薬の数が増えると転倒・有害事象は増えるか|ポリファーマシー研究のエビデンスを介護現場目線で読む
介護職向け

薬の数が増えると転倒・有害事象は増えるか|ポリファーマシー研究のエビデンスを介護現場目線で読む

高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)と転倒・薬物有害事象の関係を、日本老年医学会ガイドライン・厚労省指針・国内外の研究データで読み解く。何剤からリスクが上がるのか、どの薬(FRIDs)が転倒に関わるのかを、介護職が現場でどう観察に活かすかの視点で整理。

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結論から:飲んでいる薬の数が増えるほど、副作用やふらつき・転倒といった「薬による困りごと(薬物有害事象)」が起こる回数も、ほぼそれに合わせて増えていきます。日本老年医学会と厚生労働省は、入院している人では6種類以上、通院している人では5種類以上でこうした困りごとが特に増えるという国内の調査をもとに、「5〜6種類以上」を多剤併用(ポリファーマシー=たくさんの薬を同時に飲んでいる状態)の一つの目安としています。ただし大事なのは「数」だけではありません。同じ種類数でも、眠くなる睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)・抗うつ薬・抗精神病薬・血圧を下げる薬(降圧薬)といった転倒しやすくなる薬(FRIDs=転倒リスク増加薬)が含まれているかどうかで、危なさは大きく変わります。介護職にできるのは減薬の判断ではなく、「薬が増えた直後・変わった直後の、ふらつきや日中の眠気」に気づいて医師・薬剤師につなぐことです。薬の中止・減量は必ず医師・薬剤師の判断で行い、自己判断で中断しないことが大前提です。

目次

「最近この利用者さん、夕方になるとふらつくな」「薬が1つ増えてから、なんとなく日中ぼんやりしている」——介護の現場でこうした変化に気づくことは珍しくありません。その背景に、複数の薬を同時に飲んでいること(多剤併用)が隠れている場合があります。

高齢者は複数の病気を抱え、いくつもの診療科・医療機関から薬を処方されがちです。厚生労働省の統計では、75歳以上のおよそ4割が5種類以上の薬を処方されているとされます。では「薬が多い」ことは、本当に転倒や副作用を増やすのでしょうか。何種類から気をつけるべきなのか、どの薬が問題になりやすいのか——この記事では、日本老年医学会のガイドライン・厚労省の指針・国内外の研究データという一次ソースをたどり、数字の正しい読み方と、その限界を、できるだけかみくだいて整理します。そのうえで、減薬を判断する立場にない介護職が、こうした知見を日々の観察やアセスメント、多職種連携にどう活かせるかを考えます。

ポリファーマシーは「薬が多い」ことではなく「害につながる状態」

研究と指針が一貫して強調するのは、ポリファーマシーは単なる「薬剤数の多さ」ではないという点です。厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年)は、ポリファーマシーを「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」と定義しています。つまり、6種類飲んでいても適切に管理されていれば問題が小さいこともあれば、3種類でも中身次第で問題が起きることもある、ということです。

なぜ高齢者で問題が大きくなるのか

同指針と日本老年医学会のガイドラインは、高齢者で薬物有害事象が増える理由を大きく2つに整理しています。1つは薬物動態の加齢変化です。肝臓での代謝や腎臓からの排泄が落ちることで薬が体内に長くとどまり、効きすぎ・副作用が出やすくなります。もう1つが服用薬剤数の増加そのものです。薬の数が増えれば、薬物どうしの相互作用、飲み忘れ・飲み間違い、処方・調剤の誤りといった問題の起こる確率が積み上がっていきます。

「処方カスケード」という落とし穴

多剤併用が雪だるま式に増える典型例が処方カスケードです。ある薬の副作用(たとえばふらつきや食欲低下)が「新しい病気」と誤って受け取られ、それに対してさらに薬が追加される——という連鎖を指します。介護現場で「薬が増えるたびに元気がなくなっていく」ように見えるケースの一部には、この構造が潜んでいます。だからこそ、新しい症状が出たときに「薬の影響ではないか」と一度立ち止まる視点が、医療者にも介護者にも求められます。

研究データで見る「何剤から」「どの薬が」リスクか

① 何種類から?──日本の代表的データ(6種類・5種類の根拠)

「5〜6種類以上」という目安の根拠としてガイドラインに引用されているのが、小島太郎・秋下雅弘らの研究(Kojima T, Akishita M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012)です。東京大学医学部附属病院老年病科の入院患者2,412名を調べたところ、薬の数が増えるほど薬による困りごと(薬物有害事象)が起こる頻度が上がり、6種類以上でそのリスクが特に高まることがわかりました。また都内の診療所に通院する患者165名を2年間追いかけた調査では、5種類以上で転倒の起こる割合が高いことが示されています。日本老年医学会はこれらを根拠に「5〜6種類以上を多剤併用の目安と考えるのが妥当」としています。ここで押さえたいのは、困りごとは「6種類で急にスイッチが入る」のではなく、薬の数が増えるのに合わせて少しずつ増えていくという点です。6種類はあくまで「ここから特に目立ち始める」目安であって、5種類なら安全という意味ではありません。

薬剤数の指標主な所見出典
6種類以上(入院患者)薬物有害事象のリスクが特に増加Kojima 2012(東大病院 n=2,412)
5種類以上(外来患者)転倒の発生率が高いKojima 2012(都内診療所 n=165・2年追跡)
急性期入院の高齢者約6〜15%に薬物有害事象高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015

海外で大勢を何年も追いかけた調査(縦断研究)でも、同じ傾向が見られます。英国高齢化縦断研究(ELSA)で50歳以上6,220人を調べた報告(Zaninottoら)では、転倒で入院した人の割合が、薬を使っていない人で1.5%、1〜4種類で4.7%、5〜9種類で7.9%、10種類以上で14.8%と、薬の数が増えるほど階段状に上がっていました(日本転倒予防学会誌 2025年掲載の総説より)。なお、薬の数が多いのは「要介護・フレイル(心身が弱った状態)」の人で最も目立つという国内データもあり、弱っている人ほど薬が多く、薬が多いほどさらに転倒・困りごとを抱えやすい、という関係が見えてきます。

② どの薬が?──薬の種類ごとの転倒しやすさ(複数研究をまとめた解析)

「数」と並んで重要なのが「中身」です。65歳前後以上を対象に、9つの薬のグループと転倒の関係を複数の研究を統合してまとめた古典的な解析(メタアナリシス=複数の研究をまとめて分析する手法。Woolcott JC, et al. Arch Intern Med. 2009/22研究・79,081人)は、薬のグループごとに「転倒の起こりやすさが、その薬を使っていない人の何倍に見えるか」を示しました。この「何倍か」を表す数字をオッズ比(OR)と呼びます。到達・確認できた主な値は次のとおりです。

薬剤クラス転倒のオッズ比(95%信用区間)日常語での目安
抗うつ薬1.68(1.47〜1.91)およそ1.7倍
抗精神病薬(神経遮断薬)1.59(1.37〜1.83)およそ1.6倍
ベンゾジアゼピン系(眠くなる薬)1.57(1.43〜1.72)およそ1.6倍
鎮静薬・睡眠薬1.47(1.35〜1.62)およそ1.5倍
NSAIDs(消炎鎮痛薬)1.21(1.01〜1.44)およそ1.2倍
麻薬性鎮痛薬0.96(0.78〜1.18)※はっきりした差なし差があるとは言えない

かっこ内の「95%信用区間」は、本当の値がこのあたりに収まると見込まれる幅のことです。この研究の著者は「鎮静薬・睡眠薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系は高齢者の転倒とはっきり関連した」と結論づけています。一方、麻薬性鎮痛薬はこの幅が1.0をまたいでおり(つまり「増える」とも「減る」とも言い切れず)、はっきりした関連は示されませんでした。「気分や眠りに効く向精神薬系の薬は転倒と関わりやすい」という大まかな傾向は、その後のまとめ解析でも繰り返し確認されています。転倒の起こりやすさがおよそ1.5〜1.7倍というのは、決して小さくない差です。

③ 「FRIDs」という考え方と、その数

こうした転倒しやすくなる薬はFRIDs(Fall-Risk-Increasing Drugs、転倒リスク増加薬)と呼ばれます。欧州の転倒予防基準「STOPPFall」では、抗精神病薬・ベンゾジアゼピン系および似た働きの薬(Z薬)・抗うつ薬・抗てんかん薬・オピオイド・抗コリン薬・利尿薬・血圧を下げるα遮断薬・中枢性の降圧薬・眠気の出やすい抗ヒスタミン薬・血管拡張薬・過活動膀胱の治療薬など、14のグループがFRIDsとして整理されています(日本転倒予防学会誌 2025)。

FRIDsは「数」も効いてくる可能性があります。比較的健康な高齢者を3年間追いかけた国際試験(DO-HEALTH、BMC Geriatrics 2024)では、調査開始時に1種類以上のFRIDを使っていたグループは、使っていないグループより転倒の起こる割合がおよそ13%高く、複数のFRIDを使っていたグループでは約22%高い、という結果でした(それぞれ発生率比 IRR 1.13、95%信頼区間 1.01〜1.27/IRR 1.22、1.05〜1.42。IRR=転倒の起こりやすさが何倍かを表す数字)。FRIDの種類が多いほど、その分だけ転倒しやすさが上乗せされる、という方向性です。ただしこの研究は比較的健康な高齢者が対象で、上昇の幅もそれほど大きくない(中くらい以下)点には注意が必要です。

数字の正しい読み方──ここを誤解すると危険

研究データは強力ですが、読み違えると過剰な不安や危険な自己判断につながります。介護職として押さえておきたい「限界」は次の4点です。

1. 多くは「関連が見えた」だけで、「薬が原因」と断定したものではない

「薬の数が多い人ほど転倒が多い」という関連(相関)は、薬そのものが転倒を起こしているのか、それとも「もともと病気が重く・弱っている人ほど薬が多い」だけなのか、人々をただ観察した調査(観察研究)だけでは完全には切り分けられません。実際、薬の数の多さは、病気の多さ(多疾患)やフレイル(心身が弱った状態)と強く結びついています。数字は「リスクのサイン」として受け止め、「薬を減らせば必ず転ばなくなる」と短絡しないことが大切です。

2. 「減らせば転倒が減る」とは限らない

直感に反しますが、転倒しやすくなる薬(FRIDs)をやめても転倒予防の効果は限られている、という報告があります。70歳以上で多くの薬を飲んでいる高齢者を対象にFRIDsの中止の影響を調べた研究では、中止したグループとしなかったグループで転倒の起こる割合に意味のある差は見られませんでした。FRIDs中止について複数の研究をまとめた解析(メタアナリシス)でも、転倒やそれによるけががはっきり減るという結果は示されておらず、抗うつ薬以外では信頼できる質の高い証拠が不足しているとされています(日本転倒予防学会誌 2025)。「単に数を減らす」だけでは不十分で、一人ひとりの薬の働きと背景を踏まえた個別の見直しが必要という結論です。

3. 「6種類」「5種類」は絶対の線引きではない

「6種類」「5種類」はあくまで大勢のデータから導かれた目安です。ガイドライン自身が「何種類から多剤と呼ぶかに厳密な基準はない」「本質的にはその中身が重要」と明記しています。種類の数だけで「危険/安全」を線引きすることはできません。

4. 海外データはそのまま日本に当てはめない

「何倍になるか(オッズ比)」や「どれくらいの人に起きるか(有病率)」といった数字は、対象となった人たち・医療制度・薬の使い方の違いに影響されます。たとえばWoolcottのまとめ解析は欧米中心のデータで、薬の使われ方や量の決め方が日本と同じではありません。海外の数値は「傾向の参考」とし、日本のガイドラインや指針の記載と合わせて読むのが安全です。

介護現場でエビデンスをどう活かすか──観察と多職種連携

ここからが、この記事のもっとも大切な部分です。介護職は薬の中止・減量・変更を判断する立場にはありません。しかし、薬の影響を最初に見つけられる位置にいるのは、生活をいちばん近くで見ている介護職です。研究が示す「薬剤数」「FRIDs」「処方カスケード」という枠組みは、漫然と見ているだけでは気づけない変化を、意味のある観察に変えてくれます。

① 「薬が増えた・変わった直後」を観察のトリガーにする

多くのFRIDs、とくにベンゾジアゼピン系では、転倒リスクが投与開始直後(最初の2週間など)や増量時に高まりやすいことが指摘されています。だからこそ、新しい薬が始まった・量が変わったという情報を共有し、その後数日〜2週間のふらつき・傾眠・歩行の変化を意識的に記録することが、現場でできる具体的な貢献です。「いつもと違う」を申し送りに残すだけでも、医師・薬剤師の見直し判断の材料になります。

② 薬剤起因性老年症候群というレンズを持つ

厚労省の指針は、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、抑うつ、食欲低下、便秘、排尿障害などを「薬剤起因性老年症候群」として整理しています。これらは「年のせい」「認知症のせい」と見過ごされがちですが、原因薬剤がある可能性があります。たとえば「ふらつき・転倒」には降圧薬(特に中枢性降圧薬・α遮断薬・β遮断薬)、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬などが挙げられています。新しい老年症候群が出たとき「薬が原因かもしれない」と疑える視点が、観察の質を変えます。

③ 観察を「医師・薬剤師につなぐ」形にする

気づいた変化は、医師・看護師・薬剤師・ケアマネジャーへ具体的に伝えてこそ意味を持ちます。「ふらつきが増えた」だけでなく、「いつから」「どの薬の開始・変更の後か」「どんな場面で(起き上がり時・夕食後など)」を添えると、処方見直しの判断につながりやすくなります。とくに訪問薬剤管理指導やかかりつけ薬剤師による残薬整理・服薬アドヒアランス評価は、介護職からの生活情報があって初めて精度が上がります。

④ 科学的介護(LIFE)・CGAとの接続

近年の高齢者ケアは、客観的データに基づく「科学的介護」へと進んでいます。介護記録のなかで転倒・服薬・ADL・認知機能を経時的にとらえることは、LIFE(科学的介護情報システム)への情報提供や、高齢者総合機能評価(CGA)に基づく薬剤の見直しと地続きです。エビデンスを理解した介護職は、単なる「見守り」ではなく、多職種チームの中で意味のあるアセスメント情報を出せる存在になります。

⑤ 「数えられる薬リスト」を多職種で共有する

研究が示す「薬剤数が効く」という事実は、現場の運用にも示唆を与えます。利用者ごとに「いま何種類飲んでいるか」「そのうちFRIDsに当たる薬(睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬・降圧薬など)がいくつあるか」を、ケアチームでざっくり把握しておくだけでも、リスクの高い人を見分ける手がかりになります。介護職が薬効を専門的に判断する必要はありませんが、「この人は薬が多く、眠気の出やすい薬も入っている」という認識を持って観察するのと、何も知らずに見守るのとでは、気づける変化の質が変わります。お薬手帳や処方内容の変化を看護師・薬剤師と共有し、転倒・ふらつきの記録と突き合わせる——この地道な情報の往復こそ、エビデンスを現場で活かす実態です。

「薬を減らす」をめぐる益と害──過少医療という逆のリスク

多剤併用の話題では「薬は少ないほどよい」という単純化に流れがちですが、それも危険です。指針が目指すのは「単なる減薬」ではなく、薬物療法の適正化(薬物有害事象の回避・服薬アドヒアランスの改善・過少医療の回避)です。減らすことばかりに目が向くと、本当に必要な薬まで止めてしまう「過少医療」という逆のリスクが生じます。

多剤併用を見直す「益」

  • 薬物有害事象(ふらつき・転倒・せん妄・食欲低下など)の回避につながる可能性がある
  • 飲み忘れ・飲み間違いが減り、服薬管理の負担が軽くなる
  • 薬剤費・介護者の手間といったQOL面の負担が下がる

安易な「減薬」の害・注意点

  • 必要な治療薬の中止は病状悪化を招く(心房細動の抗凝固薬、骨粗鬆症治療薬など、止めることのリスクが大きい薬もある)
  • 急な中止で離脱症状が出る薬がある(一部の抗うつ薬・睡眠薬など)
  • FRIDs中止だけでは転倒が必ず減るわけではない(前述の研究)
  • 判断には病状・認知機能・ADL・生活環境を含めた総合評価(CGA)が必要

だからこそ、薬の見直しは医師・薬剤師が患者・家族と相談しながら、時間をかけて行うものとされています。介護職や家族が良かれと思って自己判断で薬を飛ばす・中断することは、有害事象と同じくらい危険です。気になる薬があれば、必ず医師・薬剤師に相談してください。介護職の役割は「減らすこと」ではなく、「見直しの判断材料となる生活情報を、正確に届けること」にあります。

現場ですぐ使える観察・連携のヒント

「新規・変更」アラートを習慣にする

薬が1つでも増えた・変わったと聞いたら、その利用者を「数日〜2週間は要観察」とチームで共有しましょう。とくに睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬・抗精神病薬・降圧薬は、開始直後にふらつきや日中の眠気が出やすい薬です。

転倒は「起きた後」だけでなく「ヒヤリ」も記録

実際に転んだケースだけでなく、「ふらついて手すりにつかまった」「立ち上がりで一瞬よろけた」といったヒヤリハットも、薬剤の影響を早期に拾う貴重なサインです。時間帯(夕食後・夜間・起床時など)まで添えると因果の手がかりになります。

「お薬手帳」と複数医療機関の把握

多剤併用は複数の医療機関・診療科からの処方が重なって生まれます。利用者がどこにかかっているか、お薬手帳が一冊にまとまっているかを把握し、ケアマネや訪問薬剤師につなぐことが、処方の一元管理の入り口になります。

サプリ・市販薬・健康食品も見落とさない

処方薬だけでなく、市販の睡眠改善薬や抗ヒスタミン薬、健康食品も相互作用や有害事象の原因になり得ます。「処方薬以外に何か飲んでいないか」も観察・聞き取りの対象に含めましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 結局、何種類以上飲んでいたら危険なのですか?

A. 日本老年医学会・厚労省は入院患者で6種類以上、外来患者で5種類以上を一つの目安としていますが、これは集団から導かれた目安であり「絶対基準」ではありません。ガイドラインも「本質的にはその中身が重要」としています。剤数だけで判断せず、転倒リスクを高める薬(FRIDs)が含まれているか、実際にふらつき等の症状が出ているかを合わせて見ることが大切です。

Q. 薬が多い利用者がふらついています。介護職が薬を減らしてもらうよう動いてよいですか?

A. 減薬の判断は医師・薬剤師の役割です。介護職ができるのは、「いつから・どの薬の開始や変更の後に・どんな場面でふらつくか」を具体的に記録し、医師・看護師・薬剤師・ケアマネに正確に伝えることです。自己判断で薬を飛ばしたり中断したりは絶対に行わないでください。

Q. 「転倒リスクを高める薬(FRIDs)」を飲んでいたら、すぐ中止すべきですか?

A. いいえ。研究では、FRIDsを中止しても転倒予防効果は限定的という報告があり、また必要な治療薬を止めれば病状悪化(過少医療)のリスクがあります。中止・減量・継続の判断は、病状や生活全体を踏まえて医師・薬剤師が行います。

Q. 薬の数が増えると認知機能やせん妄にも影響しますか?

A. 厚労省の指針は、記憶障害・せん妄・抑うつなども「薬剤起因性老年症候群」として整理しており、ベンゾジアゼピン系や抗コリン作用のある薬などが関与し得るとしています。2025年改訂の日本老年医学会ガイドラインでは「日本版抗コリン薬リスクスケール」も新たに追加されました。気になる変化は薬の影響を含めて医療職に相談しましょう。

Q. 介護職がこのエビデンスを学ぶ意味は何ですか?

A. 薬を扱う権限はなくても、生活をいちばん近くで見る介護職は薬の影響に最初に気づける立場にいます。「薬剤数」「FRIDs」「処方カスケード」という枠組みを知っていれば、漫然とした見守りが、多職種連携や科学的介護(LIFE)に活きる質の高いアセスメント情報に変わります。

参考文献・出典

まとめ

研究と公的指針が示すことは、シンプルに整理できます。薬の数が増えるほど薬物有害事象や転倒はほぼ比例して増え、入院で6種類・外来で5種類が一つの目安になる。ただし本質は「数」ではなく「中身」で、抗うつ薬・抗精神病薬・ベンゾジアゼピン系・降圧薬といった転倒リスクを高める薬(FRIDs)が含まれるかが大きく効く——というものです。一方で、これらの多くは相関であって因果の断定ではなく、FRIDsを減らせば必ず転倒が減るわけでもありません。だからこそ「数を減らせばよい」という単純化も、自己判断での中断も危険です。

介護職にできるのは、減薬の判断ではなく、薬が増えた・変わった直後の変化を「薬剤起因性老年症候群」というレンズで観察し、いつ・どの薬の後に・どんな場面で起きたかを医師・薬剤師・ケアマネに正確につなぐことです。それは科学的介護(LIFE)やCGAに活きる質の高いアセスメント情報になります。薬の中止・減量・継続の判断は必ず医師・薬剤師に委ね、気になる点があれば早めに相談する——この原則を守ったうえで、エビデンスを「現場の観察力」に変えていきましょう。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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