舌圧測定とは

舌圧測定とは

舌圧測定は最大舌圧を数値化して嚥下機能を客観評価する検査。JMS舌圧測定器が標準で、健常成人約40kPa、高齢者30kPa以上、20kPa未満で嚥下機能低下が疑われる。介護現場での活用とRSST・MWSTとの違いを解説。

ポイント

この記事のポイント

舌圧測定(ぜつあつそくてい)とは、舌で口蓋を押す最大の圧力(最大舌圧)を専用機器で測定し、嚥下機能や口腔機能を客観的に評価する検査です。健常成人で約40kPa、高齢者で30kPa以上が目安、30kPa未満で低舌圧、20kPa未満で嚥下機能低下が強く疑われます。介護施設や訪問歯科でJMS舌圧測定器が広く使われています。

目次

舌圧測定の定義と位置づけ

舌圧測定とは、舌が口蓋(こうがい:口の天井)を押す力の最大値を数値化する検査です。舌は食塊(しょっかい:飲み込みやすくまとめた食べ物のかたまり)を咽頭へ送り込む推進力を担っており、舌圧の低下は咀嚼・食塊形成・嚥下の各段階に影響します。日本老年歯科医学会は2018年に「口腔機能低下症」を新たな疾患概念として位置づけ、その診断7項目のひとつに「低舌圧」を採用しました。

従来、嚥下障害の評価は反復唾液嚥下テスト(RSST)や改訂水飲みテスト(MWST)などの定性的・観察的スクリーニングが中心でした。舌圧測定はこれらにkPa(キロパスカル)という客観的な数値を加え、訓練効果の可視化や経時的フォローアップを可能にします。介護現場ではオーラルフレイル・サルコペニア・低栄養の早期発見、誤嚥性肺炎リスクの把握、口腔機能向上加算の評価指標として活用が進んでいます。

測定機器の標準はジェイ・エム・エス社のJMS舌圧測定器(TPM-02E)です。圧力表示範囲は-9.9〜99.9kPa、内圧設定値19.6kPaをゼロ点とする方式で、口腔内に挿入した使い捨てプローブ(舌圧子)のバルーンを舌で口蓋に押しつぶし、最大値を液晶に表示します。1回の測定は数秒で済み、3回測定の平均値を採用するのが標準プロトコルです。

最大舌圧の基準値と意思決定ライン

年代・性別ごとの最大舌圧の目安と、介護現場での評価ラインは以下の通りです。

対象最大舌圧の目安解釈
健常成人男性(20〜59歳)約40〜45kPa以上正常範囲
健常成人女性(20〜59歳)約37〜40kPa以上正常範囲
60〜69歳30kPa以上加齢の影響あり、要観察
70歳以上20kPa以上下限ライン
30kPa未満低舌圧(口腔機能低下症の診断基準)
21.6kPa未満誤嚥性肺炎リスクのカットオフ(先行研究)
20kPa未満嚥下機能低下が強く疑われる

30kPaは日本老年歯科医学会が口腔機能低下症の診断基準として採用しているライン、20kPaは嚥下障害患者群と健常群を分ける目安として臨床現場で広く参照されています。両者は意味が異なるため、施設での運用時には「30kPa未満は栄養士・歯科衛生士・言語聴覚士による精査」「20kPa未満は食形態調整と誤嚥性肺炎予防プロトコル開始」のように2段階の意思決定ラインとして使うのが実務的です。

RSST・MWSTとの違いと組み合わせ方

嚥下機能のスクリーニングには複数の検査があり、目的に応じて使い分け・組み合わせます。

検査評価する機能所要時間出力主な役割
舌圧測定舌の筋力(推進力)約3分(3回平均)kPa(連続値)機能の数値化・訓練効果の追跡
RSST嚥下反射の起こりやすさ30秒回数(3回以上で正常)嚥下反射の確認
MWST(改訂水飲みテスト)少量水分での嚥下動作1分以内5段階評価誤嚥リスクの観察

RSSTとMWSTは「水や唾液を飲ませて観察する」動的な検査で誤嚥兆候を見つけるのに優れる一方、舌圧測定は「嚥下に必要な筋力の総量」を可視化します。3者は競合ではなく補完関係で、施設では「RSST+MWSTで誤嚥リスクの有無をスクリーニング → 該当者に舌圧測定で原因(筋力低下)を定量化 → 訓練計画に反映」という流れが一般的です。

とくに訓練効果の評価では、RSSTやMWSTのカテゴリ評価では小さな改善が見えにくい一方、舌圧測定は1kPa単位で経時変化を捉えられるため、リハビリテーション計画書への記載や家族説明の根拠として有用です。

介護施設での測定手順と運用ステップ

通所介護・通所リハビリ・特養・老健などで舌圧測定を運用する場合、概ね次の流れになります。

  1. 対象者の選定:オーラルフレイル疑い(食事中のむせ・体重減少・滑舌の低下など)、口腔機能向上加算の対象候補、低栄養スクリーニング(MNA-SF)で要注意判定の利用者。
  2. 実施者の準備:歯科衛生士、言語聴覚士、看護職員のいずれかが担当。事前にJMS舌圧測定器(TPM-02E)と使い捨て舌圧プローブを用意。
  3. 姿勢調整:座位で頭部を中間位に保ち、口腔内の唾液を整える。義歯使用者は装着のまま実施することが多い。
  4. 測定実施:プローブを口腔内に挿入し、硬質リングを前歯で軽くかむ。「舌で全力でバルーンを口蓋に押しつぶしてください」と指示し、約7秒間最大努力。30秒以上の休息を挟んで3回測定し、最大値または平均値を記録。
  5. 評価と計画反映:30kPa未満で「低舌圧」と判定。多職種カンファレンスで栄養計画・食形態・嚥下訓練(パタカラ体操、ペコぱんだなど舌抵抗訓練)に反映。
  6. 再評価:訓練介入後、3か月後を目安に再測定。1kPa以上の改善で訓練効果ありと判断するのが一般的。

介護報酬上は、舌圧測定そのものに個別の単位は設定されていませんが、口腔機能向上加算(通所系で1回150単位/月2回まで)や口腔衛生管理加算(入所系)の評価指標として位置づけ、計画書に数値を残すことで実施根拠を担保できます。

介護現場で活かすための実務ポイント

  • 測定値だけで判断しない:体調・服薬・脱水・義歯不適合で値は変動する。同条件(時間帯・姿勢・義歯有無)で記録し、必ず食事観察・体重推移とセットで判断する。
  • 家族説明に数値を活用:「最近むせやすい」という主観評価より「舌圧が3か月で28→22kPaに低下」と提示する方が、食形態の変更や嚥下訓練導入への理解が得やすい。
  • サルコペニアとの連動チェック:舌圧低下は四肢の筋力低下と並行することが多い。握力測定・歩行速度・MNA-SFを併せて評価すると、低栄養・全身フレイルへの介入判断がしやすい。
  • 訓練機器との連携:JMS社のペコぱんだなどの舌抵抗訓練器具と組み合わせると、訓練強度(最大舌圧の60〜100%)の設定根拠になる。週3回、30回×3セット、8週間が一般的な訓練プロトコル。
  • 看護師が橋渡し役になる:施設で歯科衛生士や言語聴覚士が常駐していない場合、看護師が訪問歯科・嚥下リハ専門職との連携窓口になることが多い。測定の必要性を医師・歯科医師に共有する起点として有効。

よくある質問

Q. 舌圧測定はだれが実施できますか?

明示的な国家資格制限はなく、施設では歯科衛生士・言語聴覚士・看護師が中心です。ただし口腔機能向上加算の算定要件では、計画立案を担う職員として言語聴覚士・歯科衛生士・看護職員のいずれかの配置が求められます。

Q. 介護保険で点数が付きますか?

舌圧測定単体の介護報酬は設定されていません。歯科の保険診療では「口腔機能低下症」の検査として算定可能ですが、介護施設では口腔機能向上加算・口腔衛生管理加算の評価指標として運用するのが一般的です。

Q. 義歯を装着したまま測定してよいですか?

原則として普段の食事条件と同じ状態で測定します。義歯使用者は装着したまま、ただし義歯の不適合があれば事前に歯科で調整を受けてから測定するのが望ましいです。

Q. 値が30kPaを切ったらどうすればよいですか?

「低舌圧」と判定し、多職種で食形態・嚥下訓練・栄養介入を検討します。誤嚥兆候があればMWSTやVE(嚥下内視鏡検査)など追加評価へ進むのが標準的な流れです。

Q. 訓練でどのくらい改善しますか?

個人差は大きいものの、舌抵抗訓練を8週間継続することで5〜10kPa程度の改善が報告される例もあります。重要なのは絶対値の改善だけでなく、食事中のむせや体重推移と合わせて評価することです。

参考資料

  • 日本老年歯科医学会「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」(2018年定義、2024年改訂)
  • 株式会社ジェイ・エム・エス「JMS舌圧測定器 TPM-02E 製品情報」medical.jms.cc
  • 津賀ら「嚥下障害または構音障害を有する患者における最大舌圧測定の有用性」日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 16(2):165-174, 2012J-STAGE
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 口腔機能向上加算 算定要件」mhlw.go.jp
  • 東京都健康長寿医療センター「口腔機能向上加算導入の手引き」(厚生労働省 老人保健健康増進等事業)

まとめ

舌圧測定は、嚥下機能を「kPa」という数値で見える化できる客観的な検査です。30kPa未満で低舌圧、20kPa未満で嚥下機能低下が強く疑われるという2つの意思決定ラインを押さえ、RSSTやMWSTと組み合わせれば、誤嚥性肺炎の予防やオーラルフレイルへの早期介入につながります。介護現場では口腔機能向上加算の評価指標としても活用しやすく、家族説明や訓練効果の可視化にも有効です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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