
介護負担感とは
介護負担感は、家族介護者が情緒的・身体的・社会的・経済的に受ける負担の主観的程度。Zarit介護負担尺度(J-ZBI_8)の8項目とカットオフ、レスパイトケアや負担軽減サービスを解説。
この記事のポイント
介護負担感とは、要介護者を介護することにより家族介護者が感じる、情緒的・身体的・社会生活的・経済的な負担の主観的な程度のことです。客観的な介護量だけでなく、介護者がそれをどのように受け止めているかという主観的評価を含む概念で、米国の心理学者Zaritらが提唱しました。日本ではZarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)22項目と、その短縮版であるJ-ZBI_8(8項目)が代表的な評価尺度として広く使われており、地域包括支援センターやケアマネジャーが家族介護者の支援ニーズを把握する標準ツールになっています。
目次
介護負担感の定義と研究の経緯
介護負担感(caregiver burden)は、Zarit, Reever, Bach-Petersonらが1980年に発表した論文で「親族の介護を担うことにより、情緒的・身体的健康、社会生活、経済状態に被害を被った程度」と定義されました。それまで漠然と語られていた「介護の大変さ」を測定可能な指標に置き換えた点で画期的とされ、現在では世界各国で家族介護研究の中心的な概念となっています。
負担感には大きく2つの側面があります。1つは身体的疲労・睡眠不足・経済的困窮など、観察・記録可能な客観的負担。もう1つは「自分の人生がなくなった」「いつまで続くのか不安」といった主観的負担です。Zarit尺度はこの両方を合わせて測定する点に特徴があります。
厚生労働省「国民生活基礎調査」では、要介護者と同居する主介護者の約7割が女性で、配偶者・子・子の配偶者の順に多いと報告されています。同調査の介護時間別データでは「ほとんど終日」介護している介護者は要介護3以上で30〜50%に達し、こうした重介護世帯ほど負担感が高まる傾向があります。介護者の負担感は、要介護者の認知症の有無・行動心理症状(BPSD)の重症度・介護期間・主介護者の健康状態と強く関連することが各種研究で確認されています。
負担感が高い状態が長期化すると、介護うつ・介護離職・高齢者虐待・介護心中など重大な事態に発展するリスクが高まるため、地域包括支援センターやケアマネジャーが早期に介入することが重要視されています。
Zarit介護負担尺度(J-ZBI_8)の8項目
J-ZBIは22項目版が原典ですが、回答負担を考慮した短縮版J-ZBI_8(荒井ら, 2003)が現場で広く使われています。8項目を「全くない=0、たまにある=1、時々ある=2、よくある=3、いつも感じる=4」の5件法で回答し、合計0〜32点で評価します。
J-ZBI_8 の8項目(要旨)
- 介護のために自分の時間がなくなったと感じる
- 介護のために家族や友人とつきあいにくくなったと感じる
- 介護を誰かに任せてしまいたいと思う
- 介護をしていて疲れ切ってしまうと感じる
- 介護のために自分の健康がそこなわれたと思う
- 介護のために以前のように生活ができないと感じる
- 介護を続けていく自信がない
- 全体として介護することは負担だと思う
因子構造はPersonal strain(個人的負担)とRole strain(役割負担)の2因子で、Cronbachのα係数は全体で0.89と良好な内的整合性が報告されています。一般に合計点が高いほど負担感が大きく、研究によっては10点以上を「介入が必要なレベル」と位置づけることがありますが、公式なカットオフ値は確立されていないため、点数は時系列での変化を見ることが重視されます。
負担感を高める要因と関連概念
家族介護者の負担感は単一の要因ではなく、複数のリスク要因が重なって増大します。
| 要因カテゴリ | 具体例 | 関連用語 |
|---|---|---|
| 要介護者側の要因 | 認知症・BPSD(暴言・徘徊)・夜間頻尿・経管栄養 | BPSD、認知症 |
| 介護者側の要因 | 主介護者が高齢・健康状態が悪い・うつ傾向 | 老老介護、認認介護、介護うつ |
| 世帯構造 | 独居・主介護者一人で支える・遠距離介護 | 主介護者、ヤングケアラー |
| 仕事との両立 | 仕事中の電話対応・有給休暇消化・離職検討 | ビジネスケアラー、介護離職 |
| 多重介護 | 育児と介護の同時進行・複数高齢者の介護 | ダブルケア、認認介護 |
| 経済的要因 | 介護費用の自己負担・収入減少 | 介護休業給付金 |
類似概念に「介護肯定感」(介護を通じて得られた人生の意味・成長感)があり、日本では西田らが「介護肯定感尺度」を開発しています。負担感が高くても肯定感が高ければ介護継続性が保たれることが多く、両者をあわせて評価することが推奨されます。
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家族介護者の負担を軽減する公的支援
介護負担感が高い段階で利用できる主な公的支援には次のものがあります。
- レスパイトケア(一時休息支援):短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護、認知症対応型通所介護(認知症デイ)など。介護者の休養・冠婚葬祭・自身の体調不良時に活用できます。
- 通所サービスの増加:通所介護(デイサービス)の利用回数を週3〜5日に増やすだけで日中介護時間が大幅に減ります。要介護度の区分支給限度額の範囲内で調整します。
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護:要介護3以上の在宅介護で、夜間・早朝の見守り不安を軽減できます。
- 家族介護教室・介護者の集い:地域包括支援センターが主催。介護技術の習得と仲間との交流による精神的サポートが得られます。
- 認知症カフェ:認知症の本人と家族が気軽に立ち寄れる場で、専門職への相談もできます。
- 介護休業・介護休暇:労働者は要介護家族1人につき通算93日まで介護休業を取得でき、介護休業給付金(賃金の67%)を受けられます。
- 市町村独自の家族介護慰労金・紙おむつ給付:自治体ごとに介護用品支給制度があります。
ケアマネジャーは要介護者だけでなく主介護者の状態もアセスメントすべきとされており、Zarit尺度を活用して定期的に負担感の変化を追うことが推奨されています。
よくある質問
Q1. J-ZBI_8は誰が実施するものですか?
ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員、訪問看護師、保健師などが家族介護者本人に回答してもらう形で実施します。介護者本人が記入する自記式が原則ですが、聴取式でも実施可能です。研究目的で利用する場合は千葉テストセンターから尺度を入手します。
Q2. 何点以上が「危険レベル」ですか?
J-ZBI_8には公式なカットオフ値はありません。研究では合計10点以上を「中等度以上の負担」とする例がありますが、絶対的な閾値ではないため、初回スコアを基準として時系列で変化を追うことが重要です。急激なスコア上昇は介入のサインと考えます。
Q3. 主介護者だけでなく副介護者も対象になりますか?
主介護者の評価が原則ですが、副介護者の負担感も無視できません。多くの実践では「主に介護を担っている方」が回答対象で、副介護者には別途短縮版を実施することもあります。
Q4. 認知症介護では負担感が特に高くなりますか?
はい、BPSDの重症度と介護負担感は強い正の相関を示すことが多くの研究で報告されています。徘徊・暴言・夜間不穏などが頻発するケースでは早期に専門医療機関や地域包括支援センターへ相談することが推奨されます。
Q5. 介護負担感が高い家族介護者にはまず何を勧めるべきですか?
まずレスパイトケア(ショートステイ・通所増回)の利用と、家族介護者教室・認知症カフェなど「同じ立場の人と話せる場」の紹介が有効です。介護うつが疑われる場合は医療機関への受診勧奨を行います。
参考資料
- Zarit SH, Reever KE, Bach-Peterson J. "Relatives of the impaired elderly: correlates of feelings of burden." Gerontologist 1980;20(6):649-655.
- 荒井由美子ほか「Zarit介護負担尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8)の作成」日本老年医学会雑誌 40(5), 2003
- 国立長寿医療研究センター「Zarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)による研究」
- 厚生労働省「国民生活基礎調査」(介護の状況)
- 千葉テストセンター「J-ZBI/J-ZBI_8 Zarit介護負担尺度日本語版/短縮版」
- e-Gov 法令検索「介護保険法」
関連する詳しい解説
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まとめ
介護負担感は、家族介護者が情緒的・身体的・社会的・経済的に被る負担の主観的程度で、Zaritらの研究を起点に世界中で測定研究が進められてきました。日本ではJ-ZBI_8(8項目短縮版)が地域包括支援センターやケアマネジメントの現場で広く活用されています。負担感が高い家族介護者は、介護うつ・介護離職・虐待などのリスクを抱えており、レスパイトケア・通所増回・介護休業など公的支援への早期接続が不可欠です。介護負担感の評価は要介護者本人だけでなく、家族介護者を含めた「世帯全体」を支援対象として捉えるための重要なツールです。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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