
多系統萎縮症(MSA)の介護とは
多系統萎縮症(MSA)は指定難病17で、パーキンソン症状・自律神経障害・小脳症状が組み合わさる進行性神経難病。MSA-P/MSA-C/シャイ・ドレーガー3病型の特徴と介護上の注意点を解説。
この記事のポイント
多系統萎縮症(MSA:Multiple System Atrophy)は、パーキンソン症状(動作緩慢・筋強剛)・小脳症状(ふらつき・構音障害)・自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害)が組み合わさって進行する神経難病で、厚生労働省の指定難病17に指定されています。発症から平均5〜10年で寝たきりに至るとされ、40〜64歳でも介護保険の特定疾病として給付対象となります。
目次
多系統萎縮症(MSA)とは何か
多系統萎縮症(MSA:Multiple System Atrophy)は、脳の大脳基底核・小脳・脳幹・脊髄といった複数の神経系統が同時に変性していく、原因不明の進行性神経変性疾患です。「多系統」とは、運動を司る複数の神経経路が同時に障害されることを意味します。
1969年に、それまで別々の病気とされていた「線条体黒質変性症(SND)」「オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)」「シャイ・ドレーガー症候群(SDS)」の3疾患が、共通の病理像を持つ同一疾患として統合され、多系統萎縮症と命名されました。現在は症状の主体によって MSA-P(パーキンソン型)と MSA-C(小脳型)の2つに分類するのが国際的な主流ですが、自律神経症状が前面に出るタイプを従来通り「シャイ・ドレーガー症候群」と呼ぶこともあります。
厚生労働省の指定難病17に指定されており、重症度分類で一定以上の場合には医療費助成の対象となります。また、介護保険の特定疾病に該当するため、40〜64歳の第2号被保険者でも要介護認定の申請が可能です。日本国内の有病者数は推定約12,000人とされ、発症のピークは50〜60代です。明らかな遺伝性は確認されておらず、孤発性に発症します。
MSAの3病型と主症状
MSAは、最初に強く現れる症状によって以下の3病型に分けられます。介護現場では「同じMSAでも、ご本人がどの病型か」で日常生活援助の重点が大きく変わるため、主治医や訪問看護師から病型を共有してもらうことが重要です。
- MSA-P(パーキンソン型/旧:線条体黒質変性症):パーキンソン症状(動作緩慢、筋強剛、姿勢保持障害)が前面に出る病型。日本人MSAの約3〜4割を占めます。レボドパが効きにくい・効果が短いのが特徴で、転倒や食事動作の困難が早期から目立ちます。
- MSA-C(小脳型/旧:オリーブ橋小脳萎縮症):小脳症状(体幹失調、歩行時のふらつき、構音障害、書字障害)が前面に出る病型。日本人MSAの約6〜7割を占め、欧米と比べ日本では多いとされます。「酔っ払ったような歩き方」「ろれつが回らない」「字が大きく震える」などが家族から最初に気づかれることが多い症状です。
- シャイ・ドレーガー症候群(SDS):自律神経症状(起立性低血圧、排尿障害、発汗低下、勃起障害など)が早期から重度に現れるタイプ。現在の国際分類ではMSA-PかMSA-Cに含めますが、自律神経障害が突出する症例を従来通りこの名称で呼ぶことがあります。立ちくらみによる転倒、失神、誤嚥が介護上の最大リスクになります。
どの病型も進行に伴って他の症状(自律神経障害・嚥下障害・睡眠時無呼吸・声帯運動障害)が加わり、最終的には全病型で似た重症像に近づいていきます。
パーキンソン病とMSAの違い
MSA-Pは特にパーキンソン病と症状が似ており、発症初期は両者の鑑別が難しいことがあります。介護者が違いを把握しておくと、急変や予後の見通しに対応しやすくなります。
| 項目 | パーキンソン病 | 多系統萎縮症(MSA) |
|---|---|---|
| 有病率(日本) | 約15〜20万人 | 約1.2万人 |
| 発症のしかた | 左右差をもって徐々に進行 | 左右対称性で急速に進行 |
| レボドパの効果 | 明確に効く(蜜月期あり) | 効きにくい/効果短い |
| 自律神経障害 | 後期に出現 | 早期から重度(特にSDS型) |
| 小脳症状 | 通常出現しない | MSA-Cで前面に出る |
| 転倒 | 進行後に多い | 発症1〜2年目から多い |
| 進行速度 | 緩徐(10〜20年経過) | 速い(平均5〜10年で寝たきり) |
| 介護保険特定疾病 | 該当(パーキンソン病関連疾患) | 該当(多系統萎縮症) |
特に「転倒が早期から多い」「自律神経症状が強い」「レボドパが効かない」場合は、パーキンソン病ではなくMSAを疑う重要なサインです。早期から介護保険サービス・福祉用具の導入を検討する根拠になります。
MSAの方を介護するときの実務的ポイント
MSAの介護で特に注意したいのは、突然死リスクと急速な進行です。声帯外転麻痺(睡眠中に声帯が閉じて窒息するリスク)や、重度の起立性低血圧、睡眠時無呼吸が死亡原因として知られています。医療判断は必ず主治医・訪問看護師に委ねつつ、日々のケアでは次の点に注意します。
- 起立性低血圧への対応:ベッドから起こすときは「30秒座位→30秒端座位→立位」と段階的に。立位時の血圧低下で失神・転倒が起こりやすく、骨折につながります。弾性ストッキング・腹帯の活用は主治医の指示で。
- 嚥下障害と誤嚥対策:早期からSTによる嚥下評価を依頼。とろみ調整、姿勢調整(30度ギャッジアップ+頸部前屈)、食事中の体力消耗に配慮。
- 排尿障害(神経因性膀胱):尿閉と尿失禁が併存することがあり、自己導尿や留置カテーテルの導入が必要になる場合があります。記録(排尿時間・量・残尿感)を残し看護師と共有。
- 睡眠時の見守り:声帯外転麻痺によるいびき様喘鳴・無呼吸はMSA特有のサインで、夜間の急変リスクが高いことを家族介護者に共有。在宅酸素や非侵襲的人工呼吸(NPPV)が処方される場合があります。
- 進行を見越した先回り環境整備:「歩行→歩行器→車椅子→ベッド中心」の移行が1〜2年で進むことがあるため、住宅改修・福祉用具レンタルを早めにケアマネージャーに相談。
- 家族のレスパイト確保:進行が速いため家族介護者の負担が短期間で蓄積します。難病訪問看護・難病ヘルパー・ショートステイ・レスパイト入院を計画的に組み込みます。
多系統萎縮症についてよくある質問
- Q. 多系統萎縮症は介護保険で給付を受けられますか?
- A. はい。MSAは介護保険の特定疾病(16疾病の1つ)に該当するため、40〜64歳の第2号被保険者でも要介護認定を申請でき、認定されればホームヘルプ・訪問看護・福祉用具レンタル・住宅改修などのサービスを利用できます。65歳以上は通常通り第1号被保険者として申請可能です。
- Q. 指定難病の医療費助成は誰でも受けられますか?
- A. MSAと診断されただけでは助成対象になりません。重症度分類(Modified Rankin Scale 等)で一定以上の状態と判定された場合に対象となります。ただし、軽症でも医療費が一定額を超える月が複数回ある場合は「軽症高額該当」として申請可能です。お住まいの保健所へ臨床調査個人票とともに申請します。
- Q. 進行を遅らせる薬はありますか?
- A. 現時点でMSAの進行を止める・治す薬は確立されていません。MSA-Pではレボドパを試すことがありますが効果は限定的です。リハビリ・嚥下訓練・自律神経症状への対症療法(昇圧剤、排尿管理など)と環境整備が中心になります。具体的な薬剤や治療方針は必ず主治医にご相談ください。
- Q. 在宅介護と施設、どちらが向いていますか?
- A. 一概には言えませんが、自律神経症状や急変リスクが大きい時期は医療連携の取りやすさが重要です。在宅では訪問看護ステーションと24時間連絡体制を組むことが、施設では夜間の医療対応・喀痰吸引可能なスタッフ配置がポイントになります。ケアマネージャー・主治医・MSW(医療ソーシャルワーカー)と早期に方針を擦り合わせるのが望ましいです。
- Q. 介護職としてMSAの方に関わるとき、最も注意すべきことは?
- A. 「予測できる急変」を共有しておくことです。起立性低血圧による失神、夜間の喘鳴・無呼吸、誤嚥、尿閉は事前に対応手順を決めておけます。事業所内で病型・症状・最新の医師指示書を共有し、訪問時の観察項目を明文化しておくと夜間オンコール対応の精度が上がります。
参考資料・出典
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まとめ
多系統萎縮症(MSA)は、パーキンソン症状・小脳症状・自律神経障害が組み合わさり、比較的速い速度で進行する指定難病17です。MSA-P/MSA-C/シャイ・ドレーガー型のいずれであっても、最終的には嚥下障害・睡眠時呼吸障害・寝たきりへ進むため、早期からの介護保険申請、訪問看護との医療連携、福祉用具・住宅改修の先回り、そして家族介護者のレスパイト確保が要点になります。介護職としては「予測できる急変」(起立性低血圧・夜間喘鳴・誤嚥・尿閉)を事業所内で共有し、観察項目とオンコール対応を標準化することが、ご本人とご家族の安心につながります。治療や薬剤の判断は必ず主治医にゆだね、生活と介護の側面で確実に支える役割を担いましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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