
体験入職とは
体験入職とは、応募前や選考中に介護の現場を短時間経験してもらう取り組み。見学にとどまるか実際の業務に従事するかで労働基準法上の労働者性の判断が変わり、労働者にあたる場合は賃金の支払い義務が生じます。判断の4要素を解説します。
この記事のポイント
体験入職とは、応募前や選考の途中で、求職者に実際の介護現場を短時間経験してもらう取り組みです。職場体験、1日体験などと呼ばれることもあります。求職者にとっては求人票では分からない人員配置やシフトの実態を確かめる機会になり、施設にとっては入職後のずれによる早期離職を減らす手段になります。ただし内容が見学の域を超えて業務に従事する形になると、労働基準法上の労働者にあたり、賃金の支払い義務が生じることがあります。
目次
体験入職の目的と一般的な流れ
体験入職は、履歴書や面接だけでは伝わらない情報を、施設と求職者が事前に交換するための仕組みです。介護の仕事は、同じ「特別養護老人ホームの介護職員」という求人であっても、1フロアあたりの職員数、夜勤の入り方、記録の取り方、他職種との連携の密度が施設ごとに大きく違います。文章では読み取れないこの差を、実際に半日から1日、現場に身を置いて確かめるのが体験入職です。
一般的な流れは、施設への申し込み、日程の調整、当日の説明、現場での体験、振り返りの面談です。体験の内容には幅があり、フロアの様子を見ながら職員の動きを観察するだけの見学に近いものから、レクリエーションの補助や配膳、声かけなど軽い業務に加わるものまであります。この「どこまで関わるか」が、次に述べる労働者性の判断を分ける分岐点になります。
求職者側の使い方としては、選考を受けるかどうかを決める前の情報収集として位置づけるのが基本です。見学との違いは、案内される場所を見て回るのではなく、実際の時間帯の流れのなかに入って過ごす点にあります。申し込み方や当日の見どころは介護職の体験入職・職場体験で詳しく整理しています。
賃金の支払い義務が生じるかどうかの判断要素
労働基準法第9条は、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。厚生労働省は、インターンシップにおける学生の労働者性について、次のような実態がある場合は労働者に該当すると認められるとしています(平成9・9・18基発636号ほか)。体験入職についても、実態が同じであれば同様に考えることになります。
- 見学や体験的な要素が少ない
- 使用者から業務に関わる指揮命令を受けている
- 直接の生産活動に従事し、それによる利益や効果が当該事業所に帰属する
- 実態として何らかの報酬が支払われている
労働者にあたると判断されれば、労働条件の明示、労働時間の管理、割増賃金、最低賃金といった労働関係法令がそのまま適用されます。労働基準法第24条は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めており、業務に従事させておきながら無償のままにしておくことはできません。この判断は個々の実態に即して行われるため、「体験だから無給でよい」という整理は通用しません。
見学・体験入職・トライアル雇用の違い
| 区分 | 労働契約 | 賃金 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 施設見学 | なし | 発生しない | 案内を受けて設備や雰囲気を見る |
| 体験入職(見学に近い内容) | 原則なし | 原則発生しない | 現場の流れのなかで観察する |
| 体験入職(業務に従事する内容) | 実態により成立しうる | 労働者にあたれば支払い義務 | 指揮命令のもとで業務の一部を担う |
| トライアル雇用 | あり | 支払い義務あり | 原則3か月の試行雇用。助成金の対象 |
施設側が体験入職を設計するときは、業務に加わってもらうのかどうかを先に決めることが重要です。加わってもらうのであれば、短時間であっても雇用の手続をとるほうが安全です。あいまいなまま「少し手伝ってもらう」形にすると、後から賃金不払いの問題になります。
体験入職に関するよくある質問
Q. 体験入職は無給が普通ですか?
A. 見学に近い内容であれば無給とすることも考えられますが、実際の業務に従事し指揮命令を受けている場合は労働者にあたり、賃金を支払う必要があります。判断は個々の実態に即して行われます。
Q. 利用者に直接ふれる介助を体験できますか?
A. 施設の方針によります。ただし無資格の人が身体介護を行うことには制約があります。とくに訪問介護では、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第5条により、サービスの提供にあたるのは介護福祉士または政令で定める者に限られています。体験の範囲は申し込みの段階で確認してください。
Q. 体験入職に参加したら応募しなければいけませんか?
A. その必要はありません。体験入職は応募するかどうかを判断するための機会であり、参加が応募や採用の約束になるものではありません。
Q. 体験中にけがをした場合の補償はどうなりますか?
A. 労働者にあたる場合は労働者災害補償保険の対象になります。そうでない場合の扱いは、施設が加入している保険の内容によります。申し込みの段階で、けがや物損があったときの取り扱いを確認しておきましょう。
参考文献・出典
- [1]インターンシップ制度とは?(インターンシップにおける学生の労働者性)- 厚生労働省 長野労働局・各労働基準監督署
平成9・9・18基発636号ほかを参照し、労働者に該当すると認められる実態の判断要素を4点で整理した資料。
- [2]
- [3]指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)第5条- e-Gov法令検索(デジタル庁)
訪問介護員等を「指定訪問介護の提供に当たる介護福祉士又は法第8条第2項に規定する政令で定める者」と定める。
- [4]
まとめ
体験入職は、求人票と現場の実態のずれを入職前に埋められる、数少ない仕組みです。ただし運用の設計を誤ると労働関係法令の問題に変わります。分岐点は、見学にとどめるのか、指揮命令のもとで業務に加わってもらうのか。後者であれば労働者にあたり、賃金の支払い義務が生じます。求職者は体験できる範囲と補償の扱いを事前に確認し、施設は業務に加わってもらう場合には短時間でも雇用の手続をとる。これが双方にとって安全な使い方です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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