
中東混乱で介護物資の供給に不安|黒田老健局長「動向を注意深く見守る」・ビニール手袋とおむつに警戒
2026年5月13日の衆議院厚労委員会で黒田秀郎老健局長が、中東情勢の混乱を受けた介護現場の物資供給リスクについて「動向を大変注意深く見守る」と答弁。ビニール手袋・ポリ袋・おむつのサプライチェーン構造と、事業所が今から備えるBCP対策を解説。
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この記事のポイント
厚生労働省の黒田秀郎老健局長は2026年5月13日の衆議院厚生労働委員会で、中東情勢の混乱に伴う介護物資供給への懸念について「介護サービスの提供に支障が生じる事例は現時点で聞いていないが、動向を大変注意深く見守る必要がある」と答弁した。関係団体への聴取で実態把握を進め、支障が確認されれば関係省庁と速やかに連携するという。介護現場ではビニール手袋・ポリ袋・おむつなど、海外原料に依存する消耗品の調達不安が広がっており、コロナ禍の手袋不足の再来を懸念する声が出ている。介護職にとってBCP(業務継続計画)の見直しと在庫管理の徹底が改めて問われる局面となっている。
目次
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中東情勢×介護物資解説(kaigonews)
中東情勢の混迷が、日本の介護現場にじわりと影を落としている。2026年5月13日に開かれた衆議院厚生労働委員会で、厚生労働省の黒田秀郎老健局長が介護物資の供給リスクについて問われ、「動向を大変注意深く見守る必要がある」と慎重な姿勢を示した。
議論の俎上にのぼったのは、介護現場で日常的に大量消費されるビニール手袋・ポリ袋・紙おむつといった消耗品だ。いずれも石油由来の素材や海外調達に依存する部分があり、原油価格の高騰や物流網の混乱が長引けば、現場の調達コストや在庫が直撃を受けかねない。
2020年のコロナ禍では、世界的な需要急増とサプライチェーンの寸断が重なり、介護現場で「手袋が足りない」という悲鳴が広がった記憶がまだ新しい。今回もすでに「同じことが起きるのでは」と不安視する声が業界内から上がっている。
本記事では、5月13日の答弁内容を一次資料から正確に確認した上で、ビニール手袋・ポリ袋・おむつそれぞれの供給網の実態、コロナ禍時との違い、そして介護事業所が今から取れる現実的な備えまでを整理する。
発言の内容:5月13日衆議院厚労委員会で何が語られたか
「現時点で支障は聞いていない」が「動向を注視」と慎重姿勢
2026年5月13日に開かれた衆議院厚生労働委員会で、中道改革連合の沼崎満子議員が「中東情勢の混乱に伴い、介護現場でビニール手袋やポリ袋、おむつなどの供給に不安の声が出ている」と問題提起し、政府の対応を質した。
これに対し、厚生労働省の黒田秀郎老健局長は次のように答弁した。「現時点で介護サービスの提供に支障が生じるような事例があるとの話は聞いていない」としつつ、「今後の動向を大変注意深く見守っていく必要がある」と警戒感を隠さなかった。
さらに、「介護サービスの提供に支障が生じるような状況が把握された場合には、関係省庁と連携して必要な対応を速やかに行っていく」とも述べ、事態が悪化した際の機動的な対応を約束した格好だ。
関係団体への聴取で実態把握を進める
黒田局長は具体的な対応策として、関係団体などから介護現場の必要物資の確保状況について聴取し、実態把握に努めていることを明らかにした。介護分野では全国老人福祉施設協議会、全国老人保健施設協会、日本介護支援専門員協会、日本ホームヘルパー協会など複数の業界団体が組織されており、これらの団体を通じて現場の調達状況や在庫水準を集約しているものとみられる。
注目すべきは、答弁が「支障はない」と楽観的に断言するのではなく、「動向を注視」「速やかに対応」という予防的な姿勢を強調した点だ。介護現場の物資不足は、利用者の感染予防や排泄ケアに直結するため、いったん供給が途絶えれば即座にケアの質が低下する。コロナ禍の教訓を踏まえ、政府が早めにアンテナを張っていることがうかがえる。
2024年7月就任の黒田局長、介護人材確保が最優先課題
黒田秀郎氏は2024年7月5日に厚生労働省老健局長に就任した。就任後のインタビューでは、最大の眼目として「賃上げ」「介護人材確保」を挙げており、人材不足が深刻化する介護現場の安定運営を一貫して重視してきた。
物資供給の問題は、人材確保と並んで「介護サービスの提供基盤」を構成する重要な要素である。職員がいくらいても、手袋やおむつが調達できなければケアは成立しない。今回の答弁は、人材確保と物資安定供給の両輪で介護基盤を守る、という政府の基本姿勢を改めて示すものとなった。
懸念される対象品目とサプライチェーンの実情
ビニール手袋:国内ほぼ製造なし、中国依存が構造的リスク
介護現場で最も警戒されているのが使い捨てビニール手袋だ。塩化ビニル樹脂(PVC)を主原料とする使い捨て手袋は、日本国内ではほとんど製造されておらず、その大半を中国を中心とした海外からの輸入に頼っている。
2020年のコロナ禍では、世界規模で使い捨て手袋の需要が急増した結果、日本でも介護現場が深刻な品薄に直面した。新聞報道では「マスクより深刻」と表現されるほどの逼迫ぶりで、価格は数倍に跳ね上がり、調達できても通常品より粗い不良品しか手に入らない時期もあった。
市場調査によれば、日本の使い捨て手袋市場は2025年時点で約6億6,580万ドル規模に達し、2034年には10億ドル超に拡大すると見込まれる。需要拡大は続く一方、供給網は中国依存のままで、地政学リスクの影響を受けやすい構造に変化はない。
ポリ袋・おむつ:原料は石油由来、ナフサ高騰が間接波及
ポリ袋(ポリエチレン製ごみ袋・汚物袋)と紙おむつも、中東情勢の影響を間接的に受ける可能性がある品目だ。
紙おむつの本体素材は国内回収古紙やパルプが中心であり、経済産業省は2026年3月の通知でも「中東依存の原料はほぼない」と説明している。ただし、紙おむつの吸水性を担うSAP(高吸水性ポリマー)は、ナフサ→アクリル酸→SAPというバリューチェーンで石油化学に依存する。ナフサ価格は2026年に入って急騰しており、原料コストの上昇が紙おむつ製造に間接波及している状況だ。
ポリエチレン製のポリ袋も同様にナフサ系誘導品で、原油価格が高止まりすれば製造コストが押し上げられる。介護現場では汚物処理や使用済みおむつの一次保管にポリ袋を大量に使うため、価格上昇は経営を直接圧迫する。
「実需より心理的な品薄」のリスクも
もう一つ警戒すべきなのが、SNSや口コミによる買い占め行動だ。経済産業省は2026年3月、イラン情勢を受けてトイレットペーパー品薄の噂が拡散した際、「製品の原料は国内回収古紙やパルプであり、中東依存のものはほぼない」とわざわざ通知を出して冷静な対応を呼びかけた。
実需要としては国内供給で十分対応可能でも、消費者や事業者の不安心理が需要を一時的に急膨張させると、流通在庫が薄くなり実際の品薄が発生する。介護用品でも、施設による「念のため大量発注」が連鎖すれば、同じ現象が起こりかねない。
現場への影響:感染対策と排泄ケアに直撃する物資
手袋不足は感染対策の最前線を脅かす
使い捨て手袋は、介護現場では入浴介助・排泄介助・口腔ケア・医療的ケアなど、利用者と直接接触するあらゆる場面で不可欠な防護具だ。ノロウイルスやインフルエンザなど感染症が施設内でひとたび発生すれば、職員から利用者への伝播を防ぐ最後の砦となる。
仮に手袋の供給が滞れば、現場では「使い回し」や「素手対応」への逆戻りが避けられない。これは職員自身が感染症を持ち帰るリスクを高めるだけでなく、施設内クラスターを誘発し、利用者の命に直結する事態となる。コロナ禍では一部の事業所で手袋の再利用や代替素材(薄手ナイロン手袋)への切り替えが起きたが、いずれも本来の感染防御性能を満たさない応急策にすぎなかった。
介護職にとって手袋の安定供給は、自分自身の健康と利用者の安全をつなぐ生命線である。物資の話を「経営の問題」と切り離して考えるのではなく、ケアの質と職員の労働安全衛生に直結する課題として捉える必要がある。
おむつ・ポリ袋の不足は排泄ケアの尊厳を損なう
排泄ケアに使う紙おむつ・パッド類の供給が細れば、利用者の交換頻度を抑える運用に追い込まれる可能性がある。長時間同じおむつのままでは、皮膚トラブル(おむつ皮膚炎・褥瘡)が増えるだけでなく、利用者の尊厳とQOLが大きく損なわれる。
ポリ袋も、汚物処理や使用済みおむつの密閉に欠かせない。代替品として「報知袋」「中身が見えるごみ袋」を使う方法もあるが、密閉性や臭気遮断性能では専用品に劣る。施設内での臭気管理は職員のメンタル面にも影響するため、軽視できない。
代替品調達への切り替えは「すぐにはできない」
「いざとなれば別ブランドに切り替えればいい」という発想は、介護現場では通用しにくい。施設で使う手袋は職員のフィット感、薬剤への耐性、価格と発注ロットなど複数の条件で選定されており、急な変更は現場の混乱を招く。おむつ類はさらに切り替えコストが高く、利用者ごとに体型・尿量・皮膚状態に合わせて個別最適化されているため、別商品への変更は試用期間と評価プロセスが必要になる。
つまり、物資供給リスクへの備えは「在庫量を増やす」だけでなく、「複数の代替品で動作確認しておく」「現場職員と発注担当が一緒に切り替え判断ルールを決めておく」といった事前準備が決定的に重要なのである。
事業所が今から取れる対策:BCP連動の在庫管理と代替品調達
厚労省ガイドラインは「1週間分」の備蓄を推奨
介護施設・事業所のBCP(業務継続計画)策定は、2024年4月から完全義務化されている。厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」では、衛生用品・消耗品について最低3日分、可能であれば1週間分の備蓄が推奨されている。今回のような中東情勢起因の供給リスクは「自然災害」ではないが、BCPの考え方そのものは同じ枠組みで応用できる。
業界実務では、手袋・マスク・消毒液・紙おむつなど主要な衛生用品は、通常使用量の1.5〜2倍を常時在庫として確保しておくのが一つの目安とされる。日々の使用量を起点に、月間消費量と発注リードタイムから逆算して、自施設の適正在庫を再計算しておきたい。
「ローリングストック」で在庫を陳腐化させない
備蓄を積み増す際に陥りやすいのが、奥に積まれた在庫が古くなって使えなくなる「死蔵」問題だ。これを防ぐのがローリングストックの考え方である。日常的に使う消耗品を少し多めに発注し、古いものから順に使いながら、使った分だけ補充していく。常に新しい在庫が手前に並び、有事の際にも品質劣化なく使える状態を維持できる。
介護現場では、ユニットごと・フロアごとに使用量が違うため、まず「どの部署でどれだけ使うか」を1〜2週間記録するところから始めるとよい。記録に基づいて適正発注量を再設計すれば、過剰在庫も品薄リスクも同時に減らせる。
代替品の事前テストと、複数仕入れ先の確保
もう一つ重要なのが、主力商品が調達困難になった時に切り替えられる代替品の事前テストだ。手袋なら異なるメーカー・素材(PVC/ニトリル/ポリエチレン)の試供品を取り寄せ、職員が実際に使ってフィット感と耐久性を評価しておく。おむつなら、利用者ごとに「メイン銘柄」と「予備銘柄」を決めておき、皮膚への影響を含めて事前検証する。
仕入れ先も、一社集中ではなく複数ルートを確保しておくことが望ましい。福祉用具卸、医療材料商社、地域のドラッグストアチェーンなど、調達ルートを分散しておけば、特定ルートが滞っても他で補完できる。
BCPの「物資供給リスク編」を見直す好機
多くの事業所のBCPは、地震や水害など「自然災害編」と新型コロナを契機とした「感染症編」が中心で、原料供給途絶やサプライチェーン分断に対する備えは手薄になりがちだ。今回の中東情勢を受け、自施設のBCP文書に「物資供給リスク」のセクションがあるか確認し、なければ追記することをお勧めしたい。
追記すべき項目としては、(1)重点物資のリストと適正在庫量、(2)代替品リスト、(3)緊急発注時の優先取引先、(4)職員間の情報共有・意思決定フロー、などが挙げられる。書面に落とし込むこと自体が、現場の備えを底上げする実践的な訓練になる。
まとめ
2026年5月13日の衆議院厚労委員会で示された黒田老健局長の答弁は、「現時点で支障はないが動向を注視する」という慎重な姿勢を貫くものだった。介護現場で日常的に消費されるビニール手袋・ポリ袋・紙おむつは、いずれも海外原料や石油化学に何らかの依存関係を持ち、中東情勢の悪化が長引けば必ずどこかで影響が顕在化する。コロナ禍の手袋不足を経験した介護現場にとって、楽観視できない局面である。
一方で、政府が早期に実態把握を始め、関係団体経由で現場の声を吸い上げる体制を整えていることは前向きな材料だ。介護事業所側もこれを「自分ごと」と受け止め、BCPに物資供給リスクを組み込み、適正在庫の見直しや代替品テストを進めておけば、いざという時にケアの質を落とさず乗り切れる。物資の話は決して経営マターだけではなく、利用者の尊厳と職員の安全を守るための現場マネジメントの根幹である。
介護の仕事は、現場の判断と工夫で利用者の暮らしを支える専門職の仕事だ。物資供給という外部環境の変化に左右されにくい職場を選ぶことも、長く安定して働き続けるためには重要な視点である。自分に合った働き方や職場選びを考える際の参考にしてほしい。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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