっての意味
苦情解決制度は、クレームを処理するための仕組みというより、利用者の声を権利擁護とサービス改善につなげるための仕組みです。立場ごとの意味を整理します。
利用者・家族にとって:サービスに不満や疑問があっても、事業所に直接言うと不利益を受けるのではないかと不安になり、声を上げられない人は少なくありません。第三者委員や運営適正化委員会という事業者から独立した窓口があることで、「言っても大丈夫」という安心感が生まれ、結果として個人の権利が守られやすくなります。匿名の投書でも第三者委員に報告され、必要な対応がとられます。
職員・事業所にとって:苦情は、サービスの問題点に気づくための貴重な情報源です。寄せられた苦情を改善意見として受け止め、検証と改善を重ねることで、福祉サービスの質と事業所への信頼を高めることができます。苦情を密室化せず、記録・報告・公表のルールに沿って透明性をもって扱うことが、説明責任を果たすうえでも大切とされています。なお、苦情解決はリスクマネジメント(事故防止のための組織的な備え)と関連はあるものの、その一部に位置づけられるものではなく、利用者の苦情に向き合う独立した制度として運用される点に注意が必要です。
苦情解決制度のよくある質問
よくある質問
苦情解決制度はすべての介護事業所に関係しますか
社会福祉法第82条は、社会福祉事業を経営する者に苦情の適切な解決に努める責務を課しています。指針では、社会福祉事業に該当しない福祉サービスを提供する者も、この指針を参考に苦情解決の仕組みを設けることが望まれるとされており、介護サービスを提供する事業所では幅広く整備が進められています。
第三者委員には誰がなりますか
第三者委員は、苦情解決に社会性・客観性を確保するために置かれる委員です。事業者から独立した立場で、苦情を直接受け付けたり話し合いに助言・立ち会いをしたりします。中立性を保つため、社会的信望があり、福祉や法律などに関する見識を持つ人などが選任されます。
運営適正化委員会はどこに相談すればよいですか
運営適正化委員会は各都道府県の社会福祉協議会に設置されています。利用している福祉サービスについて事業所に直接言いにくい場合や、事業所段階で解決しない場合に、お住まいの都道府県の社会福祉協議会へ相談できます。
苦情を申し出ると不利益を受けませんか
苦情解決制度は、利用者が安心して声を上げられるように設計された仕組みです。第三者委員や運営適正化委員会という独立した窓口があり、申出人が第三者委員への報告を拒否する意思を示した場合は配慮されます。苦情を理由にサービス上の不利益を与えることは、制度の趣旨に反します。
苦情解決制度の参考資料(一次ソース)
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苦情解決制度のまとめ
まとめ
苦情解決(苦情解決制度)とは、社会福祉法第82条に基づき、事業者が利用者の苦情を適切に解決するために整える仕組みです。事業所内には苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員を置き、事業所で解決しない場合は都道府県社会福祉協議会の運営適正化委員会が相談・助言・あっせんを担います。虐待など不当な行為のおそれがあれば、都道府県知事への通知という安全網も働きます。苦情を密室化せず、利用者の権利擁護とサービスの質の向上につなげることが、この制度の本質です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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