
入所前後訪問指導加算とは
入所前後訪問指導加算は、老健の職員が入所予定者または入所直後の利用者の自宅を訪問し、退所後の生活を見据えた施設サービス計画を策定した場合に算定する加算。(Ⅰ)450単位・(Ⅱ)480単位の単位数と算定要件、退所前/退所後訪問指導加算(460単位)との違いまで整理。
この記事のポイント
入所前後訪問指導加算は、介護老人保健施設(老健)の医師・看護師・リハ職などが、入所予定日の前30日以内または入所後7日以内に利用者の居宅を訪問し、退所後の生活を見据えた施設サービス計画と診療方針を立てた場合に算定する加算です。単位数は(Ⅰ)450単位/(Ⅱ)480単位で、入所中1回限り算定できます。在宅復帰率の向上を制度的に後押しする中核加算のひとつです。
目次
入所前後訪問指導加算の位置づけと役割
介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰・在宅療養支援を目的とした中間施設として制度設計されています。その役割を担保する仕組みのひとつが「入所前後訪問指導加算」です。利用者が老健に入所する前後に、職員が実際の生活の場である自宅を訪問し、住環境・家族関係・介護力・医療ニーズを直接確認したうえで、退所後の生活を見据えたケアプランを立てる。この一連のプロセスを評価する加算が本加算です。
具体的には、入所期間が1か月を超えると見込まれる利用者に対して、入所予定日の前30日以内、または入所後7日以内に自宅を訪問し、施設サービス計画の策定と診療方針の決定を行います。算定は入所中1回限りで、同一利用者の再入所時には改めて算定可能です。
本加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)の2段階に分かれており、(Ⅱ)はより踏み込んだ「生活機能の具体的な改善目標」と「退所後の生活に係る支援計画」の策定が求められます。単なる訪問・観察にとどまらず、退所後の在宅生活をどう組み立てるかまで言語化することで、老健本来のリハビリ機能と在宅復帰機能を一体で評価する設計です。
2024年度(令和6年度)介護報酬改定では、在宅復帰・在宅療養支援機能加算の評価指標が見直され、入所前後訪問指導の実施割合に係る基準が引き上げられました。超強化型・在宅強化型老健を目指す施設にとって、本加算の確実な算定はサービス費区分(基本報酬区分)の維持にも直結します。
算定要件(訪問者・記録様式・タイミング)
入所前後訪問指導加算を確実に算定するために押さえるべき要件を整理します。
共通の算定要件
- 対象者:入所期間が1か月(30日)を超えると見込まれる利用者
- 訪問のタイミング:入所予定日の前30日以内、または入所後7日以内のいずれか
- 訪問場所:利用者の居宅(自宅)。やむを得ない場合は、退所後生活する社会福祉施設等も可
- 算定回数:入所中1回限り
- 業務内容:退所を目的とした施設サービス計画の策定と、診療方針の決定
訪問者の職種
解釈通知では「訪問者の職種は問わない」とされていますが、施設サービス計画を作成する者(支援相談員・ケアマネジャー)が訪問することが望ましいとされています。実務では医師・看護師・PT/OT/ST(リハビリ職)・支援相談員・介護職員などが、利用者の状態や評価項目に応じて単独または複数で訪問するのが一般的です。
(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い
- (Ⅰ) 450単位:退所を目的とした施設サービス計画の策定 + 診療方針の決定
- (Ⅱ) 480単位:(Ⅰ)の要件に加え、「生活機能の具体的な改善目標」と「退所後の生活に係る支援計画」を策定することが必要
(Ⅱ)はより包括的な計画策定が求められる代わりに30単位上乗せ評価される構造です。
記録様式と書類整備
- 訪問日時・訪問者氏名・職種・訪問先住所
- 居宅環境のアセスメント結果(住宅構造・段差・福祉用具・家族の介護力など)
- 策定した施設サービス計画書(退所目標を明記)
- 診療方針の決定内容(医師の記録)
- (Ⅱ)の場合:生活機能の改善目標、退所後の生活支援計画
これらの記録は施設に保管し、実地指導の際に提示できる状態にしておく必要があります。
単位数と関連加算の比較表
老健の在宅復帰支援に関わる訪問系加算は、タイミングと目的で複数に分かれています。混同しやすいため整理します。
| 加算名 | 単位数 | タイミング | 算定回数 |
|---|---|---|---|
| 入所前後訪問指導加算(Ⅰ) | 450単位 | 入所前30日以内 または 入所後7日以内 | 入所中1回 |
| 入所前後訪問指導加算(Ⅱ) | 480単位 | 同上(生活機能改善目標 + 退所後支援計画の策定が必要) | 入所中1回 |
| 退所前訪問指導加算 | 460単位 | 退所予定日前30日以内 | 1回(条件により2回) |
| 退所後訪問指導加算 | 460単位 | 退所後30日以内 | 1回 |
※入所前後訪問指導加算と退所前訪問指導加算は同一日に重複算定できません。また、退所前訪問指導加算を算定した日から1か月間は入所前後訪問指導加算を算定できないルールがあります(再入所時の運用に注意)。
1人あたりの収益インパクト
仮に(Ⅱ)480単位を10円/単位(地域区分その他)で算定した場合、1人あたり4,800円の収益となります。100床の老健で年間入所者数200名のうち70%(140名)に算定できれば、年間約67万円の追加収益です。さらに在宅復帰率の指標として基本報酬区分(超強化型・在宅強化型)の維持にも寄与するため、間接的な収益効果は大きくなります。
算定漏れを防ぐ実務のコツ
入所前後訪問指導加算は要件がシンプルな一方、訪問日や記録の不備、(Ⅱ)要件の見落としで算定漏れ・返戻が起きやすい加算です。実務でつまずきやすいポイントを押さえておきましょう。
1. 入所相談の段階で「訪問日」を予定に組み込む
入所が決まってから日程調整を始めると、入所後7日以内の枠を逃しがちです。入所相談・契約と同時に支援相談員が居宅訪問日を仮押さえし、家族の都合を確認しておくと取りこぼしが減ります。
2. (Ⅱ)を取りに行く場合は「生活機能改善目標」を様式で固定化
(Ⅱ)の要件である「生活機能の具体的な改善目標」と「退所後の生活に係る支援計画」は、施設サービス計画書とは別シートで管理する施設が多くなっています。様式化しておくと記載漏れを防げます。
3. 多職種訪問で1回に集約する
支援相談員・PT/OT・看護師が別々の日に訪問するより、可能な範囲で同日訪問にまとめると、家族の負担も軽減でき、評価内容も一貫します。住宅改修の提案や福祉用具レンタルの計画にも直結します。
4. 退所前訪問指導加算とのバッティングに注意
短期入所(1か月未満)→ 再入所のケースで、前回入所中に退所前訪問指導加算を算定していると、1か月以内は入所前後訪問指導加算が算定不可です。再入所の場合は必ず前回算定状況をカルテで確認しましょう。
よくある質問
Q1. 訪問者は必ずケアマネジャーでなければいけませんか?
A. 解釈通知上「職種は問わない」とされており、医師・看護師・PT/OT/ST・支援相談員・介護職員などが訪問可能です。ただし「施設サービス計画を作成する者が訪問することが望ましい」と明記されているため、支援相談員やケアマネジャーが同行することが推奨されます。
Q2. (Ⅰ)と(Ⅱ)を両方算定できますか?
A. できません。(Ⅰ)と(Ⅱ)はいずれか一方を選択して算定します。(Ⅱ)の要件を満たす場合は(Ⅱ)で算定するのが収益最大化の観点では合理的です。
Q3. 入所後8日目に訪問した場合は算定できますか?
A. 算定できません。「入所後7日以内」が要件であり、超過した場合は当該入所では算定不可となります。やむを得ず遅れた場合でも、要件を緩和する例外規定はありません。
Q4. 同じ利用者が退所→再入所した場合は再度算定できますか?
A. 再入所であれば改めて算定可能です。ただし、前回入所で退所前訪問指導加算を算定した日から1か月以内の再入所の場合は算定不可となるため、前回算定状況の確認が必要です。
Q5. 居宅以外で訪問しても算定できますか?
A. 原則は居宅ですが、利用者が退所後に生活する社会福祉施設等(例:他の老健、特養、有料老人ホーム、サ高住など)で生活する予定の場合は、その施設での訪問でも算定可能です。
参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
まとめ
入所前後訪問指導加算は、老健の「在宅復帰を支援する中間施設」という機能を制度的に裏打ちする中核加算です。入所予定日前30日以内または入所後7日以内に居宅を訪問し、施設サービス計画と診療方針を策定することで(Ⅰ)450単位/(Ⅱ)480単位を算定できます。2024年度改定で在宅復帰指標の基準が引き上げられたことで、本加算の実施率は超強化型・在宅強化型老健の維持に直結する重要指標となりました。算定漏れを防ぐためには、入所相談段階での訪問日確保・(Ⅱ)要件の様式化・退所前訪問指導加算とのバッティング管理が鍵となります。
この用語に関連する記事

親の介護にかかるお金の総額はいくら?在宅・施設別の月額と総額シミュレーション【2026年版】
親の介護費用は総額いくら?生命保険文化センター調査をもとに、一時費用+月額×平均介護期間で在宅・施設別の総額を独自試算。準備すべき金額の考え方と自己負担を抑える4つの制度を家族向けに整理します。

ケアプラン有料化、居宅への導入を上野厚労相が否定|「一般的な在宅で利用者負担は予定していない」と国会答弁
2026年6月11日の参議院厚生労働委員会で、上野賢一郎厚生労働相がケアプラン有料化(居宅介護支援への利用者負担導入)について「一般的な在宅で利用者負担を求めることは予定していない」と否定。住宅型有料老人ホーム向けの登録施設介護支援は1割負担で導入される一方、自宅で暮らす人の居宅介護支援は当面据え置きとなる現在地を、過去の見送りの経緯・財政審の主張・利用者と現場への影響まで整理します。

第16次地方分権一括法が公布・即日施行|都道府県が介護人材確保の補助金を交付可能に、事務は国保連へ委託へ
厚労省は2026年6月3日、介護保険最新情報Vol.1509で第16次地方分権一括法(令和8年法律第27号)の公布・施行を通知。同日施行された介護保険法改正で、都道府県が介護人材確保のための補助金を交付でき、その事務を国保連に委託できる仕組みが整った。事業者・介護職への影響を解説する。

知的障害のある高齢者の介護|早期老化・ダウン症の認知症・65歳問題と支援の工夫
知的障害のある人の高齢化が進む中、介護職に求められる支援を解説。加齢に伴う早期老化やダウン症の認知症合併、障害福祉から介護保険への移行(65歳問題)、意思決定支援、多職種・家族連携のポイントを厚労省・国立のぞみの園の資料に基づき整理します。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。