
認知症の大声・叫声・頻回コールへの対応|介護職が行う背景アセスメントと責めない関わり方
施設で認知症の利用者が大声を出す・叫ぶ・繰り返しナースコールを押す背景を、痛み・不快・不安・せん妄の観点から介護職がアセスメントする方法と、否定しないその場の対応・夜間対応・記録・多職種連携までを実務目線で解説します。
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この記事のポイント
認知症の利用者が大声を出す・叫ぶ・繰り返しナースコールを押すのは「わがまま」ではなく、言葉にできない訴えの表現です。介護職はまず、痛み・便意や空腹などの不快・不安・せん妄・寂しさ・聴力低下・環境刺激といった背景を、否定せず落ち着いて探ります。言葉で訴えられない人の痛みはアビー痛みスケール日本語版(APS-J)などで観察評価し、コールを取り上げる行為は高齢者虐待にあたるため行いません。記録で誘因を分析し、痛みや薬は医療職と連携して対応するのが基本です。
目次
「もう何回目だろう」。ナースコールが鳴りやまない夜勤、フロアに響く大きな声、廊下の端まで届く叫び。認知症のある利用者の大声・叫声・頻回コールは、施設で働く介護職が日常的に向き合う場面であり、同時に最も消耗する場面のひとつです。忙しさのなかで「またか」と感じてしまう自分に、後ろめたさを覚える人も少なくありません。
ただ、こうした行動は認知症の周辺症状(BPSD)のひとつであり、本人にとっては何かを伝えようとする必死の表現です。声を出す・コールを押すという手段でしか届けられない訴えが、その奥にあります。だからこそ、行動そのものを止めようとするのではなく、「何を伝えようとしているのか」を読み解く姿勢が、結果的に回数を減らし、本人も職員も守ることにつながります。
この記事では、施設の介護職の視点から、大声・叫声・頻回コールの背景をどうアセスメントするか、その場でどう関わるか、夜間はどうするか、記録で誘因をどう分析するか、そして医療・多職種とどう連携するかを、順を追って整理します。「わがまま」「困った人」という捉え方を手放し、責めない・叱らないケアへ切り替えるための実務ガイドです。
大声・叫声・頻回コールは「訴えの表現」
大声・叫声・頻回コールは、別々の現象に見えて、根っこはよく似ています。いずれも「本人のなかにある不快・不安・欲求が、適切な言葉や手段で表現できずにあふれ出たもの」だからです。まずはこの捉え直しが出発点になります。
「問題行動」ではなく「訴えの表現」として見る
認知症では、記憶障害や見当識障害、言葉を組み立てる力の低下により、「お腹が痛い」「トイレに行きたい」「ここはどこ」「そばにいてほしい」といった内容を、そのままの言葉で伝えることが難しくなります。伝えたいのに伝わらない。その焦りやストレスが、大きな声や叫び、繰り返しのコールという形をとります。つまりこれらは「困った行動」ではなく、「困っている本人からのサイン」です。
この視点に立つと、対応の目的が変わります。目標は「声を止めさせる」「コールを鳴らさせない」ことではなく、「本人が伝えたかったことを満たし、安心してもらう」ことです。行動を抑え込もうとするほど不安は強まり、かえって声やコールが増える悪循環に陥ります。
厚生労働省も「行動には必ず理由がある」と示している
厚生労働省の「身体拘束廃止・防止の手引き」(令和6年3月)は、認知症の行動・心理症状について「そこには何らかの原因があるのであり、その原因を探り、取り除くことが大切である」と明記し、落ち着かない行動の理由を普段接している介護職・看護職が探ることを、身体拘束をしないケアの土台に位置づけています。大声やコールの背景をひもとく作業は、単なる現場の工夫ではなく、国の指針が求めるケアの基本姿勢そのものです。
頻回コールを「わがまま」としない
ナースコールは、本来その人が自分の意思を職員に届けるための正当な手段です。何度も押すのは、それだけ満たされていないニーズがある、あるいは「押しても来てくれなかった」経験から不安が強まっている、という状態を映しています。「わがまま」「甘え」と捉えた瞬間、対応は雑になり、本人はさらに追い詰められます。頻回であるほど、背景に手をつける必要があるサインだと考えます。
背景アセスメント:7つの視点で誘因をひもとく
大声・叫声・頻回コールへの対応は、背景の見立てから始まります。ここを飛ばして「静かにしてもらう」ことに走ると、原因が残ったまま再発します。現場で押さえておきたい背景を、確認しやすい順に整理します。
1. 痛み(見落とされやすい最重要因子)
言葉で「痛い」と言えない人ほど、痛みは声や表情、行動で表れます。関節痛、腰痛、便秘による腹痛、褥瘡、口腔内の痛み、尿路感染に伴う不快など、原因はさまざまです。国際疼痛学会(IASP)の資料は、重度の認知症の人が痛みを自己申告しないからといって「痛みがない」と解釈してはならないと警告しています。声を上げる背景に痛みがないか、まず疑う習慣が重要です。痛みの評価法は次のセクションで詳しく扱います。
2. 不快(便意・尿意・空腹・暑さ寒さ・かゆみ・体位)
身体的な不快は、大声やコールの引き金として非常に多いものです。おむつの汚れ、便意・尿意、空腹やのどの渇き、室温が暑い・寒い、皮膚のかゆみ、車いすやベッドでの姿勢の崩れ、衣類のしめつけなど、健康な人なら自分で解消できる不快が、認知症の人では「訴え」という形でしか出せません。訪問マッサージ・介護系の実務解説でも、冷暖房の効きすぎ、便秘や体の痛み、口や喉の渇き、体のかゆみを、叫びの具体的な誘因として挙げています。
3. 不安・恐怖・見捨てられ不安
見当識障害により「ここはどこ」「自分は誰といるのか」が分からなくなると、強い恐怖や不安が生じます。とくに施設という慣れない環境では、この不安が大声や叫びにつながります。また、「押しても来てくれない」経験が積み重なると、見捨てられ不安が募り、確認のように何度もコールを押すことがあります。これは孤独感・不安感の表れであり、責める対象ではありません。
4. せん妄(急な変化は要注意)
普段は穏やかな人が急に興奮し、大声を出し、つじつまの合わないことを言い始めたら、認知症の悪化ではなくせん妄を疑います。せん妄は意識障害の一種で、数時間から数日で急に現れ、夕方から夜間に悪化しやすいのが特徴です。背景には、感染症(肺炎・尿路感染など)、脱水、便秘、痛み、薬剤(睡眠薬・鎮痛薬など)、環境変化といった身体・環境要因があります。せん妄は治療可能な状態なので、見逃さず医療職へつなぐことが重要です(詳しくはせん妄の見極めと現場対応を参照)。
5. 寂しさ・関わりを求める気持ち
人との関わりが減ると、それを取り戻そうとして声を出したりコールを押したりすることがあります。用事があるからではなく、「そばにいてほしい」「話したい」という関わりへの欲求が動機になっている場合です。この場合、用件だけを済ませて立ち去るとすぐに再びコールが鳴り、対応が空回りします。
6. 聴力低下・感覚の遮断
耳が聞こえにくいと、自分の声の大きさが分からず大声になったり、周囲の状況がつかめず不安から声を出したりします。補聴器が合っていない、眼鏡が手元にないといった感覚の遮断は、それ自体がせん妄や不安の誘因にもなります。国際疼痛学会や医療機関の資料でも、眼鏡・補聴器が使えない状態(感覚遮断)が混乱を招く要因として挙げられています。
7. 環境刺激(音・光・人の動き)
フロアの騒がしさ、まぶしい照明、夜間の物音、人の出入りの多さは、認知症の人にとって過剰な刺激となり、落ち着かなさや叫びを誘発します。逆に、刺激が乏しすぎる(暗く静かで手がかりがない)ことも不安を強めます。環境は、増やすのではなく「ちょうどよく整える」視点で見ます。
低活動型(静かなサイン)との対比も忘れない
大声やコールは目立つため気づかれますが、その対極に、声も出さず、ぼんやりして反応が乏しくなる「低活動型」の状態があります。低活動型のせん妄は、うつや認知症と間違われて見過ごされやすく、実は重い身体疾患が隠れていることもあります。大声を出す人にばかり手が向き、静かに沈み込んでいる人を見落とさないことも、フロア全体を見る介護職の大切な視点です(低活動型せん妄)。
痛みを見逃さない:アビー痛みスケール日本語版(APS-J)で観察評価する
背景のなかでも、痛みは最も見落とされやすく、しかし介入すれば劇的に改善しうる要因です。ここでは、言葉で訴えられない人の痛みをどう評価するか、現場で使える観察ツールを具体的に紹介します。これが本記事の核となる差別化ポイントです。
自己申告に頼れないなら「観察」で評価する
認知機能が保たれている段階では、フェイススケール(表情の絵)や「0から10のうちどのくらい痛い?」といった自己申告が使えます。しかし認知症が中等度から重度に進むと、痛みを自分から訴えられなくなります。看護ケアサイエンス学会誌の文献検討(2025年)でも、認知機能が低下した人ではがんの痛みを適切に表現できると答えた割合が有意に低く、痛みの把握が難しいと評価された人ほど認知機能検査(HDS-R)の得点が低かったと報告されています。だからこそ、自己申告に頼れない人には「行動を観察して痛みを推し量る」評価が必要になります。
アビー痛みスケール日本語版(APS-J)の6項目
アビー痛みスケール(Abbey Pain Scale)は、言葉で表現できない認知症の人の痛みを、施設の看護師・介護職が観察によって評価するために開発された尺度です。日本語版(APS-J)は高井ゆかり氏らにより作成され、入所者を観察しながら約1〜3分で採点できます。評価するのは次の6項目です。
- 1. 声をあげる:しくしく泣く、うめき声、泣きわめく、うなり声、「痛い」などの発語
- 2. 表情:緊張、顔をしかめる、苦悶の表情、眉をひそめる、目を固くつぶる、おびえた表情
- 3. ボディランゲージの変化:落ち着かずそわそわ、体をゆらす、体の一部をかばう、払いのける、こわばった動き
- 4. 行動の変化:混乱状態の増強、食事の拒否、いつもと違うケアの拒否、怒る
- 5. 生理学的変化:体温・脈拍・血圧が正常範囲外、発汗、顔面紅潮または蒼白
- 6. 身体的変化:皮膚の損傷、圧迫されている部位、関節炎、拘縮、最近の骨折やけがの既往
各項目を「なし0・軽度1・中程度2・重度3」で採点し、合計点で判定します。0〜2点は痛みなし、3〜7点は軽度、8〜13点は中程度、14点以上は重度です。注目すべきは、1項目めが「声をあげる」であり、「泣きわめく」がまさに痛みのサインとして採点対象になっている点です。大声・叫声は、それ自体が痛みを疑う入口になりうるということです。
「安静時」だけでなく「動いたとき」を見る
APS-Jは動作時の痛みの評価に優れているとされます。国際疼痛学会の資料も、安静時の観察では痛みが分かりにくいことがあるため、移乗や体位変換など体を動かす場面での観察を推奨しています。おむつ交換や移乗のときに声が大きくなる、顔をしかめる、体をかばう、といった変化があれば、痛みの可能性が高まります。ケアの動作と声の変化をセットで観察すると、痛みの手がかりがつかめます。
評価は多職種で共有し、独断で薬を判断しない
観察評価はあくまで「痛みがありそうだ」という気づきのための道具です。介護職が薬の可否を判断することはできません。APS-Jなどで得た点数や観察内容を看護師・医師に具体的に伝え、鎮痛や原因検索の判断につなげます。「なんとなく痛そう」ではなく「移乗時に顔をしかめ声をあげる、右腰をかばう、APS-Jで中程度」と数値と行動で伝えることで、医療職が動きやすくなります。
その場の対応:否定せず、背景を探り、安心を先に渡す
背景の見立てと並行して、その場での関わり方が本人の安心を左右します。大声や叫びに直面すると、つい「静かにしてください」と強い口調になりがちですが、これは逆効果です。落ち着いた対応の型を身につけておきます。
否定・制止から入らない
「静かにして」「ダメです」と制止することは、本人にとっては訴えを封じられる体験であり、不安と興奮を強めます。介護系の実務解説でも、叫ぶ人に対して介護者が大声で「静かにしなさい」と返すのは逆効果で、強い口調や押さえつけは避けるべきだと繰り返し指摘されています。まずは自分の表情と声のトーンをゆるめ、穏やかに近づくことから始めます。
要求の背景を「探る」問いかけをする
「どうしましたか」「何かお困りですか」と、責めずに問いかけます。答えが返ってこなくても、「お腹は痛くないですか」「トイレに行きたいですか」「寒くないですか」と、具体的に一つずつ確認すると、意外に答えてくれることがあります。痛み・不快・不安・寂しさのどれに当たりそうか、当たりをつけながら声をかけます。繰り返し辛抱強く聞くことで、叫ぶ理由に気づける場合があります。
安心を先に届ける
原因がすぐに特定できなくても、「大丈夫ですよ」「そばにいますよ」と安心を先に渡すことで、興奮が和らぐことがあります。幻視や妄想で困惑している場合は、「そんなものはない」と否定せず、「怖かったですね、私がいますから大丈夫です」と本人の感じている恐怖に寄り添います。事実を正すことより、感情に応えることを優先します。
環境を整える
まぶしい照明を落ち着いた明るさにする、テレビや物音を減らす、逆に不安が強ければ薄明かりや本人の好きな音楽・写真を用意するなど、刺激の量をその人に合わせて調整します。姿勢の崩れを直す、室温を確かめる、衣類のしめつけを緩めるといった身体的な不快の解消も、その場でできる有効な対応です。
頻回コールには「先回り」と「約束」で応じる
コールが鳴ってから駆けつける対応だけでは、回数は減りません。行動パターンから「この時間に押しやすい」と分かれば、鳴る前に訪室して用を先に済ませる先回りが効果的です。また、「◯分後にまた来ますね」と具体的に伝えて実際に戻ることで、「押しても来ない」不安が薄れ、確認のためのコールが減っていきます。介護系の実務記事でも、日々の行動パターンをチームで記録し、先回りした声かけやケアを行うことで回数を減らせる可能性があると解説されています。
やってはいけない対応
忙しさに耐えかねてコールのコードを抜く、手の届かない場所に置く、という対応は絶対に行いません。理由は次のセクションで詳しく述べますが、これは法律上の高齢者虐待に該当します。イライラが限界に達したときは、一度その場を仲間に交代してもらい、深呼吸で気持ちを整えるほうが、本人にも自分にも安全です。
コールを取り上げるのは虐待:やってはいけない対応と法的な線引き
頻回コールに疲弊すると、「少しコードを外しておこう」という考えが頭をよぎることがあります。しかしこれは、明確に高齢者虐待にあたる行為です。知らずに手を出してしまわないよう、法的な線引きを正しく理解しておきます。
コールを使わせないことは「介護の放棄」
厚生労働省の資料や各自治体の高齢者虐待防止研修では、「ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く」ことを、必要な用具の使用を限定して高齢者の行動を制限する行為として明確に虐待(介護・世話の放棄・放任、あるいは心理的虐待)に位置づけています。医師の指示があったとしても、本人・家族の真の同意なく一律にコードを抜くことは正当化されません。「一度だけ」「短時間だけ」であっても、行ってはいけない一線です。
スピーチロックも「言葉の拘束」
「ちょっと待って」「動かないで」と言葉で行動を抑え込むスピーチロックも、身体拘束の一種として問題視されています。厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引き(令和6年3月)は、組織としてスピーチロックも身体拘束と捉え、「ちょっと待ってね」等の言い換えに取り組む実践事例を紹介しています。大声やコールへの対応でも、「今行けません」ではなく「◯分後に必ず来ますね」と、待つ理由と見通しを添える言い方に変えます。三つのロック(身体・薬物・言葉)のいずれも、本人の尊厳を損なう行為だと意識します。
身体拘束が許される「緊急やむを得ない場合」の3要件
身体拘束が例外的に認められるのは、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たし、組織的な手続きを踏んだ場合に限られます。大声やコールがうるさいから、という理由は当然これに該当しません。落ち着かない行動への対応は、拘束ではなく、原因を探って取り除くケアで行うのが原則です。
拘束・抑え込みは症状を悪化させる
自治体の研修資料は、身体拘束の弊害として「認知症の進行、せん妄の頻発」を挙げています。声やコールを力で抑え込むほど、不安と混乱が増し、かえって症状が悪化するという悪循環に陥ります。責めない・叱らない関わりは、倫理的に正しいだけでなく、症状を落ち着かせる合理的な選択でもあります。
夜間の対応:夜間せん妄・夕暮れ症候群と他利用者への配慮の両立
大声・叫声・頻回コールは、夜間に増える傾向があります。人手が少なく、他の利用者の睡眠への影響も気になる夜間は、対応の難易度が一段上がります。夜特有の視点を整理します。
夜に増えるのは「夜間せん妄」「夕暮れ症候群」のことがある
夕方から夜にかけて不穏や興奮が強まる場合、夜間せん妄や夕暮れ症候群の可能性を考えます。日中は穏やかなのに夜だけ大声を出す、というリズムがあれば、せん妄のサインです。せん妄は昼夜逆転を伴いやすく、背景に感染・脱水・痛み・薬の影響があることが多いため、夜間の変化は翌朝に必ず申し送り、医療職の評価につなげます(夕暮れ症候群)。
昼夜のメリハリを整える
複数の医療機関の資料が、せん妄・夜間の混乱の対策として、日中は光を入れて活動的に過ごし、夜は照明を落として静かに過ごす、時計やカレンダーを見える場所に置いて見当識を保つ、といった生活リズムの調整を推奨しています。夜間の対応は、その夜だけで完結せず、日中の過ごし方まで含めて設計します。日中に傾眠が続いていないか、夜眠れる状態がつくれているかを、チームで見直します。
不快と痛みを先に片づける
夜に叫ぶ人ほど、就寝前に排泄・室温・姿勢・痛みを整えておくことが効きます。便意や尿意、寒さ、体位の崩れといった不快は、夜間の大声・コールの典型的な引き金です。就寝前のケアで不快要因をあらかじめ減らしておくと、夜中に鳴る回数そのものが減ります。
他の利用者への影響と本人の尊厳を両立させる
大声は他の入居者の睡眠を妨げ、「なんとか静かにさせて」という無言のプレッシャーが職員にかかります。しかし、だからといって本人を隔離したり抑え込んだりすれば虐待になります。両立の現実解は、本人の不快・不安を丁寧に取り除いて興奮を鎮めること、必要に応じて居室配置や環境を調整すること、そして「なぜ声が出るのか」をチームで共有し、特定の職員だけが抱え込まない体制をつくることです。うるさいから黙らせる、ではなく、落ち着ける条件を整える方向で考えます。
一人夜勤で抱え込まない
夜勤帯に大声やコールが続くと、心身ともに追い詰められます。オンコールの看護師や当直体制があるなら、迷わず相談します。急な激しい興奮・つじつまの合わなさ・発熱があれば、せん妄や身体疾患の急変を疑い、医療につなぐ判断をためらわないことが、本人の安全にも直結します。
記録による誘因分析:先回りケアにつなげる書き方
その場の対応で終わらせず、記録で誘因を分析することが、根本的に回数を減らす鍵になります。個人の勘に頼らず、チームで共有できるデータに変えるための書き方を示します。
「いつ・どこで・何の前後で」を記録する
介護系の実務記事は、頻回コールへの対応として、コールのあった時間帯・曜日を分析すること、コールの前後で何が起きていたか情報収集することを挙げています。大声・叫声も同じで、発生した時刻、場所、直前の状況(食事前、排泄後、面会後、消灯後など)、そのときの本人の様子と、対応してどうなったかを記録します。これを積み重ねると、「夕食前に集中する」「排泄の少し前に鳴る」といったパターンが見えてきます。
事実と解釈を分けて書く
記録では、観察した事実(「17時ごろ大声で『帰る』と繰り返す、右手で腰をさする」)と、職員の解釈(「腰の痛みか、夕方の不穏か」)を分けて書きます。事実と解釈が混ざると、誤った思い込みがチーム全体に広がってしまいます。事実を正確に残しておけば、後から別の職員が別の解釈を試すこともできます(記録の詳しい取り方は認知症BPSDの観察・行動記録の取り方を参照)。
APS-Jの点数や不快チェックの結果も残す
痛みを疑ったときは、APS-Jの点数や観察した項目を記録に添えると、医療職への情報として強力です。「排泄の有無」「室温」「姿勢」「水分摂取」など、その場で確認した不快要因のチェック結果も残しておくと、次に同じ場面が来たときの初動が速くなります。
記録を「次の先回り」に変える
記録は書いて終わりではなく、パターンが見えたら「鳴る前に訪室する」「夕食前に痛みを確認する」といった先回りケアに反映させます。記録から誘因を特定し、先回りで満たし、その結果をまた記録する。この循環が回り始めると、大声・コールの回数は着実に減っていきます。逆に、記録がその場の出来事の羅列で終わっていると、いつまでも対症療法から抜け出せません。
多職種・医療連携:痛み・薬・せん妄を抱え込まない
大声・叫声・頻回コールの背景には、介護職だけでは解決できない医療的な要因が隠れていることが少なくありません。抱え込まず、適切なタイミングで多職種につなぐ判断が、本人にとっての最善につながります。
痛み・薬は必ず医療職と連携する
痛みが疑われるなら、観察した内容とAPS-Jの点数を看護師・医師に伝え、鎮痛薬の検討や原因検索につなげます。介護職が薬を判断することはできませんが、「気づいて正確に伝える」ことは介護職にしかできない重要な役割です。また、すでに服用している薬がせん妄や興奮の引き金になっていることもあります。睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬などが影響しうるため、薬の変化と症状のタイミングを記録して医療職と共有します。抗精神病薬でむやみに抑えることは推奨されておらず、原因への対応が優先されます。
せん妄・身体疾患を疑ったら早めに医療へ
急な興奮、つじつまの合わなさ、発熱、食欲や活気の急な変化があれば、せん妄や感染症・脱水などの身体疾患を疑い、看護師・医師へ速やかに報告します。せん妄は原因を取り除けば回復しうる状態です。「認知症だから」で片づけず、いつもと違う変化を医療につなぐことが、見逃しを防ぎます。
聴力・視力・口腔もチームで確認する
聴力低下が背景にあれば、補聴器の調整や耳鼻科受診が助けになります。口腔内の痛みなら歯科・歯科衛生士、姿勢や関節の痛みなら理学療法士・作業療法士が関わります。厚生労働省の手引きも、落ち着かない行動への対応にリハビリ専門職が歩行や姿勢、声のかけ方の助言で関わる多職種連携の事例を紹介しています。介護職が入口となって、必要な専門職へつなぎます。
ケアカンファレンスで「その人の対応法」を統一する
特定の職員だけが対応法を知っている状態では、担当が変わるたびに本人が混乱します。記録から見えたパターンと有効だった関わりをカンファレンスで共有し、「この人にはこう関わる」をチームの共通言語にします。対応が統一されると本人の安心が増し、職員一人あたりの負担も分散されます。大声・コールへの対応は、個人技ではなくチームケアで臨むのが基本です。
現場ですぐ使える実践のコツ
すぐ使える3ステップ
- 止めるより先に近づく:制止の言葉を封印し、表情と声をゆるめて近づく。「どうしましたか」から入る。
- 不快を一つずつ潰す:排泄・室温・姿勢・のどの渇き・痛みを順に確認。とくに痛みは移乗や体位変換で顔をしかめないか観察する。
- 安心を約束する:すぐ解決しなくても「◯分後に必ず来ます」と伝え、実際に戻る。「押しても来ない」不安を消す。
先回りのコツ
記録から鳴りやすい時間帯が分かったら、その手前で訪室して用を済ませる。夕食前・消灯後・面会後など、パターンの直前に一手を打つと回数が減る。
自分を守るセルフケア
限界を感じたら、コードを抜く前に仲間へ交代を頼む。深呼吸で6秒待つだけでも、強い口調が出るのを防げる。大声・コールへの対応は一人で抱えるものではなく、チームで回すもの、と割り切ることも大切です(介護職のアンガーマネジメント実践法)。
よくある質問(FAQ)
Q. 何をしても大声が止まりません。どうすればいいですか。
その場ですべてを解決しようとしなくて構いません。まず不快・痛み・不安を一つずつ確認して取り除き、安心の言葉をかけます。それでも続く場合、とくに急に始まった・つじつまが合わない・熱があるなら、せん妄や身体疾患の可能性があるため、看護師や医師に相談します。原因が体にあるときは、ケアだけでは止まらないのが当然です。
Q. 頻回コールで他の対応が回りません。コードを外してもいいですか。
外してはいけません。ナースコールを使わせない・手の届かない場所に置くことは、高齢者虐待(介護の放棄・放任)に該当します。代わりに、鳴る時間帯を記録から分析して先回りする、「◯分後に来ます」と約束して信頼を取り戻す、チームで対応を分担する、といった方法で回数そのものを減らします。
Q. 「わがまま」で押しているようにしか見えないときもあります。
用件がなくても押すのは、多くの場合「そばにいてほしい」「不安」という関わりへの欲求です。わがままと捉えると対応が雑になり、かえってコールが増えます。用事を済ませて立ち去るのではなく、短くても関わりの時間を持つと、確認のためのコールが落ち着くことがあります。
Q. 痛みかどうか、介護職に見分けられますか。
断定はできませんが、観察で推し量ることはできます。アビー痛みスケール日本語版(APS-J)は、声・表情・体の動き・行動・生理的変化・身体の状態の6項目を観察して採点する、介護職も使える尺度です。移乗や体位変換で顔をしかめる・体をかばう・声が大きくなるといった変化があれば痛みを疑い、点数と行動を医療職に伝えます。
Q. 夜だけ大声を出します。認知症が悪化したのでしょうか。
昼は穏やかで夜だけ悪化するなら、認知症の進行よりも夜間せん妄や夕暮れ症候群を疑います。せん妄は感染・脱水・便秘・痛み・薬などが引き金になり、治療で改善しうる状態です。日中の過ごし方(光・活動・傾眠)を見直しつつ、夜間の変化は翌朝申し送り、医療職の評価につなげます。
Q. 強く言ってしまいそうになる自分が嫌になります。
忙しさのなかで「またか」と感じるのは自然なことで、あなたが悪いわけではありません。大切なのは、その気持ちを行動(抑え込み・コード外し)に移さないことです。限界のときは交代を頼み、6秒の深呼吸で間を置く。対応法をチームで共有して負担を分散すれば、一人で抱え込まずにすみます。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
- [5]
まとめ:責めずに背景をひもとくのが最善のケア
認知症の利用者の大声・叫声・頻回コールは、施設の介護職を最も消耗させる場面のひとつです。しかし、その根っこにあるのは「言葉にできない訴え」であり、行動そのものを止めることではなく、背景をひもとくことが対応の出発点になります。
押さえるべき軸を振り返ります。まず、痛み・不快・不安・せん妄・寂しさ・聴力低下・環境刺激という7つの視点で誘因を探ること。とくに見落とされやすい痛みは、アビー痛みスケール日本語版(APS-J)など観察評価の道具で拾い上げること。その場では否定・制止から入らず、安心を先に渡すこと。ナースコールを取り上げる行為は虐待であり、絶対に行わないこと。夜間はせん妄・夕暮れ症候群を疑い、他利用者への配慮と本人の尊厳を両立させること。記録で誘因を分析して先回りにつなげ、痛みや薬・せん妄は多職種・医療と連携すること。
「わがまま」「困った人」という捉え方を手放し、責めない・叱らない関わりへ切り替える。それは倫理的に正しいだけでなく、症状を落ち着かせ、結果的に職員自身の負担も減らす、最も合理的なケアです。そして何より、一人で抱え込まず、チームで対応法を共有すること。それが、本人にとっても、あなたにとっても、続けられるケアへの道になります。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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