ポリファーマシーとは

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーは多剤併用に伴う有害事象の問題。厚労省の指針で6剤以上で薬物有害事象が増えるとされ、ふらつき・転倒・認知機能低下など介護現場で観察すべきサインを解説する。

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この記事のポイント

ポリファーマシー(Polypharmacy)とは、複数の薬剤を併用することで有害事象や服薬アドヒアランス低下などの問題が生じている状態を指す。「ポリ(多くの)+ファーマシー(薬剤)」の合成語で、単に薬の数が多いことだけではなく、それによって生活機能や安全が損なわれていることが問題とされる。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、6剤以上で薬物有害事象の頻度が増加する傾向が示されている。

目次

ポリファーマシーの定義と「単なる多剤」との違い

ポリファーマシーは、Polypharmacy(ギリシャ語のpoly=多い+pharmacy=薬剤)の直訳で、「多剤併用」と訳されることが多い。ただし、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」(2018年)や日本老年医学会では、単に薬の数が多い状態ではなく、それに伴って有害事象のリスク増加・服薬過誤・服薬アドヒアランス低下などの問題が生じている状態と定義している。

つまり、必要な治療のために結果的に薬剤数が多くなっているだけで管理が行き届いていれば、それは適正な多剤併用であり、ポリファーマシーには該当しない。一方で、転倒・ふらつき・食欲低下といった生活機能の低下が薬剤に起因しているケースでは、たとえ4〜5剤でもポリファーマシーとして対応すべき場合がある。

高齢者でとくに問題視される理由

高齢者は複数の慢性疾患(高血圧、糖尿病、心疾患、認知症など)を併せ持つことが多く、各疾患の専門医療機関を別々に受診することで処方が積み上がりやすい。加えて加齢に伴って肝・腎機能が低下するため、薬物の代謝・排泄が遅れて血中濃度が高まり、若年者と同じ用量でも有害事象が出やすい。介護現場で「最近ぼーっとしている」「足取りが不安定になった」と感じたとき、薬剤性の可能性を疑う視点が欠かせない。

6剤以上で増える薬物有害事象(厚労省データ)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」では、東京大学病院老年病科外来の研究データを引用し、処方薬剤数が6種類以上になると薬物有害事象の発生頻度が約1.5倍に増加すると報告している。同指針では入院患者でも処方薬剤数6種類以上で転倒発生率が有意に高まるデータを示している。

主な目安

  • 6剤以上: 薬物有害事象の頻度が増加(厚労省指針、2018年)
  • 5剤以上: 転倒リスクの増加が複数の研究で報告
  • 10剤以上: 「過量併用」とされ、ハイリスク状態と判断する施設が多い

ただし数字は絶対基準ではなく、「何剤以上だから多すぎる」ではなく「その人にとって不要・不適切な薬がないか」という視点で評価するのが基本となる。たとえば心不全・糖尿病・認知症を併せ持つ高齢者では、結果として7〜8剤になっても全てがエビデンスに基づき適正な場合もある。

介護現場で気づきたい薬剤性の典型サイン

介護職や看護職が日々の観察で「薬の影響かもしれない」と気づける典型的なサインを挙げる。これらは加齢や疾患進行と区別しにくく、本人や家族も「歳のせい」と片づけがちなため、薬剤の見直しで改善する余地を逃しやすい。

  • ふらつき・転倒: 降圧薬・睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬・抗ヒスタミン薬などで起こりやすい。新規処方や増量直後はとくに注意
  • 認知機能低下・せん妄: 抗コリン作用のある薬(抗ヒスタミン薬、過活動膀胱治療薬、三環系抗うつ薬など)が原因のことがある
  • 食欲低下・体重減少: 鉄剤・NSAIDs・SSRI・ジゴキシンなどで誘発される。摂取量低下が「認知症の進行」と誤判定されるケースも
  • 便秘: オピオイド・抗コリン薬・カルシウム拮抗薬・鉄剤など多くの薬で発生
  • 口渇・脱水傾向: 利尿薬・抗コリン薬。夏場や発熱時はとくに重篤化リスクが高まる
  • 易疲労感・抑うつ: β遮断薬・ベンゾジアゼピン系・ステロイドなど
  • 排尿障害(尿閉・頻尿): 抗コリン薬・α遮断薬

記録時には「いつから」「どの薬の開始・変更と時期が重なるか」を残しておくと、医師・薬剤師との連携で大きな手がかりになる。

STOPP/START基準とBeers基準

高齢者で「避けたほうがよい薬」「むしろ追加を検討すべき薬」を示すツールとして、国際的に広く用いられている基準が2つある。日本でも日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発行し、これらをベースに整理している。

基準策定主体特徴
Beers基準米国老年医学会(AGS)高齢者で潜在的に不適切な処方(PIM)をリスト化。抗コリン薬・長時間作用型ベンゾジアゼピン系などを「避けるべき」と明示
STOPP基準欧州(アイルランド・コーク大学)「やめるべき薬」リスト。臨床条件と組み合わせて中止を検討するルール形式
START基準同上「追加すべき薬」リスト。たとえば心房細動なのに抗凝固薬が処方されていないなど、過少処方も是正対象とする
日本老年医学会「特に慎重な投与を要する薬物」日本老年医学会日本の医療実態に合わせて整理されたリスト(2015年版・2023年改訂)

これらは「絶対に処方してはいけない薬」のリストではなく、処方継続の妥当性を医師・薬剤師が定期的にチェックするためのトリガーリスト。介護現場の役割は、利用者の生活機能の変化を観察し、見直しの判断材料を多職種に提供することにある。

在宅・施設での薬剤師連携と介護職の役割

ポリファーマシー解消は医師の処方権限の範囲だが、その判断材料は介護現場が握っている。施設や在宅では以下のような連携の仕組みが整いつつある。

  • 居宅療養管理指導(薬剤師訪問): 介護保険の居宅サービス。月数回、薬剤師が自宅を訪問して服薬状況を確認し、医師に処方提案を行う。要介護認定があれば利用可
  • かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局: 複数医療機関の処方を一元管理。重複・相互作用をチェックし、減薬の提案につなげる
  • 施設の協力薬局: 特養・有料老人ホームなどでは協力薬局と契約し、定期的な薬剤チェックを行うところが増えている
  • 多職種カンファレンス: 医師・看護師・介護職・薬剤師・ケアマネで生活機能の変化を共有し、減薬や用法変更を検討する

介護職が記録に残しておきたいこと

「気がついたら飲み忘れがある」「食事量が減った」「夜間トイレに起きる回数が増えた」など、薬剤の影響を疑わせる小さな変化は、ケース記録や連絡ノートに具体的な日時と一緒に残しておく。これが薬剤師・医師の見直し判断に直結する。

ポリファーマシーのよくある質問

Q1. 何剤からポリファーマシーと呼ぶの?

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」では6剤以上で薬物有害事象が増加すると示しているが、明確な剤数の定義はない。剤数の多さではなく、有害事象や服薬の問題が生じている状態かで判断するのが原則。4〜5剤でも転倒・せん妄が起きていれば対応対象となる。

Q2. 介護職が「薬を減らしてほしい」と医師に直接伝えてもいい?

処方変更を判断するのは医師だが、生活機能の変化を医師や薬剤師に伝えることは介護職の重要な役割。「ふらつきが増えた」「食事量が減った」など具体的な観察事実を記録ベースで共有することは推奨される。ケアマネや看護師経由で伝える経路を整えておくとスムーズ。

Q3. 認知症の症状か薬の影響か、どう見分ける?

見分けは医師の領域だが、「いつから」「どの薬の開始・変更と一致するか」を時系列で記録できると判断材料になる。新規処方や用量変更の直後に症状が出ているなら薬剤性を疑う根拠が強くなる。

Q4. 家族から「先生に減薬を相談したい」と言われたらどう対応する?

家族にはかかりつけ薬剤師や居宅療養管理指導の利用を案内し、薬剤師同席のもとで医師に相談する流れが望ましい。介護職としては、家族が観察している様子を具体的に整理して医療職に渡せるようサポートする。

Q5. ポリファーマシー対策のガイドラインはどこで読める?

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」「各論編」が公式サイトで公開されている。また日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(2023年改訂)」も基本資料として広く参照されている。

参考資料

  • 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」(2018年)
  • 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針 各論編(療養環境別)」(2019年)
  • 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(2023年改訂版)
  • 厚生労働省「医薬品の適正使用」関連通知
  • American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel「AGS Beers Criteria」

まとめ

ポリファーマシーは「薬の数が多いこと」ではなく、多剤併用に伴って有害事象や服薬上の問題が生じている状態を指す。厚生労働省の指針では6剤以上で薬物有害事象が増えるとされるが、剤数より「不要・不適切な薬がないか」「生活機能が損なわれていないか」を見る視点が本質である。介護現場の役割は、ふらつき・認知機能低下・食欲低下・便秘などのサインを早期に拾い上げ、医師や薬剤師に具体的な観察事実として届けること。多職種連携の中で介護職の「気づき」が、利用者の安全と生活の質を守る最初の一歩になる。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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