
認知症ケアパスとは
認知症ケアパスは、認知症の進行に応じて「いつ・どこで・どんな医療・介護サービスを受けられるか」を市町村ごとに整理した地域版ロードマップです。新オレンジプラン以降全市町村で策定が進み、本人・家族・支援者の道しるべとして機能しています。
この記事のポイント
認知症ケアパスとは、認知症の発症前の気づきの段階から、診断・医療・介護サービス利用・地域支援・看取りまでの流れを、市町村が地域のサービス資源を当てはめて見える化したロードマップです。本人や家族が「いつ・どこに相談すればよいか」を一目で把握できる道しるべとして、2012年のオレンジプラン以降、全市町村で策定が推進されてきました。
目次
認知症ケアパスの位置づけと役割
認知症ケアパスは、厚生労働省が2012年(平成24年)に公表した「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」のなかで初めて打ち出された概念です。続く2015年(平成27年)の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる社会を実現するための「7つの柱」のひとつに据えられ、全市町村での策定・普及が明確に求められました。
その後、2019年の認知症施策推進大綱、2024年施行の認知症基本法へと制度が発展する過程でも、ケアパスは「本人・家族の生活を時間軸でつなぐツール」として一貫して位置づけられています。介護保険事業計画(市町村高齢者保健福祉計画)や地域包括ケアシステムの設計図と連動し、各自治体は3年ごとの計画見直しに合わせて内容を更新するのが一般的です。
役割は大きく3つあります。第一に、本人・家族にとってのナビゲーションとして、症状の段階別に「次にどこへ相談・受診すべきか」を案内します。第二に、専門職にとっての地域資源マップとして、医療・介護・地域住民活動の連携先を可視化します。第三に、市町村にとっての施策点検ツールとして、段階ごとにサービスの空白がないかを把握する役割を担います。
6つの段階と対応窓口・サービス
多くの市町村で公開されているケアパスは、認知症の容態を時間軸に沿って6段階前後に区切り、各段階の「気づき・相談窓口」「医療」「介護・生活支援」「地域支援」を一覧化しています。代表的な構成は以下の通りです。
- 気づきの段階(発症前〜MCI):物忘れチェックリスト・脳の健康教室。相談先は地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症初期集中支援チーム。
- 診断の段階:もの忘れ外来、認知症疾患医療センターでの鑑別診断。診断後は本人・家族向け説明や「診断後支援」プログラムへ。
- 医療治療・生活立て直しの段階:かかりつけ医による継続診療、認知症地域支援推進員のコーディネート、ピアサポート・本人ミーティング。
- 介護サービス利用の段階:要介護認定の申請、ケアマネジャーによるケアプラン作成、デイサービスや認知症対応型通所介護、訪問介護の導入。
- 地域生活継続・BPSD対応の段階:認知症カフェや認知症サポーター、徘徊SOSネットワーク、成年後見・日常生活自立支援事業による権利擁護。
- 看取りの段階:在宅医・訪問看護による看取り、特別養護老人ホームやグループホームでの看取り対応、家族へのグリーフケア。
このように「いつ・どこに相談すれば次の段階へ進めるか」を地図化することで、本人と家族が孤立せず、必要な支援に途切れなくつながれるよう設計されています。
クリニカルパスとの違い
医療現場には、入退院時の標準的な治療・ケアの流れを時系列で整理したクリニカルパス(クリニカルパスウェイ)があります。「パス」という同じ言葉が使われていますが、目的・対象期間・主体が異なります。
| 認知症ケアパス | クリニカルパス | |
|---|---|---|
| 対象期間 | 気づきから看取りまでの数年〜十数年 | 入院〜退院の数日〜数週間が中心 |
| 主体 | 市町村(保険者)が地域版を策定 | 医療機関(病院・診療所)が疾患別に策定 |
| 整理する内容 | 相談窓口・医療・介護・地域支援を段階別に網羅 | 検査・処置・投薬・リハ等の医療行為を日別に標準化 |
| 主な利用者 | 本人・家族・地域住民・専門職 | 医療従事者と入院患者・家族 |
つまりクリニカルパスが「ひとつの医療機関での治療工程表」だとすれば、認知症ケアパスは「地域全体で本人の人生を支えるサービス工程表」です。両者は対立するものではなく、入院時はクリニカルパスで治療を進め、退院後はケアパスに沿って地域生活へつなぐ、という関係で補完的に機能します。
ケアパスを構成する3つの情報レイヤー
市町村が発行する認知症ケアパスは、見た目こそ自治体ごとに違いますが、おおむね次の3層構造で整理されています。
- セルフチェックと気づきの情報:「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」など、本人や家族が早期サインに気づくためのチェック項目。受診をためらわないよう、初期段階での相談先を明示します。
- 地域の医療・介護資源マップ:認知症疾患医療センター、もの忘れ外来、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、認知症対応型サービス(グループホーム・小規模多機能型居宅介護)、特別養護老人ホーム等の連絡先・所在地一覧。
- 段階別の支援ロードマップ:縦軸に進行段階、横軸に「医療」「介護」「地域支援」「権利擁護」を取り、どの段階で何が使えるかを一覧化したマトリクス。本人版・家族版・支援者版で表現を分けている自治体もあります。
自治体公式サイトでPDFとして公開されることが多く、地域包括支援センターや高齢福祉課窓口、医療機関、認知症カフェ等で冊子として配布されています。
本人・家族・支援者の活用ポイント
認知症ケアパスは「策定して終わり」ではなく、本人・家族・専門職それぞれが現場で読み解いて初めて価値を生みます。
- 本人・家族:物忘れやちょっとした違和感を感じた時点で、住んでいる市町村名と「認知症ケアパス」で検索し、最寄りの地域包括支援センターと認知症初期集中支援チームの連絡先を控えておくと、相談の一歩目が踏み出しやすくなります。
- ケアマネジャー・介護職:担当地域のケアパスをアセスメント前に把握しておくと、ケアプランに組み込む社会資源(認知症カフェ、家族会、見守りSOSネットワーク等)を取りこぼしません。新人指導の地域学習教材としても有効です。
- 医療従事者:診断後の生活支援を医療機関単独で抱え込まず、ケアパスに沿って地域包括支援センターや認知症地域支援推進員と早期に連携することで、診断後の空白期間を短縮できます。
- 市町村職員:3年に一度の介護保険事業計画見直しに合わせ、地域住民や当事者の意見を反映した改訂を行うことで、形骸化を防げます。
よくある質問
- Q1. 認知症ケアパスはどこで入手できますか?
- A. お住まいの市区町村の高齢福祉担当課、地域包括支援センター、認知症疾患医療センター等で冊子として無料配布されています。多くの自治体は公式ホームページでPDFを公開しているため、「(自治体名) 認知症ケアパス」で検索すると入手できます。
- Q2. 全国共通のフォーマットがありますか?
- A. 国立長寿医療研究センターが「認知症ケアパス 作成と活用の手引き」を公開しており、共通の考え方は示されていますが、具体的な内容は地域の医療・介護資源によって異なります。市町村単位、あるいは中学校区・日常生活圏域単位で作成されるケースが一般的です。
- Q3. ケアパスは認知症と診断されてから読むものですか?
- A. いいえ。気づきの段階(MCIや軽度認知障害の疑い)から活用することで、早期受診と早期支援につながります。ご家族の介護経験がある方や、地域でサポーター活動をしたい方が予備知識として読むケースも増えています。
- Q4. ケアパスに載っていないサービスは使えませんか?
- A. ケアパスは代表的な資源を整理した目安であり、すべてを網羅しているわけではありません。実際の利用にあたっては、地域包括支援センターやケアマネジャーが個別事情を踏まえてサービスを組み合わせます。冊子に載っていない民間サービスや家族会も活用できます。
- Q5. 介護職として、自地域のケアパスを業務にどう活かせますか?
- A. 担当利用者の現在地(どの段階か)をケアパス上で把握し、次の段階に向けて準備すべき医療・介護資源を先回りで提案できるようになります。家族の不安にも、ケアパスを示しながら説明することで具体的な見通しを共有できます。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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