ビジネスケアラーとは

ビジネスケアラーとは

ビジネスケアラーは仕事と介護を両立する就労者。2030年に約318万人・経済損失9兆円と推計。経産省ガイドライン・育児介護休業法・両立支援制度を解説します。

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この記事のポイント

ビジネスケアラーとは、仕事を続けながら家族の介護を担う就労者を指す言葉で、経済産業省が2023年の検討会から公式用語として使い始めました。経産省の試算では2030年時点で約318万人に達し、介護に起因する労働生産性の低下や離職による経済損失額は約9兆円と見込まれています。2024年5月の育児・介護休業法改正、2024年3月公表の経産省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を背景に、企業の両立支援が急速に整備されつつあります。

目次

ビジネスケアラーの定義と政策的位置づけ

ビジネスケアラー(business carer)は、英語圏で用いられる「working carer」「working-age carer」に近い概念で、日本では経済産業省が2023年11月の「企業経営と介護両立支援に関する検討会」から正式に使い始めました。「働きながら家族・親族の介護に従事している就労者」を意味し、特定の制度名ではなく 政策的・経営的に注目すべき層 を指す呼称として広がっています。

背景にあるのは2025年問題と2040年問題です。団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年以降、要介護者数が急増し、その家族介護を担う中核世代(40〜60代)が同時に企業の働き手の中核でもあります。国立社会保障・人口問題研究所と総務省「就業構造基本調査」をもとにした経産省試算では、2030年に介護をしながら働く人は約318万人、介護離職者は年間10万人超、介護に起因する企業の経済損失は約9兆円に達すると見込まれています。

政府は2024年5月に育児・介護休業法を改正し、2025年4月から「介護に直面した労働者への個別周知・意向確認の義務化」「40歳到達時の介護両立支援制度の情報提供義務化」「介護休業・介護休暇・所定外労働の制限・テレワーク等の措置の周知」などを企業に求めるようになりました。経産省の経営者向けガイドラインと併せて、企業はビジネスケアラー支援を 人材戦略・健康経営・サステナビリティ の文脈で取り組むよう促されています。

ビジネスケアラーの規模と経済損失(経産省・日本総研)

経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月)の試算をベースに、現状と将来推計を整理します。

指標2020年2030年(推計)
働きながら介護をする人(ビジネスケアラー)約262万人約318万人
うち就業者全体に占める比率約4%約5%
介護離職者(年間)約10.6万人10万人前後で高止まり
介護に起因する経済損失額(労働生産性低下+離職)約7.9兆円約9.1兆円
40〜50代就業者の介護経験率約12%(女性)/約7%(男性)上昇傾向

日本総研の関連レポート(2024年)は、ビジネスケアラー1人あたりの労働生産性低下を年間約120万円と推計しており、企業規模が大きいほど影響額も大きくなることを示しています。総務省「就業構造基本調査(2022年)」では、介護をしながら働く人のうち 約7割が40〜60代の管理職層 という結果も出ており、人材リスクとしての重要度がきわめて高い領域です。

厚生労働省「雇用動向調査」では介護・看護を理由とする離職者数が年間10万人前後で推移しており、これが事実上の上限になっています。離職を避けるためには 離職前の早期相談・制度利用・働き方調整 が決定的に重要だと整理されています。

ビジネスケアラーが直面する5つの課題

  1. 突然の介護開始と情報不足:親の入院・骨折・認知症診断などをきっかけに突然始まることが多く、介護保険や勤務先制度の情報を持たないままケアが始まる人が多数派です。
  2. 仕事との両立による生産性低下:日中の通院付き添い・ケアマネとの面談・夜間呼び出しなどで集中力が下がり、結果として残業・休日出勤・配置転換要望につながります。
  3. キャリア機会の喪失:両立支援制度を使うことで管理職昇進や異動から外されるケース、いわゆる「ケアラーキャリアのガラスの天井」が課題化しています。
  4. 心身の健康悪化と介護うつ:仕事と介護のダブルストレスで睡眠不足・抑うつ・腰痛などが多発。労災・健康経営の観点からも企業のリスク要因です。
  5. 最終的な介護離職:年間10万人超が離職を選択。離職後の生活困窮・社会的孤立・再就職困難(特に女性中高年)など、社会保障コストの増大要因にもなっています。

これらの課題は単体ではなく連鎖して悪化するため、初期段階での「会社にカミングアウトできる風土」と「ケアマネジャー等への早期相談」が予防の鍵になります。

ビジネスケアラー・ヤングケアラー・ダブルケアの違い

「ケアラー(介護者)」という言葉は対象や状況に応じて呼び分けられます。混同しやすい3つの概念を整理します。

呼称対象主な世代主な政策担当象徴的な課題
ビジネスケアラー働きながら介護をする就労者40〜60代経産省・厚労省介護離職・生産性低下
ヤングケアラー家族の介護や世話を担う子ども・若者18歳未満(広義は30代まで)厚労省・文科省学業・進学・就職への影響
ダブルケア育児と介護を同時に担う人30〜50代内閣府・厚労省時間・お金・心の重複負担
老老介護高齢者が高齢者を介護する65歳以上厚労省介護者の健康悪化・共倒れ
認認介護認知症の人が認知症の人を介護する65歳以上厚労省事故・虐待・孤立リスク

ビジネスケアラーは「就労」という軸で切り取った概念であり、ヤングケアラー・ダブルケア・老老介護の人々と重なる場合もあります。たとえば30代でフルタイム勤務しながら育児と親の介護をしている人は「ビジネスケアラー」かつ「ダブルケア」、20代で就労しながら兄弟の介護を担う人は「ビジネスケアラー」かつ「ヤングケアラー」となります。

ビジネスケアラーが活用すべき支援制度

  1. 介護休業(最大93日/対象家族1人につき):育児・介護休業法第11条。要介護状態の家族1人につき通算93日まで休業でき、雇用保険から介護休業給付金(休業前賃金の67%)が支給されます。3回まで分割取得可能。
  2. 介護休暇(年5〜10日):対象家族1人につき年5日(2人以上で年10日)。半日・時間単位での取得が2021年以降可能。通院付き添い・ケアマネ面談などに使えます。
  3. 所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限:介護を理由に残業・深夜勤務を断れる権利。業務調整に交渉力を持つために有効です。
  4. 選択的措置義務(4制度のうち1つ以上を企業に義務化):短時間勤務/フレックスタイム/時差出勤/介護費用助成のいずれかを最大3年間利用できる仕組み。2025年4月からは テレワーク が新たに追加されました。
  5. ケアマネジャーへの早期相談:要介護認定の申請・ケアプラン作成・サービス事業所選定をプロに任せることで、本人の時間と心理的負担が大幅に軽減されます。地域包括支援センターが入口です。
  6. 会社の人事・産業医・両立支援担当への相談:2025年4月以降は介護に直面した労働者への個別周知・意向確認が義務化されており、「言いやすくなった」状況です。離職を考える前に必ず会社に相談を。

よくある質問

Q. 「ビジネスケアラー」は法律上の用語ですか?

法律で定義された用語ではありません。経済産業省が政策上の概念として使い始めたもので、育児・介護休業法では「介護を行う労働者」という表現が用いられます。実務上は両者をほぼ同義と捉えて差し支えありません。

Q. 介護休業93日では足りないと感じます。

93日は 長期間休んで自分で介護するための日数ではなく、介護体制を構築するための日数 として制度設計されています。93日の間にケアマネジャー・施設・サービスを整え、その後は休業ではなく短時間勤務やテレワーク等で両立する流れが想定されています。

Q. 中小企業勤務でも制度を使えますか?

はい。育児・介護休業法は事業所規模を問わず適用されます。介護休業給付金(雇用保険)も同様に企業規模に関係なく支給されます。中小企業向けには厚労省「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」があり、中小企業が制度を整備した際の費用を補助しています。

Q. 介護を会社にカミングアウトすべきか迷います。

2025年4月から企業には介護に直面した労働者への個別周知・意向確認が義務化されました。早めに相談すれば「介護休暇の時間単位取得」「テレワーク」「業務分担調整」などが可能になります。離職してから後悔するケースが多いため、勤務先の人事・産業医に早期相談することが推奨されます。

Q. 介護経験は介護職への転職に活かせますか?

はい。家族介護の経験は介護初任者研修・介護福祉士等の資格取得や、介護業界への転職時に評価されることが多いです。「働きながら介護」を経験した方が「働く介護職」としてデイサービス・訪問介護・施設介護に転身する流れも珍しくありません。

参考資料

まとめ

ビジネスケアラーは、働きながら家族の介護を担う就労者を指す経済産業省発の概念で、2030年に約318万人・経済損失9兆円規模と推計される重要な政策テーマです。2024年の育児・介護休業法改正と経産省ガイドラインによって、企業の両立支援は「努力義務」から「実装フェーズ」へと移行しました。

当事者にとって最大の落とし穴は、情報不足のまま一人で抱え込み、離職を選んでしまうことです。介護休業93日は「自分が介護をする日数」ではなく「ケア体制を構築する日数」と捉え、ケアマネジャー・地域包括支援センター・会社の人事部門に早期相談することが、仕事もキャリアも家族介護も守る最大の鍵になります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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