社会保険の適用拡大とは

社会保険の適用拡大とは

社会保険の適用拡大とは、パートなど短時間労働者を健康保険・厚生年金の加入対象に広げる制度改正です。2026年8月時点の企業規模要件と賃金要件、今後の段階的な拡大スケジュール、介護施設の実務対応を整理します。

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この記事のポイント

社会保険の適用拡大とは、パートやアルバイトなどの短時間労働者を、健康保険と厚生年金保険の加入対象へ段階的に広げていく制度改正のことです。2026年8月時点では、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等(特定適用事業所)に勤め、週の所定労働時間20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でない・2か月を超える雇用見込みという4つの要件をすべて満たす人が加入対象になります。

目次

社会保険の適用拡大とは何か

健康保険と厚生年金保険は、正社員だけの制度ではありません。従来から、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数がいずれも通常の労働者の4分の3以上である人は加入対象でした。適用拡大とは、この4分の3に届かない短時間労働者についても、一定の要件を満たせば加入対象とする仕組みを、対象企業の範囲を広げながら進めていく取り組みを指します。

2016年(平成28年)10月に大企業を対象として始まり、その後の法改正で対象企業の規模を段階的に引き下げてきました。さらに2025年(令和7年)6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)により、企業規模要件の縮小・撤廃、賃金要件の撤廃、個人事業所の適用対象の拡大という3つの見直しが決まりました。

狙いは二つあります。ひとつは、被用者でありながら被用者保険の恩恵を受けられない働き方をなくすこと。もうひとつは、保険料負担を避けるための就業調整(いわゆる年収の壁)を解消し、働きたい人が労働時間を抑えずに働けるようにすることです。人手不足が深刻な介護分野では、後者の意味合いが特に大きくなります。

社会保険の適用拡大で加入対象になる短時間労働者の要件

2026年8月時点で、短時間労働者が健康保険・厚生年金保険の加入対象になるのは、次の要件をすべて満たす場合です。

  • 特定適用事業所などに勤めていること。特定適用事業所とは、1年のうち6か月以上、厚生年金保険の被保険者(短時間労働者を含まない)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等をいいます。法人の場合は同一法人格に属するすべての事業所の合計、個人事業所の場合は事業所単位で数えます。
  • 週の所定労働時間が20時間以上であること。就業規則や雇用契約書で判断します。所定労働時間が週20時間未満でも、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その後も続く見込みなら、3か月目から加入対象になります。
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上であること。ただしこの要件は2026年10月に撤廃される予定です。
  • 学生でないこと。休学中の人、定時制・通信制に在学する人などは学生でも加入対象になります。
  • 2か月を超える雇用の見込みがあること。契約期間が2か月以内でも、更新が予定されている、同条件で更新された実績があるといった場合は対象になります。

企業規模の基準に届かない事業所でも、被保険者の2分の1以上の同意を得て事業主が申し出れば「任意特定適用事業所」となり、要件を満たす短時間労働者を加入させることができます。

社会保険の適用拡大の企業規模要件のスケジュール

企業規模要件は、およそ10年かけて段階的に縮小・撤廃されます。厚生労働省と日本年金機構が示している時期は次のとおりです。

時期短時間労働者が加入対象になる企業等の規模
2027年9月まで(現行)厚生年金保険の被保険者数51人以上
2027年10月から36人以上
2029年10月から21人以上
2032年10月から11人以上
2035年10月から10人以下(規模要件の撤廃)

従業員数の数え方は、事業所(法人の場合は法人全体)の「現在の厚生年金保険の加入対象者」、つまりフルタイムの従業員数と、週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数の合計です。短時間労働者は数に含めません。複数の小規模事業所を運営する法人でも、法人番号が同一なら合算して判定するため、単体では小さく見える介護事業所が基準を超えることは珍しくありません。

賃金要件(月額8.8万円以上)は、法律の公布から3年以内に、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて撤廃されます。厚生労働省は2026年10月の撤廃を予定していると案内しています。個人事業所については、常時5人以上を使用する事業所の適用対象を、現行の法定17業種から全業種へ拡大します(2029年10月施行、施行時点で既に存在する事業所は当分の間対象外)。なお法定17業種には社会福祉が含まれているため、常時5人以上を使用する個人立の介護事業所はすでに適用対象です。

社会保険の適用拡大と雇用保険の適用拡大の違い

「適用拡大」という言葉は社会保険と雇用保険の両方で使われますが、対象も時期も別の制度です。混同しないよう整理しておきます。

項目社会保険(健康保険・厚生年金保険)雇用保険
根拠2025年成立の年金制度改正法雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)
労働時間の要件週20時間以上(変更なし)週20時間以上から週10時間以上へ
企業規模の要件51人以上を段階的に縮小し最終的に撤廃企業規模による要件はない
主な時期2026年10月に賃金要件撤廃、2027年10月以降に規模要件を順次縮小2028年10月1日施行
保険料の負担労使折半労使で分担(事業主負担が大きい)

週20時間以上働く短時間労働者が特定適用事業所に勤めている場合は、社会保険と雇用保険の両方に加入することになります。雇用保険側の要件は雇用保険とはで整理しています。

社会保険の適用拡大に向けた介護施設の実務対応

介護施設の管理者・労務担当が準備しておきたいのは、次の点です。

  • 対象者の洗い出し。法人全体の厚生年金保険の被保険者数を確認し、規模の基準を超える時期を把握します。基準を超えたら日本年金機構へ特定適用事業所該当届を提出し、あわせて被保険者資格取得届を出します。
  • 事業主負担の試算。保険料は労使折半で、加入者が増えれば事業主負担も増えます。厚生労働省の特設サイトに、事業主負担分と従業員の手取りを試算するシミュレーターが用意されています。
  • 職員への説明。厚生年金に加入すると基礎年金に上乗せの年金が受けられ、健康保険に加入すると病気やけが、出産で休んだときの所得保障(傷病手当金・出産手当金)が得られます。手取りが減る面だけでなく、保障が増える面もあわせて説明することが、就業調整を減らす近道です。
  • 保険料負担を軽減する特例。従業員数50人以下の企業などで新たに加入対象となる短時間労働者のうち、標準報酬月額が12.6万円以下の人については、事業主が負担割合を増やして本人の負担を3年間軽減できる措置が設けられています。事業主が追加負担した分は制度全体で支援されます。
  • 助成金の活用。短時間労働者を新たに社会保険に加入させたうえで、週の所定労働時間の延長や賃金の増額に取り組んだ事業主への助成制度があります。

いわゆる106万円・130万円の壁と就業調整の実務については介護パートの社会保険の壁|106万・130万の壁と2025年支援強化パッケージで詳しく扱っています。

社会保険の適用拡大のよくある質問

Q扶養の範囲内で働いていますが、加入対象になると扶養から外れますか。

加入対象になると自分自身が健康保険・厚生年金保険の被保険者になるため、配偶者の被扶養者(国民年金第3号被保険者)ではなくなります。ただし基礎年金に上乗せの厚生年金が受けられ、傷病手当金や出産手当金の対象にもなります。手取りと将来の給付の両面で比較して判断してください。

Q従業員数はどのように数えますか。

事業所(法人の場合は法人全体)の現在の厚生年金保険の加入対象者、つまりフルタイムの従業員数と、週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数の合計で数えます。短時間労働者は含めません。1年のうち6か月以上、基準を超えることが見込まれるかで判定します。

Q月額8.8万円の賃金要件はいつなくなりますか。

厚生労働省は2026年10月に撤廃する予定と案内しています。撤廃の時期は、全国の最低賃金が1,016円以上となる状況を見極めて判断されます。最低賃金以上で週20時間以上働けば月額8.8万円を超えるため、実務上はすでに意識する必要が小さくなっています。

Q規模の基準に届かない小さな事業所でも加入させられますか。

できます。被保険者の2分の1以上の同意を得たうえで事業主が申し出ると、任意特定適用事業所となり、要件を満たすすべての短時間労働者が加入対象になります。

Q所定労働時間は週20時間未満ですが、実際にはそれ以上働いています。

実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、それ以降も続くと見込まれる場合は、3か月目から加入対象になります。シフトが常態的に契約を超えている場合は、雇用契約書の所定労働時間そのものを見直すべき状態といえます。

社会保険の適用拡大の参考資料

社会保険の適用拡大のまとめ

社会保険の適用拡大は、2026年8月時点では被保険者数51人以上の企業等が対象で、週20時間以上・月額8.8万円以上・学生でない・2か月超の雇用見込みという4要件で判定します。ここから、2026年10月に賃金要件が撤廃予定、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、2035年10月に規模要件が撤廃と、10年かけて対象が広がっていきます。

パート職員に支えられている介護施設にとっては、事業主負担の増加という課題であると同時に、就業調整を理由にシフトを絞っていた職員が働きやすくなる機会でもあります。自法人がいつ対象になるのかを先に確定させ、職員への説明と助成制度の活用をセットで準備しておくことが、現場を止めない進め方です。制度の時期や要件は今後の政令・省令で具体化される部分もあるため、必ず厚生労働省と日本年金機構の最新情報で確認してください。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

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