
STOP-BANGとは
STOP-BANGは8項目の質問で閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)リスクを評価する簡易スクリーニング。Chung博士らが2008年に開発し、3点以上で中〜高リスクと判定する。介護現場での観察ポイントを解説。
この記事のポイント
STOP-BANG(ストップ・バン)は、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のリスクを8項目のYes/Noで素早く評価する簡易スクリーニング質問票。カナダ・トロント大学のFrances Chung博士らが2008年にAnesthesiology誌で発表した。3点以上で中〜高リスクと判定し、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)等の精査につなげる。
目次
STOP-BANGの基本情報
STOP-BANGは、もともと手術前患者の閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea:OSA)を発見するために、カナダ・トロント大学のFrances Chung博士らによって開発された8項目のスクリーニングツールである。原著は2008年にAnesthesiology誌(108巻812-821頁)に掲載され、術前外来において感度の高い簡易評価法として広く採用された。
名称は8つの評価項目の頭文字に由来する。前半4項目は質問形式の「STOP」(Snoring:いびき/Tired:日中の眠気・倦怠感/Observed apnea:他者から目撃された無呼吸/Pressure:高血圧の既往)、後半4項目は身体的特徴の「BANG」(BMI 35超/Age 50歳以上/Neck circumference 男性43cm・女性41cm超/Gender 男性)で構成される。各項目は「はい」で1点、「いいえ」で0点とし、合計0〜8点で評価する。
当初は手術前評価用に作られたが、後続のメタアナリシス(Sleep and Breathing 2021等)で軽症OSA感度90%・中等症94%・重症96%という高い検出性能が確認され、現在では一般人口・運転手・健診・在宅医療など幅広い場面で活用されている。日本でも日本睡眠学会の関連資料や日本プライマリ・ケア連合学会誌で日本語版の運用が紹介されている。
STOP-BANG 8項目チェックリストとスコア解釈
「はい」が1項目で1点、合計0〜8点で評価する。BMI・年齢・首囲・性別は問診で容易に確認できる。
| 記号 | 項目 | 判定基準(「はい」=1点) |
|---|---|---|
| S | Snoring(いびき) | 大きないびきをかく(壁越しに聞こえる/同室者を起こす程度) |
| T | Tired(日中の眠気・倦怠感) | 日中に強い眠気や疲労を頻繁に感じる |
| O | Observed apnea(無呼吸の目撃) | 睡眠中に呼吸が止まっているのを目撃された |
| P | Pressure(高血圧) | 高血圧の診断歴または降圧薬を服用中 |
| B | BMI | BMI 35 kg/m²超(後の研究ではBMI 30超を採用する版もある) |
| A | Age(年齢) | 50歳以上 |
| N | Neck(首囲) | 男性43cm超/女性41cm超 |
| G | Gender(性別) | 男性 |
スコア解釈(カットオフ)
- 0〜2点:低リスク — OSAの可能性は低い。経過観察で良い。
- 3〜4点:中等度リスク — OSA保有率は約72%、重症OSAも13〜18%含まれる。精査を検討。
- 5〜8点:高リスク — OSA保有率77%以上、重症OSAも30%以上。終夜睡眠ポリグラフ(PSG)等の精査を強く推奨。
カットオフ3点における中等症以上OSAの感度は約95.7%、特異度は42.9%と報告されている(Chung 2008)。感度を優先した「拾い上げ」のためのツールで、確定診断はPSGまたは簡易ポリグラフ(OCST)で行う。
他の睡眠時無呼吸スクリーニング法との違い
SASを早期に検出するための質問票は複数あり、目的や対象によって使い分けられる。
| ツール | 主な評価軸 | 項目数 | 長所 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| STOP-BANG | OSAリスク全般 | 8 | 客観項目(BMI・首囲・性別)を含み、感度が高い | 特異度はやや低く偽陽性が出やすい |
| Epworth Sleepiness Scale(ESS) | 日中の眠気の主観評価 | 8 | 眠気の重症度を定量化できる | OSAそのものの検出力は限定的 |
| Berlin Questionnaire | いびき・眠気・高血圧/BMI | 3カテゴリ | 一般人口での検証あり | 項目構造が複雑で集計しにくい |
| NoSAS Score | 首囲・BMI・年齢・性別・いびき | 5 | 身体所見中心でシンプル | 日中症状の評価が薄い |
STOP-BANGの強みは「Yes/No 8項目を合計するだけ」という極めて低いオペレーション負荷と、客観項目(BMI・首囲・性別・年齢)を含むことによる感度の高さにある。日中の眠気を詳細に測りたい場合はESSを併用し、確定診断はPSGで行うのが標準的なフローである。
介護現場でSTOP-BANGを活用するポイント
STOP-BANGは医療機関だけでなく、特養・有料老人ホーム・訪問介護の現場でも「気になる入居者・利用者を医療につなぐきっかけ」として役立つ。高齢者では未診断の睡眠時無呼吸が高血圧悪化・夜間転倒・認知機能低下・心血管イベントの引き金になることが指摘されており、早期発見の意義は大きい。
1. 夜勤・宿直時の「いびき+無呼吸」観察
巡視で「大きないびき」「呼吸が10秒以上止まる場面」を目撃したら、STOP-BANGのS(Snoring)とO(Observed apnea)が同時に立つ。介護記録に時刻・持続時間・覚醒の有無を残し、看護師へ申し送る。
2. 日中の眠気・血圧変動と合わせて評価
「食後にすぐ眠ってしまう」「日中の活動量が落ちている」場合はT(Tired)が立つ。さらに早朝高血圧や血圧の日内変動が大きい入居者ではP(Pressure)も該当する可能性が高い。STOP項目だけで3点を超えれば、すでに精査対象である。
3. 看護師・嘱託医への情報整理
BMI・首囲・年齢・性別は介護記録から拾いやすい客観データである。STOP-BANGの8項目を1枚のチェックシートにして、嘱託医回診や訪問診療の場面で共有すると、「なんとなく気になる」を構造化された情報に変換できる。
4. CPAP・NPPV導入後のフォローへつなぐ
診断後にCPAPやNPPVが導入された場合、夜間の装着状況・マスク漏れ・皮膚トラブルの観察が介護職の重要な役割になる。STOP-BANGはあくまでスクリーニングのため、診断や治療判断は医師に委ねる。
STOP-BANGに関するよくある質問
Q1. STOP-BANGは医師でなくても使えますか?
はい。8項目はYes/Noで答えられる構造のため、看護師・保健師・薬剤師、また保健指導場面でも使用されている。ただし結果はあくまでリスク評価であり、確定診断と治療方針は医師が判断する。介護職が独自に「OSAあり」と決めつけることは避けるべきである。
Q2. 3点未満なら睡眠時無呼吸の心配はないと考えてよいですか?
感度を優先したスクリーニングのため、3点未満で重症OSAが見落とされる可能性は低い一方、まれに偽陰性も起こりうる。極端ないびき、日中の強い眠気、運転中の居眠りなどの臨床症状が明確であれば、点数に関わらず医療機関に相談する方が安全である。
Q3. BMIのカットオフは35と30どちらが正しいのですか?
原著(Chung 2008)はBMI 35超を採用しているが、その後の研究でBMI 30超を使うとアジア人を含む一般人口での診断性能が向上することが報告されている。日本人を含む集団では、BMI 30超を採用するバージョンの方が実用的とされる場面もある。施設や医療機関で運用版を統一しておくとよい。
Q4. 認知症の利用者にも使えますか?
本人への聴取が難しい場合は、家族・介護記録・夜勤帯の観察情報からSnoring・Observed apnea・Tiredを補完して評価する。BMI・年齢・首囲・性別はカルテから容易に取得できる。代理回答でも十分意味のあるスコアが得られる。
Q5. スコアが高ければすぐCPAPになりますか?
いいえ。STOP-BANG高リスクはあくまで「精査推奨」のシグナルである。確定診断には終夜睡眠ポリグラフ(PSG)や簡易検査(OCST)が必要で、AHI(無呼吸低呼吸指数)の値によってCPAP・口腔内装置・生活指導など治療方針が決まる。
参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]日本睡眠学会 — 睡眠障害診療ガイドライン関連資料- 日本睡眠学会
- [5]
- [6]
まとめ
STOP-BANGは、いびき・眠気・無呼吸の目撃・高血圧・BMI・年齢・首囲・性別という8項目をYes/Noで答えるだけで、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のリスクを素早く評価できる簡易スクリーニング質問票である。3点以上で中等度〜高リスクと判定し、PSG等の精査につなぐ流れが標準となっている。介護現場では、夜勤帯のいびき・無呼吸の目撃情報や、日中の眠気・血圧データを構造化して看護師・嘱託医に共有する道具として活用できる。確定診断はあくまで医師の領域だが、入居者・利用者の異変に最初に気づく介護職こそ、このツールの存在を知っておく価値がある。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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