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📑目次

  1. 01現場でよく聞く「介護する人が先に倒れる」という言葉
  2. 02通説の出どころ:1999年の研究が示した「負担感を抱えた介護者」の1.63倍
  3. 03主要な研究が示した数字を並べて見る
  4. 04この数字をどう読むか:5つの注意点
  5. 05この記事に出てきた研究用語
  6. 06介護職・ケアマネがこの知見を現場でどう使うか
  7. 07現場ですぐ使える3つの視点
  8. 08よくある質問
  9. 09参考文献・出典
  10. 10まとめ:脅かすためではなく、見つけるために使う知見
介護の働き方診断
家族の介護をすると介護者自身の健康・死亡リスクは高まるか|「介護は寿命を縮める」論の研究エビデンスを介護職目線で読み解く
介護職向け

家族の介護をすると介護者自身の健康・死亡リスクは高まるか|「介護は寿命を縮める」論の研究エビデンスを介護職目線で読み解く

「介護は寿命を縮める」と言われますが、研究のエビデンスは実は割れています。米国の古典的研究(Schulz & Beach 1999)と、その後の大規模コホートによる再検証、日本のAGES研究をたどり、リスクの的が「介護そのもの」ではなく負担感・うつ・孤立にあることを介護職目線で整理します。

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ポイント

結論:介護が寿命を縮めるとは言い切れず、危ないのは「つらさを抱えたまま孤立すること」

「家族の介護をすると介護する人が先に倒れる」「介護は寿命を縮める」。介護の現場でも、家族の口からも、よく聞く言葉です。しかし研究の世界では、この通説は決着がついていません。

きっかけになったのは1999年にアメリカで発表された有名な調査で、「つらい」と感じながら配偶者を介護している高齢者は、介護をしていない同年代より4年間で亡くなる人の割合が約1.6倍高いという結果でした。ただし同じ調査の中で、介護をしていても「つらい」と感じていない人では、その差は見られませんでした。

さらにその後、より大きな集団を追いかけた複数の調査では、介護をしている人のほうがむしろ亡くなる割合が低いという、正反対の結果が繰り返し出ています。もともと元気な人ほど介護役を引き受けやすい、という事情が混じっている可能性が指摘されています。

日本の高齢者およそ1万3千人を4年間追いかけた調査でも、同じ向きの答えが出ています。介護を始めた人のうち、気分の落ち込み(抑うつ)を抱えている人で、亡くなる・要介護になる割合がいちばん高くなっていました。

つまり、介護職として見るべきなのは「介護をしているかどうか」ではありません。その人がつらさを抱えていないか、眠れているか、相談できる相手がいるか、お金の心配がないか。そこが支援の的です。「介護は体に悪い」と家族を脅かす必要はなく、同時に「みんなやっていることだから大丈夫」と流してもいけない、というのがエビデンスの落としどころです。

📑目次▾
  1. 01現場でよく聞く「介護する人が先に倒れる」という言葉
  2. 02通説の出どころ:1999年の研究が示した「負担感を抱えた介護者」の1.63倍
  3. 03主要な研究が示した数字を並べて見る
  4. 04この数字をどう読むか:5つの注意点
  5. 05この記事に出てきた研究用語
  6. 06介護職・ケアマネがこの知見を現場でどう使うか
  7. 07現場ですぐ使える3つの視点
  8. 08よくある質問
  9. 09参考文献・出典
  10. 10まとめ:脅かすためではなく、見つけるために使う知見

現場でよく聞く「介護する人が先に倒れる」という言葉

訪問先で、あるいは施設の相談室で、こんな場面に出会ったことはないでしょうか。

夫を介護している80代の妻が「私のほうが先に倒れそう」とつぶやく。仕事を辞めて母親を看ている50代の息子が「このままだと自分の寿命が縮む」と笑ってみせる。そして私たち介護職も、どこかで「介護は介護する人の心と体を蝕むものだ」と思っています。

この感覚には根拠があります。実際に、日本の在宅介護は担い手が高齢化しています。2022年の国民生活基礎調査では、在宅で介護を受けている人の主な介護者が同居の家族である割合は45.9%。そして介護を受ける人と同居の主な介護者がともに65歳以上である組み合わせは63.5%、ともに75歳以上でも35.7%にのぼります。要介護5の人を介護している家族の63.1%が「ほとんど終日」介護に時間を使っています。高齢の人が高齢の人を、しかも一日中支えている。心配になって当然の構造です。

ではその心配は、研究のうえではどこまで裏づけられているのでしょうか。「介護をすると本当に早く亡くなるのか」という問いに、世界の研究者は30年近く挑んできました。そして出てきた答えは、多くの人が思っているよりずっと入り組んでいます。

この記事では、通説の出どころになった1999年の研究から、それをひっくり返した後年の大規模研究、そして日本のデータまでをたどります。結論を先取りすると、エビデンスは「介護は危険だ」でも「介護は安全だ」でもありません。誰が危ないのかを見分ける話になります。そしてそれは、介護職やケアマネジャーが日々の関わりの中で拾える情報とぴったり重なります。

通説の出どころ:1999年の研究が示した「負担感を抱えた介護者」の1.63倍

「介護は寿命を縮める」という言い方の出どころは、はっきりしています。1999年に米国医師会雑誌(JAMA)に載った、Schulz(シュルツ)とBeach(ビーチ)による論文です。研究の名前は「Caregiver Health Effects Study(介護者健康影響研究)」といいます。

どんな研究だったか

米国の4つの地域で、配偶者と同居している66歳から96歳の高齢者819人(介護者392人、介護していない人427人)を、1993年から1998年まで平均4.5年間追いかけた調査です。大勢を何年も追いかけて、その後どうなったかを見る方法(コホート研究)にあたります。

この研究の優れていた点は、参加者を「介護しているか、していないか」の2つに分けなかったことです。次の4つのグループに分けました。

  • 配偶者に障害がない(=介護の必要がない)人
  • 配偶者に障害があるが、介護はしていない人
  • 配偶者に障害があり介護もしているが、つらさ(負担感)は感じていない人
  • 配偶者に障害があり介護もしていて、精神的・情緒的なつらさを感じている人

結果:つらさを感じている群だけが目立った

4年後、参加者819人のうち103人(12.6%)が亡くなっていました。年齢や収入などの背景、すでに持っている病気、まだ症状の出ていない心臓や血管の異常を計算上そろえたうえで比べると、結果はこうでした。

介護をしていて、かつつらさを感じている人は、介護をしていない人にくらべて4年間で亡くなる割合が63%高い(相対リスク1.63)。これが、いまも引用され続けている「63%」という数字の正体です。

ただし、同じ研究の中で、介護をしていてもつらさを感じていない人(1.08倍)も、配偶者が要介護だが介護はしていない人(1.37倍)も、はっきりした差は見られませんでした。研究者自身の結論も「介護をしていること」ではなく、「精神的・情緒的なつらさを感じている介護者であること」が独立したリスク要因だという書き方になっています。

つまり出発点の研究からして、「介護そのものが命を削る」とは言っていなかったのです。にもかかわらず、その後の30年で「63%」の数字だけが独り歩きしました。

主要な研究が示した数字を並べて見る

1999年の研究のあと、より大きな集団を対象にした調査が次々に行われました。そこで出てきた答えは、多くの人の予想を裏切るものでした。主な研究を並べます。

研究対象・デザイン介護者の死亡(等)リスク日常語にすると
Schulz & Beach 1999
(JAMA・米国)
66〜96歳の配偶者介護者392人+非介護者427人/平均4.5年追跡 負担感あり:RR 1.63(95%信頼区間 1.00〜2.65)
負担感なし:RR 1.08(0.61〜1.90)
つらさを抱えた介護者だけ約1.6倍。ただし幅の下限がちょうど1.00で、「差なし」と紙一重の結果
Roth ら 2013
(Am J Epidemiol・米国 REGARDS研究)
介護者3,503人を、背景15項目をそろえた非介護者と1対1で対応づけて比較 HR 0.823 介護者のほうが亡くなる割合が約18%低い
Roth ら 2018
(Psychol Aging・米国 REGARDS研究)
介護者3,580人と対応づけた非介護者3,580人/7年追跡 HR 0.835(95%信頼区間 0.719〜0.970)
死亡:介護者8.9% / 非介護者10.5%
介護者のほうが約1〜2割低い。100人あたりで見ると7年間で約1.6人の差
Roth・Fredman・Haley 2015
(Gerontologist・総説)
集団を対象にした研究のまとめ直し 5件の研究で介護者の死亡率が低い(16〜26%低い範囲) 「介護者は早く死ぬ」を支持しない結果が積み上がっている
平松・近藤 2018
(中部社会福祉学研究・日本 AGESコホート)
自立して生活する65歳以上12,991人/4年追跡。死亡または要介護認定を指標に 介護あり・うつなし:1.40倍
介護なし・うつあり:1.58倍
介護あり・うつあり:1.82倍(いずれも介護なし・うつなしを基準)
介護と気分の落ち込みが重なったときがいちばん高い

この表の読みどころ

まず、1999年の「1.63倍」の幅(信頼区間)が1.00〜2.65であることに注目してください。信頼区間とは「本当の値はこのあたりに収まるだろう」という幅のことです。この幅の下限がちょうど1.00、つまり「差がまったくない」という値に接しています。強い証拠というより、ぎりぎり差があると言えた結果でした。

次に、2013年と2018年の研究では、比の数字が1より小さい(0.823、0.835)ことに注目してください。1より小さいということは、介護者のほうがリスクが低かったという意味です。向きが逆なのです。

そして日本のAGES研究では、「介護あり・うつなし」で1.40倍という値が出ている一方、「介護なし・うつあり」でも1.58倍と、介護をしていなくても気分が落ち込んでいれば同じくらい高いことが示されています。いちばん高いのは、その両方が重なった1.82倍でした。なお、この報道発表では幅(信頼区間)が示されていないため、それぞれの値がどのくらい確かなのかまでは、この資料だけでは判断できません。

この数字をどう読むか:5つの注意点

1. 「介護者は早く死ぬ」を支持する集団研究は、むしろ少数派になった

2015年に発表された総説(研究をまとめ直した論文)は、この状況を厳しく指摘しています。5件の集団を対象にした研究で介護者の死亡率がむしろ低かったにもかかわらず、報道や団体の資料では1999年の「63%」だけが引用され続けている、と。その結果、実際よりも暗い絵が広まってしまったという批判です。

2. ただし「介護は健康にいい」と読み替えてはいけない

ここが最大の落とし穴です。介護者の死亡率が低く出る理由として有力なのが、「健康な人ほど介護役を引き受け、続けられる」という選択のかたより(healthy caregiver effect=健康な介護者効果)です。もともと体が弱い人は介護役を引き受けないし、引き受けても続けられずに役から降ります。だから「介護を続けている人たち」を集めると、健康な人ばかりが残る。介護が体にいいのではなく、体にいい人が介護をしている可能性があるわけです。

これらの研究は、大勢を追いかけて関連を見る観察研究です。人をくじ引きで「介護する人」「しない人」に分けることはできませんから、因果関係(介護をしたから、こうなった)まではわかりません。あくまで「関連」の話です。

3. 1999年の結果と、その後の結果は、実は矛盾していないかもしれない

1999年が見ていたのは「つらさを抱えた高齢の配偶者介護者」という、かなり絞り込まれた集団でした。2013年以降が見ていたのは「介護者全体」です。介護者全体では平均すると死亡率が低くても、その中に強い負担感を抱えた少数のハイリスク層が埋もれている、という読み方は十分成り立ちます。平均が良好であることは、個々人が安全であることを意味しません。

4. 「相対的にどれだけ」と「実際に何人」は違う

「1.63倍」「18%低い」といった数字はすべて相対的な比較です。2018年の研究を実際の人数で見ると、7年間で亡くなったのは介護者8.9%、介護していない人10.5%。100人あたり約1.6人の差です。「2割近く低い」と聞いたときの印象より、ずっと小さく感じられるはずです。数字の向きも大きさも、生活実感に置き換えて受け止める必要があります。

5. 米国の研究をそのまま日本に当てはめられない

米国の研究の多くは、地域で暮らす人を対象にしています。日本の在宅介護は、同居率、老老介護の比率、介護保険という公的な仕組みの有無、家族に期待される役割の重さなど、前提が違います。日本のAGES研究が「介護あり・うつあり」で最も高い値を示したことは、方向としては米国の1999年の知見と重なりますが、それでも数字をそのまま輸入することはできません。

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介護職・ケアマネがこの知見を現場でどう使うか

エビデンスが割れている、と聞くと「じゃあ何もわからないのか」と感じるかもしれません。しかし実務にとっては、むしろ話がはっきりします。見るべき的が「介護役割」から「負担感・抑うつ・孤立・睡眠・お金」に移るからです。これらはいずれも、私たちが訪問や送迎、面談の場面で拾える情報です。

1. 「介護しているかどうか」ではなく「どう感じているか」を聞く

1999年の研究も日本のAGES研究も、リスクの高さと結びついていたのは主観的なつらさでした。介護時間の長さや要介護度だけでは、危ない人は見つかりません。「毎日大変ですね」で終わらせず、「最近、眠れていますか」「気持ちが晴れない日が続いていませんか」と、一歩踏み込んだ問いを持つことが実質的なスクリーニングになります。

2. サインは要介護度が上がったときだけに出るとは限らない

AGES研究で「介護なし・うつあり」でも高い値が出ていたことは、示唆に富みます。気分の落ち込みは、介護が始まる前から、あるいは介護とは別の理由ですでにそこにあることがある。介護開始時のアセスメントで家族の心身の状態を確認することは、「介護が始まったから調べる」のではなく「もともとの状態を知っておく」意味を持ちます。

3. 拾ったサインは、必ず次の手につなぐ

気づくだけでは支援になりません。負担感やうつのサインを拾ったら、ケアマネジャーへの共有、レスパイト(短期入所・通所)の提案、地域包括支援センターや家族の会などの相談先へのつなぎ、必要なら受診のすすめ、という具体的な行動まで持っていきます。介護職が単独で抱え込むのではなく、多職種で共有することがそのまま家族の安全網になります。

4. 「介護は寿命を縮めますよ」と脅かさない

この記事の知見の実務上いちばん大事な使い道かもしれません。研究の状況を踏まえれば、家族に向かって「介護を続けると早死にする」と言うのは正確ではないうえ、有害でもあります。追い詰められている家族をさらに追い詰め、罪悪感を上乗せするだけです。伝えるべきは「介護そのものが体を壊すわけではありません。でも、つらさを一人で抱え込んだままにするのは危ないことが研究でも示されています。だから、つらさは相談してほしいのです」という筋道です。

5. 科学的介護(LIFE)の考え方を家族にも向ける

科学的介護は、利用者本人のデータをそろえてケアの質を高める仕組みです。しかし在宅を支えるうえでは、本人の状態と同じくらい、支える家族の状態が結果を左右します。家族の睡眠・気分・就労状況・経済状況を「本人の予後に関わる情報」として扱う視点を持つと、アセスメントの解像度が変わります。介護離職は日本で年間10万6千人(2022年就業構造基本調査)にのぼり、経済的な困窮は負担感を押し上げる方向に働きます。これは福祉的な配慮ではなく、在宅生活が続くかどうかを決める要因です。

6. 介護職自身のキャリアにとっての意味

「介護は寿命を縮める」という通説を、根拠つきでほぐして説明できること。これは家族対応の力そのものです。世の中に広く流れている数字が実は割れていると知っていれば、不安に飲まれた家族の話を、否定せずに、しかし正確に受け止められます。エビデンスを知っていることは、冷たくなることではなく、正しく寄り添えるようになることです。

現場ですぐ使える3つの視点

  • 「元気そうな家族」ほど注意して見る:健康な人ほど介護役を引き受けやすいという指摘は、裏を返せば「しっかりしているように見える家族」が最初から無理をしている可能性を示します。てきぱき対応してくれる家族は、支援の対象から外れがちです。
  • 負担感は量では測れない:介護時間が短くても、認知症の対応や夜間の見守りのように、気の抜けない介護は負担感を強く押し上げます。「週に何時間か」ではなく「気が休まる時間があるか」を聞くほうが、危ない人に届きます。
  • 数字を伝えるときは幅も一緒に:家族から「介護すると1.6倍死にやすいって本当ですか」と聞かれたら、「その研究は、つらさを抱えていた人に限った話で、しかもぎりぎり差があると言える程度の結果でした。その後の研究では逆の結果も出ています」と答えられます。これは慰めではなく、事実です。

よくある質問

結局、家族の介護は健康に悪いのですか、良いのですか

どちらとも言い切れない、というのが2026年時点の正直な答えです。介護者全体を見ると死亡率がむしろ低いという結果が複数ありますが、それは健康な人ほど介護役を引き受けるという事情が混じっている可能性があります。一方で、強いつらさを抱えた介護者では健康を損ないやすいという結果が、米国でも日本でも示されています。介護をしているかどうかより、どんな状態で介護しているかのほうが重要だと考えるのが、現時点で最も妥当な受け止め方です。

「介護者は63%死亡リスクが高い」という数字を資料で見かけますが、使ってよいですか

使うのであれば、必ず条件をつけてください。この数字は1999年の研究の、精神的・情緒的なつらさを感じている高齢の配偶者介護者に限った結果です。同じ研究の中で、つらさを感じていない介護者では差が見られていません。また、その幅(信頼区間)は1.00〜2.65で、「差なし」と紙一重でした。条件を落として「介護者は63%死にやすい」とだけ書くのは、研究の中身から離れた使い方になります。

日本の家族介護者にも当てはまる話ですか

日本のAGESコホート研究(65歳以上12,991人、4年追跡)では、介護なし・うつなしの人を基準として、介護あり・うつありの人が死亡または要介護になる割合が1.82倍でした。方向としては「つらさが重なったときが危ない」という米国の知見と一致します。ただし日本は老老介護の比率が高く、介護保険という公的な支えもあるため、数字そのものを米国と直接比べることはできません。

介護を代わってあげれば、家族の健康は守れますか

そう言い切れるだけの証拠はありません。ここで紹介した研究はいずれも、介護と健康の「関連」を見た観察研究であり、「介護を減らしたら健康になった」ことを確かめた試験ではありません。ただし、つらさや気分の落ち込みがリスクと結びついているという一貫した所見は、負担感を軽くする方向の支援に取り組む理由にはなります。効果が確かめられていないことと、やる意味がないことは違います。

家族が「私は大丈夫」と言うときは、そのままにしてよいですか

「大丈夫」は状態の報告ではなく、しばしば役割の表明です。1999年の研究が測ったのは主観的なつらさですが、その主観は、聞き方によって出てきたり隠れたりします。眠れているか、食べられているか、自分の受診に行けているか、といった具体的な事実を聞くほうが、実態に近づけます。

参考文献・出典

  • [1]
    Schulz R, Beach SR. Caregiving as a risk factor for mortality: the Caregiver Health Effects Study. JAMA. 1999;282(23):2215-2219.
  • [2]
    Roth DL, Haley WE, Hovater M, et al. Family caregiving and all-cause mortality: findings from a population-based propensity-matched analysis. Am J Epidemiol. 2013;178(10):1571-1578.
  • [3]
    Roth DL, Brown SL, Rhodes JD, Haley WE. Reduced mortality rates among caregivers: Does family caregiving provide a stress-buffering effect? Psychol Aging. 2018.
  • [4]
    Roth DL, Fredman L, Haley WE. Informal caregiving and its impact on health: a reappraisal from population-based studies. Gerontologist. 2015;55(2):309-319.
  • [5]
    平松誠, 近藤克則. 家族介護者の抑うつと4年間の死亡・要介護状態発生との関連(AGESコホート研究). 中部社会福祉学研究. 2018;9:37-43.(日本老年学的評価研究 報道発表 No.150-18-13)
  • [6]
    厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」IV 介護の状況(主な介護者の状況・老老介護の年齢組合せ・介護時間)
  • [7]
    総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」(介護をしている者の就業状態・介護離職者数)

まとめ:脅かすためではなく、見つけるために使う知見

「介護は寿命を縮める」という言葉は、30年近く前の一つの研究から生まれ、条件を落としたまま広まりました。実際にその研究が言っていたのは、「つらさを抱えている介護者は危ない」ということであり、しかもその結果は「差なし」と紙一重の、ぎりぎりの数字でした。その後の大規模な研究では、介護者のほうがむしろ亡くなる割合が低いという逆の結果が繰り返し出ています。ただしこれも「介護は健康にいい」という意味ではなく、健康な人ほど介護役を担いやすいという事情が混じっている可能性があります。

日本のデータもまた、同じ方向を指しています。介護と気分の落ち込みが重なった人で、死亡または要介護になる割合が最も高くなっていました。

ここから介護職が受け取るべきものは、はっきりしています。介護という役割そのものを危険視するのではなく、その人が抱えているつらさ、眠れなさ、孤立、お金の心配を見つけて、支援につなぐこと。エビデンスが指し示す的は、私たちが日々の関わりの中でいちばん触れやすい場所にあります。

在宅介護の担い手は高齢化し、65歳以上どうしの組み合わせは6割を超えました。その一人ひとりに「あなたは危険です」と告げる必要はありません。必要なのは、「つらいときに、つらいと言える相手がいる」状態を作ることです。研究が30年かけてたどり着いた答えは、案外そういう、現場的なものでした。

医療・健康情報に関する免責事項

本記事は、介護現場で働く方および介護職への転職を検討される方に向けた一般的な情報提供を目的としており、 個別の症状に対する医学的な診断・治療を行うものではありません。

ご本人・ご家族の症状やケア方法について判断が必要な場合は、必ず医師・看護師・薬剤師・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士等の有資格者にご相談ください。 介護保険サービスの利用判断についてはケアマネジャー、行政手続きについては各市区町村の窓口にお問い合わせください。

掲載情報は公開時点の各種公的資料・業界資料に基づき作成していますが、最新の制度・診療ガイドライン等と異なる場合があります。

公開日: 2026年7月17日最終更新: 2026年7月17日

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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