疼痛評価スケールとは

疼痛評価スケールとは

疼痛評価スケールはNRS・VAS・Faces Pain Scale・Wong-Baker・BPS・Abbey Pain Scaleなど。認知機能やコミュニケーション可否で選び分ける介護現場での使い方を解説。

ポイント

この記事のポイント

疼痛評価スケール(Pain Scale)とは、患者・利用者が感じている痛みの強さを客観的・標準化された方法で測定するためのツールです。代表的なものにNRS(数値)・VAS(線分)・Faces Pain Scale(顔表情)・Wong-Baker・BPS(行動観察)・Abbey Pain Scale(認知症対応)があり、認知機能やコミュニケーション可否によって使い分けます。

目次

疼痛評価スケールが必要な理由

痛みは本人にしか分からない「主観的体験」です。そのため、「どれくらい痛いですか?」と聞いても、人によって「ちょっと痛い」「すごく痛い」の基準がバラバラで、ケアの判断には使えません。疼痛評価スケールを使う目的は、痛みの強さを数値や指標に変換し、誰が見ても同じ理解ができる共通言語にすることにあります。

米国疼痛学会(American Pain Society)は痛みを「第5のバイタルサイン」と位置づけ、脈拍・血圧・呼吸・体温と同様に定期的な評価を推奨してきました。日本ペインクリニック学会の『慢性疼痛診療ガイドライン』でも、痛みの強さは標準化されたスケールで継続的に評価し、治療やケアの効果判定に使うことが基本とされています。

介護現場では、特に以下の場面で疼痛評価が重要になります。

  • 看取り・エンドオブライフケア:終末期の苦痛緩和の評価指標
  • 褥瘡・関節拘縮ケア:処置時の痛みの程度の確認
  • リハビリ・ADL介助:動作時痛の有無による介助方法の調整
  • 認知症高齢者のBPSD評価:暴言・拒否の背景に痛みがないかの確認

特に認知症の方は「痛い」と訴えられないことが多く、痛みが攻撃的言動・拒否・徘徊などのBPSDとして表面化することが知られています。行動観察型スケールを使って痛みを発見できるかどうかが、ケアの質を大きく左右します。

主な疼痛評価スケール一覧

介護・医療現場で使われる主要な疼痛評価スケール6種類を比較します。

スケール名評価方法適用対象所要時間
NRS(Numerical Rating Scale)0〜10の11段階で口頭回答会話可能、認知機能保持〜中等度低下10秒
VAS(Visual Analogue Scale)100mmの線分上に印を付ける細かい変化を捉えたい場面、研究用途30秒
Faces Pain Scale(FPS-R)6段階の顔表情から選択小児・軽度認知症・言語理解困難者10秒
Wong-Baker FACES6段階の顔絵(涙あり)から選択主に小児、海外で広く普及10秒
BPS(Behavioral Pain Scale)表情・上肢動作・人工呼吸器同調性の3項目ICU・人工呼吸器装着患者1〜2分
Abbey Pain Scale発声・表情・姿勢など6項目を0〜3点で評価重度認知症・言語的訴え困難者1〜2分

このうち自己評価型(本人が答える)はNRS・VAS・Faces Pain Scale・Wong-Baker行動観察型(観察者が評価する)はBPS・Abbey Pain Scaleに分類されます。介護現場では、利用者のコミュニケーション能力に応じて使い分ける視点が重要です。

5つのスケールの使い分け

5つのスケールの使い分け|介護現場での選択基準

どのスケールを選ぶかは、(1) 利用者が会話で意思を伝えられるか、(2) 数値や線分・顔絵を理解できるか、(3) 認知症の程度はどれくらいかの3点で決まります。

会話が可能で認知機能が保持されている場合:NRS

「今の痛みを0から10で表すと?」と聞くだけで評価できるNRSが第一選択です。記録もしやすく、経過観察にも適します。MMSE 18点以上の軽度認知症でも使用可能とされています。

細かい変化を追いたい・研究用途:VAS

100mmの線分に印を付け、左端からの距離をミリ単位で測定します。連続値で痛みの強さを捉えられるため、薬効評価などの研究では今も標準ですが、定規が必要で介護現場の日常使いにはやや煩雑です。

言語的やりとりが難しい・軽〜中等度認知症:Faces Pain Scale

痛みのない笑顔から最も痛い泣き顔までの6段階の顔絵から本人に選んでもらいます。言語理解力を必要としないため、軽度認知症や言語的訴えが難しい高齢者にも使用できます。涙の表現が少ない国際版FPS-Rが推奨されています。

ICU・人工呼吸器装着:BPS

表情・上肢の動き・人工呼吸器との同調性を観察評価する3項目スケールで、合計3〜12点で示します。鎮静下の重症患者の疼痛モニタリングに使われ、介護現場では一般的ではありません。

重度認知症・コミュニケーション困難:Abbey Pain Scale

Abbey J. らが2004年に開発した6項目の行動観察スケール(発声・表情・身体言語・行動変化・生理的変化・身体的変化)。各項目を0〜3点で評価し、合計0〜18点で「痛みなし〜重度」を判定します。言語的訴えが難しい重度認知症高齢者の疼痛評価として国際的に推奨されており、特養・グループホームでの導入が広がっています。

介護現場で疼痛評価を活かすコツ

  • 同一スケールを継続使用する:NRSとFPSを日替わりで使うと変化を追えません。利用者ごとに使うスケールを決め、申し送りで統一します。
  • 安静時と動作時の両方を記録する:「ベッドでは痛みなしだが、移乗時にNRS 6」のように場面を分けて記録すると、ケア方法の見直し(移乗用具の導入など)につながります。
  • 認知症の方は行動変化を併せて観察する:食事拒否・夜間不穏・特定の動作の回避など、いつもと違う様子が痛みのサインのことが多いです。Abbey Pain Scaleの観察項目を意識すると気づきやすくなります。
  • 看護師・ケアマネと共有する:評価結果をスタッフ間で共有することで、医師への報告内容が標準化され、適切な疼痛コントロールにつながります。

よくある質問

Q1. 認知症の方にNRSは使えますか?

MMSE 18点以上の軽度認知症であれば使用可能とされています。中等度(MMSE 10〜17点)まではNRSや言語的評価尺度(VRS)が使えるという報告もありますが、回答の信頼性が落ちる場合はFaces Pain Scaleや行動観察型スケールへの切り替えを検討します。

Q2. Faces Pain ScaleとWong-Bakerはどう違いますか?

どちらも6段階の顔絵スケールですが、Wong-Bakerは最大値の顔に涙が描かれており、子ども向けに親しまれてきました。一方、改訂版Faces Pain Scale(FPS-R)は涙がなく、痛みの強さと感情を分離して評価できるため、成人や高齢者への使用が国際的に推奨されています。

Q3. Abbey Pain Scaleは日本でも公式に使えますか?

原版は英語ですが、複数の日本語訳が学会・大学から公開されており、研究・実践の場で広く用いられています。なお、日本ペインクリニック学会のガイドラインでは「本邦で信頼性・妥当性が完全に検証された日本語版はまだ確立されていない」とも記載されており、公式エビデンスの整備が進行中です。

Q4. 痛みの評価はどのタイミングで行えばよいですか?

米国疼痛学会は痛みを「第5のバイタルサイン」と位置づけ、バイタルチェック時に同時に評価することを推奨しています。介護現場では起床時・食事前・夜間・処置前後・移乗前後など、痛みが変化しやすい場面を選ぶと有用です。

参考資料・出典

  • 日本ペインクリニック学会『慢性疼痛診療ガイドライン』(2021年)
  • 日本緩和医療学会『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』第2章 痛みの包括的評価
  • American Pain Society. Pain: The 5th Vital Sign(米国疼痛学会の疼痛評価ガイダンス)
  • Abbey J, et al. The Abbey pain scale: a 1-minute numerical indicator for people with end-stage dementia. International Journal of Palliative Nursing 2004; 10(1): 6-13.
  • Hicks CL, et al. The Faces Pain Scale - Revised (FPS-R). Pain 2001; 93(2): 173-183.

まとめ

疼痛評価スケールは、痛みという主観的な体験を客観的な指標に変換するための共通言語です。会話が可能ならNRS、軽度認知症ならFaces Pain Scale、重度認知症ならAbbey Pain Scaleと、利用者の認知機能とコミュニケーション能力に応じて使い分けます。同一スケールを継続使用し、安静時と動作時を分けて記録することで、ケアの効果判定や疼痛コントロールの質が大きく向上します。看取り期や褥瘡処置、リハビリ介助など、介護現場のさまざまな場面で活用しましょう。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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